銀行が貸出の信用リスクを管理するときや、社債を持つ投資家がリスクを減らすときに、CDS が選ばれる場面があります。

プレミアムと損失の埋め合わせの交換

クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は、企業や国の信用リスクを売り買いするデリバティブの取引です。対象にする企業や国を参照組織といいます。参照組織の倒産や支払不履行がクレジット・イベントと認められると、プロテクションの売り手が買い手に支払い、買い手の損失を埋め合わせます。この埋め合わせの約束をプロテクションといい、その対価として買い手が売り手に払うお金をプレミアムといいます。買い手から見ると、対価を払って保証を受ける契約に似た効果があります1。

プレミアムの水準は年率で表し、この率を CDS のスプレッドともいいます。スプレッドは通常、bp(ベーシス・ポイント。1bp は 0.01%)の単位で示します2。

銀行の貸出の架空の例で考えます。X 銀行は A 社に 100 億円を貸しています。X 銀行は、A 社を参照組織とする想定元本 100 億円、期間 5 年の CDS でプロテクションを買います。スプレッドは 50bp(年 0.5%)で、プレミアムは 3 か月ごとに払うものとします。CDS は取引所を通さない店頭デリバティブで、X 銀行と売り手が相対で結ぶ取引です34。

A 社参照組織X 銀行CDS の買い手売り手CDS の売り手貸出 100 億円元利プレミアム 50bpイベント時に支払い
図 1X 銀行が A 社への貸出のリスクを CDS でヘッジする取引
図の説明

X 銀行は、参照組織の A 社に 100 億円を貸し、A 社から元本と利息を受け取ります。X 銀行は、プロテクションの売り手にスプレッド 50bp のプレミアムを払います。A 社にクレジット・イベントが起きたときだけ、売り手は X 銀行に支払います。A 社は CDS の当事者ではなく、CDS の受け払いには加わりません。

イベントがないときとあるときの受け払い

クレジット・イベントが起きなければ、X 銀行はプレミアムを払い続けるだけで、売り手からは何も受け取りません。例の条件では、1 回のプレミアムは 100 億円 × 0.5% ÷ 4 = 1,250 万円です。2021 年 11 月の IHS Markit の資料によると、CDS のプレミアムは通常 3 か月ごとに払います5。5 年間でプレミアムは 20 回、合わせて 2 億 5,000 万円になります。

クレジット・イベントが起きると、売り手は買い手の損失を埋め合わせる額を払います。決済の方法は 2 つあります。現物決済では、買い手が参照組織の社債などを売り手に渡し、売り手は額面の金額を払います。現金決済では、参照組織の債務の価格を決め、額面との差額を払います6。例で、現金決済により A 社の債務の価格が額面の 30% と決まれば、売り手は X 銀行に 100 億円 ×(100% − 30%)= 70 億円を払います。クレジット・イベントの種類と、債務の価格を決めるオークションの手順は、クレジット・イベントと決済で扱います。

↑ 受取 ↓ 支払プロテクションの買い手の X 銀行から見た受け払い3 か月後6 か月後9 か月後1 年後決済日−1,250 万円プレミアム−1,250 万円プレミアム−1,250 万円プレミアム−1,250 万円プレミアム+70 億円決済
図 21 年後のプレミアムの支払いの後にクレジット・イベントが起きた場合の X 銀行の受け払い
図の説明

プロテクションの買い手の X 銀行から見た受け払いです。X 銀行は、3 か月後、6 か月後、9 か月後、1 年後にプレミアムを 1,250 万円ずつ払います。1 年後の支払いの後に A 社にクレジット・イベントが起き、A 社の債務の価格が額面の 30% と決まると、決済日に売り手から 70 億円を受け取ります。その後のプレミアムの支払いはありません。矢印の長さは金額の大きさの目安です。

イベントが起きた後は、プレミアムの支払いは続きません7。X 銀行と売り手の損益は、イベントの有無で次のように分かれます。

場合 X 銀行が払うプレミアムの合計 X 銀行が受け取る支払い X 銀行の CDS の損益 売り手の CDS の損益
5 年間イベントなし 2 億 5,000 万円 0 円 −2 億 5,000 万円 +2 億 5,000 万円
1 年後の支払いの後にイベント(価格 30%) 5,000 万円 70 億円 +69 億 5,000 万円 −69 億 5,000 万円

イベントがなければ、X 銀行は A 社から貸出を全額回収し、CDS ではプレミアムの 2 億 5,000 万円を払っただけになります。イベントが起き、A 社への貸出から回収できる額が額面の 30% の 30 億円だったとすると、CDS の 70 億円と合わせて 100 億円になります。この場合、X 銀行は元本の 100 億円を取り戻し、CDS に払ったプレミアムは 5,000 万円です。売り手はその逆で、イベントがなければプレミアムを受け取り続け、イベントが起きると大きな支払いをします。

参照組織の信用力で価値が変わる

CDS の価値は、社債や貸出の価格と同じく、参照組織の信用力で変わります8。例で、A 社の業績が悪化し、同じ条件の CDS のスプレッドが 50bp から 200bp に上がったとします。X 銀行は、今なら 200bp かかるプロテクションを 50bp で持っているため、X 銀行の CDS の価値は上がります。売り手は、今なら 200bp を受け取れるリスクを 50bp で引き受けているため、損をしています。A 社の信用力が良くなってスプレッドが下がれば、得と損は逆になります9。

ここまでの例は、約定のときに決めたスプレッドのプレミアムを払い続ける形で説明しています。2021 年 11 月の IHS Markit の資料によると、CDS のプレミアムは決まった水準のクーポンで払い、そのときのスプレッドとクーポンの差にあたる分を約定のときに受け払いします10。クーポンとアップフロント(約定のときの受け払い)、CDS の価値をクレジット・イベントの起きやすさ(ハザード率)と回収率から求める方法は、CDS の評価で扱います。

何に使われるか

CDS の使い方には、持っている債権の信用リスクのヘッジ(プロテクションの買い)と、信用リスクを取ってプレミアムを得る投資(プロテクションの売り)があります。ほかに、価格の変動から収益を狙うトレーディングの取引もあります11。銀行は、貸出の信用リスクを減らすためにプロテクションを買います。上の X 銀行の例のように、貸出を手元に残したまま、信用リスクだけを移すことができます12。

プロテクションの買い手は参照組織の債務を持っている必要がないため、信用力が落ちると見込む投資家や、参照組織の株式を持つ投資家もプロテクションを買います13。複数の参照組織をまとめて対象にする CDS インデックスもあります5。

国を参照組織にする CDS を、ソブリン CDS といいます。2010 年 1 月の日本銀行の金融市場レポートによれば、ソブリン CDS は対象の国の通貨では取引せず、通常は米ドル建てです。対象の国の破綻と売り手の破綻が同時に起きるのを買い手が避けるため、対象の国に国籍を持つ主体がプロテクションを売ることは原則としてありません14。金融機関は、国ごとのリスクの限度の管理や、持っている国債の信用リスクを減らすためにプロテクションを買います14。2009 年の終わりごろには、財政赤字が大きく増えたギリシャなどを参照組織とするソブリン CDS のスプレッドが上がりました15。

CDS のリスク

プロテクションの買い手は、売り手の信用リスクを負います。2008 年の金融危機のころ、CDS の多くは当事者どうしの相対の取引で、クレジット・イベントが起きたときに売り手が破綻していると、買い手は支払いを受けられないおそれがありました16。2008 年 9 月にリーマン・ブラザーズが破綻した後、同社を参照組織とする CDS では、プロテクションの売り手が額面の 90% あまりを払う義務を負いました。このとき、売り手の破綻が連鎖するおそれが意識されました16。2008 年 10 月には、金融安定化フォーラムが、買い手と売り手の間に入る清算機関を CDS のために設けるよう提言しました16。

ヘッジが思ったとおりに働かないリスクもあります。CDS のクレジット・イベントの条件は、社債や貸出の契約で不履行とする条件と一般に同じではなく、貸出に損失が出ても CDS から支払いがないことがあります8。

プロテクションの売り手にとっては、受け取るプレミアムに比べて、イベントのときの支払いがとても大きいことがリスクです。例では、年に 5,000 万円のプレミアムに対して、イベントが起きると 70 億円を払います。

社債との違い

CDS でプロテクションを売ることと社債を買うことは、どちらも参照組織の信用リスクを取る点で似ていますが、次の点が違います。

項目 社債を買う CDS でプロテクションを売る
始めるときの資金 社債の購入代金が要る 社債を買うより少ない手元資金で済む17
参照組織の債務を持つ必要 社債そのものを持つ 持つ必要はない(買い手も同じ)6
対象になる信用の事由 元本や利息が期日までに払われないこと CDS のクレジット・イベント(リストラクチャリングを含むことがある)
負う信用リスク 社債の発行者の信用リスク 参照組織の信用リスクに加え、取引の相手が破綻するリスク18

表の 3 行目のリストラクチャリングは、金利の減免や期限の延長など、債務の条件を変えることです1。これを含むことがある分、CDS のほうが対象になる事由の範囲が広くなります18。

CDS が広がった経緯

CDS をはじめとする新しい信用リスク移転の商品は、1990 年代半ばから欧米の市場で広がりました19。CDS は、もともと社債を持つ投資家などが信用リスクをヘッジするために生まれました。その後、市場で価格が決まるようになると、価格の変動から収益を狙うトレーディングの取引が大きく増えました20。1999 年に国際スワップ・デリバティブズ協会(ISDA)が発表した定義集を使った標準の契約書が定着して、取引が急速に増えました19。2008 年の金融危機の後、2009 年 4 月からは、オークションで債務の価格を決める決済が業界の標準になりました621。

注

  1. 中山貴司・河合祐子「クレジット市場の発展に関する一考察」(日本銀行、日銀レビュー 2005-J-4、2005 年 3 月)の「BOX1 クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の仕組み」(2 ページ)。 ↩ ↩2

  2. 日本銀行金融市場局「信用リスク移転市場の新たな展開」(2003 年 1 月)の図表 3(4 ページ)。Federal Reserve Bank of New York「Credit Default Swap Auctions」の Figure 1(23 ページ)。日本証券クリアリング機構「Markit iTraxx Japan 本日のスプレッド」。 ↩

  3. 日本銀行金融市場局「信用リスク移転市場の新たな展開」の「市場の透明性とリスク分布」(5 ページ)。 ↩

  4. 吉井一洋「クレジット市場における検討課題」(金融庁金融研究研修センター、2009 年)の「5.3.3 米国財務省の金融規制改革報告書」(50 ページ)。CDS を店頭デリバティブに含めて書いています。筆者の個人的な見解で、金融庁の公式見解ではないと資料に注記があります。 ↩

  5. IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 4 ページ、"What is a CDS?" と "How does it work?"。 ↩ ↩2

  6. 吉井一洋「クレジット市場における検討課題」の「5.1.1 CDS とは」(46 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  7. Federal Reserve Bank of New York「Credit Default Swap Auctions」の「Box 2: Relationship between the CDS premium and the credit spread on a bond」(22 ページ)の表。 ↩

  8. 日本銀行「金融市場レポート」(2010 年 1 月)の「BOX6 デフォルト局面における信用リスク商品の連動性」(37〜38 ページ)。 ↩ ↩2

  9. OpenGamma Quantitative Research "The Pricing and Risk Management of Credit Default Swaps, with a Focus on the ISDA Model"(2013 年 10 月)の 2.2 節(3 ページ)と 4.5 節(10 ページ)、式 (28)。 ↩

  10. IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 5 ページ、"What is the fixed coupon and upfront amount?" と、9 ページの "Fixed coupons, upfront amounts and quoted spreads"。 ↩

  11. 中山貴司・河合祐子「クレジット市場の発展に関する一考察」の「CDS 市場の構造」と図表 2(2 ページ)。 ↩

  12. 日本銀行金融市場局「信用リスク移転市場の新たな展開」の「能動的な信用リスク管理の実施」(1 ページ)。 ↩

  13. Federal Reserve Bank of New York「Credit Default Swap Auctions」の 1 ページ。 ↩

  14. 日本銀行「金融市場レポート」(2010 年 1 月)の「BOX3 ソブリン CDS 市場について」(17 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  15. 日本銀行「金融市場レポート」(2010 年 1 月)の「Ⅰ.国際金融資本市場の改善持続と政策対応」の「(ドバイ・ショックなどへの国際金融資本市場の反応)」(16 ページ)と図表 I-1-23。分析の対象の期間は 2009 年 12 月末まで。 ↩

  16. 吉井一洋「クレジット市場における検討課題」の「5.2.1 2008 年金融危機と集中清算機関設立の提言」(47 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  17. 日本銀行金融市場局「信用リスク移転市場の新たな展開」の「新たな投資・資金調達機会の提供」(2 ページ)。 ↩

  18. 日本銀行金融市場局「信用リスク移転市場の新たな展開」の「CDS プレミアムと社債スプレッドの比較」(3〜4 ページ)。 ↩ ↩2

  19. 日本銀行金融市場局「信用リスク移転市場の新たな展開」の要旨(1 ページ)、「市場の概況」(2 ページ)と「BOX2 CDS 市場・CDO 市場の動向及び参加者」(3 ページ)。 ↩ ↩2

  20. 吉井一洋「クレジット市場における検討課題」の「5.1.2 CDS 市場の拡大」(46 ページ)。 ↩

  21. Federal Reserve Bank of New York「Credit Default Swap Auctions」の 2 ページと脚注 4。 ↩