デリバティブの清算や証拠金の受け払い、取引の情報の報告を担当する人は、取引が上場か店頭かで手順が違う場面に出会います。
取引所を通すかどうかで分かれる
上場か店頭かは、取引所の市場を通して売買するかどうかで決まります。たとえば、大阪取引所の日経225先物は上場デリバティブです1。一方、清算機関の日本証券クリアリング機構(JSCC)は、金利スワップとクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を、店頭デリバティブ(OTC デリバティブ)の取引として清算しています2。
金融商品取引法は、デリバティブ取引を 3 つに分けています。1 つ目は、金融商品市場で、市場を開設する者の定める基準と方法に従って行う市場デリバティブ取引です。2 つ目は金融商品市場と外国金融商品市場によらずに行う店頭デリバティブ取引、3 つ目は外国金融商品市場で行う外国市場デリバティブ取引です。金融商品取引所は、内閣総理大臣の免許を受けて金融商品市場を開設する者です3。日本銀行も、デリバティブ取引を、取引当事者が相対で行う OTC 取引と、取引所を通じて行う取引所取引に分けています。OTC は Over the Counter(店頭)の略です4。
この区分に、次の 3 つの取引を当てはめてみます。大阪取引所の売買システムで成立する日経225先物は、金融商品市場で、市場を開設する者の定める基準と方法に従う取引なので、市場デリバティブ取引です。金融商品市場にも外国金融商品市場にもよらず、当事者どうしが金額などの条件を合意した金利スワップは、店頭デリバティブ取引です。外国金融商品市場で行う、市場デリバティブ取引と類似の取引は、外国市場デリバティブ取引です3。
先物と先渡しの仕組みの違いは先渡しと先物で扱います。
2 つの違いを項目ごとに並べると、次の表になります。
| 項目 | 上場デリバティブ | 店頭デリバティブ |
|---|---|---|
| 契約の条件 | 取引所が決めた規格(1 単位の大きさ、期限など) | 当事者どうしが決める |
| 価格の決まり方 | 取引所の売買システムで、取引所の決めた方法で売買が成立する | 当事者どうしが合意する |
| 決済の相手 | 売買が成立すると清算機関になる | 取引相手。清算機関で清算する取引もある |
| 担保 | 清算機関に担保(証拠金)を預ける | 清算する取引は清算機関に預ける。清算しない取引には、当事者どうしで受け払いする国際的な基準がある |
| 取引の情報 | 取引所が毎日の価格と取引高を公表する | 取引の情報を集めて保存する機関(取引情報蓄積機関)などに報告し、金融庁が集計を公表する |
契約の条件は取引所の規格か当事者の合意か
上場デリバティブでは、1 単位の大きさなどの条件を取引所が決めていて、取引の金額は 1 単位の何倍かで決まります。大阪取引所は、日経225先物を日経225の数値に 1,000 円を掛けた額を 1 単位とする取引と定めています。日経225mini は 100 円、日経225マイクロ先物は 10 円を掛けた額が 1 単位です1。
日経225が 30,000 のときの架空の例で考えます。1 単位の額は、日経225先物で 3,000 万円、日経225mini で 300 万円、日経225マイクロ先物で 30 万円です。日経225先物で 1 億円に近い取引をしようとしても、3 単位の 9,000 万円か 4 単位の 1 億 2,000 万円のどちらかになります。取引できる期限の月(限月)と値段の刻み(呼値の単位)も取引所が決めています。
店頭デリバティブでは、数量などの条件を、売り手と買い手が直接合意して決めます5。取引ごとに条件を決めるため、想定元本を 1 億円ちょうどにした金利スワップのように、金額を必要に合わせて決められます。JSCC は、清算する円の金利スワップの想定元本を 1 円以上 4 兆円未満と定めています6。
条件を取引ごとに決められる一方で、店頭デリバティブの条件は取引によってまちまちです。清算機関で清算できるのは条件が標準化された取引に限られ、標準化されていないデリバティブ取引が多くあります。BCBS(バーゼル銀行監督委員会)と IOSCO(証券監督者国際機構)が、この点を指摘しています7。JSCC は、清算する金利スワップについて、変動金利の種類と期間、通貨、日数計算の方法などの条件を決めています6。
価格の決まり方と決済の相手
図の説明
大阪取引所の日経225先物で、清算参加者の A 社が買い、B 社が売った取引の関係です。3 者のうち JSCC が、A 社と B 社それぞれの決済の相手方です。A 社と B 社は、それぞれ JSCC に証拠金を預けます。
大阪取引所の日経225先物のような上場デリバティブは、取引所の売買システムで売買し8、売買が成立すると清算機関が売り手と買い手それぞれの決済の相手方になります。たとえば、日経225先物を清算参加者の A 社が買い、B 社が売ると、どちらの決済の相手も JSCC になります。B 社が決済できなくなっても、JSCC が B 社から引き受けた債務を履行します9。
清算機関は、売買の一方の当事者の債務を引き受けて、もとの相手方に代わって決済の当事者になり、決済を保証します2。
清算機関を通さない店頭デリバティブでは、A 社と B 社が価格や数量などの条件を直接合意して取引を結び、決済も A 社と B 社の間でお互いに行います。間に入って決済の相手方になる清算機関はありません。
店頭デリバティブでは、価格も売り手と買い手が直接合意して決めます5。清算機関を通さなければ、決済の相手は取引相手そのものなので、取引相手に対するリスクも考えながら売買する必要があります2。日本銀行は、相対の取引で金融機関が破綻すると、取引相手を通じて市場全体に決済の不履行が連鎖するおそれがあると指摘しています9。清算機関を使う取引と使わない取引の違いは清算取引と相対取引で扱います。
清算と担保
上場デリバティブでは、清算参加者が清算機関に担保として証拠金を預け、清算機関は取引を毎日評価し直します。清算参加者は、破綻したときの損失をその参加者の負担でまかなう担保として、清算機関に証拠金を預けます。まだ決済していない取引を直近の価格で評価し直し、損益を計算することを値洗いといいます。上場デリバティブ取引のほか、清算する CDS 取引と金利スワップ取引でも、JSCC は少なくとも 1 日 1 回値洗いをし、変動証拠金などを受け払いします10。
店頭デリバティブは、もともと取引の当事者どうしで決済するのが主な形でした。清算機関は、伝統的に上場デリバティブの清算に使われ、その後に店頭取引にも利用が広がりました11。日本では 2012 年 11 月から、金融商品取引業者等が金融庁長官の指定する店頭デリバティブ取引をするとき、清算機関で清算することが義務になりました。対象には金利スワップや CDS 取引が含まれます1112。
清算機関で清算しない店頭デリバティブには、当事者どうしで証拠金を受け払いする国際的な最低基準があり、対象は清算しないデリバティブ取引をする金融機関とシステム上重要な非金融機関です。対象の者は、取引相手の信用リスクに応じて当初証拠金と変動証拠金を受け払いします13。
途中で取引をやめる方法
上場デリバティブの先物は、取引最終日までに反対の売買をすれば取引を終えられます。買った人は転売し、売った人は買い戻します14。日経225が 30,000 のときに日経225先物を 1 単位買う架空の例で考えます。31,000 で転売すると、損益は(31,000 − 30,000)× 1,000 円で 100 万円の得です。29,000 で転売すると、100 万円の損です。
金融機関が顧客に販売するデリバティブ商品には、原則として途中で解約できないものがあります。金融機関が顧客に説明する事項の例には、原則として解約できないことがあります。中途解約するときに解約清算金が必要になることがあることも、説明する事項の例です15。
取引の情報の公表と報告
取引所の取引は、取引所が銘柄ごとの毎日の価格と取引高を公表します。たとえば大阪取引所は、指数先物の銘柄ごとの四本値(始値、高値、安値、終値)と取引高を、取引日ごとに公表しています16。取引所は、毎日の総取引高と、銘柄ごとの毎日の最高、最低、最終の価格などを公表します17。
店頭デリバティブの取引の情報は、取引情報の報告制度に従って取引情報蓄積機関などに報告されます。清算機関と金融商品取引業者等は、取引の情報を取引情報蓄積機関などに提供します。取引情報蓄積機関は、取引の情報を集めて保存する業務をする者として、内閣総理大臣の指定を受けた者です18。金融庁は 2013 年 4 月分から店頭デリバティブ取引のデータを集め始め19、報告された取引情報を集計した結果を公表しています20。
G20 合意と店頭デリバティブ改革
日本の店頭デリバティブの規制は、2009 年 9 月の G20 ピッツバーグ・サミットで合意した改革を受けて整えられました1119。日本銀行の資料によれば、2008 年 9 月のリーマン・ショックに端を発した金融危機では、店頭デリバティブ市場のリスクが見えにくく、積み上がり、伝わりやすくなっていたと指摘されました。一方で、清算機関を通る取引は、危機の間もおおむね安定して処理されました11。
このころの店頭デリバティブ取引とレポ取引は、取引所を通さない相対の取引で、条件が標準化されておらず、清算集中もされていませんでした。個々の取引の情報も、適切に保存され蓄積されていたとは限りませんでした24。
G20 が 2009 年に合意した改革は、次の 4 つです25。
- 標準化されたすべての店頭デリバティブは、適当な場合には、取引所か電子取引基盤で取引する。
- 標準化されたすべての店頭デリバティブは、清算機関を通じて決済する。
- 店頭デリバティブは、取引情報蓄積機関に報告する。
- 清算機関を通じて決済しないデリバティブには、より高い所要自己資本を求める。
2011 年には、清算機関で清算しないデリバティブ取引の証拠金の規制が加わりました25。金融庁は、店頭デリバティブ取引の規制として、清算集中の規制、取引情報の報告、電子取引基盤の規制、証拠金の規制を挙げています26。
注
-
大阪取引所「指数先物取引制度要綱」(2026 年 4 月 13 日現在)の 2 ページ、Ⅰ の 1(2)「Large取引、Mini取引及びMicro取引」。 ↩ ↩2
-
日本証券クリアリング機構「JSCCとは」の冒頭の説明、沿革(2013 年 7 月の大阪証券取引所の上場デリバティブ取引の清算機能の統合)と、「「清算機関」の機能」。 ↩ ↩2 ↩3
-
「金融商品取引法」第 2 条第 14 項(金融商品市場)、第 16 項(金融商品取引所)、第 20 項から第 23 項(デリバティブ取引の 3 つの区分)。 ↩ ↩2
-
日本銀行「「デリバティブ取引に関する定例市場報告」の解説」の 1(1) の注 3(OTC の説明)。 ↩
-
日本証券クリアリング機構「清算対象取引(金利スワップ)」の 4(変動金利の種類)、5(変動金利の期間)、7(通貨)、10(想定元本)、11(日数計算式)。 ↩ ↩2
-
バーゼル銀行監督委員会、証券監督者国際機構「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制 <要旨>(仮訳)」の 3 ページ、「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制の目的」。 ↩
-
大阪取引所「指数先物取引制度要綱」の 2 ページ、Ⅰ の 2(2)「立会方法」。 ↩
-
日本銀行決済機構局「清算機関(CCP)を巡るグローバルな対応について」(2017 年 8 月)の 1 ページ、「1-1.清算機関(CCP)の役割」と図表 1 の注。 ↩ ↩2
-
日本証券クリアリング機構「証拠金」(2024 年 12 月 18 日現在)の冒頭の説明。 ↩
-
日本銀行決済機構局「清算機関(CCP)を巡るグローバルな対応について」(2017 年 8 月)の冒頭の「要旨」(PDF の 3 ページ目)と、2 ページの「1-2.G20ピッツバーグ・サミットでの清算集中義務の導入」「1-3.清算機関の重要性の高まり」。同じ資料の脚注 3、4 も参照。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
「金融商品取引法」第 156 条の 62。 ↩
-
バーゼル銀行監督委員会、証券監督者国際機構「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制 <要旨>(仮訳)」の 6 ページ、主要な原則の 2。 ↩
-
大阪取引所「決済方法(先物)」(北浜投資塾)の「反対売買による決済」。 ↩
-
金融庁「デリバティブ商品を契約するときのポイント」の表面、「説明事項(主な例)」と、中途解約及び解約清算金の説明の例。 ↩
-
大阪取引所「指数先物取引制度要綱」の 13 ページ、Ⅷ の 1「相場情報システムで伝達する情報」。四本値の意味は、日本取引所グループ「四本値(用語集)」。 ↩
-
「金融商品取引法」第 130 条。 ↩
-
「金融商品取引法」第 156 条の 63 第 1 項(清算機関)、第 156 条の 64 第 1 項(金融商品取引業者等)、第 156 条の 67 第 1 項(取引情報蓄積業務を行う者の指定)。取引情報蓄積業務は、取引情報の収集と保存の業務です(第 156 条の 63 第 1 項)。 ↩
-
日本銀行金融市場局、金融庁企画市場局「店頭デリバティブ取引データ等の整備と活用」(日銀レビュー、2021 年 6 月)の 2 ページ、G20 の首脳会合で取り上げられたことを述べた段落と「わが国におけるデータ整備等の取組み」、7 ページの脚注 2。 ↩ ↩2
-
金融庁「店頭デリバティブ取引情報」。 ↩
-
日本銀行金融市場局、金融庁企画市場局「店頭デリバティブ取引データ等の整備と活用」(日銀レビュー、2021 年 6 月)の 2 ページ、「データの特徴をふまえた分析」。 ↩
-
同じ資料の 3 ページ、図表 6 の注と、名寄せの説明。 ↩
-
同じ資料の 4 ページ。 ↩
-
同じ資料の 1 ページ、「2000年代後半の国際金融危機の教訓」。 ↩
-
バーゼル銀行監督委員会、証券監督者国際機構「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制 <要旨>(仮訳)」の 1〜2 ページ、「背景」。 ↩ ↩2
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金融庁「店頭デリバティブ取引規制関連」の「金利指標改革(LIBORの恒久的な公表停止)に伴い参照金利の変更等を行ったレガシー契約に係る店頭デリバティブ取引規制の経過措置の適用等に関するQ&A」の説明。 ↩