エキゾチック・オプションの評価とヘッジの一般論を前提に、クオント特有の為替と相関の扱いが加わります。
受け取りを固定の為替レートで円に換える
クオント・オプションは、外国の通貨で値が付く原資産の価格を、取引の初めに決めた為替レート(以下、固定レート)で自国の通貨に換えて、受け取りを決めるオプションです1。受け取りの通貨は自国の通貨で、満期の為替レートは受け取りに入りません。為替レートそのものの変動リスクはありません2。為替レートを原資産とする通貨オプションとは、別の商品です。
ドル建て株式を原資産とするクオント・コールの架空の例で考えます。日本の D 社が、金融機関から、そのクオント・コールを買います。株価は 100 ドル、行使価格は 100 ドル、100 株分、満期は 1 年後、固定レートは 1 ドル = 150 円とします。コールの受け取りは、満期の株価と行使価格の差(マイナスなら 0)に、株数と固定レートを掛けた額です。満期の株価が 120 ドルなら、20 ドル × 100 株 × 150 円 = 300,000 円を受け取ります。
は固定レート(円 / ドル)、 は満期の株価(ドル)、 は行使価格(ドル)です。円で表した行使価格 を使えば、受け取りは とも書け、 の関係にあります3。
図の説明
行使価格 100 ドルのコールの、満期の受け取りです。縦軸は 1 株あたりのドル建ての差額で、受け取る円の額は、これに固定レート 150 円と株数 100 を掛けて求めます。株価が行使価格以下なら受け取りは 0 で、上回ると上回った幅だけ増えます。満期の為替レートは、この掛け算に入りません。
満期の為替レートで換える場合との比較
同じ原資産と行使価格で、差額をドルで受け取って満期の為替レートで円に換えるオプションを、比較用に「通常の外貨建てオプション」と呼びます。両者は為替レートの使い方が違います。外貨建ての資産の価値を自国の通貨に換える方法には、そのときの為替レートを使う方法と、あらかじめ決めた固定の為替レートを使う方法があり、後者がクオントです4。
上の例(行使価格 100 ドル、100 株分、固定レート 1 ドル = 150 円)で、満期の直物相場ごとの受け取りを比べます。プレミアムは含めません。
| 満期の株価 | 満期の直物相場 | クオントの受け取り | 満期の直物相場で換える場合の受け取り |
|---|---|---|---|
| 120 ドル | 1 ドル = 140 円 | 300,000 円 | 280,000 円 |
| 120 ドル | 1 ドル = 150 円 | 300,000 円 | 300,000 円 |
| 120 ドル | 1 ドル = 160 円 | 300,000 円 | 320,000 円 |
| 90 ドル | 1 ドル = 150 円 | 0 円 | 0 円 |
株価が 120 ドルで円高・ドル安の 140 円なら、クオントのほうが 20,000 円多く受け取れます。ドル高の 160 円なら、通常のオプションのほうが 20,000 円多くなります。株価が行使価格を上回るとき、クオントでは、満期にドル高(円に換えた額が増える向き)になった分が受け取りに入らず、ドル安になった分も入りません。株価が行使価格以下なら、どちらも受け取りは 0 円で、D 社はプレミアムだけを失います。
相関がプレミアムに入る仕組み
クオント・オプションのプレミアムは、原資産の価格と為替レートの相関で変わります5。ブラック・ショールズ・モデルの枠組みでは、次のとおりに書けます。クオント・コールの価格は、固定レート に、行使価格 のコールをブラック・ショールズ・モデルで評価した価格を掛けたものです。このときの配当利回りには、実際の配当利回り に代えて、次の を使います5。
は自国の、 は外国の無リスクの金利、 は原資産の価格のボラティリティ、 は為替レートのボラティリティ、 は原資産の価格と為替レートの変化の相関係数です。為替レートは、外国通貨 1 単位が自国通貨でいくらかを表す値(円 / ドル)で、 もこの表し方に対する相関です6。逆の表し方(ドル / 円)にすると、 の符号が逆になります。
相関の影響は、先渡し価格に現れます。固定レートで換えて満期に受け取る原資産の先渡し価格は、次の式です7。
が 100 ドル、 が 0、 が年 3%、 が 20%、 が 10%、 が 1 年の架空の例で考えます。 ごとに先渡し価格を固定レートで割った値(ドルで表した先渡し価格)を比べます。調整項は相関 × 為替のボラティリティ × 原資産のボラティリティ、式の指数は から調整項を引いた値です。
| 相関係数 | 調整項 | 式の指数 | ドルで表した先渡し価格 |
|---|---|---|---|
| −0.5 | −1% | 4% | 104.08 ドル |
| 0 | 0% | 3% | 103.05 ドル |
| 0.5 | 1% | 2% | 102.02 ドル |
相関が 0 のときに比べると、相関が正なら先渡し価格は低くなり、クオント・コールは安く、クオント・プットは高くなります。相関が負なら逆です。相関が正のときは、原資産の価格が上がる局面でドル高になりやすく、通常のオプションなら円での受け取りが増える場面で、クオントは固定レートのため増えません。調整項の符号は、この違いに対応します8。
この式はブラック・ショールズ・モデルの前提(ボラティリティと相関が一定)で成り立ちます。相関が動く場合は、次の節のリスクになります。実務での使われ方は資料によって違います。2013 年の講義資料は、クオントのようなエキゾチックな商品を、ふつうこの枠組みでは評価しないとしています9。2003 年の日本銀行金融研究所の論文は、相関デリバティブ(クオントを含む)の価格にこの枠組みを使う方法が実務で多用されているとしています10。どのモデルを使うかで評価額が変わる点は、エキゾチック・オプションの全体像の評価の節と同じです。
売り手のヘッジと残るリスク
売り手の金融機関は、クオント・オプションのヘッジで、為替レートの変動によるリスクを抑える必要があります。固定レートで換えて受け取る原資産の価値 (自国通貨で表す)は、ブラック・ショールズの枠組みでは 3 つの持ち高で作れます。 相当の外貨建て原資産の購入、同額の外貨の借入、同額の自国通貨での運用です。最初の 2 つで為替の持ち高が打ち消し合い、為替の影響を受けない受け取りを再現します11。
オプションは、この を原資産とみなして、通常のブラック・ショールズ・モデルのデルタの分だけ持ちます12。 は原資産の価格とともに動くため、持つ量と借りる額は時間とともに組み直します。
ヘッジを組んでも、次のリスクが残ります。
- 相関のリスク。複数の原資産を持つ商品には、原資産の価格どうしの相関が動くことによる損益があり、これを相関変動リスクと呼びます。単一の原資産の商品にはないリスクです13。クオント・オプションのプレミアムでは、相関は上の調整項に入ります。
- 相関のリスクを市場で消しにくいこと。相関デリバティブは流動性が低く、同じ原資産の商品を市場で見つけにくい場合があります。そのため、リスクを持ったまま、似た原資産の相関デリバティブを組み合わせて全体の大きさを抑える方法が取られます14。
- 為替の大きな動き。クオントは、市場の売り手が動的にヘッジするものが多く、通貨の動きが極端なときには通貨のリスクが大きくなりえます15。
- 相手国の事情。リスクの高い国の資産をクオントにすることには、銀行などの値付け業者が消極的です16。
何に使われるか
構造化商品の市場では、クオントが頻繁に取引されています(2013 年の講義資料)。例として、IBM(ドル建て)、トヨタ(円建て)、シーメンス(ユーロ建て)の 3 株のバスケットのオプションを、為替の影響を受けないようにドル建てで受け取る形にしたものがあります18。原油はドル建てで値が付くため、ユーロ圏の投資家が為替リスクなしに原油のオプションを持つために、受け取りをユーロにするクオントもあります18。買い手は、外国の株式や株価指数の収益率に連動した受け取りを、自国の通貨建てで得られます19。
上の例で D 社の損益を見ます。D 社はドル建て株の値動きを円で受け取りたくて買い、プレミアムは 1 株 5 ドルにあたる 75,000 円(5 ドル × 100 株 × 150 円)とします。満期の株価が 120 ドルなら、受け取り 300,000 円からプレミアムを引いた 225,000 円が得です(金利は考えません)。株価が 90 ドルなら受け取りは 0 円で、75,000 円のプレミアムだけを失います。損益が 0 になる満期の株価は 105 ドルです。
比較の節で見たとおり、満期の株価が行使価格を上回るとき、クオントでは満期の為替レートが固定レートよりドル高になった分が受け取りに入りません。
注
-
Martin Haugh の講義資料 "Foreign Exchange, ADR's and Quanto-Securities"(Columbia University、IEOR E4707、2013 年。以下、Haugh 講義資料)の 4 章 "Quanto-Securities"(8 ページ)。 ↩
-
中村一岳「相関デリバティブのリスク特性やリスク管理手法に関する考察」(日本銀行金融研究所ディスカッション・ペーパー No. 2003-J-7、2003 年。以下、中村論文)の 2 節「クォント・オプション」(2 ページ)。 ↩
-
Haugh 講義資料の "Quanto Options"(9 ページ)。本文の は資料の K/X̄ に当たります。 ↩
-
Haugh 講義資料の冒頭の概要(1 ページ)。 ↩
-
同じ資料の "Quanto Options"(9 ページ)と式 (17)、(21)(8〜9 ページ)。配当利回りに q_f = q + r_d − r_f + ρσ_xσ を使います。資料の記号 σ_x は為替レートのボラティリティです。 ↩ ↩2
-
同じ資料の 1 章(1 ページ)。為替レート X_t は外国通貨 1 単位の自国通貨での費用で、相関は 3 章の式 (12) のとおり、原資産の価格と為替レートのブラウン運動の相関です(7 ページ)。 ↩
-
同じ資料の "Quanto Forwards" の式 (18)(8 ページ)。 ↩
-
式の符号と、満期の受け取りの比較(上の表)から読める説明です。資料の文言ではありません。 ↩
-
Haugh 講義資料の冒頭の概要(1 ページ)。資料自体は、導入しやすいためこの枠組みで扱っています。 ↩
-
中村論文の 3 節(4 ページ)。解析解で価格を求められる相関デリバティブが多いことが理由です。 ↩
-
Haugh 講義資料の "Quanto Forwards"(9 ページ)。 ↩
-
同じ資料の "Quanto Options" の Remark 5(9 ページ)。V_t を配当のない原資産として、ブラック・ショールズのデルタ・ヘッジを行います。 ↩
-
中村論文の 4 節(1)イ(8 ページ)と 1 節(1 ページ)。 ↩
-
中村論文の 4 節(1)ロ(18 ページ)。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System "Trading and Capital-Markets Activities Manual" の Section 4345.1 "Equity Derivatives" の "Currency Risk"(2003 年 4 月。Page 3〜4)。 ↩
-
Haugh 講義資料の Remark 7(9 ページ)。 ↩
-
中村論文の 6 節(2)「相関係数の扱い」(30〜31 ページ)。 ↩
-
Board of Governors of the Federal Reserve System "Trading and Capital-Markets Activities Manual" の Section 4345.1 "Equity Derivatives" の脚注 1(1998 年 2 月。Page 1。PDF の 57 ページ)。 ↩