将来の仕入れや売却の価格を今のうちに決めたい企業が、銀行と先渡取引を結ぶ場面があります。取引所で売買する先物取引は、毎日の値洗いと証拠金の管理の業務で出てきます。

先渡取引は将来の売買を今約束する取引

先渡取引は、将来の決めた日に、特定の商品を、今合意した価格で売買する約束です1。売買の対象になる資産を原資産といい、約束した日を満期、約束した価格を先渡価格といいます。先渡取引は、先物取引、スワップ、オプションと並ぶデリバティブの 1 つです2。デリバティブ全体の仕組みはデリバティブとはで扱います。

架空の例で考えます。A 社が E 銀行と、1 年後に原資産を 1 単位 102 円で買う先渡取引を結びます。A 社が買い手、E 銀行が売り手です。取引を結んだ日には、A 社と E 銀行の間で原資産もお金も動きません2。1 年後に、原資産の価格がいくらになっていても、A 社は 102 円を払って原資産を受け取り、E 銀行は原資産を渡して 102 円を受け取ります。金利を対象にした先渡取引には FRA(金利先渡取引)、通貨の交換レートを予約する取引には為替予約があります34。

満期の損益は価格の差に比例する直線

先渡取引の買い手は、満期の価格が先渡価格より高ければ利益、低ければ損失になり、売り手の損益はその逆です5。買い手は、約束した価格で買った原資産をすぐに満期の価格で売ると考えれば、その差額が損益です。売り手は、渡す原資産を満期の価格で買ってくると考えます5。上の例で、満期の価格ごとの 1 単位あたりの損益は次のとおりです。

満期の原資産の価格(円) 買い手 A 社の損益(円) 売り手 E 銀行の損益(円)
82 −20 20
102 0 0
122 20 −20

買い手の損益は「満期の価格 − 102 円」、売り手の損益は「102 円 − 満期の価格」で、価格が 1 円動くごとに損益も 1 円動きます。買い手と売り手の損益を足すと、どの価格でも 0 になります。買い手の損失は、価格が 0 円になったときの 102 円までです。一方で、売り手の損失には上限がありません。

−60−40−200+20+40+60102損益(円)満期の原資産の価格(円)利益損失損益分岐点 102
図 1先渡取引の買い手の満期の損益
図の説明

1 年後に原資産を 1 単位 102 円で買う先渡取引の、買い手の満期の損益です。横軸は満期の原資産の価格、縦軸は 1 単位あたりの損益です。損益は価格とともに同じ幅で増える直線で、価格が 102 円のときに 0(損益分岐点)になり、それより高いと利益、低いと損失になります。価格が 62 円なら 40 円の損失、142 円なら 40 円の利益です。売り手の損益は、この直線を 0 の線で上下に折り返した形になります。

シミュレーター先渡取引の買いと売りの満期の損益
入力
−30−20−100102030708090100110120130損益(1 単位あたり)満期の原資産の価格100.00
先渡しの買い(受渡価格 100)
プレミアムなし
損益分岐点
100.00
最大の利益
上限なし
最大の損失
100.00

単純化している点

  • 金利 0%、配当なしとしているため、先渡しの受渡価格は原資産の現在の価格と同じ 100 です。
  • 満期の損益だけを示します。満期より前の時価の動きは示しません。
  • 損益は 1 単位あたりで、取引の手数料、税金、証拠金は考えません。

このシミュレーターは学習のために単純化した計算で、実際の取引の評価やリスク管理には使えません。(免責事項)

シミュレーターの説明

「商品と戦略」で先渡しの買いと先渡しの売りを切り替えると、満期の損益の線が上下に反転します。シミュレーターは金利を 0 とし、画面の「受渡価格」(本文の先渡価格)を今の価格と同じ値に置いているため、損益分岐点は本文の例と違います。見どころは、買いでは最大の損失が決まっていて利益に上限がなく、売りでは最大の利益が決まっていて損失に上限がないことです。

先渡価格は現物価格と保有コストで決まる

先渡価格は、現物の価格に、満期まで現物を持つためのコストを足した水準で決まります。原資産の今の価格が 100 円、1 年の資金を年 2% で借りられ、原資産から利子などの収入がない架空の例で考えます。資金の調達コストは 100 × 2% で 2 円なので、1 年後の先渡価格は 100 + 2 で 102 円になり、最初の例の価格と同じです。原資産から 1 年で 1 円の利子を受け取れるなら、先渡価格は 100 + 2 − 1 で 101 円です。

この水準になる理由は、1 週間後に渡す国債の注文を受けた取引の担当者で考えると分かります。担当者は今国債を買って満期まで持っておけば、約束どおりに渡せます。買うための資金の調達コストを買った価格に足して先渡価格にすれば、担当者は損をしません。持っている間に国債の利子を受け取れば、その分はコストから引けます6。

先渡価格=現物価格+資金の調達コスト−保有して得る収入\text{先渡価格} = \text{現物価格} + \text{資金の調達コスト} - \text{保有して得る収入}

この決め方を保有コストモデルといいます6。

将来買う原資産の価格を今決めておく使い方

先渡取引の使い方の 1 つは、将来売買する予定の資産の価格を今決めて、値動きによる損を抑えるヘッジです。株式や債券などの価格は日々動くため、将来売買するときの価格は今は分かりません。ヘッジは、この不確かさをできるだけ減らす考え方です7。最初の例の A 社が、1 年後に原資産を買う予定だとします。先渡取引で 102 円に決めておけば、満期の価格が 122 円に上がっても、払うのは 102 円で済みます。市場で買うより 20 円少なく、先渡取引の損益は 20 円の利益です。一方で、満期の価格が 82 円に下がると、市場で買えば 82 円で済んだところを 102 円払うことになり、先渡取引の損益は 20 円の損失です。値下がりしたときの得をあきらめる代わりに、値上がりしたときの損を避ける使い方です。

先渡取引は、値動きから利益を狙う投機にも使われます。途中でやめにくいことは、先渡取引を使うときのリスクです。

先物取引は規格を決めた先渡取引

先物取引は、先渡取引のうち、取引所で売買でき、途中で反対の売買ができるように契約の条件を標準化したものです1。標準化する条件は、取引所が投資家の必要に合わせて決めます。たとえば国債先物では、発行済みの国債ではなく、標準物と呼ぶ仮想の国債を取引の対象にし、受け渡す時期も 3 月、6 月、9 月、12 月の四半期ごとに決めています9。最初の取引と反対の取引をして取引を終えることを反対売買といい、先物取引では取引最終日までに、買った人は転売し、売った人は買い戻します10。

先渡取引と先物取引は、将来の売買を予約する点では同じで、違いは取引の場とそれに伴う制度にあります9。4 つの項目で比べると次のとおりです。

項目 先渡取引 先物取引
契約の条件 当事者どうしが決める 取引所が決めた規格(対象、受け渡す時期など)
取引の相手 取引所を通さずに 1 対 1 で結ぶ相手。主に金融機関などの機関投資家 取引所を通じて売買する多数の投資家
毎日の値洗い 取引所の値洗いはない 毎日の終値で損益を精算し、証拠金を求める
途中でやめる方法 取引所で反対売買する仕組みはない 取引最終日までに反対売買する

先物取引では、取引所を通じて、知らない多数の相手と売買するため、相手が約束を守るかどうかが問題になります。そこで、持っている取引を毎日の終値で評価し直して損益を計算し(値洗い)、その損益をいったん精算して同じ取引をその値段で持ち直す仕組みにして、十分な証拠金を求めています9。取引のために預ける保証金は証拠金といいます11。証拠金の仕組みは先物の証拠金と値洗いで扱います。

先渡取引には、取引所で反対売買して終える仕組みはありません。金融機関が顧客と結ぶデリバティブ商品には、原則として解約できないものがあります8。取引所が規格を決める上場デリバティブと、当事者どうしで条件を決める店頭デリバティブは、担保の受け払いや途中でやめる方法も違います。

満期の決済は受渡決済か差金決済

満期の決済の方法には、原資産と代金を受け渡す受渡決済(現物決済)と、差額だけを受け払いする差金決済があります。受渡決済では、買い手は約束した価格を払って原資産を受け取ります5。差金決済では、約束した時点の価格と決済する時点の価格の差額だけを受け払いします12。

日本の先物取引では、商品によって最終決済の方法が決まっています。株価指数先物の日経225先物は、指数そのものを受け渡せないため、差金決済です13。長期国債先物と金標準先物は、現物を受け渡す商品です12。日経225先物の差金決済の計算には、特別清算数値(SQ 値)を使います。

注

  1. 企業年金連合会「先物取引(用語集)」。 ↩ ↩2

  2. 日本取引所グループ「国債先物入門」(服部孝洋、2021 年)の「2.1 先物はあくまで予約取引」(2 ページ)。 ↩ ↩2

  3. 日本銀行「「デリバティブ取引に関する定例市場報告」の解説」の 3(2) の「リスク・ファクター別」(金利の例に FRA を挙げる)。 ↩

  4. 金融先物取引業協会「金融先物取引の知識」(2015 年)の「海外主要取引所の主要金融先物商品の概要」の ASX 24 の表の注記(51 ページ。FRA は Forward Rate Agreement の略称)。 ↩

  5. 金融広報中央委員会「2-4 先物取引で発生する損益(やさしいデリバティブ)」の「受渡決済とは」「先物での買い手の損益」「先物での売り手の損益」。 ↩ ↩2 ↩3

  6. 「国債先物入門」の「BOX 2 先渡(フォワード)価格のプライシング」(20〜21 ページ)。資料の式は「先渡価格=現物価格+(レポ・コスト-利子収入)」で、レポ・コストを資金の調達コスト、利子収入を保有して得る収入と書いた。 ↩ ↩2

  7. 金融広報中央委員会「1-3 デリバティブの特徴と利用法(やさしいデリバティブ)」の「ヘッジング(hedging)」。 ↩

  8. 金融庁「デリバティブ商品を契約するときのポイント」の「ルールと着眼点」と「説明事項(主な例)」。 ↩ ↩2 ↩3

  9. 「国債先物入門」の「2. 3 先渡(フォワード)との違い:先物の本質は取引所取引」(4〜5 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  10. 大阪取引所「決済方法(先物)」(北浜投資塾)の「反対売買による決済」。 ↩

  11. 日本取引所グループ「先物取引(用語集)」。 ↩

  12. 大阪取引所「先物取引とは」(北浜投資塾)の「差金の受け渡しで決済する」と、その注記。 ↩ ↩2

  13. 大阪取引所「契約(取引成立)から満期まで(先物)」(北浜投資塾)。 ↩