株式を持つ投資家が値下がりに備えて先物を売る場面や、これから株式を買う投資家が値上がりに備えて先物を買う場面で、株価指数先物が出てきます。
指数は受け渡せないので差額で決済する
株価指数は抽象的な数値で、指数そのものを受け渡すことはできません。そのため株価指数先物は、満期に何かを受け渡すのではなく、約定した値段と満期の指数の値との差額だけを受け払いする先物取引です。差額の受け払いで決済することを差金決済といいます1。
満期の差額の計算に使う指数の値を、特別清算数値(SQ 値)といいます。日経平均株価を対象にした先物では、各限月の第 2 金曜日が満期日(SQ 日)です2。SQ 値は SQ 日の日経平均株価の構成銘柄の始値から計算し、その日の取引が終わった後に大阪取引所が公表します。ふだんの日経平均株価は気配値も入れて計算するため、SQ 値はその日の日経平均株価の始値と一致するとは限りません3。
満期を待たずに決済することもできます。取引最終日までに、買った人は売り、売った人は買い戻して決済します(転売と買戻し)。最初の取引と反対の取引をするので、これを反対売買といいます4。反対売買をしなかった取引(建玉)は、SQ 値で自動的に決済されます1。大阪取引所で取引した先物は、日本証券クリアリング機構(JSCC)が清算します5。取引最終日の決め方と反対売買の損益の計算は、限月と呼値で扱います。
満期の損益は SQ 値と約定した値段の差
満期まで持った株価指数先物の損益は、SQ 値と約定した値段の差に取引単位と枚数を掛けた額です。日経225先物の取引単位は日経平均株価の 1,000 倍で、数量は 1 単位を 1 枚と数えます2。日経225先物を 40,000 円で 1 枚買った P 社と、同じ値段で 1 枚売った T 社が、どちらも満期まで持つ架空の例で考えます。
| SQ 値(円) | 買った P 社の損益(万円) | 売った T 社の損益(万円) |
|---|---|---|
| 42,000 | 200 | −200 |
| 38,000 | −200 | 200 |
SQ 値が 42,000 円なら、P 社の損益は(42,000 − 40,000)× 1,000 × 1 枚で 200 万円の利益です。T 社の損益は(40,000 − 42,000)× 1,000 × 1 枚で 200 万円の損失です。SQ 値が 38,000 円なら、P 社が 200 万円の損失、T 社が 200 万円の利益になります。買い手の損益は(SQ 値 − 買った値段)、売り手の損益は(売った値段 − SQ 値)に、取引単位と枚数を掛けて求めます4。どちらの場合も、P 社と T 社の損益を足すと 0 です7。
図の説明
日経225先物を 40,000 円で買い、満期まで持った側の損益です。横軸は SQ 値、縦軸は日経平均株価 1 あたりの損益で、1 枚の損益はこの値の 1,000 倍です。損益は SQ 値とともに同じ幅で増える直線で、SQ 値が 40,000 円のときに 0(損益分岐点)になり、それより高いと利益、低いと損失になります。SQ 値が 44,000 円なら 4,000 円の利益、36,000 円なら 4,000 円の損失で、1 枚ではそれぞれ 400 万円の利益と損失です。売った側の損益は、この直線を 0 の線で上下に折り返した形になります。
証拠金を上回る損失が出ることもある
日経225先物は、証拠金と呼ぶ担保を差し入れて取引します。取引できる金額は証拠金の十数倍で、少ない資金で大きな金額を取引できる仕組み(レバレッジ)です2。
この仕組みは、利益だけでなく損失も大きくします。値動きによっては証拠金を追加で差し入れる必要があり、差し入れた証拠金を上回る損失が出ることもあります2。損益の図のとおり、損失は買い手なら相場が下がるほど、売り手なら相場が上がるほど、値動きの幅に比例して大きくなります。
日本の主な株価指数先物
日本の主な株価指数先物は、大阪取引所に上場している日経平均株価と東証株価指数(TOPIX)の先物です。どちらも、取引単位の大きさが違う商品が並んでいます。2026 年 4 月 13 日現在の大阪取引所の制度要綱では、次のとおりです6。
| 商品 | 対象の指数 | 取引単位 |
|---|---|---|
| 日経225先物 | 日経平均株価 | 指数 × 1,000 円 |
| 日経225mini | 日経平均株価 | 指数 × 100 円 |
| 日経225マイクロ先物 | 日経平均株価 | 指数 × 10 円 |
| TOPIX 先物 | TOPIX | 指数 × 1 万円 |
| ミニ TOPIX 先物 | TOPIX | 指数 × 1,000 円 |
日経平均株価は、東証プライム市場の銘柄のうち売買が活発な 225 銘柄の株価の平均を、株式分割などの影響を除くように修正した指数です。TOPIX は、株式の時価総額を基準の時点と比べて表す時価総額加重型の指数です8。同じ値動きでも、日経225先物の 1 枚の損益は日経225mini の 10 倍、日経225マイクロ先物の 100 倍になります。
このほか大阪取引所には、JPX日経インデックス400先物や NYダウ先物など、国内と海外のほかの株価指数の先物も上場しています9。
理論価格を決める金利と配当
株価指数先物の理論価格は、今の指数に満期までの金利の分を足し、満期までに受け取れる配当の分を引いた水準です。先物の価格は売り買いの需給で決まりますが、理論価格はその価格が高いか安いかを見る目安になります2。
言葉の式で書くと次のとおりです。
金利の分は、指数に金利と満期までの期間を掛けた額で、指数と同じ構成の株式を買う資金の調達コストに当たります。配当の分は、指数に配当利回り(1 株あたりの年間の配当金が株価の何 % に当たるかを示す値10)と期間を掛けた額で、その株式を満期まで持つ間に受け取る配当に当たります11。
大阪取引所は、日経225先物の理論価格を、日経平均株価、金利、予想配当利回り、満期までの日数から計算する式で示しています。裁定取引の例でも、株式を買う金額に金利や予想配当利回りと日数を掛けて、金融費用と配当収益を計算しています11。金利などのほかの条件が同じなら、配当利回りが高いほど配当の分が大きくなり、理論価格は低くなります。配当の分が金利の分より大きいと、理論価格は指数より低くなります。
現物の価格に、満期まで持つためのコストを足し、持つ間に得る収入を引いて先渡価格を求める考え方を、保有コストモデルといいます12。株価指数では、この収入が配当です。考え方は先渡しと先物で扱います。
ヘッジ・資産配分・裁定・投機
株価指数先物は、株式市場全体の値動きの影響を抑えるヘッジに使われます。大阪取引所は、株価指数先物の役割として、多数の銘柄の株式を持つ投資家が市場全体の値動きのリスクをヘッジできることを挙げています13。ヘッジには売りヘッジと買いヘッジがあります14。
売りヘッジは、株式を持つ投資家が株価指数先物を売っておく使い方です。相場が下がると、株式の値下がりの損失を、先物の買戻しの利益で埋めます14。逆に相場が上がると、株式の値上がりの利益が先物の損失で減ります。買いヘッジは、これから株式を買う予定の投資家が先物を買っておく使い方です。相場が上がると先物の利益を株式の購入資金に足せますが、相場が下がると先物の損失が出て、安く買えた株式の得と打ち消し合います14。どちらも、相場がどちらに動いても株式と先物の損益を合わせた結果の振れを小さくする使い方です。
売りヘッジは、日経平均株価が 40,000 円のとき、8,000 万円の株式を持つ T 社が日経225先物を 40,000 円で 2 枚売る架空の例で考えます。株式は日経平均株価と同じ割合で動き、先物は満期まで持ち、SQ 値は満期の日経平均株価と同じとします。
| SQ 値(円) | 株式の損益(万円) | 売った先物の損益(万円) | 合計(万円) |
|---|---|---|---|
| 36,000 | −800 | 800 | 0 |
| 44,000 | 800 | −800 | 0 |
SQ 値が 36,000 円に下がると、株式は 10 % 下がって 800 万円の損失です。売った先物は(40,000 − 36,000)× 1,000 × 2 枚で 800 万円の利益になり、損失を埋めます。44,000 円に上がると、株式は 800 万円の利益ですが、先物は 800 万円の損失で、利益は打ち消されます7。
買いヘッジは、8,000 万円分の株式を満期のころに買う予定の P 社が、今のうちに日経225先物を 40,000 円で 2 枚買っておく架空の例で考えます。買う株式の値段は日経平均株価と同じ割合で動き、そのほかの条件は売りヘッジの例と同じとします。
| SQ 値(円) | 株式の購入代金(万円) | 買った先物の損益(万円) | 実質の負担(万円) |
|---|---|---|---|
| 36,000 | 7,200 | −800 | 8,000 |
| 44,000 | 8,800 | 800 | 8,000 |
SQ 値が 44,000 円に上がると、株式の購入代金は 800 万円増えて 8,800 万円ですが、買った先物の(44,000 − 40,000)× 1,000 × 2 枚で 800 万円の利益が購入資金に足せます。36,000 円に下がると、購入代金は 7,200 万円と 800 万円安くなりますが、先物の 800 万円の損失で、安く買えた分は打ち消されます。どちらの場合も実質の負担は 8,000 万円で、SQ 値の上げ下げによる購入代金の増減がなくなります7。
株価指数先物は、機関投資家が資産の配分を調整するときにも使われます。例えば年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、資産の構成割合を目標に戻すときに、株式の売却の一時的な代わりに株価指数先物を使う例を示しています15。
株価指数先物は、先物の価格と理論価格の差が一定の水準より大きくなったときに、割高な方を売って割安な方を買う裁定取引にも、相場の上げ下げを予想して値動きから利益を狙う投機にも使われます16。
日本の株価指数先物の始まり
日本取引所グループの商品の歴史では、1988 年 9 月 3 日に、大阪証券取引所(今の大阪取引所)で日経225先物、東京証券取引所で TOPIX 先物の取引が始まりました。商品の歴史に載る株価指数の先物では、これが最も早い取引の開始です17。
その前年の 1987 年 6 月には、大阪証券取引所が 50 銘柄の株式をまとめて取引の対象にする株券先物取引「株先50」を始めていて、日本取引所グループの沿革はこれを日本で初めての株式先物の市場としています。株先50 の取引は 1992 年 3 月に止まりました18。
東京証券取引所の TOPIX 先物は、2014 年 3 月 24 日に東京証券取引所のデリバティブ市場が大阪取引所に統合され19、今は日経225先物と同じく大阪取引所で取引されています6。
1989 年 6 月には、日経平均株価を対象にした株価指数オプションの取引も、大阪証券取引所で始まりました17。
注
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日本取引所グループ「商品概要」(日経225先物、2023 年 11 月 6 日更新)の「商品概要」(取引単位は日経平均株価の 1,000 倍、1 枚。各限月の満期日(SQ日)は第 2 金曜日)、「証拠金」(証拠金の十数倍の取引、レバレッジ効果は損失の面でも大きく作用し、証拠金の追加や証拠金を上回る損失が生じる場合がある)、「理論価格」の段落。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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大阪取引所「先物取引のすべて」(2024 年 8 月発行)の 38 ページ(PDF の 41 ページ目)、「建玉及び決済について」の冒頭(JSCC での清算・決済)と「(3) 最終決済」(最終清算数値は銭単位まで表示する数値、現物の受渡しはなく差金で決済)。 ↩ ↩2
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大阪取引所「指数先物取引制度要綱」(2026 年 4 月 13 日現在)の 2 ページ、「(2) Large 取引、Mini 取引及び Micro 取引」と、7 ページの「(3) 呼値の単位」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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大阪取引所「先物取引のすべて」の 2〜3 ページ(PDF の 5〜6 ページ目)、「株価指数先物取引の仕組み」の「(1) 取引の対象」と「②TOPIX(東証株価指数)」。 ↩
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日本取引所グループ「商品一覧(先物・オプション)」(2026 年 4 月 13 日更新)の「国内株価指数」と「海外株価指数」。 ↩
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日本証券業協会「配当利回り」(投資の時間、金融・証券用語集)。ページ下の注記によると、日本証券業協会が作ったページで、同協会の金融・証券教育の事業は 2024 年 8 月に金融経済教育推進機構へ移り、ページの内容は 2024 年 6 月から更新されていません。 ↩
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大阪取引所「先物取引のすべて」の 42 ページ(PDF の 45 ページ目)、「裁定取引の具体例」の「①日経225先物の理論価格」(S は日経平均株価、r は金利、δ は予想配当利回り)、「②金融費用(資金調達コスト)の計算」と「③配当収益の計算」。 ↩ ↩2
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日本取引所グループ「国債先物入門」(服部孝洋、2021 年)の「BOX 2 先渡(フォワード)価格のプライシング」(20〜21 ページ)。資料は国債を例に、保有のためのコストを現物価格に足し、保有に伴う利子収入をコストから差し引くとしています。 ↩
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大阪取引所「先物取引のすべて」の 1 ページ(PDF の 4 ページ目)、「先物取引とは」の ❶。 ↩
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大阪取引所「先物取引のすべて」の 40 ページ(PDF の 43 ページ目)、「(2) ヘッジ取引」の「(1) 売りヘッジ」と「(2) 買いヘッジ」。 ↩ ↩2 ↩3
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年金積立金管理運用独立行政法人「カ行用語集」の「株価指数先物」(リバランスでの保有原資産の売却の一時的な代替として株価指数先物を活用する例)。 ↩
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大阪取引所「利用方法(先物)」(北浜投資塾)の「スペキュレーション」「理論価格と裁定取引」。 ↩
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日本取引所グループ「商品の歴史」(2026 年 4 月 13 日更新)の 1988 年 9 月 3 日の行(日経225先物取引開始は大阪取引所の列、TOPIX先物取引開始は東京証券取引所の列)と 1989 年 6 月 12 日の行。 ↩ ↩2
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日本取引所グループ「沿革」(大阪取引所、会員組織時代)の 1987 年 6 月と 1992 年 3 月の項。 ↩
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日本取引所グループ「沿革」(大阪取引所、日本取引所グループ発足以降)の 2014 年 3 月 24 日の項。 ↩