デリバティブの取引条件を決める営業や、取引後の証拠金と信用リスクを管理する部署が、その取引が清算機関を通るかどうかを最初に確かめます。

取引の相手方が誰かで決まる違い

清算取引と相対取引の違いは、取引の相手方が誰になるかと、そこから決まる信用リスク、証拠金、ネッティング、破綻したときの扱いにあります。

項目 相対取引 清算取引
相手方の信用リスク 取引相手ごとに負う 元の取引相手のリスクは意識しない。ほかの清算参加者の破綻で損失の一部を負うことがある
取引の相手方 取引を結んだ相手 清算機関
証拠金 当事者どうしでやり取りすることがある。日本では一定の取引で規制が求める 清算機関と当初証拠金、変動証拠金をやり取りする
ネッティング 同じ相手との取引の中で差し引く(一括清算) 相手の違う取引も、清算機関との取引として差し引ける
相手が破綻したとき 一括清算を約定していれば、同じ相手との取引の純額を 1 つの債権か債務にする 清算機関が取引を処理し、決めた順の財源で損失を埋めて決済を続ける

取引所で売買する上場デリバティブと、取引所の外で売買する店頭デリバティブの違いは、上場デリバティブと店頭デリバティブで扱います。

相対取引の信用リスク

相対取引は、当事者どうしが互いの直接の相手方になり、決済まで行う取引です。相対取引では、取引相手が破綻すると、受け取るはずのお金を受け取れなくなるおそれがあります。P 銀行と Q 銀行が想定元本 100 億円の金利スワップを結び、P 銀行が変動金利を、Q 銀行が年 1% の固定金利を年 1 回払う架空の例で考えます。ある利払日に P 銀行が変動金利の利息を払ったのに、Q 銀行が固定金利の利息 1 億円を払わなければ、P 銀行はその 1 億円を受け取りそこねます。

取引相手の数だけ信用リスクを負い、決済の事務も相手ごとに生じます。取引相手が 10 社あれば、10 社それぞれの信用リスクを負います1。

清算機関が間に入った取引

清算機関が取引の当事者の間に入り、売り手に対しては買い手、買い手に対しては売り手になって、取引の決済を保証します2。清算機関が直接の相手方にするのは、清算参加者です。先ほどの例で P 銀行と Q 銀行がどちらも清算参加者だとすると、金利スワップは「P 銀行と清算機関の取引」と「清算機関と Q 銀行の取引」の 2 つに置き換わります。P 銀行は清算機関に変動金利を払って固定金利を受け取り、Q 銀行は清算機関に固定金利を払って変動金利を受け取ります。

P 銀行変動金利を払う清算機関Q 銀行固定金利を払う変動金利固定金利 年 1%固定金利 年 1%変動金利
図 1清算機関が間に入った金利スワップの取引の流れ
図の説明

P 銀行と Q 銀行の想定元本 100 億円の金利スワップを、清算機関が間に入って 2 つの取引に置き換えたときの受け払いです。P 銀行は清算機関に変動金利の利息を払い、清算機関から年 1% の固定金利の利息を受け取ります。Q 銀行は清算機関に年 1% の固定金利の利息を払い、清算機関から変動金利の利息を受け取ります。P 銀行と Q 銀行の間には、直接の受け払いがありません。

置き換えの後は、元の取引はなくなり、清算機関が、元の当事者が互いに負っていた義務を負います3。金利スワップで清算機関が当事者の債務を負うことを、債務負担といいます4。清算機関は、複数の清算参加者の相手方として決済することから、CCP とも呼ばれます5。

債務負担の後は、P 銀行の相手方は Q 銀行ではなく清算機関です。信用力の高い 1 つの機関が債務を負って決済を保証するので、当事者は元の取引相手の信用リスクを意識せずに取引できます1。その代わり、清算機関が清算参加者に対する信用リスクを負います。そのため清算機関は、通常は清算参加者に証拠金を求め、清算参加者の間で損失を分け合う仕組みを設けることもあります2。

JSCC は、金利スワップ清算参加者どうしの取引を清算の対象にしています6。清算参加者でない者も、清算参加者に取り次いでもらえば、自分の取引を清算できます。清算参加者が顧客の依頼を受け、損益は顧客のものとして清算機関に債務を負担させる形で、金融商品取引法では有価証券等清算取次ぎといいます7。この形で清算する取引を顧客の取引といいます。

JSCC は、取引所取引と、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と金利スワップの店頭デリバティブ取引、国債店頭取引を清算しています8。日本では、一定の店頭デリバティブ取引は、金融商品取引業者等が清算機関に債務を負担させなければならないと、金融商品取引法が定めています9。対象になる取引と業者の範囲は、清算集中義務で扱います。

当初証拠金と変動証拠金

清算機関が清算参加者とやり取りする証拠金は 2 種類です。1 つは当初証拠金で、清算参加者が破綻したとき、その取引を処理し終えるまでの間に時価が大きく動いて生じうる損失に備えます。もう 1 つは変動証拠金で、時価の変動で実際に生じた損益を、清算参加者と清算機関の間で受け払いします11。

P 銀行と Q 銀行が清算機関に当初証拠金を 3 億円ずつ差し入れる架空の例で考えます。その後、市場の金利が動いて、P 銀行から見た取引の時価が 2 億円のプラス、Q 銀行から見た時価が 2 億円のマイナスになったとします。このとき清算機関は、時価が下がった Q 銀行から変動証拠金 2 億円を受け取り、時価が上がった P 銀行に 2 億円を払います12。清算機関の受け取りと支払いは同じ 2 億円で、清算機関自身の損益は出ません。

P 銀行時価 +2 億円清算機関Q 銀行時価 −2 億円当初証拠金 3 億円変動証拠金 2 億円当初証拠金 3 億円変動証拠金 2 億円
図 2清算機関との当初証拠金と変動証拠金の受け渡し
図の説明

P 銀行と Q 銀行が、清算機関と証拠金を受け渡す例です。P 銀行と Q 銀行は、それぞれ当初証拠金 3 億円を清算機関に差し入れます。取引の時価が P 銀行から見て 2 億円のプラス、Q 銀行から見て 2 億円のマイナスになると、Q 銀行が清算機関に変動証拠金 2 億円を払い、清算機関が P 銀行に 2 億円を払います。当初証拠金は両方の銀行が差し入れ、変動証拠金は時価が下がった側から上がった側へ清算機関を通って動きます。

変動証拠金を少なくとも毎日受け払いすると、それまでに生じた損益が積み上がらず、清算参加者が破綻したときに生じうる損失も小さくなります13。JSCC は、上場デリバティブ、CDS、金利スワップ、国債店頭取引で、未決済の取引を少なくとも 1 日 1 回今の価格で評価し直し(値洗い)、変動証拠金を清算参加者と受け払いしています14。

当初証拠金の額は、処理し終えるまでにかかる期間と、その間に時価がどれだけ動きうるかの見積もりから求めます11。JSCC の金利スワップでは、当初証拠金を過去の市場データの変動から計算し、保有期間(処理し終えるまでの期間)を 5 日間、顧客の取引は 7 日間にしています15。

相対取引でも、当事者どうしで証拠金をやり取りすることがあり、日本では一定の取引で規制がそれを求めています。金融商品取引業等に関する内閣府令は、清算機関を通さない店頭デリバティブ取引について、金融商品取引業者等が変動証拠金と当初証拠金をやり取りしていない状態を、業務の運営に問題が生じるおそれのある状況の 1 つに挙げています16。当初証拠金を求めない取引が定められているなど、対象は限られています。

ネッティングの効果

清算機関がすべての清算参加者の相手方になると、相手の違う取引どうしも、清算機関との取引として差し引けるようになります。債務を相殺して、決済に必要な支払いや受け渡しの量を減らすことをネッティングといい、清算参加者が破綻したときの損失を減らす効果もあります17。ある日に P 銀行、Q 銀行、R 銀行の間で次の 3 つの支払いがある架空の例で考えます。

支払う銀行 受け取る銀行 金額(億円)
P 銀行 Q 銀行 10
Q 銀行 R 銀行 8
R 銀行 P 銀行 6

相対取引では、相手ごとに 3 回の支払いがあり、動く金額は合わせて 24 億円です。3 つの取引がすべて同じ清算機関で清算されていれば、銀行ごとに差し引きした金額だけを清算機関と受け払いします。

銀行 払う額(億円) 受け取る額(億円) 差し引き(億円、受け取りがプラス)
P 銀行 10 6 −4
Q 銀行 8 10 2
R 銀行 6 8 2

P 銀行が清算機関に 4 億円を払い、清算機関が Q 銀行と R 銀行に 2 億円ずつ払うので、動く金額は合わせて 8 億円に減ります。清算機関は、効率的に受け渡すためにネッティングをしたうえで決済します18。

ネッティングは、相手が破綻したときの損失も小さくします。P 銀行が Q 銀行と金利スワップを結び、R 銀行とはその反対向きの金利スワップを結んでいる架空の例で考えます。P 銀行から見た時価は、Q 銀行との取引が 5 億円のプラス、R 銀行との取引が 5 億円のマイナスで、合わせると 0 です。相対取引で P 銀行が破綻すると、R 銀行から見た P 銀行との取引は 5 億円のプラスで、R 銀行はこの 5 億円を受け取れなくなるおそれがあります。P 銀行の 2 つの取引は合わせれば時価 0 ですが、相手が違うため差し引けません。

日本の一括清算の法律(金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律)は、次のように定めています。金融機関等が同じ相手と基本契約書で一括清算を約定していれば、相手に破産手続などの申立てがあったとき、その契約に基づくすべての取引の評価額を合算した純額が 1 つの債権か債務になります19。この一括清算は、基本契約書を結んだ当事者の間の取引が対象で、P 銀行と Q 銀行の取引と、P 銀行と R 銀行の取引をまとめることはできません。

同じ 2 つの取引をどちらも清算機関で清算していれば、P 銀行の相手方はどちらの取引も清算機関で、P 銀行との間の時価は差し引き 0 です。そのため、同じく P 銀行が破綻したとき、清算機関が P 銀行との間で抱える時価の損失は、差し引いた後で 0 です。

Q 銀行が破綻したときに、P 銀行が Q 銀行との取引の 5 億円のプラスを受け取れなくならないのは、ネッティングではなく、P 銀行の相手方が清算機関に替わったためです。ただし、Q 銀行の破綻で出た損失は清算機関が決めた順に埋めるため、P 銀行も清算基金などを通じて損失の一部を負担することがあります。

取引相手が破綻したときの扱い

清算参加者が破綻すると、JSCC は新しい取引を引き受けるのを止め、破綻した清算参加者の取引を処理して損失を確定させます。金利スワップでは、損失が広がらないように破綻した清算参加者の取引をすぐにヘッジし、破綻していない清算参加者が参加するオークションで取引を処理します。顧客の取引については、JSCC は取引と担保をほかの清算参加者に移せるようにしています。破綻があっても、通常の決済スケジュールを変えずに決済します20。

処理で出た損失は、あらかじめ決めた順に財源を使って埋めます。財源の 1 つである清算基金は、清算参加者があらかじめ差し入れておき、清算参加者が破綻したときの損失に充てる資金です。JSCC の金利スワップの清算では、次の順です21。

  1. 破綻した清算参加者が差し入れた当初証拠金と清算基金
  2. JSCC の負担
  3. 破綻していない清算参加者の清算基金と、JSCC の追加の負担

Q 銀行が当初証拠金 3 億円と清算基金 1 億円を差し入れていて、取引の処理で 5 億円の損失が出た架空の例で考えます。この場合、Q 銀行の 4 億円を先に使い、足りない 1 億円は 2 番目の JSCC の負担に回ります。JSCC は、ほかの清算参加者より先に自らが負担します。清算機関がリスク管理を適切に行う動機を保つためです21。

3 番目まででも足りなければ、清算参加者に特別清算料を求めるなど、あとから負担を求める方法も JSCC は定めています21。そのため清算取引では、自分の取引相手でない清算参加者が破綻したときにも、損失の一部を負担することがあります。

相対取引で相手が破綻したときは、一括清算で純額にした債権を、相手の破産手続などの中で扱います。たとえば Q 銀行が破綻し、P 銀行が受け取る側なら、P 銀行の債権は Q 銀行の破産手続などの債権になります22。内閣府令は、証拠金規制で受け取る当初証拠金を、相手が債務を履行しないときにすぐ使えるように管理することも求めています23。

注

  1. 日本証券クリアリング機構「金利スワップ 債務負担」の「債務負担の具体例」。 ↩ ↩2

  2. BIS 支払・決済システム委員会、証券監督者国際機構専門委員会「金融市場インフラのための原則」(仮訳、2012 年 4 月)のパラグラフ 1.13(11〜12 ページ)と、原則 6 の本文(68 ページ。参加者に対する信用エクスポージャー)。 ↩ ↩2

  3. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 3.1.8(31 ページ)と、パラグラフ 1.13 の脚注 12(12 ページ)。資料はこの置き換えをノベーションと呼んでいます。 ↩

  4. 日本証券クリアリング機構「金利スワップ 債務負担」。「金融商品取引法」第 2 条第 28 項は、清算機関の業務(金融商品債務引受業)を、取引に基づく債務を「引受け、更改その他の方法により負担する」業務と定めています。 ↩

  5. 日本証券クリアリング機構「JSCCとは」の「「清算機関」の機能」。 ↩

  6. 日本証券クリアリング機構「清算対象取引(金利スワップ)」の「2.取引相手方の要件」。 ↩

  7. 「金融商品取引法」第 2 条第 27 項(有価証券等清算取次ぎ)と、日本証券クリアリング機構「清算対象取引(金利スワップ)」の「2.取引相手方の要件」(有価証券等清算取次ぎによるものを含む)。 ↩

  8. 日本証券クリアリング機構「JSCCとは」の「沿革」。 ↩

  9. 「金融商品取引法」第 156 条の 62。 ↩

  10. 日本証券クリアリング機構「金利スワップ 債務負担」の「債務負担のタイミング」と「債務負担のワークフロー・イメージ」。 ↩

  11. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)の原則 6 の説明、パラグラフ 3.6.1(69 ページ)。 ↩ ↩2

  12. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 3.6.11(74〜75 ページ)。 ↩

  13. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 3.4.16(57 ページ)と、原則 6 の重要な考慮事項 4(68 ページ)。 ↩

  14. 日本証券クリアリング機構「リスク管理 証拠金」(2024 年 12 月 18 日現在と表示)。 ↩

  15. 日本証券クリアリング機構「金利スワップ 証拠金」の「①当初証拠金所要額」。 ↩

  16. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 123 条の見出し(業務の運営の状況が公益に反し又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるもの)と第 1 項の柱書き、第 21 号の 10(非清算店頭デリバティブ取引と変動証拠金)、第 21 号の 11(当初証拠金)。当初証拠金を求めない取引は同条第 13 項。 ↩

  17. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 3.1.7(31 ページ)。 ↩

  18. 日本証券クリアリング機構「JSCCとは」の「「清算機関」の機能」と「JSCCの役割」。 ↩

  19. 「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律」第 2 条第 2 項(金融機関等)、第 4 項(一括清算事由)、第 5 項(基本契約書)、第 6 項(一括清算)。 ↩

  20. 日本証券クリアリング機構「リスク管理 参加者破綻処理」(2018 年 2 月 13 日現在と表示)。 ↩

  21. 日本証券クリアリング機構「リスク管理 損失補償」(2026 年 2 月 26 日現在と表示)の本文と、「各清算業務における損失補償財源の構成及び使用順序」の図の「金利スワップ取引清算資格」。 ↩ ↩2 ↩3

  22. 「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律」第 3 条。 ↩

  23. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 123 条第 1 項第 21 号の 11 ニ。 ↩