離散時間では、各時点までの情報 Ft\mathcal{F}_t に適合した可積分な確率過程 MtM_t が、E[Mt+1∣Ft]=MtE[M_{t+1} \mid \mathcal{F}_t] = M_t を満たすとき、マルチンゲールといいます。この条件から、E[Mt+1]=E[Mt]E[M_{t+1}] = E[M_t] も成り立ちます1。連続時間のブラウン運動では、適合した被積分関数の伊藤積分が、2 乗可積分などの条件のもとでマルチンゲールになります2。

たとえば、今の値が 3 で、次に 4 か 2 になる過程を考えます。それぞれの確率が 0.5 なら、次の値の期待値は (4+2)/2=3(4 + 2)/2 = 3 で、マルチンゲールです。4 になる確率が 0.6 なら、0.6×4+0.4×2=3.20.6 \times 4 + 0.4 \times 2 = 3.2 で、1 回あたり平均 0.2 ずつ上がるドリフトがあり、マルチンゲールではありません。

価格理論では、たとえば(ニューメレールとして現金の口座を基準にして)割り引いた株価がマルチンゲールになる確率(測度)を選び、デリバティブの価格をその期待値で表します。資料はこれを、オプションの価格が同値マルチンゲール測度での平均で与えられることとして示しています34。

注

  1. 重川一郎「数理ファイナンス入門」(京都大学、2009 年愛媛大学理学部集中講義)の 21〜22 ページ、式 (2.20) と、その直後の同値な条件 E[ΔMt+1∣Ft]=0E[\Delta M_{t+1} \mid \mathcal{F}_t] = 0 と E[Mt+1]=E[Mt]E[M_{t+1}] = E[M_t]。 ↩

  2. Massachusetts Institute of Technology「Lecture 18: Itō Calculus」の 4〜5 ページ、定理 2.3(適合した 2 乗可積分な過程の伊藤積分はマルチンゲール)と例 2.4。 ↩

  3. 重川一郎「数理ファイナンス入門」の 4 ページ(講義の目標。オプションの価格は同値マルチンゲール測度での平均で与えられること)。 ↩

  4. Martin Haugh「Market Models」(Columbia University、Term Structure Models: IEOR E4710、2010 年)の 6 ページ「Numeraire-EMM Pairs」と 8 ページ(割引債の価格を基準となる資産で割った値が、対応する測度でマルチンゲールになること)。 ↩