FTD は、複数の企業への信用エクスポージャーをまとめて守りたい買い手と、最初の 1 社分の損失を引き受ける売り手が、取引の条件を決める場面で使われます。売り手は、その代わりに単独の CDS より高いスプレッドを受け取ります。
最初の 1 社のデフォルトで終わる取引
ファースト・トゥ・デフォルト(FTD)は、複数の参照組織を 1 つのバスケットに束ねて 1 つの取引にしたものです。プロテクションの買い手は定期的にスプレッドを払い、売り手は、バスケットのどれか 1 社がデフォルトしたときに損失を負います。最初の 1 社のデフォルトで取引は終わります1。連邦準備制度理事会の 2004 年の論文では、バスケットは 5 社ほどの小さなものが一般的とされます。この点が CDO のトランシェと違います1。1 社ごとのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の仕組みと受け払いは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で扱います。
S 社が 5 社の参照組織(参照組織 1〜5)に 20 億円ずつ貸している架空の例で考えます。S 社は、この 5 社を束ねた FTD のプロテクションを、想定元本 20 億円、期間 5 年で買います。想定元本は 1 社分です。バスケットの 5 社それぞれの 20 億円ではありません。スプレッドは年 7.8%(780bp)とし、払う額は年 1 回、1 億 5,600 万円(20 億円 × 7.8%)とします。経過分と貸出の利息は省きます。
デフォルトなどのクレジット・イベントが最初の 1 社に起きると、売り手は損失を払います。回収率を 40% とすると、払う額は 20 億円 ×(1 − 40%)= 12 億円です23。債務を売り手に渡して額面の現金を受け取る形(現物の決済)もあります1。
3 つの場合の受け払い
S 社の受け払いは、5 年のあいだに何社がデフォルトするかで変わります。次の表は、5 年のあいだにデフォルトが 0 社の場合、3 年後の払いの直後に 1 社だけがデフォルトする場合、3 年後に 1 社、4 年後にもう 1 社がデフォルトする場合の合計です。損失は貸出の額面の 60%(回収率 40%)で、12 億円とします。
| 場合 | 貸出の損失(億円) | FTD の補償(億円) | S 社が払うスプレッド(億円) | S 社の合計(億円) | 売り手の合計(億円) |
|---|---|---|---|---|---|
| デフォルトなし | 0 | 0 | −7.80 | −7.80 | 7.80 |
| 3 年後に 1 社 | −12 | 12 | −4.68 | −4.68 | −7.32 |
| 3 年後と 4 年後に 1 社ずつ | −24 | 12 | −4.68 | −16.68 | −7.32 |
デフォルトがない場合、S 社は 5 年分の 7 億 8,000 万円を払うだけで、補償は受けません。売り手はこの額を受け取ります。1 社だけがデフォルトする場合、S 社は貸出の損失と同じ 12 億円の補償を受け、損失は払ったスプレッド 4 億 6,800 万円だけになります。売り手は、受け取ったスプレッドを超える 7 億 3,200 万円の損失を負います。2 社がデフォルトする場合、FTD が補償するのは 1 社目だけです。2 社目の貸出の損失 12 億円は S 社に残ります。売り手の損失は、1 社分で止まります4。
図の説明
プロテクションの買い手の S 社が、デフォルトが 1 社だけ起きた場合の受け払いです。スプレッドの払いはデフォルトの時点まで続き、その後に損失の補償を受け取る矢印が 1 回だけ上向きに出て、取引は終わります。補償は 1 社分で、金額は本文の表と同じです。矢印の長さは金額の大きさの目安です。
スプレッドの範囲
FTD のスプレッドは、参照組織 5 社の CDS のスプレッドから決まる範囲に入ります。下限は、5 社の中で最大のスプレッドです。上限は、5 社のスプレッドの合計です5。
| 参照組織 | 5 年の CDS のスプレッド(bp) |
|---|---|
| 参照組織 1 | 100 |
| 参照組織 2 | 150 |
| 参照組織 3 | 200 |
| 参照組織 4 | 300 |
| 参照組織 5 | 450 |
| 合計 | 1,200 |
この例では、FTD のスプレッドは 450bp 以上、1,200bp 以下です。S 社の例の 780bp は、この範囲の中に入ります。
範囲の端は、デフォルトの重なり方の両極に当たります。5 社のデフォルトが互いに無関係なら、補償は 5 社のどれかがデフォルトするたびに起こりうるため、スプレッドは合計に等しくなります。5 社が同時にデフォルトするなら、バスケットは実質 1 社と同じで、スプレッドは最大の 1 社に等しくなります5。1 社ずつ CDS を買って全社を守ると、スプレッドの合計を払います。FTD は 1 社分だけを守る代わりに、その合計より安くなります5。
相関が高いほどスプレッドは下がる
FTD のスプレッドは、参照組織どうしのデフォルト相関に左右されます。相関が低いほど、5 社のうち少なくとも 1 社がデフォルトする確率が高まり、スプレッドは合計に近づきます。相関が高いほど、少なくとも 1 社がデフォルトする確率が 1 社分に近づき、スプレッドは最大の 1 社に近づきます。売り手から見ると、相関が下がるほどリスクが上がる取引です5。
下の表は、この例のスプレッドを、相関の値ごとに試算したものです。回収率は 40% で、各社のスプレッドは満期まで一定とし、金利は 0、スプレッドは連続して払うと単純化しています。相関は一因子ガウシアン・コピュラ(次の節)の相関の値です6。
| 相関 | 5 年以内に少なくとも 1 社がデフォルトする確率(%) | FTD のスプレッド(bp) |
|---|---|---|
| 0(無関係) | 63.2 | 1,200 |
| 0.3 | 53.5 | 約 930 |
| 0.5 | 47.4 | 約 780 |
| 0.7 | 41.1 | 約 640 |
| 0.9 | 34.3 | 約 510 |
| 1(同時にデフォルト) | 31.3 | 450 |
相関が 0 のとき、スプレッドは合計の 1,200bp になります。相関が 1 に近づくと、最大の参照組織 5 だけの 450bp に近づきます。相関が 0.5 のとき、約 780bp になり、S 社の例の水準に当たります。
連邦準備制度理事会の 2004 年の論文の仮想の例も同じ向きです。5 社の 5 年の CDS のスプレッドが 80、67、146、25、34bp(合計 352bp)のバスケットで、FTD のスプレッドは、相関 0 のとき 352bp、0.3 のとき 301bp、0.9 のとき 168bp でした7。
コピュラによる評価
FTD の評価では、1 社ごとのデフォルトの確率と、社どうしのデフォルトの重なり方を分けて考えます。1 社ごとのデフォルトの確率は、その社の CDS のスプレッドからハザード率を求めて決めます。重なり方は、コピュラで決めます。コピュラは、各社のデフォルトの時期を結び付けて、同時に起きる確率を決める道具です9。詳しい仕組みはクレジットのコピュラで扱います。
Fermanian らの 2012 年の論文では、CDO のトランシェの評価で一因子のガウシアン・コピュラが市場の標準の方法とされています9。FTD も、同じ型で評価できます1。この型では、全社に共通の要因を 1 つ置き、その要因を決めた上では、各社のデフォルトは互いに無関係に決まるとみなします1011。共通の要因が悪い方向に動くと、5 社がそろってデフォルトしやすくなります。この型の入力は、各社の CDS のスプレッドの期間構造、回収率、相関の 3 つです9。
評価の手順は、CDS と同じ考え方です。買い手が払うスプレッドの現在価値と、売り手が払う補償の現在価値が等しくなるスプレッドを、FTD のスプレッドとします12。CDS との違いは、補償が起こる条件が「5 社のうち最初の 1 社のデフォルト」になる点です。この確率を求めるのに、コピュラが使われます。
深掘りコピュラの評価が前提にしていること
ガウシアン・コピュラは、各社のスプレッドがどう動くかを定めません。入力は現時点のスプレッドの期間構造、回収率、相関だけです9。デフォルトが起きないあいだについて、FTD の評価額の動きを個別の CDS で打ち消せるのは、スプレッドの動きが特定の形をとる場合に限られます13。
本文の試算は、スプレッドが満期まで一定、相関が 1 つの値、金利が 0 という単純な前提の上にあります。相関の想定を変えると価値が動くことは、「相関が高いほどスプレッドは下がる」の節の補足欄の例のとおりです。
別の評価の方法もあります。ジャンプ拡散のモデルで FTD を評価し、コピュラによる方法と比べた研究があります14。評価の方法が変われば、同じ FTD の価格も変わります。これはモデル・リスクの一例です。
n 番目のデフォルトへの一般化
FTD は、補償の条件を「最初の 1 社」から「n 番目の 1 社」に変えた取引に広げられます。n 番目のデフォルト(nth-to-default)の取引は、n 番目のデフォルトで取引が終わり、補償が払われます。n = 1 の場合が FTD です15。
S 社の 5 社の例で n = 2 なら、1 社目のデフォルトは補償されず、2 社目のデフォルトで補償が払われて取引が終わります。1 社目の損失は、買い手の負担です。
最初の p 社分の損失を補償する形(first p-th to default)は、CDO のトランシェなど多くのバスケット型の取引の基本の部品として扱えます16。
何に使われるか
買い手は、複数の参照組織への信用エクスポージャーを、1 社ずつ CDS を買うより低い費用で守るために使います。ただし、守られるのは 1 社分です。「3 つの場合の受け払い」の表のように、2 社目以降の損失は S 社に残ります17。
売り手は、1 社分の損失を負う代わりに、単独の CDS より高いスプレッドを受け取ります17。FTD の売り手は、CDO のエクイティ・トランシェと同じく、最初の損失を負います。レバレッジのかかった信用リスクの取引で、価値は相関に左右されます1。「3 つの場合の受け払い」の表のとおり、デフォルトがなければ売り手は受け取ったスプレッドが利益になり、1 社がデフォルトすれば、受け取ったスプレッドを上回る損失になります。
FTD は、バスケットの組み方を取引ごとに決める特注の商品です。スワップの形でも、ノート(債券)に組み込んだ形でも取引されます15。
リスクとヘッジの難しさ
FTD の売り手と買い手が負う主なリスクは、参照組織のデフォルトと相関の想定の外れです。デフォルトの損失は「3 つの場合の受け払い」の表のとおりです。相関は直接観測できず、市場のデータも少ないため、推定して評価に使うことになり、想定の外れは評価の誤差になります188。想定が外れたときの例は、「相関が高いほどスプレッドは下がる」の節の補足欄にあります。
Fermanian らの分析では、各社の CDS をヘッジの手段にしたとき、デフォルトが起きないあいだの損益が平らになるのは、ガウシアン・コピュラのもとで、スプレッドの動きが特定の形をとる場合だけです13。トレーダーは、スプレッドの動きとデフォルトの両方に備えるのが普通で、そのために 1 社につき満期の違う CDS を 2 本使います。この場合、損益は平らにならず、備えのための費用(キャリー)を払います19。
似た商品との違い
| 項目 | 単独の CDS | FTD | CDS インデックス |
|---|---|---|---|
| 補償の対象 | その 1 社の損失 | 最初の 1 社の損失 | デフォルトした各社の、構成の重みの分の損失 |
| デフォルト後の取引 | 終わる | 終わる | 続く(想定元本がその社の重みの分だけ減る) |
CDS インデックスは、構成銘柄の損失をその重みの分だけ補償し、残りの銘柄で取引が続きます20。FTD は、最初の 1 社の損失の全額(回収率を除いた分)を補償し、そこで終わります。
注
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Michael S. Gibson, "Understanding the Risk of Synthetic CDOs"(Federal Reserve Board、FEDS 2004-36、2004 年)の 6.2 節(21 ページ)。FTD の損失を負う側(資料では investor、本文の売り手)の受け払い、1 件で取引が終わること、バスケットの大きさ、現物の決済、相関への依存。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
Joro ほか, "A Simulation-Based First-to-Default (FTD) Credit Default Swap (CDS) Pricing Approach Under Jump-Diffusion"(2004 年)の 1 節(1 ページ)。どれかのデフォルトで売り手が損失を払い、契約が終わる。 ↩
-
Fermanian と Vigneron, "On break-even correlation: the way to price structured credit derivatives by replication"(arXiv:1204.2251)の 5 節(14〜15 ページ)。FTD の支払いは (1 − R) × (1 − Π(1 − δ_j))(R は回収率)。 ↩
-
Joro らの論文の 3 節(2 ページ)。FTD の売り手の信用リスクは 1 社分に限られ、収入は単独の CDS より高いのが普通。 ↩
-
Joro らの論文の 3 節(2 ページ)。FTD のスプレッドは、相関 1 で最大の 1 社に等しく、相関 0 で合計に等しい。全社に CDS を買うより安く、相関が下がるとリスクが上がる。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
このサイトの試算。前提は本文のとおり(回収率 40%、金利 0、スプレッドは満期まで一定)で、一因子ガウシアン・コピュラのもとで計算し、10bp の単位に丸めた値。 ↩
-
Gibson の論文の表 8 と表 9(6.2 節、22 ページ)。5 社の 5 年の CDS のスプレッドは 80、67、146、25、34bp で、FTD のパー・スプレッドは相関 0 で 352bp、0.3 で 301bp、0.7 で 217bp、0.9 で 168bp。表の社名は省略。 ↩ ↩2
-
Gibson の論文の 6 節(18 ページ)。相関は観測できず、相関の想定の誤りがリスクになる。FTD も相関の商品とされる。 ↩ ↩2
-
Fermanian と Vigneron の論文の 1 節(2 ページ)。ガウシアン・コピュラはデフォルトの時期の同時の分布を定め、依存を相関のパラメータで表す。入力は現時点のスプレッドの期間構造、回収率、相関。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Fermanian と Vigneron の論文の要旨(1 ページ)。デフォルトの時期が共通の要因を決めた上で互いに独立になる静的な枠組みで、n 番目のデフォルトのバスケットの評価への応用を挙げる。 ↩
-
Gibson の論文の 3 節(4 ページ)。デフォルトの相関を共通の要因で決まるとし、共通の要因を決めた上での損失の分布を求めて、共通の要因について積分する。 ↩
-
Joro らの論文の 3 節(2 ページ)。CDS と同じく、スプレッドの支払い側と補償側の現在価値を等しくして FTD の価格を決める。 ↩
-
Fermanian と Vigneron の論文の 1〜2 節(2〜7 ページ)。個別の CDS をヘッジの手段にして、デフォルトが起きないあいだの損益を平らにできるのは、スプレッドの動きが特定の関係を満たす場合に限る。 ↩ ↩2
-
Joro らの論文の要旨(1 ページ)。ジャンプ拡散にもとづく FTD の評価の方法を示し、コピュラによる方法と比べる。 ↩
-
IHS Markit, "CDS Indices Primer"(2021 年)の 13 ページ。FTD と n 番目のデフォルト(First or nth to Default)は特注の商品で、スワップかノートの形で取引され、最初の(n 番目の)デフォルトで契約が終わり、補償が払われる。 ↩ ↩2
-
Fermanian と Vigneron の論文の 5 節(15 ページ)。最初の p 番目のデフォルトまでの損失を補償する取引は、CDO のトランシェを含む多くのバスケット型の取引の基本の部品として見られる。支払いは min(Σδ_i, p) × (1 − R)。 ↩
-
Joro らの論文の 3 節(2 ページ)。全社に CDS を買うと高くつくため、FTD は最初のデフォルトを 1 社ずつ買うより安く守る。売り手は単独の CDS より高い収入を得る。 ↩ ↩2
-
Joro らの論文の 3 節(2 ページ)。デフォルトの相関は、市場のデータが少ないためモデル化が難しい。 ↩
-
Fermanian と Vigneron の論文の 2 節(7 ページ)。スプレッドの動きとデフォルトの両方に備えるには、1 社につき満期の違う CDS を 2 本使うのが普通で、損益は平らにならず、備えの費用を払う。 ↩
-
IHS Markit, "CDS Indices Primer"(2021 年)の 22 ページ。構成銘柄のクレジット・イベントのあと、その銘柄の重みを 0 にした新しいバージョンが公表され、想定元本はその重みの分だけ減る。例では、100 社のインデックスで 1 社がデフォルトすると、1,000 万ドルが 990 万ドルになる。 ↩