CDS を約定して受け払いの額を決めるときや、保有している CDS の時価を評価するときに出てくる計算です。

2 つのレグと CDS の価値

クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の価値は、プロテクションの買い手が受け取るものと払うものの、現在価値の差です。買い手が受け取るものをプロテクション・レグ、払うものをプレミアム・レグといいます。評価の式では、参照組織にクレジット・イベントが起きることをまとめてデフォルトと呼びます。CDS の仕組み(プロテクションの買い手と売り手、参照組織、クレジット・イベント)はクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で扱います。

プロテクション・レグは、満期までに参照組織がデフォルトしたときに、プロテクションの売り手が買い手に払う金額です。この金額は、想定元本に(1 − 回収率)を掛けた額になります1。想定元本 10 億円、回収率 40% なら、デフォルトのときに売り手は 6 億円を払います。いつデフォルトするか、そもそもデフォルトするかは分からないため、プロテクション・レグの価値はデフォルトの起きやすさで重みを付けた期待値になります。

プレミアム・レグは、プロテクションの買い手が四半期ごとに売り手へ払うプレミアムです。プレミアムの支払いは、デフォルトが起きると止まります。多くの契約では、プロテクションの買い手は、デフォルトのときに、直前の支払日からデフォルトの日までの経過分のプレミアムも払います1。想定元本 10 億円、プレミアムが 100bp(年 1%)なら、1 回の支払いは 10 億円 × 1% × 0.25 年 = 250 万円です。

2 つのレグの価値が等しくなるプレミアムの年率を、パー・スプレッドといいます。CDS のプレミアムは、プロテクションの買い手と売り手のそれぞれの将来のキャッシュフローの期待値が等しくなるように決まります2。約定した後で参照組織の信用力が変わると、パー・スプレッドが動き、決まったプレミアムで結んだ契約に時価の損益が出ます。

プロテクションの買い手の E 銀行が、想定元本 10 億円、プレミアム 100bp、支払日が 3 か月ごとの CDS を結ぶ架空の例で考えます。2 回目の支払いの後、次の支払日の前に参照組織がデフォルトし、回収率は 40% だったとします。

↑ 受取 ↓ 支払プロテクションの買い手の E 銀行から見た受け払い約定日3 か月後6 か月後デフォルト時−250 万円プレミアム−250 万円プレミアム+60,000 万円プロテクション
図 1E 銀行(プロテクションの買い手)の受け払いの例
図の説明

想定元本 10 億円、プレミアム 100bp(年 1%)の CDS で、プロテクションの買い手の E 銀行から見た受け払いの図です。回収率は 40% とします。E 銀行は、3 か月後と 6 か月後の支払日に、プレミアムを 250 万円ずつ払います(10 億円 × 1% × 0.25 年)。その後、次の支払日の前に参照組織がデフォルトすると、プロテクションの売り手から 6 億円(10 億円 ×(1 − 回収率 40%))を受け取ります。デフォルトの後はプレミアムの支払いが止まります。矢印の長さは金額の大きさの目安で、時点の間隔は実際の日数の比ではありません。図には、デフォルトのときに払う直前の支払日からの経過分のプレミアムと、2009 年の標準化の後の CDS で約定時に受け払いするアップフロントは描いていません。

デフォルトが起きなければ、E 銀行はプレミアムを払い続け、プロテクションは受け取りません。プロテクション・レグの価値は、この 2 つの場合をデフォルトの起きやすさで重みを付けた期待値です。プレミアムを払い続けた額がデフォルトのときの受け取りを上回る場合も、下回る場合もあります。

ハザード率、生存確率、回収率

2 つのレグの価値は、デフォルトの起きやすさを表すハザード率と、デフォルトのときの回収率で決まります。ハザード率は、ある時点まで参照組織がデフォルトしていないという条件のもとで、その直後の短い期間にデフォルトが起きる確率を年率で表した量です3。日本銀行の論文は、同じ量をデフォルト・インテンシティと呼んでいます2。

ハザード率を λ\lambda とし、満期まで一定とすると、tt 年後まで参照組織がデフォルトしない確率(生存確率)Q(t)Q(t) は次の式になります3。

Q(t)=e−λtQ(t) = e^{-\lambda t}

ハザード率 2% なら、5 年後の生存確率は e−0.1e^{-0.1} = 90.48% で、5 年のうちにデフォルトする確率は 9.52% です。生存確率は、割引係数と同じ形をしています。ハザード率が金利に、生存確率が割引係数に当たります3。

回収率は、デフォルトした参照組織の債券の額面のうち、回収できる割合です。CDS のプロテクション・レグは額面から回収できる分を引いた損失を埋めるため、回収率が高いほどプロテクション・レグの価値は小さくなります。デフォルトのときの実際の回収率は、オークションなどで決まります1。評価の計算では、回収率を一定の値と置き、金利やハザード率とは無関係とみなすのがふつうです4。

CDS のスプレッドから求めたハザード率は、評価に使うリスク中立確率のもとでの値で、現実にデフォルトが起きる確率とは違います35。日本銀行の論文によると、ソブリン CDS のプレミアムは、各国の信用リスクのほかにリスクを取る見返り(リスク・プレミアム)を含み、その分を考えずにデフォルト確率を求めると過大になります6。

レグの価値とパー・スプレッドの求め方

プロテクション・レグの価値は、デフォルトが起きる時点ごとに、その時点でデフォルトする確率と、受け取る金額 N(1−R)N(1-R) の現在価値を掛けて足し合わせたものです。記号は、想定元本を NN、回収率を RR、満期を TT 年、tt 年後の割引係数を D(t)D(t) とします。ハザード率が一定なら、tt 年後の短い期間 dtdt にデフォルトする確率は λe−λtdt\lambda e^{-\lambda t} dt です。このため、プロテクション・レグの価値 PVprotPV_{\text{prot}} は次の式になります4。

PVprot=N(1−R)∫0Tλe−λtD(t) dtPV_{\text{prot}} = N (1 - R) \int_0^T \lambda e^{-\lambda t} D(t) \, dt

プレミアム・レグの価値は、プレミアムの年率 CC に比例します。そこで、年率 1(100%)のプレミアムを払うとしたときのプレミアム・レグの価値を AA と書きます。AA は 2 つの分の和です。1 つは、支払日 tit_i ごとに、期間の長さ τ\tau(四半期なら 0.25 年)と割引係数と生存確率を掛けて足した分です。もう 1 つは、デフォルトのときに払う経過分です7。

A=∑i=1nτ D(ti) Q(ti)+(デフォルト時の経過分)A = \sum_{i=1}^{n} \tau \, D(t_i) \, Q(t_i) + (\text{デフォルト時の経過分})

プレミアム・レグの価値は NCAN C A です。AA を 1bp あたりの金額にした N×A×0.0001N \times A \times 0.0001 を、RPV01(リスキー PV01)といいます。RPV01 は、プレミアムが 1bp 違うとプレミアム・レグの価値がいくら違うかを表します8。

パー・スプレッド SpS_p は、2 つのレグが等しくなるプレミアムの年率なので、プロテクション・レグの価値をプレミアム・レグの年率 1 あたりの価値で割って求めます9。

Sp=PVprotNAS_p = \frac{PV_{\text{prot}}}{N A}

プレミアムの年率 CC で結んだ CDS の、プロテクションの買い手から見た価値 VV は、プロテクション・レグからプレミアム・レグを引いたものです。上の式から、パー・スプレッドとプレミアムの差に年率 1 あたりのプレミアム・レグの価値を掛けた形に書けます9。

V=PVprot−NCA=N(Sp−C)AV = PV_{\text{prot}} - N C A = N (S_p - C) A

プレミアムを細かく、途切れずに払うとし、ハザード率を一定とすると、パー・スプレッドはちょうどハザード率 ×(1 − 回収率)になります。この関係をクレジット・トライアングルといいます10。

Sp≈λ(1−R)S_p \approx \lambda (1 - R)

プレミアムを四半期ごとに後払いする実際の契約では、この式は近似になります。スプレッドとハザード率を換算するときの目安や、ハザード率を求める計算の最初の値に使います10。ハザード率 2%、回収率 40% なら、スプレッドはおよそ 2% × 0.6 = 1.2%(120bp)です。シミュレーターの入力の範囲(ハザード率 0.1〜10%、回収率 0〜90%、金利 -1〜5%、満期 1〜10 年)では、近似とパー・スプレッドの差は近似の値の 1% に満たない大きさです。

深掘りハザード率と金利が一定のときの閉じた式

金利を連続複利の rr で一定とし、D(t)=e−rtD(t) = e^{-rt} とします。k=r+λk = r + \lambda とおくと、プロテクション・レグの積分は次のように解けます。

PVprot=N(1−R)λk(1−e−kT)PV_{\text{prot}} = N (1 - R) \frac{\lambda}{k} \left( 1 - e^{-kT} \right)

プレミアムの支払いの分は、各期の終わり ti=iτt_i = i\tau に τe−kti\tau e^{-k t_i} を足したものです。デフォルト時の経過分は、ii 番目の期間の始め ti−1t_{i-1} からデフォルトの時点までの長さに、その時点でデフォルトする確率と割引係数を掛けて積分したもので、次の式になります。

∫ti−1ti(t−ti−1)λe−kt dt=λe−kti−11−e−kτ(1+kτ)k2\int_{t_{i-1}}^{t_i} (t - t_{i-1}) \lambda e^{-kt} \, dt = \lambda e^{-k t_{i-1}} \frac{1 - e^{-k\tau}(1 + k\tau)}{k^2}

プレミアムを途切れずに払うとすると、年率 1 あたりのプレミアム・レグは ∫0Te−ktdt=(1−e−kT)/k\int_0^T e^{-kt} dt = (1 - e^{-kT})/k になり、プロテクション・レグの式で割るとパー・スプレッドはちょうど λ(1−R)\lambda(1 - R) になります。四半期の後払いでは、支払いがその分遅れるため、金利がプラスなら年率 1 あたりのプレミアム・レグが少し小さくなり、パー・スプレッドは λ(1−R)\lambda(1 - R) より少し大きくなります。

標準のクーポンとアップフロント

2009 年の標準化の後の CDS は、パー・スプレッドではなく、決められた数種類のクーポンでプレミアムを払い、差の分を約定のときにアップフロントとして受け払いします。CDS はもとは金利スワップと同じく、約定のときの価値が 0 になるプレミアム(パー・スプレッド)で取引していました11。信用力の低い参照組織では、パー・スプレッドがとても高くなるため、以前から低いクーポンとアップフロントの組み合わせで取引されていました11。

2009 年の標準化で、クーポンの水準と支払日がそろえられました12。2013 年の OpenGamma の資料によると、標準のクーポンは、北米では 100bp と 500bp の 2 つ、欧州では 25bp、100bp、500bp、1,000bp の 4 つです11。同じ参照組織、同じ満期、同じクーポンの CDS は、いつ約定しても同じ支払いの条件になり、取引どうしの価格を比べやすくなりました11。

アップフロントは、クーポン CC で結んだ CDS の約定時の価値で、上の V=N(Sp−C)AV = N (S_p - C) A で求めます。RPV01 を使うと、(パー・スプレッド − クーポン)を bp で表した値に RPV01 を掛けた額です。パー・スプレッドがクーポンより高ければプロテクションの買い手が売り手に払い、低ければ売り手が買い手に払います13。アップフロントを想定元本に対する百分率で表したものを、ポイント・アップフロント(PUF)といいます。2013 年の時点では、標準のクーポンと PUF で建値するのが市場の標準でした13。

標準の契約では、約定がいつでも、プロテクションの買い手は最初の支払日に四半期分のプレミアムを全額払います。その代わりに、前の支払日から約定までの経過分を、プロテクションの売り手が買い手に返します14。

計算例

想定元本 10 億円、満期 5 年、クーポン 100bp で、プレミアムを四半期ごとに後払いする CDS の架空の例で考えます。ハザード率は 2%、回収率は 40%、金利は連続複利で 1% とし、どれも満期まで一定とします。期間の長さはどれも 0.25 年とみなします。

途中の値は、その値から計算し直しても結果が合う桁まで示します。生存確率は、5 年後に e−0.02×5e^{-0.02 \times 5} = 0.904837 です。金利とハザード率の和を kk = 0.01 + 0.02 = 0.03 とおきます。プロテクション・レグの価値は、上の深掘りの閉じた式で、10 億円 × 0.6 ×(0.02 ÷ 0.03)×(1 − e−0.15e^{-0.15})と求めます。0.6 ×(0.02 ÷ 0.03)はちょうど 0.4 で、e−0.15e^{-0.15} = 0.86070797643 なので、10 億円 × 0.4 × 0.13929202357 = 55,716,809.43 円です。円未満を四捨五入して 55,716,809 円とします。

年率 1 あたりのプレミアム・レグ AA は、支払いの分が 4.625677714、デフォルト時の経過分が 0.011593159 で、合わせて 4.637270873 です15。RPV01 は 10 億円 × 4.637270873 × 0.0001 = 463,727 円になります。

項目 値
5 年後の生存確率 0.904837
プロテクション・レグの価値(円) 55,716,809
年率 1 あたりのプレミアム・レグ AA 4.6372709
RPV01(1bp あたり、円) 463,727
パー・スプレッド(bp) 120.15
ハザード率 ×(1 − 回収率)(bp) 120.00
クーポン 100bp のプレミアム・レグの価値(円) 46,372,709
アップフロント(買い手が払う、円) 9,344,101

パー・スプレッドは 55,716,809.43 円 ÷(10 億円 × 4.637270873)= 1.2015% で、120.15bp です。クレジット・トライアングルの 120bp との差の 0.15bp は、プレミアムを四半期ごとに後払いすることから生まれます。クーポン 100bp のプレミアム・レグの価値は、10 億円 × 1% × 4.637270873 = 46,372,708.73 円、四捨五入して 46,372,709 円です。パー・スプレッドがクーポンをおよそ 20.15bp 上回るため、プロテクションの買い手がアップフロントを売り手に払います。額は 2 つのレグの価値の差で、円未満まで計算すると 55,716,809.43 円 − 46,372,708.73 円 = 9,344,100.70 円、四捨五入して 9,344,101 円です16。想定元本に対しては 0.93% です。

何によって変わるか

パー・スプレッドは、ハザード率と(1 − 回収率)にほぼ比例して動きます。金利と満期は、ハザード率が一定ならパー・スプレッドをほとんど変えず、RPV01 を通じてアップフロントを変えます。計算例から条件を 1 つずつ変えると、次のようになります(クーポン 100bp、プロテクションの買い手から見た値)。

変えた条件 パー・スプレッド(bp) RPV01(円) アップフロント(円)
計算例のまま 120.15 463,727 9,344,101
ハザード率 1% 60.08 475,219 −18,973,089
ハザード率 4% 240.30 441,847 61,990,965
回収率 20% 160.20 463,727 27,916,371
回収率 60% 80.10 463,727 −9,228,169
金利 0% 120.00 475,813 9,516,258
金利 3% 120.45 440,743 9,013,522
満期 10 年 120.15 862,861 17,386,643

ハザード率を 2 倍にするとパー・スプレッドもほぼ 2 倍になり、回収率を 40% から 60% に上げると(1 − 回収率)が 0.6 から 0.4 になるため、スプレッドは 3 分の 2 になります。回収率は RPV01 を変えません。プレミアム・レグの価値には回収率が入らないためです。満期を 10 年にすると、パー・スプレッドは同じでも RPV01 がおよそ 1.9 倍になり、同じスプレッドの差でアップフロントが大きくなります。金利 0% では割引がありません。そのため、四半期ごとの支払いとデフォルト時の経過分を合わせると、途切れずに払う場合と同じ額になり、パー・スプレッドはクレジット・トライアングルと同じ 120.00bp になります15。

約定した後にハザード率が変わると、プロテクションの買い手と売り手の一方が得をし、もう一方が損をします。計算例の条件で 9,344,101 円を払って約定した直後に、ハザード率が 4% に上がると、買い手から見た契約の価値は 61,990,965 円になり、払ったアップフロントとの差の 52,646,864 円の得になります。ハザード率が 1% に下がると、価値は −18,973,089 円になり、28,317,190 円の損になります。プロテクションの売り手の損益は、それぞれの逆です15。

シミュレータースプレッド、ハザード率、回収率とアップフロント
入力
立場
クーポン
%
%
%
年
0100200300400500600700246810スプレッド(bp)ハザード率(%)120.15bp
  • パー・スプレッド
  • ハザード率 ×(1 − 回収率)
0.00.20.40.60.81.0012345確率年数
  • 生存確率
  • デフォルト確率(累積)
パー・スプレッド(bp)
120.15
ハザード率 ×(1 − 回収率)(bp、クレジット・トライアングル)
120.00
5 年後の生存確率
90.48%
プロテクション・レグの価値(円)
55,716,809
プレミアム・レグの価値(クーポンで、円)
46,372,709
RPV01(クーポン 1bp あたりのプレミアム・レグ、円)
463,727
アップフロント(買い手が売り手に払う額。負なら買い手が受け取る、円)
+9,344,101
立場から見た契約の時価(円)
+9,344,101

単純化している点

  • ハザード率(単位時間あたりのデフォルトの起きやすさ)は満期まで一定、金利はフラット(連続複利)で、デフォルトと金利は独立とします。
  • プレミアムは四半期ごとに後払いで、デフォルトしたときは、前の支払日からの経過利息を払います。期間はどれも 0.25 年とみなし、日数計算の慣行は考えません。
  • 回収率は一定で、デフォルトしたらすぐにプロテクションを受け取ります。
  • 想定元本は 10 億円です。ISDA の標準モデル(日付の慣行、ハザード率のカーブなど)とは細部が違います。

このシミュレーターは学習のために単純化した計算で、実際の取引の評価やリスク管理には使えません。(免責事項)

シミュレーターの説明

ハザード率、回収率、金利、満期、クーポン、立場(プロテクションの買い手か売り手か)を変えると、ハザード率ごとのパー・スプレッドのグラフ、生存確率とデフォルト確率のグラフ、2 つのレグの価値、RPV01、アップフロントが変わります。初期値は計算例と同じ条件です。パー・スプレッドのグラフでは、ハザード率 ×(1 − 回収率)の破線が実線(パー・スプレッド)とほぼ重なります。回収率を上げるとパー・スプレッドは下がり、ハザード率を上げると上がります。クーポンを 500bp にすると、クーポンがパー・スプレッドを上回るため、買い手がアップフロントを受け取る側に変わります。

実務での計算と ISDA の標準モデル

2021 年 11 月の IHS Markit の資料によると、標準のクーポンの CDS は、主に建値のスプレッド(クオーテッド・スプレッド)か、価格の形で示されます17。価格(クリーン・プライス)は、想定元本に対する百分率で 100% − PUF と定義されます13。価格が 100% を下回れば PUF はプラスで、プロテクションの買い手がアップフロントを払い、100% を上回れば買い手が受け取ります13。価格で建値を示す CDS インデックスでも、アップフロントは想定元本 ×(100 − 価格)÷ 100 で、同じ関係です18。

建値のスプレッドは、PUF と同じ取引を表す別の建値の形です19。建値のスプレッドと PUF の換算に使うのが、ISDA CDS Standard Model(ISDA の標準モデル)です17。標準モデルは、建値からハザード率のカーブを求める計算にも使います2021。OpenGamma 資料が取り上げた標準モデルは、C 言語で書かれた計算プログラムで、金利のカーブとハザード率のカーブを、節点の間ではフォワードの率が一定になる形で作ります20。同じカーブの前提で計算すれば、どの実装でも同じ価格になります20。

建値のスプレッドから PUF を求めるときは、建値のスプレッドをクーポンとした CDS の価値が 0 になる一定のハザード率を求め、そのハザード率で実際のクーポンの CDS を評価します。PUF から建値のスプレッドを求めるときは、逆の順に計算します。建値のスプレッドがクーポンと等しければ、PUF は 0 です19。

同じ参照組織について、複数の満期の CDS に建値があるときは、すべての建値を再現するハザード率のカーブを、短い満期から順に求めます(ブートストラップ)22。建値のスプレッドは満期ごとに一定のハザード率から計算した値で、パー・スプレッドとは違うため、カーブを作る前に PUF に換算します22。取引が多い満期の CDS の建値から作ったカーブで、取引の少ない満期や、約定から時間のたった CDS を評価します23。満期は標準化され、5 年がもっとも流動性の高い満期です17。2010 年の取引を調べた資料では、単一銘柄の CDS の取引の 43% が 5 年の満期でした24。複数の銘柄をまとめたインデックスの建値はCDS インデックス(iTraxx、CDX)で扱います。

前提と限界

このページの式とシミュレーターは、ハザード率、金利、回収率がどれも満期まで一定で、互いに関係しないと置いた簡単なモデルです。実際の評価では、満期ごとに違うハザード率のカーブと、市場の金利から作った割引のカーブを使います20。スプレッドと回収率の間には負の相関が見られますが、評価ではふつう無視します4。

シミュレーターは、期間をどれも 0.25 年とみなし、日数計算、満期と支払日の慣行、約定から受け払いまでの日数、約定時に返す経過分を考えていません。このため、標準モデルで計算したアップフロントとは細部が違います。回収率も、日本銀行の論文がソブリン CDS に 25% を置いているように、参照組織の種類や分析の目的で置き方が変わります26。

注

  1. OpenGamma Quantitative Research "The Pricing and Risk Management of Credit Default Swaps, with a Focus on the ISDA Model"(2013 年 10 月。以下「OpenGamma 資料」)の 2 節 "The Standard CDS Contract"、1 ページ。 ↩ ↩2 ↩3

  2. 池田、平木、山田「ソブリンCDS プレミアムの要因分解」(日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.12-J-9、2012 年 9 月)の 3 節(1)「誘導型アプローチを用いたCDS プレミアムの評価モデル」、6 ページ。 ↩ ↩2

  3. OpenGamma 資料の 3.3 節 "Credit Curve"、6 ページ。式 (6)、(7) で、ハザード率を一定とした形。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  4. 同じ資料の 4.1 節 "The Protection leg"、7 ページ。資料の式 (14) で、回収率、金利、ハザード率を互いに独立とした形。スプレッドと回収率の負の相関は注 13。 ↩ ↩2 ↩3

  5. 池田、平木、山田「ソブリンCDS プレミアムの要因分解」(日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.12-J-9、2012 年 9 月)の 3 節(1)、7 ページ。 ↩

  6. 同じ資料の要旨、1 ページ。 ↩

  7. OpenGamma 資料の 4.2 節 "The Premium Leg"、8 ページ。式 (15)〜(18)。このページの AA は、式 (18) を NCNC で割ったもの。 ↩

  8. 同じ資料の 9 ページ、4.2 節 "The Premium Leg" の終わりと式 (19)。RPV01 を 1 単位のクーポンあたりで定義し(このページの AA)、1bp あたりの値がふつうの定義だと注 17 に書いています。 ↩

  9. 同じ資料の 4.5 節 "The Par Spread"、10 ページ。資料の式 (27)、(28)。 ↩ ↩2 ↩3

  10. 同じ資料の 4.6 節 "The Credit Triangle"、11 ページ。資料の式 (32)。 ↩ ↩2

  11. 同じ資料の 2.2 節 "The Coupons"、3 ページ。標準のクーポンの水準は注 5。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  12. Chen ほか "An Analysis of CDS Transactions: Implications for Public Reporting"(Federal Reserve Bank of New York Staff Reports No.517、2011 年 9 月)の 15 ページと、2 ページの注 1。 ↩

  13. OpenGamma 資料の 2.2 節(3 ページ)と 4.3 節 "CDS Valuation"、4.3.1 節 "Points Upfront"(9 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  14. 同じ資料の 2 ページ(2 節本文)と、2.4 節 "Differences before and after 'Big Bang'"、4 ページ。 ↩

  15. 計算は、シミュレーターの計算の部品(src/lib/simulators/cds.ts)と同じ式で求めています。支払いの分は 0.25×∑i=120e−0.0075i0.25 \times \sum_{i=1}^{20} e^{-0.0075 i}、デフォルト時の経過分は深掘りの式で 20 期分を足した値です。 ↩ ↩2 ↩3

  16. 表のプロテクション・レグとプレミアム・レグの価値は円未満を四捨五入した値のため、表の値どうしの差し引きは 9,344,100 円になり、アップフロントと 1 円ずれます。20.15bp と RPV01 の 463,727 円も丸めた値で、20.15 × 463,727 円は 9,344,099 円になります。 ↩

  17. IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月。以下「IHS Markit 資料」)の 9 ページ、"Fixed coupons, upfront amounts and quoted spreads" と "Standard maturities, coupon dates and rolls"。ISDA の標準モデルで換算することは、同じページの注 12。 ↩ ↩2 ↩3

  18. 同じ資料の 20〜21 ページ、"How do I trade?" の取引の例(CDX.NA.HY)。 ↩

  19. OpenGamma 資料の 6.1.1 節 "Conversion between PUF and Quoted Spreads"、16 ページ。 ↩ ↩2

  20. 同じ資料の 5 節 "The ISDA Model"、12 ページ。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  21. 同じ資料の 6 節 "Calibration of the Credit Curve" の冒頭、15 ページ。 ↩

  22. 同じ資料の 6.2 節 "Multiple CDSs" と 6.2.1 節 "Calibration from Quoted Spreads"、16〜18 ページ。 ↩ ↩2

  23. 同じ資料の 2.3 節 "Pricing"、3 ページ。 ↩

  24. Chen ほか "An Analysis of CDS Transactions: Implications for Public Reporting"(2011 年 9 月)の 15 ページ。データは 2010 年 5 月 1 日〜7 月 31 日の取引(6 ページ)。 ↩

  25. OpenGamma 資料の 2.1 節 "Dates"(2 ページ)と 3.1 節 "Day Count Conventions"(4 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  26. 池田、平木、山田「ソブリンCDS プレミアムの要因分解」(日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.12-J-9、2012 年 9 月)の注 8、8 ページ。 ↩