オプションの取引では、同じ行使価格のコールとプットの価格が互いに割高か割安かを見比べる場面や、コールとプットで先物と同じ持ち高を組む場面で、プット・コール・パリティを基準にします。

先渡取引と同じ損益の作り方

原資産、行使価格、満期が同じコール・オプション(コール)の買いとプット・オプション(プット)の売りを組み合わせると、満期の損益は、行使価格で原資産を買う先渡取引と同じになります1。プット・コール・パリティは、この一致から導かれる、コールとプットと原資産の価格の関係です。コールとプットの仕組みや、イン・ザ・マネーとアウト・オブ・ザ・マネーの意味はオプションの基本(コールとプット)で扱います。

行使価格 100 の例で、プレミアムを除いた満期の受け払いを確かめます。満期の原資産の価格が 120 なら、コールの買い手は行使して 20 を得て、プットの買い手は行使しません。価格が 80 なら、コールの買い手は行使せず、プットの買い手が行使するため、プットを売った側が 20 を払います。どちらの場合も受け払いは「満期の価格 − 100」で、100 で原資産を買う先渡取引の買い手と同じです。プットの売りは価格が下がる側の損失を、コールの買いは価格が上がる側の利益を受け持ちます1。

−60−40−200+20+40+60100損益満期の原資産の価格利益損失損益分岐点 100
図 1行使価格 100 のコールの買いとプットの売りを合わせた満期のペイオフ
図の説明

行使価格 100 のコールを 1 単位買い、同じ行使価格と満期のプットを 1 単位売ったときの、満期のペイオフです。プレミアムの受け払いは含めていません。横軸は満期の原資産の価格、縦軸は 1 単位あたりの損益です。損益は価格とともに同じ幅で増える 1 本の直線で、価格が 100 のときに 0 になり、100 より高いと利益、低いと損失になります。プットの売りを含むため、ペイオフは原資産の価格が行使価格を下回ると負になります。価格が 60 なら 40 の損失、140 なら 40 の利益です。この直線は、100 で原資産を買う先渡取引の買い手の損益と同じ形です。

この組み合わせを合成先渡し(synthetic forward)といいます2。コールとプットを組み合わせて先物の売買と同じ持ち高を作るときは、合成先物と呼びます3。逆に、コールの売りとプットの買いを組み合わせると、先渡取引の売りと同じ損益になります。

この関係は、組み合わせを並べ替えても使えます。たとえば国債先物の買いとコールの売りを同時にすると、プットの売りと同じ形の損益になります4。

受け払いが同じなら今の価値も同じ

満期にどの価格になっても受け払いが同じになる 2 つの組み合わせは、今の価値も同じでなければなりません5。これを使って、コールとプットの価格の関係を導きます。ここでは、満期までに配当などの収入がない原資産を考えます。1 つ目の組み合わせは、行使価格 KK のコールの買いとプットの売りです。2 つ目は、原資産を今の価格 SS で買い、満期に KK を返す約束で資金を借りる組み合わせです。今借りられる金額は、KK の現在価値です。満期の原資産の価格を STS_T とすると、満期の受け払いは次のとおりです。

組み合わせと取引 STS_T が KK 以下のとき STS_T が KK より高いとき
1 つ目: コールの買い 0 ST−KS_T - K
1 つ目: プットの売り ST−KS_T - K 0
1 つ目の合計 ST−KS_T - K ST−KS_T - K
2 つ目: 原資産 STS_T STS_T
2 つ目: 借入の返済 −K-K −K-K
2 つ目の合計 ST−KS_T - K ST−KS_T - K

1 つ目(コールの買いとプットの売り)も 2 つ目(原資産と借入の返済)も、満期の受け払いの合計は ST−KS_T - K です。1 つ目を今作るのに要るお金はコールの価格 CC からプットの価格 PP を引いた額で、2 つ目は原資産の代金から借りた額を引いた額です。この 2 つが等しいとおくと、次の式になります5。

C−P=S−K×DFC - P = S - K \times DF

CC と PP は、原資産、行使価格 KK、満期が同じコールとプットの価格で1、どちらもヨーロピアン・オプションです5。SS は原資産の今の価格、DFDF は今から満期までの割引係数で、K×DFK \times DF が行使価格の現在価値です。配当のある原資産での式は、後の節で示します。

深掘り連続複利の金利と配当利回りで書いた式

金利を連続複利の年率 rr、原資産の配当利回りを連続の年率 qq、満期までの年数を TT とすると、割引係数は e−rTe^{-rT} になります。満期に原資産を受け取る権利を今買うときの価値は、途中の配当を受け取らないため Se−qTS e^{-qT} になります。このときの関係は次の式です5。

C−P=Se−qT−Ke−rTC - P = S e^{-qT} - K e^{-rT}

q=0q = 0 なら本文の式と同じです。

計算例:割引係数 0.98 の場合

原資産の今の価格が 100、満期が 1 年後、1 年の割引係数が 0.98 の架空の例で考えます。行使価格 100 のコールとプットでは、行使価格の現在価値は 100 × 0.98 = 98 です。そのため、コールの価格はプットの価格より 100 − 98 = 2 高くなります。プットの価格が 6 なら、コールの価格は 8 です。

行使価格を変えると、差は次のように変わります。

行使価格 行使価格 × 割引係数 0.98 コールの価格 − プットの価格
96 94.08 5.92
100 98.00 2.00
104 101.92 −1.92

行使価格が低いほどコールが割高になり、行使価格が 100 ÷ 0.98 ≈ 102.04 のときに差は 0 になります。この 102.04 は、原資産を満期に受け渡す先渡取引の価格(利子などの収入がない原資産)と同じです5。行使価格 100 の合成先渡しでは、今 2 を払い、満期に 100 で原資産を買います。今の 2 は満期の時点では 2 ÷ 0.98 ≈ 2.04 にあたるので、満期の価格に直した買値は 102.04 になり、先渡取引で買うのと同じです。

金利が 0 で割引係数が 1 なら、コールの価格 − プットの価格は 100 − 行使価格になり、行使価格 100 では 0、90 では 10 です。

下のシミュレーターはこの金利 0 の条件で計算するため、表示される値は上の計算例(割引係数 0.98)と違います。ボラティリティ 20% の初期値の行使価格 100 では、コールとプットのプレミアムがどちらも 7.97 で、差し引きは 0.00 です。行使価格を 90 にすると、コールが 13.59、プットが 3.59 で、差し引き 10.00 を払います。どの行使価格でも、プレミアムを含めた満期の損益は「満期の価格 − 100」の直線になり、損益分岐点は 100 です。

シミュレーター合成先渡しの行使価格とプレミアム
入力
%
−30−20−100102030708090100110120130損益(1 単位あたり)満期の原資産の価格100.00
  • 満期の損益(プレミアムを含む)
  • プレミアムを含めない損益
コールの買い(行使価格 100)
プレミアム 7.97 を払う
プットの売り(行使価格 100)
プレミアム 7.97 を受け取る
差し引きのプレミアム(1 単位あたり)
0.00
損益分岐点
100.00
最大の利益
上限なし
最大の損失
100.00

単純化している点

  • プレミアムは、原資産の現在の価格 100、残存期間 1 年、金利 0%、配当なしとして、ブラック・ショールズの式で計算しています。
  • 金利を 0 としているため、プレミアムを払う時点と満期の時点の違い(金利)は考えません。
  • 満期にだけ行使できるオプション(ヨーロピアン)として、満期の損益だけを示します。満期より前の時価の動きは示しません。
  • 損益は 1 単位あたりで、取引の手数料、税金、証拠金は考えません。

このシミュレーターは学習のために単純化した計算で、実際の取引の評価やリスク管理には使えません。(免責事項)

シミュレーターの説明

行使価格を動かして、コールとプットのプレミアムと差し引きのプレミアムの変わり方を見てください。損益分岐点は動きません。

関係が崩れたときの裁定取引

コールとプットの価格の差が式から外れると、割高な側を売って割安な側を買う裁定取引で、満期の価格によらず利益を確定できます。そのような取引ができれば市場の参加者がすぐに使うため、価格の関係は元に戻ります6。

前の節の条件(原資産 100、行使価格 100、割引係数 0.98)で、コールが 8、プットが 5 で取引されているとします。差は 3 で、式の 2 より 1 大きいので、コールがプットに比べて割高です。このとき、次の 4 つの取引を同時にします。

取引 今の受け払い 満期の価格が 80 のとき 満期の価格が 120 のとき
コールを売る 8 0 −20
プットを買う −5 20 0
原資産を買う −100 80 120
98 を借りる(満期に 100 を返す) 98 −100 −100
合計 1 0 0

今 1 を受け取り、満期の受け払いは価格が 80 でも 120 でも 0 です。コールの売り、プットの買い、原資産の買いを合わせると、満期にはどの価格でも 100 を受け取る形になり、それで借入の 100 を返せるためです。差が式より小さいとき(プットが割高なとき)は、逆の取引をします。コールを買い、プットを売り、原資産を借りて売り、その代金のうち 98 を満期まで貸し付けると、同じように差額を確定できます。この計算は、売買の手数料、売り値と買い値の差、原資産を借りて売るときの費用を含めていません。

値の付いていないオプションの価格の推定

プット・コール・パリティは、ある行使価格のコールとプットのどちらかの価格が分かれば、もう一方の価格を求められる関係として使います。たとえば、流動性の低いイン・ザ・マネーのプットの価格が板で見られないときは、同じ行使価格のアウト・オブ・ザ・マネーのコールの価格から推定できます7。

先物を原資産とするオプションでは、関係を簡単に、コールの価格 − プットの価格 = 先物価格 − 行使価格 と書けます。正確には、行使価格を現在価値にするなどの金利の調整が要ります7。先物価格が 100、行使価格 102 のコールが 0.5 の架空の例で考えます。金利を考えないと、プットの価格は 0.5 − 100 + 102 = 2.5 と推定できます。

配当とアメリカン・オプションでの形

満期までに配当が出る原資産では、式の原資産の価格の代わりに、原資産の価格から満期までの配当の現在価値を引いた額を使います10。

C−P=S−配当の現在価値−K×DFC - P = S - \text{配当の現在価値} - K \times DF

計算例の条件で、満期までの配当の現在価値が 1 なら、行使価格 100 のコールとプットの価格の差は 100 − 1 − 98 = 1 になり、配当がないときより 1 小さくなります。通貨のオプションでは、外国通貨の金利が配当と同じ役割をし、為替の今の価格を外国通貨の金利で満期までの期間の分だけ割り引いた額を使います10。

満期の前にも行使できるアメリカン・オプションでは、関係は等式ではなく不等式になります。配当のない原資産では、アメリカン・オプションのコールの価格 CAC_A とプットの価格 PAP_A の差は次の範囲に入ります11。

S−K≤CA−PA≤S−K×DFS - K \le C_A - P_A \le S - K \times DF

計算例の条件なら、差は 0 以上 2 以下です。配当がなく金利がプラスのときは、アメリカン・オプションのコールを満期の前に行使すると得にならないため、コールの価格はヨーロピアン・オプションと同じです。一方で、アメリカン・オプションのプットは、満期の前に行使したほうが買い手に得になる場合があるため、等式が崩れます12。配当があるときは、下限の SS を SS から配当の現在価値を引いた額に替え、上限はそのまま使います13。行使のスタイルの違いは行使のスタイル(ヨーロピアン、アメリカン、バミューダン)で扱います。

注

  1. 日本取引所グループ(服部孝洋)「国債先物オプション入門」の「4.1 先物の損益をプットとコールに分解」(16〜17 ページ。PDF の 17〜18 ページ目)。資料はオプション料(プレミアム)を除いた図で説明しています。 ↩ ↩2 ↩3

  2. The University of Texas at Austin「9. Parity and Other Option Relationships」の "“Synthetic” Forwards"(5 ページ)。 ↩

  3. 日本取引所グループ「合成先物(用語集)」。 ↩

  4. 日本取引所グループ(服部孝洋)「国債先物オプション入門」の「バイライト(国債先物買い+コール売り)」(33 ページ。PDF の 34 ページ目)。 ↩

  5. The Ohio State University「Derivatives and Their Portfolios, Put-Call Parity」の "one price principle"、"Put-call Parity"、"Versions of Put-Call"、"Review"(1 ページ)。資料の F0,TP(S)F^P_{0,T}(S) が配当のない原資産では本文の SS、PV0,T(K)PV_{0,T}(K) が K×DFK \times DF にあたります。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  6. The Wharton School「Handout 19: Numerical Examples of Put-Call Parity and Minimum Value」(2 ページ)。 ↩

  7. 日本取引所グループ(服部孝洋)「国債先物オプション入門」の「4.2 プット・コール・パリティの使用例」と注 19(17〜18 ページ。PDF の 18〜19 ページ目)。 ↩ ↩2

  8. Martin Haugh「A Brief Review of Derivatives Pricing & Hedging」(Columbia University)の注 11(10 ページ)。 ↩

  9. Martin Haugh「A Brief Review of Derivatives Pricing & Hedging」(Columbia University)の 11 ページ。 ↩

  10. The Ohio State University「Derivatives and Their Portfolios, Put-Call Parity」の "Versions of Put-Call"(1〜2 ページ)。通貨のオプションは同じ節の "If S is a foreign currency" の式です。 ↩ ↩2

  11. David Cai「American Options」(New York University, lecture 8)の "Put-call parity for American options"(4〜5 ページ)。資料の B(0,T)B(0,T) が本文の DFDF にあたります。 ↩

  12. David Cai「American Options」(New York University, lecture 8)の 1.1 の 4(2 ページ)、"Put-call parity for American options" の証明(4〜5 ページ)と、1.3 "American Puts" の "Results" の 1(10 ページ)。 ↩

  13. David Cai「American Options」(New York University, lecture 8)の 5〜6 ページ。資料は下限を P.V.[S(T)]−KP.V.[S(T)] - K、配当が 1 回のときの P.V.[S(T)]P.V.[S(T)] を S(0)−D(t1)B(0,t1)S(0) - D(t_1)B(0,t_1) と書いています。 ↩