CDS のプロテクションで債券や貸出のリスクをヘッジしている保有者は、参照組織の債務が不履行になったとき、CDS から支払いを受けられるのか、どう決済されるのかを確かめます。

クレジット・イベントの種類

クレジット・イベントは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で、プロテクションの売り手が買い手に支払う義務を生む事由です。クレジット・イベントが起きなければ、売り手は何も払いません。何をクレジット・イベントにするかは契約で決めます。

2012 年に公表された全国銀行協会の金融法務研究会の報告書によると、企業を参照組織とする典型的な CDS では、3 つを選びます。倒産(bankruptcy)、支払不履行(failure to pay)、リストラクチャリング(restructuring)です1。CDS の基本の受け払いは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で扱います。

国を参照組織とするソブリン CDS では、支払不履行、履行拒否または支払猶予、リストラクチャリング(条件変更)が起きると、買い手は支払いを受けられます2。企業の 3 つと比べると、倒産の代わりに履行拒否または支払猶予が入っています。

クレジット・イベントが起きたら、プロテクションの買い手は売り手に、起きたことの通知と、それを確かめられる公開の情報の通知を送ります1。どの事実がクレジット・イベントに当たるか、通知が適切だったかをめぐって、法的な争いになることもあります1。

社債の契約で定めるデフォルトの条件と、CDS のクレジット・イベントの条件は、一般に同じではありません。同じ社債でも回号や発行市場でデフォルトの定義が違うことがあり、貸出の条件はさらに個別に決まります3。そのため、同じ企業の債務でも、商品ごとにデフォルトと認められるかどうかや、認められる時期がずれることがあります。

決定委員会(DC)による認定

クレジット・イベントが起きたかどうかは、国際スワップ・デリバティブズ協会(ISDA)のもとに組織されるクレジット・デリバティブ決定委員会(DC)が決めます。DC が認定する手続きは、ISDA が定める CDS の定義集の 2009 年の改正で整いました4。地域ごとの DC が、クレジット・イベントが起きたかどうかと、その種類を決めます5。

2012 年に公表された資料(2011 年 10 月末時点の記述)では、DC は米州、欧州・中東・アフリカ、日本、日本を除くアジア、オーストラリア・ニュージーランドの 5 つの地域ごとに置かれていました。議決権を持つ委員は 15 社で、世界的なディーラー 8 社、その地域のディーラー 2 社、ディーラー以外の 5 社から成っていました4。

当時の手続きでは、認定は市場参加者から ISDA への質問で始まります。委員の少なくとも 1 社(匿名の質問では 2 社)が議論に同意すると DC が議論し、議決権を持つ委員の 8 割が賛成すると、クレジット・イベントが認められます4。DC は、クレジット・イベントのほか、CDS の契約の解釈の問題も決めます4。

現物決済と現金決済

クレジット・イベントが起きた後の決済には、現物決済、現金決済、オークションによる決済があります6。現物決済では、プロテクションの買い手が参照組織を債務者とする債券や貸出債権などの債権を売り手に渡し、売り手は額面の金額を払います。渡せる債務(引渡可能債務)の範囲は契約で決めます6。現金決済では債務を受け渡さず、ディーラーに問い合わせて債務の時価を決め、売り手が額面と時価の差額を払います6。

B 社を参照組織とする想定元本 10 億円の CDS で、クレジット・イベントの後の B 社の債券の価格が額面 100 に対して 25 になった架空の例で考えます。

決済の方法 買い手が渡すもの 売り手が払う額 買い手の手元に残るもの
現物決済 B 社の債券 額面 10 億円 10 億円 現金 10 億円
現金決済 なし 7 億 5,000 万円 現金 7 億 5,000 万円と、持っていれば B 社の債券

B 社の債券を額面 10 億円持つ買い手は、どちらの方法でも合わせて 10 億円を手にします。現金決済では、手元の債券を市場で 2 億 5,000 万円(価格 25)で売れば、現物決済と同じになります。一方で、売り手はどちらの方法でも 7 億 5,000 万円の損を負います。現物決済では 10 億円を払って、2 億 5,000 万円の価値の債券を受け取るためです。

2009 年のニューヨーク連邦準備銀行(ニューヨーク連銀)の資料によると、どちらの方法にも弱みがあります。現物決済では、債券を持たずにプロテクションを買った人も、決済のために債券を市場で手に入れなければなりません。参照組織の債務の額より CDS の想定元本の合計が大きいと、債券の奪い合いで価格が不自然に上がり、同じリスクの CDS が違う価格で決済されます。現物決済の手続きをクレジット・イベントから 30 暦日以内に始める決まりも、奪い合いを起こしやすくしていました7。リーマン・ブラザーズの CDS では、債券のヘッジでありえたのは約 3 分の 1 で、残りは債券を持たない取引だったと推定されています7。現金決済では、デフォルトした債務の信頼できる価格を得るのが難しく、社債や貸出債権は取引が少ないためなおさらです8。

オークションで最終価格を決める手順

オークションは、デフォルトした債務の価格を 1 つに決め、その価格で同じ参照組織の CDS をまとめて現金決済する仕組みです。現物決済を望む参加者は、オークションの中で債券を売り買いして、現物決済と同じ結果を得られます9。手順は 2 段階です。ここからの手順の説明は、2009 年のニューヨーク連銀の資料によります。図 1 は、クレジット・イベントの認定から決済までの流れです。

市場参加者DCオークション認定されない認定するクレジット・イベントかをISDA に質問する委員の 8 割の賛成で認定するかを決める決済は起きない第 1 段階気配と現物決済の申し込みを集める第 2 段階指値注文で最終価格を決める最終価格でCDS を現金決済する
図 1クレジット・イベントの認定からオークションによる決済までの流れ
図の説明

市場参加者がクレジット・イベントが起きたかを ISDA に質問し、DC は議決権を持つ委員の 8 割の賛成で認定するかを決めます。この質問と認定の手続きは、2011 年 10 月末時点の資料によるものです。認定されなければ決済は起きません。認定すると、オークションの第 1 段階で、ディーラーの気配と現物決済の申し込みを集めます。第 2 段階で指値注文を突き合わせて最終価格を決め、市場参加者はその価格で CDS を現金決済します。

第 1 段階では、オークションに直接参加するディーラーが、あらかじめ決めた金額の債務を売り買いする買い気配と売り気配を出します。買い気配と売り気配の差の上限も、あらかじめ決まっています。気配から求めた中値が、最初の回収率の目安になります。同時に、現物決済を望む参加者は、最終価格で債務を売るか買うかの申し込みを出します。申し込みは、自分の CDS の持ち高と同じ向きで、その額までに限られます10。売りと買いの申し込みの差し引きを、オープン・インタレストといいます9。

第 2 段階では、ディーラーが指値注文を出し、オープン・インタレストと突き合わせます。オープン・インタレストが売りなら、高い買い注文から順に当てていき、全額が埋まったときの最後の注文の価格が最終価格です。買いなら、安い売り注文から順に当てます。オープン・インタレストが 0 なら、第 1 段階の中値がそのまま最終価格になります9。第 2 段階の価格には、最終価格を操作されないように、中値からの幅の上限があります10。

B 社の債券のオークションの架空の例で考えます。第 1 段階の中値は 26、オープン・インタレストは 200 億円の売りです。第 2 段階の買いの指値注文が次のとおりなら、上から足して 200 億円に届くのは 25 の注文で、最終価格は 25 です。

買いの指値(額面 100 あたり) 注文の額(億円) 上からの合計(億円)
27 50 50
26 60 110
25 120 230
23 200 430

最終価格が 25 なので、想定元本 10 億円の CDS の売り手は、買い手に 10 億円 ×(100 − 25)÷ 100 = 7 億 5,000 万円を払います。オークションで額面 10 億円の債券を売る申し込みをした買い手は、債券の代金も受け取るので、現物決済と同じ結果になります9。

実際の例では、2008 年 9 月 15 日に米国の連邦破産法第 11 章の手続きを申し立てたリーマン・ブラザーズの優先債のオークションが、同年 10 月 10 日に開かれました。オークションの取り決めに加わった 358 の当事者が、直接参加した 14 社のディーラーを通じて参加しました。第 1 段階の中値は 9.75、オープン・インタレストは 49 億 2,000 万ドルの売りで、第 2 段階の上限は 10.75 でした。最終価格は 8.625 で、売り手は想定元本の 91.375% を払いました10。

深掘り第 1 段階の中値の求め方

リーマン・ブラザーズのオークションの説明では、中値を次のように求めています。まず、買い気配と売り気配を並べ、最も高い買い気配が最も安い売り気配以上なら、2 つを取り除きます。これを、残る買い気配がどれも残る売り気配より低くなるまで繰り返します。そのうえで、残った買い気配のうち高い方の半分と、売り気配のうち安い方の半分の平均を、1/8 単位に丸めて中値にします10。

ディーラーがペナルティを払う決まりもあります。ほかの気配と交差して取り除かれた気配が、中値より高い買い気配(または中値より安い売り気配)で、しかもオープン・インタレストの向きから見て不自然だったときです。リーマン・ブラザーズの例では、中値より高い買い気配を出したディーラーが払いました10。

オークションは、同じ弁済の順位の債務をすべて同じものとみなし、その順位に 1 つの回収率を決めます。2009 年までのオークションは、貸出、優先債、劣後債を対象に開かれました11。第 2 段階で決まる最終価格が、CDS の決済に使う回収率になります9。回収率と CDS の評価の関係は、CDS の評価で扱います。

2009 年のオークションの標準化

オークションによる決済は、2005 年ごろから少しずつ使われるようになりました12。2009 年のニューヨーク連銀の資料が説明する 2 段階の手順は、2005 年のデルファイ社の CDS のオークションから使われていました9。ただし、当時のオークションは、クレジット・イベントのたびに、参加したい買い手と売り手が期日までに、既存の契約を直す取り決め(プロトコル)に加わる通知を出す形でした。また、2006 年までのオークションでは現物決済しかできず、2009 年の資料の時点のように現金決済を選ぶことはできませんでした8。

2012 年に公表された全国銀行協会の金融法務研究会の報告書は、2009 年の改正が要った理由として 3 つを挙げています。1 つ目は、CDS は当事者どうしの相対の取引のため、同じ参照組織の CDS でも、取引ごとにクレジット・イベントを認めるタイミングや決済の価格がずれうることです。2 つ目は、決済のときに当事者の間で契約の解釈が分かれうることです。3 つ目は、引き渡す債務の流動性や譲渡のしやすさに懸念があったことです12。

2009 年 3 月と 7 月に、CDS の定義集が大きく改正されました。3 月の改正をビッグバン、7 月の改正をスモールバンと呼びます4。ビッグバンの改正で、DC がクレジット・イベントを認定する手続きが整いました4。ビッグバンは 2009 年 4 月 8 日に適用され、この日からオークションによる決済が定義集に組み込まれて、業界の標準の決済の方法になりました121314。スモールバンは、ビッグバンでは対象外だったリストラクチャリングのときにも、オークションで決済できるようにした改正です15。それまでに結んだ CDS にも新しい仕組みを使えるように、当事者が取り決めに加わる方法がとられ、2,000 を超える当事者が加わりました4。

1 つの価格で決済すると、同じ参照組織の単一銘柄の CDS をCDS インデックスでヘッジした持ち高に、回収率のずれによる損益が出なくなります。取引ごとに現物決済すると、債券を売り買いする時期と価格がずれ、損益が 0 のはずの持ち高に損や得が出るためです9。

ヘッジの結果とヘッジが合わないとき

B 社の債券を額面 10 億円持ち、同じ額のプロテクションを買った投資家は、最終価格が 25 なら、債券の値下がりを CDS の受け取りで埋めます。債券を額面で買っていれば、プレミアムを除いた債券と CDS を合わせた損益は 0 になります。

一方、社債や貸出のデフォルトと CDS のクレジット・イベントが食い違うと、ヘッジが合わなくなります。2010 年の日本銀行の資料は、次のような例を挙げています。貸出だけを対象にした私的整理(事業再生 ADR など)で貸出に損失が出ても、CDS でクレジット・イベントが認められなければ、貸出のヘッジは働きません。逆に、社債を含まない私的整理でクレジット・イベントが認められると、社債を CDS でヘッジしていた人は思いがけない利益を得ることがあります3。

回収の額もずれることがあります。同じ順位の債権者でも、社債を持つか貸出をしているかで、最終的に回収できる額が大きく違うことがあります3。一方で、オークションは同じ順位の債務に 1 つの回収率を決めます11。そのため、CDS の受け取りと貸出の実際の回収額が合わず、貸出のヘッジに過不足が出ることがあります。

注

  1. 森下哲朗「クレジット・デフォルト・スワップ」(全国銀行協会 金融法務研究会の報告書「金融取引における信用補完に係る現代的展開」第 5 章、2012 年 9 月公表)の 45〜46 ページ、「(5)クレジット・イベント」。 ↩ ↩2 ↩3

  2. 日本銀行「金融市場レポート」(2010 年 1 月)の 17 ページ、「BOX3 ソブリン CDS 市場について」。 ↩

  3. 日本銀行「金融市場レポート」(2010 年 1 月)の 37〜38 ページ、「BOX6 デフォルト局面における信用リスク商品の連動性」。 ↩ ↩2 ↩3

  4. 森下哲朗「クレジット・デフォルト・スワップ」(2012 年 9 月公表)の 45 ページ、「(4)契約」と注 18、46 ページ、「(5)クレジット・イベント」。地域、委員の構成、認定の手続きは 2011 年 10 月末時点の記述。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7

  5. IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 11〜12 ページ、"Credit event procedures"。 ↩

  6. 森下哲朗「クレジット・デフォルト・スワップ」(2012 年 9 月公表)の 47 ページ、「(6)決済」。 ↩ ↩2 ↩3

  7. Federal Reserve Bank of New York「Credit Default Swap Auctions」(Staff Report No. 372、2009 年 5 月)の 3〜4 ページ、"Why is an Auction Necessary to Settle CDS Contracts?"。 ↩ ↩2

  8. Federal Reserve Bank of New York「Credit Default Swap Auctions」(2009 年 5 月)の 5 ページ。 ↩ ↩2

  9. Federal Reserve Bank of New York「Credit Default Swap Auctions」(2009 年 5 月)の 5〜8 ページ、"The Auction Mechanism"。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7

  10. Federal Reserve Bank of New York「Credit Default Swap Auctions」(2009 年 5 月)の 20〜21 ページ、"Box 1: Lehman Brothers as an illustration of the CDS auction mechanism"。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  11. Federal Reserve Bank of New York「Credit Default Swap Auctions」(2009 年 5 月)の 6 ページ。 ↩ ↩2

  12. 森下哲朗「クレジット・デフォルト・スワップ」(2012 年 9 月公表)の 48 ページ、「(6)決済」。 ↩ ↩2 ↩3

  13. 吉井一洋「クレジット市場における検討課題」(金融庁金融研究研修センター、2009 年 7 月)の 46 ページ、「5.1.1 CDSとは」。 ↩

  14. IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 36 ページ、"Appendix 6: Credit Derivatives Glossary" の "Big Bang Protocol"。 ↩

  15. IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 41 ページ、"Appendix 6: Credit Derivatives Glossary" の "Small Bang Protocol"。 ↩

  16. Federal Reserve Bank of New York「Credit Default Swap Auctions」(2009 年 5 月)の 3 ページ。 ↩