LMM は、キャップやスワップション、バミューダン・スワップションの価格とリスクを計算する場面で使うモデルです。

期間つきのフォワードレートを直接動かす

LIBOR マーケット・モデル(LMM)は、フォワードレートのうち、一定の期間の単利で表したものをモデルの変数にします。期間は 3 か月(0.25 年)か 6 か月(0.5 年)が普通です1。この期間の金利は、割引債の価格から決まります。割引債は、満期に 1 を受け取るだけの債券です。時点 tt に満期が TiT_i の割引債の価格を Zi(t)Z_i(t) と書きます。日付 TiT_i から Ti+1T_{i+1} までの期間の長さを δi=Ti+1−Ti\delta_i = T_{i+1} - T_i とします。その期間のフォワードレート Li(t)L_i(t) は次の式です2。

Li(t)=1δi(Zi(t)Zi+1(t)−1)L_i(t) = \frac{1}{\delta_i}\left( \frac{Z_i(t)}{Z_{i+1}(t)} - 1 \right)

Zi(t)/Zi+1(t)Z_i(t)/Z_{i+1}(t) は、TiT_i に 1 を預けたときの Ti+1T_{i+1} の元利合計で、1+δiLi(t)1 + \delta_i L_i(t) に等しくなります。Li(t)L_i(t) は TiT_i になると値が決まります。

t=0t = 0 で、T1T_1 に満期の割引債が Z1=0.99Z_1 = 0.99、T2=T1+0.5T_2 = T_1 + 0.5 年に満期の割引債が Z2=0.98Z_2 = 0.98 の架空の例で考えます。δ1=0.5\delta_1 = 0.5 で L1(0)=(0.99/0.98−1)/0.5=2.04%L_1(0) = (0.99/0.98 - 1)/0.5 = 2.04\% です(後の計算例とは別の値)。

短期金利モデルは、市場で直接は見えない瞬間の金利(短期金利)を動かし、割引債の価格をその動きから決めます。LMM は、市場で見える期間つきの金利を直接動かし、割引債の価格はフォワードレートから組み立てます3。LMM の変数は、キャップレットなどの原資産になる金利そのものです。そのため、ブラックの式が使う金利と同じ量を、モデルの中で動かせます4。

名前の LIBOR は、モデルが動かす金利の例です。同じ形は Euribor にも当てはまります5。

モデルの式

フォワードレートを動かす日付を、先に有限個に決めます。0=T0<T1<⋯<TM+10 = T_0 < T_1 < \dots < T_{M+1} とします。期間の長さ δi\delta_i は、日数計算の違いで少しずつ違う値になります。キャップ、スワップ、スワップション、バミューダン・スワップションなど、多くの商品の価格は、この有限個の日付の金利だけで決まります2。

次の図は、この日付と、LiL_i の値が決まる時点の関係を、後の計算例と同じ 3 つのフォワードレート(半年刻み)で並べたものです。

今(t = 0)L1、L2、L3 はどれも未確定。今の値L_i(0) から動き出すT10.5 年L1 の値が決まる(対象は T1〜T2)T21.0 年L1 の期間が終わる。L2 の値が決まるT31.5 年L2 の期間が終わる。L3 の値が決まるT42.0 年L3 の期間が終わる
図 1フォワードレート L1〜L3 が決まる時点
図の説明

図の L1 は本文の L1L_1、T1 は T1T_1 のことです(図の中は数式を使えないため、この説明も図の表記にそろえます)。時間がたつほど、まだ決まっていないフォワードレートが減っていきます。今は L1、L2、L3 のどれも未確定で、TiT_i に LiL_i の値が決まり、Ti+1T_{i+1} で期間が終わります。図の間隔は時間の長さを表しません。塗りの丸は、値が決まる時点です。

LMM は、i=1,…,Mi = 1, \dots, M の各フォワードレートが、次の確率微分方程式に従うと置きます6。

dLi(t)=μi(t) Li(t) dt+Li(t) σi(t)⊤dW(t),0≤t≤TidL_i(t) = \mu_i(t)\, L_i(t)\, dt + L_i(t)\, \sigma_i(t)^{\top} dW(t), \qquad 0 \le t \le T_i

W(t)W(t) は dd 次元のブラウン運動です。σi(t)\sigma_i(t) は dd 次元のベクトルで、その長さ ∥σi(t)∥\|\sigma_i(t)\| が、LiL_i の変化率のボラティリティです。μi(t)\mu_i(t) はドリフト(変化率の期待される動き)です。どちらも、時点 tt までにわかっている情報(現在のフォワードレートの組を含む)に依ってよいとします6。2 つのフォワードレート LiL_i、LjL_j の変化率の共分散は σi⊤σj\sigma_i^{\top}\sigma_j です。相関は、これを標準偏差の積で割った次の式で表せます7。

ρij(t)=σi(t)⊤σj(t)∥σi(t)∥ ∥σj(t)∥\rho_{ij}(t) = \frac{\sigma_i(t)^{\top}\sigma_j(t)}{\|\sigma_i(t)\|\,\|\sigma_j(t)\|}

ボラティリティ σi\sigma_i は自由に決められますが、ドリフト μi\mu_i は自由に決められません。次の節で、無裁定の条件から決まる形を示します。

ドリフトは無裁定の条件から決まる

リスク中立測度(リスク中立評価を参照)のもとでは、割引債の価格を、ある基準となる資産(ニューメレール)の価格で割った値が、マルチンゲール(将来の期待値が今の値に等しい確率過程)になります8。LMM では、この条件を満たすように、各フォワードレートのドリフトを決めます6。基準となる資産の取り方で、同じ LiL_i のドリフトの式が変わります。

LMM では、短期金利を積み上げた口座を、基準となる資産にしません。短期金利の値を各時点で決める必要が出て、フォワードレートを直接動かす意味が薄れるためです9。代わりに、次の 2 つがよく使われます8。

  • スポット測度では、1 を T1T_1 まで割引債に投資し、満期に次の割引債へ乗り換え続ける資産を、基準にします。
  • フォワード測度では、ある満期の割引債を基準にします。

スポット測度では、LiL_i のドリフトは次の式になります10。

μi(t)=∑j=φ(t)iδjLj(t) σi(t)⊤σj(t)1+δjLj(t)\mu_i(t) = \sum_{j=\varphi(t)}^{i} \frac{\delta_j L_j(t)\, \sigma_i(t)^{\top}\sigma_j(t)}{1 + \delta_j L_j(t)}

φ(t)\varphi(t) は、時点 tt のすぐ後の日付の番号(t<Tit < T_i になる最小の ii)です。足すのは、まだ値が決まっていない LjL_j のうち、j≤ij \le i のものだけです。

最後の日付 TM+1T_{M+1} の割引債を基準にするフォワード測度では、ブラウン運動を WM+1(t)W^{M+1}(t) に取り替え、ドリフトは次の式になります10。

μi(t)=−∑j=i+1MδjLj(t) σi(t)⊤σj(t)1+δjLj(t)\mu_i(t) = -\sum_{j=i+1}^{M} \frac{\delta_j L_j(t)\, \sigma_i(t)^{\top}\sigma_j(t)}{1 + \delta_j L_j(t)}

足す範囲が反対になり、符号も変わります。i=Mi = M では和が空になり、ドリフトは 0 です。どちらの式も、ドリフトが現在のフォワードレートの値に依ります。

深掘りドリフトの式を導く道筋

割引債の価格をスポット測度の基準となる資産で割った値を Di(t)D_i(t) とします。無裁定の条件から DiD_i はマルチンゲールで、ある dd 次元の過程 ηi(t)\eta_i(t) を使って dDi=Di ηi⊤dWdD_i = D_i\,\eta_i^{\top} dW と書けます。ln⁡Di\ln D_i に伊藤の補題を使うと、ボラティリティの項から ηi\eta_i が決まります。

ηi(t)=−∑j=φ(t)i−1δjLj(t) σj(t)1+δjLj(t)\eta_i(t) = -\sum_{j=\varphi(t)}^{i-1} \frac{\delta_j L_j(t)\, \sigma_j(t)}{1 + \delta_j L_j(t)}

ドリフトの項を比べると、μi(t)=−σi(t)⊤ηi+1(t)\mu_i(t) = -\sigma_i(t)^{\top}\eta_{i+1}(t) が得られます。上の ηi+1\eta_{i+1} を入れたものが、スポット測度のドリフトの式です。ドリフトの項の比較を直接行うと煩雑なので、帰納法を使う方がすっきりします10。

計算例:ドリフトの大きさ

割引に使う金利が連続複利で年 2%(平らなカーブ)で、Zi(t)Z_i(t) が e−0.02(Ti−t)e^{-0.02(T_i - t)} の架空の例で考えます。期間は 6 か月(δi=0.5\delta_i = 0.5)で、日付は Ti=0.5 iT_i = 0.5\,i 年です。このとき t=0t = 0 の 3 つのフォワードレート L1L_1、L2L_2、L3L_3 は、どれも (e0.01−1)/0.5=2.0100%(e^{0.01} - 1) / 0.5 = 2.0100\% です。ボラティリティは 3 つとも 20%、相関はどの 2 つも 0.9 とします。δjLj/(1+δjLj)\delta_j L_j/(1 + \delta_j L_j) は、どれも 0.009950 です11。

スポット測度の L2L_2 のドリフトは、0.009950×0.2×0.2×(0.9+1)=0.0007560.009950 \times 0.2 \times 0.2 \times (0.9 + 1) = 0.000756 で、年率 0.0756% です。L2L_2 自身との相関は 1、L1L_1 との相関は 0.9 なので、j=1,2j = 1, 2 の 2 項を足しています。T4=2T_4 = 2 年の割引債を基準にするフォワード測度の L1L_1 は、j=2,3j = 2, 3 の 2 項を足して、−0.009950×0.2×0.2×(0.9+0.9)=−0.000716-0.009950 \times 0.2 \times 0.2 \times (0.9 + 0.9) = -0.000716 です。

日付の番号 ii 期間(年) Li(0)L_i(0)(%) スポット測度のドリフト(年率、%) 終端のフォワード測度のドリフト(年率、%)
1 0.5〜1.0 2.0100 0.0398 −0.0716
2 1.0〜1.5 2.0100 0.0756 −0.0358
3 1.5〜2.0 2.0100 0.1114 0.0000

ドリフトは LiL_i に対する割合です。L1L_1 のスポット測度のドリフトを金利の水準の動きで言うと、年に 0.0008%(0.08bp)です。2 つの測度でドリフトの向きは反対です。モンテカルロ法のシミュレーションは、好きな測度で行えます12。

キャップレットとブラックの式の一致

キャップは、キャップレットと呼ぶ期間ごとのオプションの束です。想定元本 1 のキャップレットは、時点 TiT_i に決まる Li(Ti)L_i(T_i) が行使金利 KK を上回った分に δi\delta_i を掛けた金額を、時点 Ti+1T_{i+1} に受け取ります。支払日 Ti+1T_{i+1} の割引債を基準にすると、価格は、その割引債の価格と、受け取りの期待値の積です4。

市場では、この価格をブラック・モデルの式で表します。式はキャップとフロアにあるので、ここでは再掲しません。そちらの割引係数 P(0,T+δ)P(0, T+\delta) がこのページの Zi+1(0)Z_{i+1}(0)、ボラティリティ σB\sigma_B が、次の段落で定義する σˉi\bar\sigma_i、フォワードレート FF が Li(0)L_i(0) にあたります13。

ブラックの式は、もとは市場で価格を表すための枠組みで、特定のモデルの無裁定から導かれた価格ではありませんでした。LMM は、この式を無裁定のモデルの結果として示します14。

支払日 Ti+1T_{i+1} の割引債を基準にしたフォワード測度では、LiL_i のドリフトが 0 になります。前の節の終端のフォワード測度で、最後のフォワードレートのドリフトが 0 だったのと同じです。最後の日付を Ti+1T_{i+1} に取り直せば、どのフォワードレートにも当てはまります15。

dLi(t)=Li(t) σi(t)⊤dWi+1(t)dL_i(t) = L_i(t)\, \sigma_i(t)^{\top} dW^{i+1}(t)

σi(t)\sigma_i(t) が時間だけの関数(決定論的)なら、Li(Ti)L_i(T_i) は対数正規分布に従い、ln⁡Li(Ti)\ln L_i(T_i) の分散は ∫0Ti∥σi(s)∥2ds\int_0^{T_i}\|\sigma_i(s)\|^2 ds です。ブラック・モデルのボラティリティを σˉi2=1Ti∫0Ti∥σi(s)∥2ds\bar\sigma_i^2 = \frac{1}{T_i}\int_0^{T_i}\|\sigma_i(s)\|^2 ds と置けば、キャップレットの価格はキャップとフロアのブラックの式と一致します13。つまり、ブラックの式のボラティリティは、LMM のボラティリティの 2 乗を、時間で平均して平方根をとった値です。たとえば、最初の 0.75 年が 25%、残りの 0.75 年が 15% なら、σˉi2=(0.252×0.75+0.152×0.75)/1.5=0.0425\bar\sigma_i^2 = (0.25^2 \times 0.75 + 0.15^2 \times 0.75)/1.5 = 0.0425 で、σˉi=20.6155%\bar\sigma_i = 20.6155\% です。

市場では、キャップは、各キャップレットの価格を、同じボラティリティで足し合わせて表します13。LMM では、各キャップレットが自分の支払日のフォワード測度で、ブラックの式と一致します。1 つの測度に揃えると、最後のもの以外のフォワードレートはマルチンゲールでなく、ドリフトが残ります。ドリフトの中の Lj(t)L_j(t) を初期値 Lj(0)L_j(0) に置き換えると、対数正規の近似が得られます16。

計算例:キャップレット 1 つの価格

先の例の L3L_3 を原資産にするキャップレットの架空の例で考えます。1.5 年後に決まる 6 か月の金利が行使金利 2.00% を上回った分を、2 年後に受け取ります。想定元本は 100 億円、ボラティリティ σˉ3\bar\sigma_3 は 20% で一定とし、2 年後までの割引係数は e−0.04=0.960789e^{-0.04} = 0.960789 です17。Φ\Phi は標準正規分布の累積分布関数で、d1d_1、d2d_2 はキャップとフロアの式に σB=σˉ3\sigma_B = \bar\sigma_3、F=L3(0)F = L_3(0) を入れた値です。

手順 計算 値
1 ln⁡(L3(0)/K)=ln⁡(2.0100%/2.00%)\ln(L_3(0)/K) = \ln(2.0100\%/2.00\%) 0.005004
2 σˉT\bar\sigma\sqrt{T} = 0.20 × √1.5 0.244949
3 σˉ2T/2\bar\sigma^2 T/2 = 0.04 × 1.5 ÷ 2 0.030000
4 d1d_1 = (手順 1 + 手順 3)÷ 手順 2 0.142904
5 d2d_2 = 手順 4 − 手順 2 −0.102045
6 Φ(d1)\Phi(d_1) 0.556817
7 Φ(d2)\Phi(d_2) 0.459360
8 L Φ(d1)−K Φ(d2)L\,\Phi(d_1) - K\,\Phi(d_2) 0.200500%
9 価格(円)= 100 億円 × 0.5 × 0.960789 × 手順 8 9,631,905

初期値では、ブラックの式の価格とモンテカルロ法の価格は標準誤差の範囲で一致し、終端のフォワード測度に替えても同じです。買い手は 9,631,905 円を払います。1.5 年後に決まる金利が 2.50% なら、100 億円 × 0.5 × 0.50% = 2,500 万円を 2 年後に受け取り、払った価格を上回ります。金利が 2.00% 以下なら何も受け取らず、払った価格がそのまま損になります。売り手の損益は反対です。

シミュレーター測度ごとのドリフトと、キャップレットのブラックの式とモンテカルロ法の価格
入力
モンテカルロ法で使う測度
%
%
本
%
本
回
−0.10−0.050.000.050.100.15123ドリフト(L_i に対する割合、年率 %)フォワードレートの番号 i
  • スポット測度
  • 終端のフォワード測度

フォワードレートごとのドリフト(L_i に対する割合、年率、%)

番号 i期間(年)L_i(0)(%)スポット測度終端のフォワード測度
10.5〜12.01000.0398−0.0716
21〜1.52.01000.0756−0.0358
31.5〜22.01000.11140.0000
キャップレット L_3 の価格(ブラックの式、100 億円)
9,631,905
モンテカルロ法の価格(100 億円)
9,505,577
標準誤差 205,355 円。ブラックの式との差は標準誤差の 0.6 倍
割引債 Z_4(0) の価格(今の価格)
0.960789
モンテカルロ法で再現した割引債の価格
0.960797
選んだ測度で動かした経路から、今の割引債の価格が再現されることを確かめる値

単純化している点

  • カーブは平ら(連続複利のゼロレートが全期間で同じ)で、期間は 6 か月、日付は 0.5i 年です。フォワードレートの本数は M で、最後の日付は T_{M+1} です。
  • ボラティリティは全部のフォワードレートで同じで一定、相関はどの 2 つの間も同じです。相関は共通の乱数 1 つと、フォワードレートごとの乱数で作ります(1 因子 + 個別の乱数)。
  • ドリフトは、無裁定の条件から決まる式(スポット測度、終端のフォワード測度)です。キャップレットの価格は相関によらず、ブラックの式の価格に一致します。相関はドリフトの大きさに効きます。
  • モンテカルロ法は、ln L にオイラー法を使い、刻みの初めの値でドリフトを固定します。経路は Z と −Z の対(対称変量法)で数え、乱数はシード固定です。刻みを細かくすると、刻みの誤差が小さくなります。
  • 割引債の価格の再現は、選んだ測度で動かした経路から、基準となる資産で割った値の平均が今の割引債の価格に一致することを確かめる値です。終端のフォワード測度で i = M のときは、確率のない値で、標準誤差は 0 です。
  • 標準誤差の何倍かは、深い外れ(行使金利が高く、価格がほぼ 0 の入力)では当てにならず、ボラティリティが大きいと、刻みの誤差で 3 倍を超えることがあります。刻みを細かくすると、刻みの誤差は小さくなります。
  • 想定元本は 100 億円で固定です。キャップレットの原資産の番号 i は、M を超えるときは M にします。

このシミュレーターは学習のために単純化した計算で、実際の取引の評価やリスク管理には使えません。(免責事項)

シミュレーターの説明

カーブの金利、ボラティリティ、相関、フォワードレートの本数、キャップレットの番号と行使金利を動かして、2 つの測度のドリフトと、キャップレットの価格を見ます。初期値は上の計算例と同じ設定です。測度を切り替えてドリフトを、相関を動かして価格が変わらないことを見ます。割引債の価格の再現は、選んだ測度で動かした経路から、今の割引債の価格 0.960789 が標準誤差の範囲で再現されることを確かめる値です。

相関とキャリブレーションで何を合わせるか

キャップレットの価格は、各フォワードレートのボラティリティの水準だけで決まり、相関は入りません。一方、スワップションの価格は、フォワードレートどうしの相関にも依ります18。そのため、モデルのパラメータを市場の価格に合わせるキャリブレーションでは、市場のキャップレットでボラティリティの水準を合わせます。相関の置き方は、スワップションの価格か過去の相関で合わせる方法がよく使われます18。手順、目的関数、過剰適合はキャリブレーションの記事で扱います。

モンテカルロ法での使い方

キャップ、フロア、スワップションは、解析的な式か近似で価格を出せます。それ以外の商品の価格は、一般にモンテカルロ法で求めます。ボラティリティ自体を確率的に動かすモデルでは、キャップやスワップションにもモンテカルロ法が要ります12。日本銀行金融研究所の論文も、LMM はモンテカルロ法で実装されることが多く、計算の負荷が比較的大きいとしています19。

手順の一例は次のとおりです。

  1. 日付と、市場のカーブから求めた Li(0)L_i(0) を決める。
  2. ボラティリティ σi(t)\sigma_i(t) と相関を決める(較正した値)。
  3. スポット測度か終端のフォワード測度のどちらかを選び、各ステップの初めの LjL_j から、ドリフト μi\mu_i を計算する。
  4. 刻み幅 Δ\Delta と、標準正規分布に従う dd 次元の乱数 GG から、ln⁡Li\ln L_i を更新する。
  5. 商品の受け取りを、選んだ測度の基準となる資産で割り、経路の平均をとる。

4 の更新式は、ln⁡Li\ln L_i に伊藤の補題を使い、ドリフトとボラティリティをステップの間は一定とみなした式です(オイラー法の一例)。

Li(t+Δ)=Li(t)exp⁡{(μi(t)−12∥σi(t)∥2)Δ+Δ σi(t)⊤G}L_i(t+\Delta) = L_i(t) \exp\left\{ \left(\mu_i(t) - \tfrac{1}{2}\|\sigma_i(t)\|^2\right)\Delta + \sqrt{\Delta}\, \sigma_i(t)^{\top} G \right\}

このようなオイラー法などの離散化を使います。動かすのは有限個のフォワードレートだけなので、細かい刻みでも計算できます12。フォワードレートを直接離散化する代わりに、割引債の価格を基準となる資産で割った値を、離散時間のマルチンゲールとして作る方法もあります12。

バミューダン・スワップションのように、行使日が複数ある商品は、各行使日に行使するかどうかを経路ごとに決めます。この決め方に、Longstaff と Schwartz の最小二乗モンテカルロ法のような工夫が要り、計算の負荷がさらに重くなります19。商品の説明はバミューダン・スワップションで扱います。

前提と限界

LMM の価格は、ボラティリティと相関の置き方、フォワードレートが対数正規に近い動きをするという前提に依ります。前提が外れると、価格は市場とずれ、結果の見方も変わります(モデル・リスク)。主な限界を次に示します。

ボラティリティが時間だけの関数なら、キャップレットのブラック・モデルのボラティリティは行使価格によらず同じです。市場では、1990 年代半ばごろまではおおむねそうでしたが、その後は行使価格によってボラティリティが違うスマイルが現れました20。このスマイル(ボラティリティ・スマイルとサーフェス)に対応するため、ボラティリティ自体を確率的にする拡張が作られました。CEV 型、シフトを入れた対数正規、対数正規の混合、ジャンプを入れる拡張もあります20。ただし、スマイルに合わせる追加をすると、市場価格への較正が複雑になります19。

キャップレットとスワップションのブラックの式は、1 つのモデルで同時には成り立ちません。フォワードレートのボラティリティが時間だけの関数なら、スワップレートのボラティリティはそうなりません。LMM はキャップレットのブラックの式と一致し、スワップションのブラックの式とは近似的にしか合いません21。ボラティリティの変動への備え方もモデルごとに違うので、使うモデルの長所と短所をよく理解する必要があります22。

注

  1. Martin Haugh「Market Models」(Columbia University、Term Structure Models: IEOR E4710、2010 年)の 2 ページ。LIBOR は単利で表す金利で、期間は普通 δ=1/4\delta = 1/4(3 か月)か 1/21/2(6 か月)。 ↩

  2. 同「Market Models」の 5 ページ、式 (9)。資料の記号 ZtnZ_t^n、Ln(t)L_n(t)、nn は、このページでは Zi(t)Z_i(t)、Li(t)L_i(t)、ii に対応します。日付を有限個に固定する理由と、期間の長さの違いも同じ箇所です。 ↩ ↩2

  3. 同「Market Models」の 1 ページ冒頭。短期金利モデルと HJM モデルは観測できない瞬間の金利を対象とし、市場モデルは LIBOR やスワップレートのような観測できる金利を直接モデル化します。 ↩

  4. 同「Market Models」の 2 ページ(キャップレットの価格が、支払日の割引債を基準にした期待値の形になること)と、8 ページ(式 (25) からキャップレットのブラックの式を導く)。 ↩ ↩2

  5. 同「Market Models」の 1 ページの脚注 2。「These models apply equally well to Euribor rates.」 ↩

  6. 同「Market Models」の 6 ページ、式 (14)。ブラウン運動が dd 次元、μn(t)\mu_n(t) と σn(t)\sigma_n(t) が適合過程で現在の金利に依ってよいこと、無裁定と割引債の価格が正であることからドリフトが決まること。 ↩ ↩2 ↩3

  7. 相関の式は、式 (14) の拡散項から計算した定義で、資料にはこの形では書かれていません。資料は同じ量を σi⊤σj\sigma_i^{\top}\sigma_j の形で使います(同「Market Models」の 7 ページ、式 (19))。 ↩

  8. 同「Market Models」の 6 ページ「Numeraire-EMM Pairs」。スポット測度は式 (12) の基準となる資産、フォワード測度は満期 TT の割引債です。資料はもう 1 つ、スワップ測度を挙げています。 ↩ ↩2

  9. 同「Market Models」の 5 ページ「3 Numeraires and Zero-Coupon Bond Prices」の冒頭。 ↩

  10. 同「Market Models」の 7 ページ、式 (19) と (20)(スポット測度のドリフト)、7〜8 ページ、式 (24)(TM+1T_{M+1} の割引債を基準にするフォワード測度のドリフト)。η\eta は式 (18) の ν\nu に対応します。 ↩ ↩2 ↩3

  11. δL/(1+δL)=1−e−0.01=0.009950\delta L/(1+\delta L) = 1 - e^{-0.01} = 0.009950。式 (20) と (24) の和に、ボラティリティの積と相関を掛けた値です。表は小数第 4 位までに丸めています。 ↩

  12. 同「Market Models」の 10 ページ「6 Monte-Carlo Simulation」。モンテカルロ法が一般に必要になること、オイラー法などの離散化、有限個の満期だけを動かすこと、離散時間のマルチンゲールにする方法(Glasserman の教科書)、「any EMM」で動かせること。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  13. 同「Market Models」の 2 ページ、式 (3) と、8 ページ、式 (26)。資料の δZtT+δ\delta Z_t^{T+\delta}、σ\sigma、L(t,T)L(t,T) は、このページの δiZi+1(0)\delta_i Z_{i+1}(0)、σˉi\bar\sigma_i、Li(0)L_i(0) に対応します。 ↩ ↩2 ↩3

  14. 同「Market Models」の 4 ページ。ブラックの式がもとは市場価格を表す枠組みだった点です。8〜9 ページに、Brace、Gatarek、Musiela が式 (3) を導いたとあります。 ↩

  15. 同「Market Models」の 8 ページ、式 (25) の前後。資料は n=Mn = M の場合を書き、MM は任意に取れます。他のフォワードレートへの当てはめは、本文の説明です。 ↩

  16. 同「Market Models」の 8 ページ、Remark 3。PM+1P^{M+1} のもとでは n<Mn < M のフォワードレートはマルチンゲールでなく、ドリフトの Lj(t)L_j(t) を Lj(0)L_j(0) に置き換えると対数正規の近似になります。 ↩

  17. 割引係数は e−0.02×2e^{-0.02 \times 2} です。表は丸めた値で、価格は丸める前の値で計算しています。 ↩

  18. 同「Market Models」の 9 ページ「Calibration」。キャップレットの価格は水準だけに依り、スワップションの価格は相関にも依ること、2 段の手順。 ↩ ↩2

  19. 太田晴康「マルコフ関数モデルによる金利オプションの価格付けの実用化」(日本銀行金融研究所『金融研究』2010 年 10 月)の「1. はじめに」(132 ページ)。モンテカルロ法での実装、早期行使権付きオプションでの最小二乗モンテカルロ法、スマイルに合わせる追加と較正の複雑さ。 ↩ ↩2 ↩3

  20. 同「Market Models」の 8 ページ「The Caplet Volatility Surface」。ボラティリティが決定論的なら、ブラックのボラティリティは行使価格によらないこと、1990 年代半ば以降の歪み、拡張の例(CEV、シフト付き対数正規、対数正規の混合、ジャンプ)。 ↩ ↩2

  21. 同「Market Models」の 10 ページ、Remark 5。フォワードレートのボラティリティが決定論的なら、スワップレートのボラティリティは決定論的にならず、両方のブラックの式は 1 つのモデルで同時には成り立ちません。 ↩

  22. 同「Market Models」の 11 ページ「7 Hedging and the Greeks」。 ↩