日本の金融商品取引法は、上場会社の役員や契約の相手方などの会社関係者と、その者から情報の伝達を受けた者が、重要事実の公表前に売買等をすることを、第 166 条で禁じています1。売買等にはデリバティブ取引が含まれます。公開買付けの事実には第 167 条、他人に利益を得させる、または損失の発生を回避させる目的での情報の伝達と取引の推奨には第 167 条の 2 が、同じ趣旨の禁止を置いています。

たとえば、E 社の役員が、職務で知った E 社の合併の決定を、公表前に E 社株の買いに使ったとします。公表後に株価が上がっても下がっても、禁止の対象であることは変わりません。第 166 条は、取引が利益を生んだかどうかを要件にしていないためです1。

規制の組み立ては国によって違います。日本の条文は禁止される者を列挙しますが、米国の Rule 10b5-1 は、信認や信頼の義務に違反した売買を欺瞞的な手段に含めます2。EU の市場阻害行為規則は、内部情報を持つ者がその情報を使って金融商品を取得または処分することを、"insider dealing" と呼んで禁じます3。相場を動かす行為を禁じる相場操縦とは別の規制です。

注

  1. 「金融商品取引法」第 166 条第 1 項、第 3 項、第 167 条、第 167 条の 2。第 166 条第 1 項に、利益を要件とする語はない。 ↩ ↩2

  2. 17 CFR 240.10b5-1(a)。 ↩

  3. 欧州議会・理事会規則(EU)No 596/2014 の第 8 条第 1 項(Insider dealing)。2014 年の採択時の本文で確かめた。 ↩