保有する株式の値下がりに備えたい運用の担当者や、少ない資金で株価の値動きに参加したい投資家は、個別の株式を対象にしたオプションで、その目的を果たせます。
個別の株式を決めた価格で売り買いする権利
個別株オプションは、1 つの会社の株式を原資産にしたオプションです。株式を行使価格で買う権利をコール・オプション(コール)、売る権利をプット・オプション(プット)といい、買い手は売り手にプレミアムを払って権利を手に入れます。コールとプットの一般の仕組みはオプションの基本(コールとプット)で扱います。
日本では、大阪取引所に個別株オプションが上場しています。大阪取引所では有価証券オプションと呼び、「かぶオプ」の愛称でも案内しています。対象は、全国の証券取引所に上場する有価証券のうち取引所が選んだ銘柄で、株式のほか、上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)も含みます12。有価証券オプションは、対象の銘柄、コールかプットか、限月、行使価格の組み合わせごとに 1 つの銘柄として売買します。たとえば「X 社、プット、9 月限、行使価格 1,500 円」で 1 つの銘柄です3。
株価が 2,000 円で売買単位が 100 株の W 社の株式を対象に、行使価格 2,000 円のコールをプレミアム 100 円で 1 単位買う架空の例で考えます。有価証券オプションの取引単位は対象の株式の売買単位の数量なので4、1 単位は 100 株分の権利で、買い手が払うプレミアムは 100 円 × 100 株で 1 万円です。
| 条件 | この例での値 |
|---|---|
| 原資産 | W 社の株式(売買単位 100 株) |
| 種類 | コール(買う権利) |
| 行使価格 | 2,000 円 |
| 満期 | 取引最終日 |
| プレミアム | 100 円(1 単位で 1 万円) |
行使すると株式を行使価格で売買する
有価証券オプションは、取引最終日にだけ行使できるヨーロピアン・オプションです。行使すると、コールの買い手は対象の株式を行使価格で買い、行使を割り当てられた売り手は同じ株式を行使価格で売ります。プットなら、買い手が株式を行使価格で売り、割り当てられた売り手が買います5。株価指数オプションのように差額のお金だけを受け払いするのではなく、株式そのものを売買して決済します。
取引最終日までに転売や買い戻しをしなかった持ち高は、イン・ザ・マネー(行使すると市場より安く買える、プットなら高く売れる状態)なら、買い手が権利放棄(権利を使わないと申し出ること)をしない限り自動で行使されます。アウト・オブ・ザ・マネー(行使すると市場より高く買う、プットなら安く売ることになる状態)なら、行使しない限り持ち高はなくなります5。上の例のコールを満期まで持った場合の損益は、次のとおりです。表の「行使で得る差」は、行使して買った株式を満期の株価で評価した額から、払った代金を引いた額です。
| 満期の株価(円) | 行使 | 行使で得る差(万円) | 払ったプレミアム(万円) | 損益(万円) |
|---|---|---|---|---|
| 2,500 | する | 5 | 1 | 4 |
| 2,100 | する | 1 | 1 | 0 |
| 1,900 | しない | 0 | 1 | −1 |
| 1,600 | しない | 0 | 1 | −1 |
満期の株価が 2,500 円なら、買い手は行使して W 社の株式 100 株を 2,000 円 × 100 株で 20 万円で買います。この株式は満期の株価で 25 万円にあたるので、プレミアムの 1 万円を引いて 4 万円の利益です。満期の株価が行使価格の 2,000 円以下なら、行使しても市場より安くは買えないため権利は使われず、払った 1 万円が損失になります。損益が 0 になる損益分岐点は、行使価格にプレミアムを足した 2,100 円です。
図の説明
W 社の株式を対象に、行使価格 2,000 円のコールをプレミアム 100 円で買ったときの、満期の損益です。横軸は満期の株価、縦軸は 1 株あたりのプレミアムを含めた損益で、1 単位(100 株)の損益はこの 100 倍です。満期の株価が 2,000 円以下では行使されず、損益は −100 円で一定です。2,000 円を上回ると、株価が 1 円上がるごとに損益が 1 円増え、2,100 円で 0(損益分岐点)、2,500 円で 400 円の利益になります。損失は払ったプレミアムの 100 円までです。
コールを売った側の損益は、買った側のちょうど反対です。満期の株価が 2,500 円なら、売り手は行使を割り当てられ、25 万円にあたる株式を 20 万円で売り渡すことになり、受け取ったプレミアムの 1 万円を足しても 4 万円の損失です。
限月、行使価格、取引単位の決まり
有価証券オプションの行使価格は、対象の株式の株価の水準に合わせた刻みで並びます。通常の定めでは、たとえば株価が 500 円未満の株式なら 25 円刻み、2,000 円以上 5,000 円未満なら 200 円刻み、5,000 円以上 3 万円未満なら 500 円刻みです6。新しい限月の取引が始まるときは、前の営業日の終値にいちばん近い行使価格を中心に、上下に 2 つずつ、合わせて 5 つの行使価格を設定します。株価が動いたら、その日の終値にいちばん近い行使価格の上下に 2 つ以上ずつ並ぶように、行使価格を足します67。有価証券オプションの主な定めは、次のとおりです8。
| 項目 | 有価証券オプションの定め(2026 年 9 月時点) |
|---|---|
| 対象 | 全国の証券取引所に上場する有価証券のうち、大阪取引所が選ぶ銘柄 |
| 限月 | 直近の 2 限月と、それ以外の 3 月、6 月、9 月、12 月のうち直近の 2 限月 |
| 取引最終日 | 各限月の第 2 金曜日(休業日なら繰り上げ)の前の営業日 |
| 権利行使日 | 取引最終日 |
| 行使価格の刻み | 対象の株価の水準で変わる(通常は、500 円未満の株価なら 25 円、2,000 円以上 5,000 円未満なら 200 円など) |
| 取引単位 | 対象の株式の売買単位の数量 |
| 値幅の制限 | オプションの値段が 1 日に動ける幅は、その日の対象の株式の基準値段の 25% まで |
| 立会 | 日中だけ(夜間立会はない) |
取引が始まったのは 1997 年 7 月 18 日です9。取引しやすくするため、マーケット・メイカーと呼ばれる業者が、特定の銘柄に売りと買いの注文を出し続けています。マーケットメイクの対象の銘柄は、2026 年 8 月に 32 銘柄から 50 銘柄に増えました10。
2026 年 1 月 5 日からは臨時の運用があります。マーケット・メイカー制度で呼値(売りと買いの注文の値段)を示す対象の原資産(銘柄)では、通常の定めより細かい刻みで、多くの行使価格を設定します。たとえば株価が 2,000 円以上 5,000 円未満なら 100 円刻みで、新しく設定するときも足すときも、上下に 10 ずつ並べます11。
株式分割があると行使価格などを調整する
対象の株式の会社が株式分割をすると、大阪取引所は有価証券オプションの行使価格を分割の比率に合わせて下げます。あわせて、建玉(持っているオプションの数量)か、1 単位で受け渡す株数を増やします12。調整しないと、1 株の価値が下がった株式を分割前の行使価格で受け渡すことになります。そうなると、コールの買い手が契約のときに想定しなかった不利益を受けます13。
1 株を 2 株にするような整数倍の分割では、建玉の数量を増やします。行使価格 1,000 円のオプション 1 単位(100 株分)を持つ投資家の権利は、行使価格 500 円のオプション 2 単位に調整されます。分割の前は、行使すると 1,000 円 × 100 株で 10 万円の売買です。分割の後も、500 円 × 200 株で 10 万円の売買になり、オプションの価値は変わりません14。
| 項目 | 分割の前 | 分割の後(1 株を 2 株に) |
|---|---|---|
| 行使価格 | 1,000 円 | 500 円 |
| 持っている建玉 | 1 単位 | 2 単位 |
| 1 単位で受け渡す株数 | 100 株 | 100 株 |
| 行使したときの売買の金額 | 10 万円 | 10 万円 |
比率が整数倍でない分割では、建玉の数量は変えず、1 単位で受け渡す株数を増やします12。たとえば売買単位が 100 株の株式で 1 株を 1.5 株にする分割では、1 単位で受け渡す株数が 100 株から 150 株になります。売買単位に満たない 50 株は株式で受け渡せないため、行使のときは 100 株を受け渡し、残りの 50 株分は権利行使日の対象の株式の終値で評価した額を現金で受け払いします15。一方、普通配当は調整の対象ではありません。公募増資、自己株式の取得、新株予約権の行使なども、原則として調整しません16。
株価指数オプションとの違い
有価証券オプションと株価指数オプションは、どちらも大阪取引所に上場するオプションですが、原資産と決済の方法が違います。日経225オプションは SQ 日(取引最終日の翌営業日)に、行使価格と特別清算数値(SQ 値)の差額を受け払いするのに対し、有価証券オプションは株式そのものを売買します518。主な違いは次のとおりです19。
| 項目 | 有価証券オプション | 日経225オプション |
|---|---|---|
| 原資産 | 個別の株式、ETF、REIT | 日経平均株価 |
| 行使できる日 | 取引最終日 | SQ 日 |
| 行使したときの決済 | 対象の株式を行使価格で売買する | 行使価格と SQ 値の差額を受け払いする |
| 取引単位 | 対象の株式の売買単位の数量 | プレミアム × 1,000 |
| 行使価格の刻み | 株価の水準で変わる | 250 円(満期の近い 3 限月は 125 円刻みも足す) |
米国の Cboe に上場する個別株のオプションは、原則として、満期の日までの営業日ならいつでも行使できるアメリカン・オプションです。行使を通知すると、行使の翌営業日に株式を受け渡します20。
少ない資金で株価の値動きに参加する
コールやプットの買い手が最初に払うのはプレミアムだけなので、株式を買うよりも少ない資金で株価の値動きに参加できます。この性質をレバレッジの効果といいます21。最初の節の例で、W 社の株式 100 株を 2,000 円で買うと 20 万円が要りますが、コール 1 単位なら 1 万円です。満期の株価ごとに、株式を買った場合とコールを買った場合を比べると、次のとおりです。
| 満期の株価(円) | 株式 100 株の損益(万円) | 株式の損益 ÷ 払った 20 万円 | コール 1 単位の損益(万円) | コールの損益 ÷ 払った 1 万円 |
|---|---|---|---|---|
| 2,500 | 5 | 25% | 4 | 400% |
| 1,600 | −4 | −20% | −1 | −100% |
株価が 2,500 円に上がると、株式の利益 5 万円は払った額の 25% ですが、コールの利益 4 万円は払った額の 4 倍です。株価が 1,600 円に下がると、株式の損失は 4 万円で払った額の 20% にとどまるのに対し、コールは払った 1 万円の全額を失います。損失の額はコールのほうが小さくても、払ったお金に対する割合では、コールの損益のほうが上下に大きく振れます。
リスク
買い手の損失は払ったプレミアムまでで、最初の節の例では 1 万円です。売り手は、プレミアムを受け取る代わりに、行使を割り当てられると株式を行使価格で受け渡す義務を負います。コールの売り手の損失は、株価が上がるほど大きくなります。そのため売り手は証拠金を差し入れ、買い手は証拠金なしでプレミアムだけで取引します21。取引所の証拠金の仕組みは先物の証拠金と値洗いで扱います。
満期を待たずに取引をやめたいときは、買い手は転売、売り手は買い戻しの反対売買で終えることができます5。
注
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大阪取引所「有価証券オプション 商品概要」(2025 年 10 月 10 日更新)の「商品概要」。資料は「「株券オプション」や「個別株オプション」とも呼ばれる」と書いています。 ↩
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大阪取引所「有価証券オプション 制度概要」(2026 年 1 月 5 日更新)の「原資産」の行。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプション 銘柄」(2026 年 9 月 25 日更新)の「銘柄の設定例」。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプション 制度概要」の「取引単位」の行。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプション 制度概要」の「権利行使価格」の行の「新規設定」「追加設定」と刻みの幅の表。制度概要は、一部の有価証券オプションについては表と異なる方法で設定すると書いています。 ↩ ↩2
-
大阪取引所「有価証券オプション 銘柄」の「権利行使価格」の「新たに権利行使価格を設定する場合」と「現物の価格が変動し、既存の権利行使価格と乖離した場合」。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプション 制度概要」の「原資産」「限月取引」「取引最終日」「権利行使日」「権利行使価格」「取引単位」「値幅制限」「立会時間」の行。2026 年 9 月 25 日に確認しました。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプション 制度概要」の「取引開始日」の行。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプション 銘柄」の「マーケットメイク対象銘柄」。 ↩
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大阪取引所「有価証券オプションの権利行使価格の設定方法に係る臨時運用について」(2026 年 1 月 5 日適用)の「権利行使価格の刻み幅及び本数」の表。対象は「マーケットメイカー制度における呼値提示の対象となる原資産」を対象とする有価証券オプションです。 ↩
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大阪取引所「有価証券オプション取引 コーポレートアクション発生時の対応について」の「2.1 調整対象となるコーポレートアクションとその調整方法」の表(資料の 3 ページ)。 ↩ ↩2
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大阪取引所「有価証券オプション取引 コーポレートアクション発生時の対応について」の「1 コーポレートアクション時のオプション調整」(資料の 2 ページ)。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプション取引 コーポレートアクション発生時の対応について」の「3.1 株式分割、無償割当」(資料の 6〜8 ページ)。 ↩
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大阪取引所「有価証券オプション取引 コーポレートアクション発生時の対応について」の「3.1 株式分割、無償割当」の「株式分割が小数倍となるケース」(資料の 9〜12 ページ)。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプション取引 コーポレートアクション発生時の対応について」の「2.3 調整対象とならないコーポレートアクション」(資料の 4 ページ)。 ↩
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大阪取引所「有価証券オプション取引 コーポレートアクション発生時の対応について」の「2.2 銘柄調整に係る留意事項」(資料の 4 ページ)。 ↩
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日本証券クリアリング機構「指数オプション取引の決済方法」。 ↩
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日本取引所グループ「日経225オプション 制度概要」の「SQ日」「権利行使日」「取引単位」「権利行使価格」の行。 ↩
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Cboe "Equity Options Specifications" の "Exercise Style" と "Settlement of Option Exercise"。資料は、個別株のオプションは一般に満期の日までの営業日に行使できるとしています。 ↩
-
大阪取引所「有価証券オプション 商品概要」の「かぶオプの3つの魅力」(レバレッジ機能、リスク限定機能、ヘッジ機能)。 ↩ ↩2