配当スワップと配当先物は、配当の変動を管理するときに出てきます。銀行は仕組商品で抱える配当のリスクの管理に、株式ポートフォリオを持つ側は配当のヘッジに、ヘッジファンドは配当を引き受ける取引に使います12。
実現した配当と固定の配当レートの交換
配当スワップは、株式や株価指数の配当を取引の対象にする店頭デリバティブです。買い手は、決めた期間に実際に支払われた配当を満期に受け取り、その代わりに固定の配当レートを払います。固定の配当レートは、契約を結ぶ時点で、買い手にとっての価値がゼロになる水準に決めます3。
店頭では 2001 年から、変動の側が実現した配当を払う形の配当スワップが取引されてきました。ノックアウト付きの配当スワップ、配当利回りスワップ、配当スワップのオプションのような変形もあります4。
配当を含む株式のリターン全体を、金利と交換する取引はエクイティ・スワップとトータル・リターン・スワップです。配当スワップは配当だけを切り出す点で違います。
架空の例で見る受け払いと配当のヘッジ
N 社が 5 億円の株式ポートフォリオを持ち、次の 1 年の配当を配当スワップでヘッジする架空の例で考えます。参照する株価指数(N 指数)は N 社とは関係がなく、1,000 ポイントです。次の 1 年の配当を指数の水準に直した N 配当指数の市場の予想は 20 ポイント(指数の 2%)とします。ポートフォリオの配当は、指数と同じ比率で動くと仮定します。そうすると、配当利回りが 2% なら配当は 1,000 万円で、N 配当指数の 1 ポイントは 50 万円に当たります。
N 社は、固定の配当レート 20 ポイントを受け取り、実現した配当を払う売り手になります。相手はディーラーで、買い手です。満期に、実現した配当がたとえば 24 ポイントなら、N 社は 24 ポイント分の 1,200 万円を払い、20 ポイント分の 1,000 万円を受け取ります。
実現した配当は、N 配当指数のポイントに 1 ポイント 50 万円を掛けた額で払います。差額だけを受け渡す決済でも、損益は同じです。
| 場合 | 実現した配当(ポイント) | スワップの損益(万円) | ポートフォリオの配当(万円) | 受け取りの合計(万円) |
|---|---|---|---|---|
| 配当が増える | 24 | −200 | 1,200 | 1,000 |
| 予想どおり | 20 | 0 | 1,000 | 1,000 |
| 配当が減る | 14 | 300 | 700 | 1,000 |
| 配当が半減する | 10 | 500 | 500 | 1,000 |
スワップの損益は、(固定の配当レート 20 − 実現した配当)× 50 万円です。
図の説明
固定の配当レートを受け取る売り手の N 社の損益を、N 配当指数のポイントで表した図です。損益は、配当が増えるほど同じ幅で減る右下がりの直線で、固定の配当レートと同じ配当のところで 0 になり、それより低いと利益、高いと損失です。配当は 0 を下回らないため、利益には上限があり、損失には上限がありません。
N 社の受け取りは、配当がどうなっても 1,000 万円になります。配当が減ったときの損は小さくなりますが、配当が増えたときの上振れも手に入りません。例のポートフォリオの配当が指数と同じ比率で動く保証はなく、実際の取引では、ずれた分が N 社に残ります。
反対側のディーラーや投資家は、配当が予想を上回ると利益、下回ると損失になります。この例の買い手は、配当が 24 ポイントなら 200 万円の利益、10 ポイントなら 500 万円の損失です。配当は 0 を下回らないため、買い手の損失は配当が 0 のときの 1,000 万円までです。
取引所で売買する配当の指数
配当先物は、配当を指数にした値を原資産にし、取引所で売買する先物取引です。日経平均・配当指数は、日経平均株価の構成銘柄を毎年 1 月から 12 月まで持った場合に受け取れる配当を、日経平均の水準に直して積み上げた指数です。配当先物を買えば、株価の損益を気にせずに配当の部分だけに投資できます2。
欧州では、Eurex が 2008 年に初めて配当先物を上場し、EURO STOXX 50 の配当先物が市場の指標になりました1。FTSE 100 や日経平均の配当先物が続きました4。大阪取引所の日経平均・配当指数先物は、2010 年 7 月 26 日に取引を始め5、2026 年 10 月 4 日時点で上場しています6。
| 項目 | 配当スワップ | EURO STOXX 50 配当先物(Eurex) | 日経平均・配当指数先物(大阪取引所) |
|---|---|---|---|
| 取引の場 | 店頭 | 取引所 | 取引所 |
| 受け取りの決まり方 | 実現した配当と固定の配当レートの差 | 配当指数のポイント。1 ポイントは 100 ユーロ | 日経平均・配当指数×1,000 円 |
| 期間 | 当事者が決める | 最大 10 年。半年ごとの限月 4 つと、その後の 12 月限 8 つ | 12 月限だけの 8 限月(1〜3 月は 9 限月) |
| 最終取引日 | なし(取引所で売買しない) | 限月の第 3 金曜日 | 限月の翌年の 3 月末日 |
| 決済 | 満期に交換する | 現金決済 | 転売か買い戻し、または最終清算数値(SQ 値)による決済 |
| 日々の値洗い | モデル上は置かない | あり | あり |
Eurex の項目は 2024 年 2 月版の資料7、大阪取引所の項目は 2024 年 11 月に更新された制度概要5、配当スワップの日々の値洗いは、Filipović と Willems のモデル上の説明にもとづきます3。
取引所の商品には、規格の標準化、清算機関を通した取引相手のリスクの回避、ほかの株式や指数のデリバティブとの証拠金の相殺という利点があります8。Eurex には、配当指数先物を対象にするオプションもあります7。
深掘り配当スワップと配当先物の価格の差
配当先物は、毎日値洗いする先物で、価格は実現した配当のリスク中立の期待値になります。配当スワップは、モデル上は値洗いを置かず、満期にまとめて受け払いします。そのため、2 つの価格は同じとは限りません。Filipović と Willems は、期間 の配当スワップの固定の配当レート を、次のように先物の価格 との差で示しています3。
は時点 のリスク中立の割引係数、 は時点 までに累積した配当、 は満期 の割引債の価格、 は時点 の情報で見た共分散です。金利と配当が独立なら共分散は 0 で、2 つの価格は等しくなります。金利と配当の間に正の依存があるとスワップの価格は先物より小さく、負の依存があると大きくなります。
価格から見える市場の配当の予想
配当先物の価格は、市場が予想する配当を映します。配当先物の価格を株価指数と比べると、予想する配当利回りの目安になります2。N 指数が 1,000 ポイントの架空の例で考えます。N 配当指数先物の価格が 20 ポイントなら、市場が予想する配当利回りは 2%(= 20 ÷ 1,000)です。
株価指数先物の価格からも、予想の配当が読み取れます。大阪取引所は、日経225先物の理論価格を次の式で示しています9。 は理論価格、 は株価指数、 は金利、 は予想配当利回り、 は満期までの日数を 365 で割った年数です。
この式を について解くと、次の式になります。
この式は、金利と予想配当利回り を期間中一定とした単純な形です。
N 指数が 1,000 ポイント、金利が 1%、満期が 1 年後の指数先物の価格が 990 ポイントなら、 で、予想配当利回りは約 2% です。株価指数先物の理論価格は、金利の分だけ高く、配当の分だけ低くなります。
オプションの価格からは、プット・コール・パリティで配当の現在価値が読み取れます。満期までに配当を払う原資産では、同じ行使価格と満期のヨーロピアン・オプションのコールの価格 とプットの価格 の差は、次の式になります10。 は行使価格、 は満期までの割引係数です。
N 指数が 1,000 ポイント、行使価格が 1,000 ポイント、満期が 1 年後で割引係数が 0.99、コールが 40 ポイント、プットが 50 ポイントの場合を考えます。配当の現在価値は 1,000 − 990 − (40 − 50) = 20 ポイントで、指数の 2% です。
配当先物は期待する配当を直接示しますが、先物とオプションからは、金利の仮定を置いて配当を逆算します。式のとおり、仮定する金利を変えると、読み取る配当も変わります。金利や配当利回りが一定でない場面では、逆算した配当が実際の予想からずれることがあります。
配当の減額や中止のリスク
配当は会社が決めるため、1 年間に受け取る配当は、会社が額を確定するまで変わる可能性があります2。減額や中止は、配当先物の価格を動かします。
2020 年には、新型コロナウイルスの流行で、多くの会社が発表済みの配当を取り消しました。欧州中央銀行(ECB)が欧州の銀行に課した制限で、銀行の配当の支払いも 2021 年の途中まで止まりました。このとき、手前の期間の EURO STOXX 50 配当先物は、ふだんの約 120 から最低の 50 まで下がりました11。
Eurex は、この経験を受けて、指数では半年ごと、個別銘柄では四半期ごとの限月を加えました。手前の期間の配当を、より細かくヘッジするためです11。
価格が下がった局面で買った側が、利益を得ることもあります。Eurex が挙げる 2009 年の例では、2009 年 3 月に 2010 年限の EURO STOXX 50 配当先物を 50 ポイントで買い、約 1 年後に 115 ポイントで決済される機会がありました12。この機会で買った側は 65 ポイントの利益、売った側は 65 ポイントの損失です。
反対に、買ったあとに会社が配当を減らし、買った価格より実現した配当が小さくなれば、買い手は損失になることがあります。120 ポイントで買い、実現した配当が 50 ポイントの架空の例で考えます。買い手は 70 ポイントの損失です(資料の 2009 年の買い手の例とは別の数値です)。
配当を受け取る側にとっては、配当の減額は受け取りの減少です。N 社の例のように配当スワップの売り手にもなっていれば、スワップの利益が配当の減少を埋めます。
仕組商品のヘッジの売りと配当先物の価格
配当スワップの市場は、当初、銀行が仕組商品で抱える配当を管理する必要から育ちました1。配当先物の市場では、仕組商品の部門が供給の中心です13。仕組商品の発行体は、市場が下がる局面で配当のリスクをヘッジするために配当先物を売り、値下がりを強めてきました14。
この売りのため、配当先物の価格は、会社の配当の見通しだけでは決まりません。Eurex の資料で、Eurex の担当者は、多くの会社は安定した配当を好み、悪い年でも減配をためらうが、それが配当先物の価格に表れるとは限らない、と述べています。それは、前の段落の売りがあるためです15。また、Citi の担当者は、配当の予想は、会社の収益とキャッシュフローの分析、会社との対話から作れるとしています16。
2020 年の混乱のあと、欧州では、配当を決まった額だけ差し引いて計算するディクリメント指数が仕組商品の参照に広がり、発行体が配当先物を売る必要が減りました13。仕組商品の仕組みはエクイティ・エキゾチックの全体像で扱います。
注
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Eurex「Dividend derivatives look to the future」(2022 年)の 2 ページ。配当スワップの市場が育った事情と、2008 年の Eurex の配当先物の上場が書かれています。 ↩ ↩2 ↩3
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大阪取引所「日経平均・配当指数先物 商品概要」。配当指数の定義、配当のヘッジ、配当だけへの投資、予想配当利回りの目安(日経平均株価 10,000 円と配当指数先物 200 円で 2%)が書かれています。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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Damir Filipović、Sander Willems「A Term Structure Model for Dividends and Interest Rates」(arXiv:1803.02249 v3)の 6.2 節 "Dividend forwards"(20 ページ)。固定の支払いの決まり方、値洗いがないこと、先物との価格差の式です。 ↩ ↩2 ↩3
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Filipović、Willems の同論文の 1 章(1〜2 ページ)。2001 年からの店頭取引、変形の種類、2008 年後半の Eurex の上場と FTSE 100、日経平均の先物が書かれています。 ↩ ↩2
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大阪取引所「日経平均・配当指数先物 制度概要」(2024 年 11 月 4 日更新)。取引単位、限月(8 年 3 か月。1 月から 3 月までの間は 9 限月)、取引最終日、決済方法、最終清算数値が書かれています。 ↩ ↩2
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日本取引所グループ「商品一覧(先物・オプション)」の「配当指数」の「日経平均・配当指数先物」(2026 年 10 月 4 日に確認)。 ↩
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Eurex「Dividend Derivatives(Factsheet)」(2024 年 2 月)の 2 ページ「Contract specifications 1」。契約価値、限月、決済、最終取引日と、同じ表の Mid-Curve Options です。 ↩ ↩2
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Eurex「Dividend Derivatives(Factsheet)」の 1 ページ "Hedge dividend risk" と "What are the key benefits?"。取引所の商品の利点が挙げられています。 ↩
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大阪取引所「先物取引のすべて」の 42 ページ(PDF の 45 ページ目)、「裁定取引の具体例」の「①日経225先物の理論価格」。式の記号は資料と同じで、t は本文では T です。 ↩
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The Ohio State University「Derivatives and Their Portfolios, Put-Call Parity」の "Put-call Parity" と "Versions of Put-Call"(1〜2 ページ)。配当が離散的なときの式です。 ↩
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Eurex「Dividend derivatives look to the future」の 2 ページ。配当の取り消しと ECB の制限、同社の担当者の説明による手前の期間の先物の下落(約 120 から 50)、限月の追加が書かれています。 ↩ ↩2
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Eurex「Dividend derivatives look to the future」の 4 ページ。2010 年限の配当先物を 50 ポイントで買い、1 年後に 115 ポイントで決済できた機会が書かれています。 ↩
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Eurex「Dividend derivatives look to the future」の 5〜6 ページ。仕組商品が供給の中心(central supply source)であること、ディクリメント指数の計算と、配当先物を売る必要が減ったことが書かれています。 ↩ ↩2
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Eurex「Dividend derivatives look to the future」の 3 ページと 8 ページ。仕組商品の発行体が市場の下落局面でヘッジのために配当先物を売り、値下がりを強めてきたことが書かれています。 ↩
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Eurex「Dividend derivatives look to the future」の 9 ページ。Eurex の Paul Beck の発言として、安定した配当を好む会社の方針が配当先物の価格に表れるとは限らない理由が書かれています。 ↩
-
Eurex「Dividend derivatives look to the future」の 9 ページ。Citi の Antoine Porcheret の発言の紹介として、配当の予想の作り方が書かれています。 ↩