デリバティブの価格付けを担う人と取引相手の信用リスクを管理する人が、取引の価格や損益、CVA のヘッジ、規制上の資本を考えるときに XVA を使います。
XVA を構成する 5 つの調整
XVA は、2007〜08 年の金融危機の後にデリバティブの評価で必要になった調整の総称です。危機の後、取引相手の信用力に応じて価格を調整することが市場の慣行になりました。さらに、各社の資金調達の金利が銀行間の金利にそろわなくなりました。資本規制と証拠金規制も強まり、資金と資本のコストも評価に入れるようになりました1。主な調整は次の 5 つです。
| 調整 | 時価に反映するもの | 時価への向き |
|---|---|---|
| CVA(Credit Valuation Adjustment) | 取引相手がデフォルトする可能性(取引相手の信用コスト) | 下げる |
| DVA(Debt Valuation Adjustment) | 自社がデフォルトする可能性(自社の信用コスト) | 上げる |
| FVA(Funding Valuation Adjustment) | 担保でカバーされない時価を資金調達するコスト | 下げる |
| MVA(Margin Valuation Adjustment) | 差し入れる当初証拠金を資金調達するコスト | 下げる |
| KVA(Capital Valuation Adjustment) | 規制資本を持つコスト | 下げる |
CVA は、取引相手がデフォルトしない前提の時価と、デフォルトの可能性を加味した時価の差額です2。取引相手の信用力が下がるほど大きくなり、時価を下げます。貸出金に対する貸倒引当金に似た性質を持ちます3。
DVA は、同じ考え方を自社のデフォルトに当てはめた調整です。時価がマイナスで自社が払う側にあるとき、自社がデフォルトすれば支払いの一部を免れるため、DVA は時価を引き上げます4。同じ方法と入力で計算すると、自社の DVA は、取引相手から見た自社に対する CVA と大きさが同じで符号が逆になります5。
FVA は、担保のない取引の資金調達コストを時価に反映する調整です。典型は、銀行が顧客と担保なしでデリバティブを結び、同じ内容の反対取引を清算機関やほかの金融機関と担保付きで結ぶ場合です。反対取引で差し入れる担保の資金を自社の調達金利で調達するため、そのコストを FVA として反映します6。
MVA は、差し入れる当初証拠金を資金調達するコストです。証拠金規制では、店頭デリバティブの取引の規模が一定以上の金融機関は、清算しない取引で当初証拠金をやりとりしなければなりません7。
KVA は、規制資本を持つためのコスト(資本コスト)を反映する調整です。2017 年の日本銀行金融研究所の論文の時点では、KVA を価格にどこまで入れるかに市場の合意はありませんでした。価格に入れない金融機関でも、取引の採算の基準(ハードル・レート)や資本コストの管理に KVA を使っていました8。
各調整の大きさは、取引相手と自社の格付け、担保の契約、自社の資金調達の金利の上乗せ幅(ファンディング・スプレッド)などによって大きく異なります。担保の契約によって、担保でカバーされない時価が減れば CVA と FVA は小さくなり、ファンディング・スプレッドが大きいほど FVA と MVA は大きくなります9。
リスク・フリーの時価からの調整のしかた
XVA は、信用リスクや担保を考えずに求めた時価(リスク・フリーの時価)を出発点にし、そこに調整を足し引きして求めます10。各調整を 0 以上の金額で表すと、調整後の時価は次のとおりです。
はリスク・フリーの時価、 は調整後の時価です。時価を下げる調整を引き、上げる調整を足しています11。
調整は、取引ごとではなく、ネッティング契約の単位(ネッティング・セット)で計算します。取引相手がデフォルトしたときには、同じ契約の複数の取引の債権と債務を相殺できるためです。担保のやりとりも、ネッティング契約の単位で行います12。担保が双方から差し入れられ、エクスポージャーが担保で完全にカバーされる取引では CVA と DVA の調整をしません。担保のない取引では、担保でカバーされない部分に CVA と DVA を反映します13。担保の条件と割引のカーブの関係は、担保と割引カーブのページで扱います。
深掘り5 つの調整の期待値の式
2017 年の日本銀行金融研究所の論文は、キャッシュフローをすべて複製するという前提で、各調整を期待値の形で示しています14。自社を B、取引相手を C とし、 と を取引相手と自社のクレジット・スプレッド、 と を回収率とします。 は時点 のリスク・フリーの時価、 は自社が受け取っている担保(差し入れていればマイナス)、 は割引係数、 はリスク中立確率での期待値、 です。
は自社のファンディング・スプレッド、 は取引相手に差し入れる当初証拠金、 は資本コスト、 は所要自己資本です。CVA と FVA は担保でカバーされない時価のプラスの部分に、DVA はマイナスの部分に掛かります。MVA と KVA は、それぞれ当初証拠金と所要自己資本の大きさに比例します。
CVA の求め方
CVA は、将来の期間ごとに「その期間に取引相手がデフォルトしたら失う額の見込み」を求め、足し合わせたものです。期間ごとの見込みは、期待エクスポージャー(EE)、その期間に取引相手がデフォルトする確率(PD)、デフォルト時の損失率(LGD)を掛けて求めます。取引相手のデフォルトと市場の値動きが互いに関係しないとすると、式は次のとおりです15。
は、時点 の時価のプラスの部分の期待値を今の時点に割り引いた値です。 は、取引相手が時点 から の間にデフォルトする確率です。LGD は、デフォルトしたときに失う割合で、1 から回収率を引いた値です。
EE は、金利や為替などの市場の要因の将来の動きを多数のシナリオでシミュレーションし、ネッティング・セットの将来の時価のうちプラスの部分の平均をとって求めます16。精緻に求めるにはモンテカルロ法によるシミュレーションが要ります17。
PD は、市場で観測される取引相手のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)などのスプレッドから、リスク中立確率のもとでの値として推計します。推計の前提に置いた LGD を、CVA の LGD にも使います16。取引相手を参照する流動性のある CDS がないときは、取引相手の債券のスプレッドや、似た企業を参照する CDS で代用します。格付け、地域、業種ごとに作ったクレジット・カーブを取引相手に割り当てる金融機関もあります18。CDS のスプレッドから確率を求める方法は、CDS の評価のページで扱います。
計算例:F 社との 5 年の無担保の取引
銀行が F 社と担保の契約なしで期間 5 年の金利スワップを結び、EE を 1 年ごとの区間に 1 つずつ置いた値とし、F 社が各年にデフォルトする確率は 1.0%、LGD は 60%(回収率 40%)とする架空の例で考えます。
| 区間 | EE(万円) | PD(%) | LGD(%) | EE × PD × LGD(万円) |
|---|---|---|---|---|
| 0〜1 年 | 8,000 | 1.0 | 60 | 48 |
| 1〜2 年 | 10,000 | 1.0 | 60 | 60 |
| 2〜3 年 | 9,000 | 1.0 | 60 | 54 |
| 3〜4 年 | 6,000 | 1.0 | 60 | 36 |
| 4〜5 年 | 2,000 | 1.0 | 60 | 12 |
| 合計 | 35,000 | 210 |
CVA は 210 万円で、CVA を反映した時価はリスク・フリーの時価より 210 万円低くなります。PD と LGD が区間によらず同じなので、EE の合計 3.5 億円に 1.0% と 60% を掛けても同じ値になります。
CVA は入力に比例して動きます。F 社の信用力が下がって各年の PD が 2.0% になると、CVA は 420 万円に増え、増えた 210 万円が銀行の評価の損になります。反対に PD が 0.5% に下がると CVA は 105 万円になり、減った 105 万円が評価の益になります。F 社の信用力が変わらなくても、金利が動いて EE が変われば CVA も変わります16。担保のやりとりを始めて EE が半分になれば、CVA も半分の 105 万円になります。
会計と規制での扱い
会計では、国際財務報告基準(IFRS)第 13 号が、デリバティブの時価に自社と取引相手の信用リスクを反映すること、つまり CVA と DVA を含めることを求めています19。米国の会計基準(Topic 820)も、DVA を時価に反映することを原則として求めています20。FVA は、時価に含めることを求められていませんが、2017 年の論文の時点で多くの金融機関が会計上も認識していました21。
規制では、2010 年に公表されたバーゼル III が、取引相手のデフォルトに備える資本とは別に、CVA の時価の変動に対する資本の賦課を導入しました。バーゼル銀行監督委員会(BCBS)が 2017 年 12 月に合意した最終化で、計測の方法は、標準的方式(SA-CVA)と基礎的方式(BA-CVA)の 2 つと、デリバティブの取引量が小さい銀行向けの簡便法に見直されました22。自己資本比率規制では、モラルハザードを防ぐ観点から、DVA を普通株式等 Tier 1(CET1)から控除します4。
実務での管理:CVA デスクとヘッジ
金融庁の元職員と日本銀行の職員が 2018 年に書いた寄稿によると、先進的な金融機関は CVA デスクを設けています。CVA デスクはほかのトレーディング・デスクから独立しており、CVA を一元的に管理します。CVA のヘッジのほか、リスク管理、価格付け、担保契約の見直しも担います。担保契約を見直して変動証拠金や当初証拠金をやりとりするようにすれば、エクスポージャーが減り、CVA の額を抑えられます23。
取引相手のクレジット・スプレッドの変動には、取引相手の CDS でヘッジします。取引相手を参照する CDS の流動性が低いときは、インデックスの CDS や、同じ業種や地域の企業を参照する CDS で代わりにヘッジします。市場の要因による EE の変動には、先物、スワップ、オプションでヘッジします23。
規制の標準的方式(SA-CVA)を使うには、CVA のリスク管理とヘッジに責任を持つ CVA デスク(か似た機能)を置くことが、最低限の要件の 1 つです24。
前提と限界
「CVA の求め方」の式は、取引相手のデフォルトと市場の値動きが互いに関係しないという前提に立っています。実際には、取引相手の信用力が下がる場面でエクスポージャーが大きくなることがあり、これを誤方向リスクと呼びます。誤方向リスクを捉えるには、EE を取引相手の信用力に条件付けた期待値に直す必要があり、正確に評価するのは難しくなります26。
調整を価格に入れるときは、調整どうしの二重計上に注意が要ります。適格なヘッジで CVA をヘッジすると CVA の資本賦課が減るため、取引の開始時に CVA と KVA の両方を価格に入れると、取引相手のリスクのヘッジ・コストを重ねて数えることになります。DVA と FVA も、自社のデフォルトによる得を二重に数えないようにする必要があります27。FVA の計算方法はいくつかあり、時価がマイナスのときの資金調達の得(Funding Benefit Adjustment、FBA)を数えない方法もあります28。どの調整を価格に入れるかについては、2017 年の論文の時点で、市場の合意が得られていない部分がありました27。
注
-
斎藤祐一「金融規制の複合的影響を考慮したXVA」(日本銀行金融研究所『金融研究』2017 年 4 月)の 1 節(110 ページ)。 ↩
-
前田壮一、長谷川達也「CVAリスク計測の枠組みの見直し」(『金融財政事情』2018 年 2 月 12 日号)の「信用評価調整(CVA)とは」(32 ページ)。 ↩
-
川上高志「ヘッジ取引におけるデリバティブ信用評価調整の影響についての考察」(日本銀行金融研究所『金融研究』2018 年 4 月)の 2 節(1)と(2)(123〜124 ページ)。 ↩
-
前田壮一、長谷川達也「CVAリスク計測の枠組みの見直し」(『金融財政事情』2018 年 2 月 12 日号)の「信用評価調整(CVA)とは」(32〜33 ページ)。 ↩ ↩2
-
川上高志「ヘッジ取引におけるデリバティブ信用評価調整の影響についての考察」(日本銀行金融研究所『金融研究』2018 年 4 月)の 2 節(2)(125 ページ)。 ↩
-
同じ資料の 2 節(1)(123〜124 ページ)。論文は、担保のない顧客との取引に LIBOR を、担保付きの反対取引に OIS の金利を使う当時の例で説明しています。 ↩
-
斎藤祐一「金融規制の複合的影響を考慮したXVA」(日本銀行金融研究所『金融研究』2017 年 4 月)の 2 節(1)(112 ページ)。証拠金規制は 2016 年 9 月から順に導入されたと書いています。清算しない取引に証拠金のやりとりが義務づけられたことは、3 節(1)(116 ページ)。 ↩
-
同じ資料の 2 節(1)(113 ページ)と 7 節(141 ページ)。 ↩
-
斎藤祐一「金融規制の複合的影響を考慮したXVA」(日本銀行金融研究所『金融研究』2017 年 4 月)の要旨(109 ページ)と 7 節(141 ページ)。CVA、FVA、MVA が担保でカバーされない時価、ファンディング・スプレッド、当初証拠金にどう比例するかは、2 節(2)の式 (2)(115〜116 ページ)。 ↩
-
同じ資料の 2 節(2)(115 ページ)と補論 1(148 ページ)。論文は、評価調整を考えない価格を「リスク・フリー価格」と呼び、調整後の価値をリスク・フリー価値と評価調整の和で表しています。 ↩
-
斎藤[2017]の式 (2)(115〜116 ページ)は、CVA、FVA、MVA、KVA を 0 以下、DVA を 0 以上の値として定義し、すべてをリスク・フリーの価値に足しています。このページでは各調整を 0 以上の金額で表したため、時価を下げる調整に負の符号を付けています。 ↩
-
前田壮一、長谷川達也「CVAリスク計測の枠組みの見直し」(『金融財政事情』2018 年 2 月 12 日号)の「信用評価調整(CVA)とは」(32 ページ)。斎藤[2017]の 2 節(2)(115 ページ)も、XVA はネッティング・セットの単位で計算するとしています。 ↩
-
川上高志「ヘッジ取引におけるデリバティブ信用評価調整の影響についての考察」(日本銀行金融研究所『金融研究』2018 年 4 月)の 2 節(1)(124 ページ)。 ↩
-
斎藤祐一「金融規制の複合的影響を考慮したXVA」(日本銀行金融研究所『金融研究』2017 年 4 月)の 2 節(2)(114〜116 ページ)。複製の前提は 114 ページ、式 (2) は 115〜116 ページ。符号は反転して 0 以上の形にしました。 ↩
-
川上高志「ヘッジ取引におけるデリバティブ信用評価調整の影響についての考察」(日本銀行金融研究所『金融研究』2018 年 4 月)の 2 節(2)の式 (1) の第 1 項(125 ページ)。論文の 、、 が、このページの 、LGD、 にあたります。論文は調整を負の符号付きで書いていますが、このページでは 0 以上の金額で表し、LGD が期間によらないとして和の外に出しました。 ↩
-
前田壮一、長谷川達也「CVAリスク計測の枠組みの見直し」(『金融財政事情』2018 年 2 月 12 日号)の「実務におけるCVA管理」(33 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3
-
川上高志「ヘッジ取引におけるデリバティブ信用評価調整の影響についての考察」(日本銀行金融研究所『金融研究』2018 年 4 月)の 2 節(2)(125〜126 ページ)。 ↩ ↩2
-
同じ資料の 2 節(2)(126 ページ)。 ↩
-
川上高志「ヘッジ取引におけるデリバティブ信用評価調整の影響についての考察」(日本銀行金融研究所『金融研究』2018 年 4 月)の 1 節(120 ページ)。 ↩
-
斎藤祐一「金融規制の複合的影響を考慮したXVA」(日本銀行金融研究所『金融研究』2017 年 4 月)の 1 節(110 ページ)。 ↩
-
斎藤祐一「金融規制の複合的影響を考慮したXVA」(日本銀行金融研究所『金融研究』2017 年 4 月)の 2 節(1)(112 ページ)。 ↩
-
金融庁、日本銀行「「信用評価調整(CVA)リスクの最低所要自己資本」の概要」(2018 年 2 月)の「1.これまでの経緯」(2 ページ)と「3.CVAリスクの見直しの概要」(4 ページ)。最終化の文書の公表が 2017 年 12 月であることは、前田壮一、長谷川達也「CVAリスク計測の枠組みの見直し」(『金融財政事情』2018 年 2 月 12 日号)の 32 ページ。 ↩
-
前田壮一、長谷川達也「CVAリスク計測の枠組みの見直し」(『金融財政事情』2018 年 2 月 12 日号)の「実務におけるCVA管理」(33 ページ)。 ↩ ↩2
-
同じ資料の「適格ヘッジの範囲拡大」(35 ページ)。以前の規制では、似た企業の CDS による代わりのヘッジや市場の要因のヘッジは適格なヘッジと認められず、市場の要因のヘッジでかえって所要自己資本が増えることもありました(34 ページ)。 ↩
-
川上高志「ヘッジ取引におけるデリバティブ信用評価調整の影響についての考察」(日本銀行金融研究所『金融研究』2018 年 4 月)の 125 ページの脚注 8。 ↩
-
斎藤祐一「金融規制の複合的影響を考慮したXVA」(日本銀行金融研究所『金融研究』2017 年 4 月)の 2 節(2)(114 ページ)。 ↩ ↩2
-
同じ資料の 116 ページの脚注 7。 ↩