銀行や証券会社にデリバティブの取引を頼むときは、相手が自分の計算で取引に応じる業者か、注文を取り次ぐ業者かで、損益を受ける側が変わります。店頭の金利スワップを銀行と結ぶ場合も、証券会社を通して取引所の先物を売買する場合も同じです。
損益が誰のものになるかの違い
ディーラーとブローカーの違いは、取引の損益が業者自身のものになるか、顧客のものになるかです。F 証券が上場デリバティブの日経225先物を 30,000 で 1 単位買い、31,000 で転売する架空の例で考えます。1 単位は日経225の数値に 1,000 円を掛けた額なので1、差額は 100 万円です。F 証券が自分の判断と資金で買ったなら、100 万円の得は F 証券のものです。顧客の注文を受けて取引所に出したなら、100 万円の得は顧客のものです。29,000 で転売していれば、100 万円の損も顧客が負います。
金融経済教育推進機構(J-FLEC)の教材は、証券会社の業務のうち、投資家の株式や債券の売買注文を市場に取り次ぐ業務を委託売買(ブローカー)業務と呼びます。自分の資金で株式や債券などを売買する業務は、自己売買(ディーラー)業務です2。取引所の市場で直接取引できる証券会社などを、取引参加者といいます3。取引参加者が市場に注文を出すときは、顧客の委託による注文か自己の計算による注文かを示すよう、取引所の業務規程が定めています4。2 つの役割の違いを並べると、次の表になります。
| 項目 | ディーラー | ブローカー |
|---|---|---|
| 誰の計算か(損益は誰のものか) | 自己の計算(ディーラーのもの) | 顧客の計算(顧客のもの) |
| 店頭デリバティブでの役割 | 顧客やほかのディーラーの相手方になる | 当事者どうしを仲介する(インターディーラー・ブローカーなど) |
| 抱えるリスク | 顧客との取引で抱えた持ち高の、ヘッジを終えるまでの相場の動き | 相場の動きのリスクは負わない(損益は顧客のもの) |
| 取引所での役割 | マーケット・メイカーとして売りと買いの値段を出し続け、自分の計算で売買する | 取引参加者として、顧客の注文を取引所に取り次ぐ |
| 日本の法令での区分 | デリバティブ取引そのもの(金融商品取引法第 2 条第 8 項第 1 号、第 4 号) | デリバティブ取引の媒介、取次ぎ、代理(同項第 2 号から第 4 号) |
店頭デリバティブでの役割
店頭デリバティブでは、一般にディーラーが顧客の相手方になって取引を成立させます5。変動金利で借入れをしている C 社が、G 銀行と想定元本 100 億円、期間 5 年の金利スワップを結ぶ架空の例で考えます。C 社が年 1.02% の固定金利を払い、G 銀行が変動金利を払います。C 社は、借入れの変動金利の利払いを、実質的に固定金利にできます。G 銀行から見ると、固定金利を受け取り変動金利を払う取引で、金利が上がると不利になります6。
日本銀行の分析では、円の金利スワップで銀行などのディーラーが、事業法人、機関投資家、銀行などの顧客の求めに応じて、固定金利を払う取引と受け取る取引の両方の相手方になります。ディーラーは、マーケット・メイカー(売りと買いの両方の相手方になる業者)としての機能を果たしています6。
日本銀行は、金融庁が集めた取引ごとのデータで、円の金利スワップを分析しています。データの対象は、取引当事者の少なくとも一方が日本の金融機関か、日本にある外国の金融機関である取引です7。その分析では、外国銀行・外国証券会社、国内の証券会社、大手行などのディーラーの取引が、取引全体の約 9 割(2020 年時点)を占めました。この高い割合は、ディーラーが固定金利を受け取る取引と払う取引を両方とも多く行っていることを反映しています8。
ブローカーは、店頭の取引では当事者どうしを引き合わせ、自分は相手方になりません。特に、ディーラーどうしの取引を仲介するブローカーを、インターディーラー・ブローカーといいます。米国の商品先物取引委員会(CFTC)は、2018 年 11 月の規則案の中で、インターディーラー・ブローカーを、主にディーラーどうしのスワップの取引を仲介する仕組みを運営する業者と説明しています9。G 銀行が年 1.00% 前後で固定金利を払うスワップの相手を探している架空の例で考えます。インターディーラー・ブローカーは、同じ条件で固定金利を受け取りたいほかのディーラーを探し、値段と条件をまとめます。
米国のインターディーラー・ブローカーは、音声による仕組みか、音声と、注文の一覧(オーダー・ブック)などの電子の仕組みを組み合わせた仕組みで、取引をまとめます。ディーラーは、相場の状況を知るためや、取引の前に自分の名前を相手に知られないために、この仕組みを使います10。仕組みの一部を、スワップ執行施設(SEF)という取引の場として登録したものもあります11。
抱えるリスクとヘッジ
ディーラーは、顧客との取引で抱えた持ち高を、ほかのディーラーとの反対方向の取引などで調整し、金利リスクをヘッジするのが一般的です12。G 銀行と C 社の金利スワップの例で、G 銀行が同じ日に H 証券と想定元本 100 億円、期間 5 年の金利スワップを結び、年 1.00% の固定金利を払って変動金利を受け取るとします。2 つの取引の変動金利の受け払いが同じ条件なら打ち消し合います。G 銀行には、固定金利の差の年 0.02%、100 億円なら年 200 万円が残ります。
図の説明
金利スワップ 2 つの受け払いです。顧客の C 社は G 銀行に年 1.02% の固定金利を払い、G 銀行から変動金利を受け取ります。ディーラーの G 銀行は、同じ条件の変動金利を H 証券から受け取り、H 証券に年 1.00% の固定金利を払います。G 銀行の変動金利の受け払いは打ち消し合い、固定金利の差の年 0.02% が G 銀行に残ります。
ヘッジの相手がすぐに見つかるとは限らず、ヘッジを終えるまでの相場の動きはディーラーの得にも損にもなります。ニューヨーク連邦準備銀行の 2012 年時点の分析では、大きな取引で顧客の取引に応じるのは、マーケット・メイクをする業者であることが多くあります。その業者は、手ごろな値段でリスクを打ち消せるまで、持ち高を持ち続けます13。H 証券と取引する前に相場が動き、G 銀行が払う固定金利が年 1.10% になれば、受け取る 1.02% との差で年 0.08% の損です。100 億円なら年 800 万円になります。逆に年 0.90% で済めば、年 0.12%、年 1,200 万円の得です。ブローカーは、取り次いだり仲介したりした取引の相手方にならないため、こうした相場の動きの損益を負いません。ヘッジと投機の違いはヘッジ・投機・裁定で扱います。
ヘッジの手段は反対の金利スワップだけではありません。ニューヨーク連邦準備銀行の分析にあるディーラーへの聞き取りでは、金利スワップのディーラーは大きな顧客取引の後、まず金利リスクを打ち消そうとします。そのために店頭のスワップのほか、取引所の債券先物や国債の売買も使います。スワップの持ち高は、ほかのディーラーとの取引か、反対の取引をしたい顧客との取引で打ち消します14。日本銀行の分析も、ディーラーは現物や先物などの取引も使い、保有する取引全体で金利リスクを管理していると注記しています15。
取引所での役割
取引所では、マーケット・メイカーが売りと買いの値段を出し続けて投資家の注文に応じ、ブローカーは投資家の注文を取り次ぎます。大阪取引所は、先物とオプションの一部を対象に、指定を受けた取引参加者がマーケット・メイクをするマーケット・メイカー制度を設けています。ここでのマーケット・メイクは、売りの値段(売呼値)と買いの値段(買呼値)を継続して出すことです16。日経225mini のマーケット・メイカーが、買呼値 29,995、売呼値 30,005 を出し続ける架空の例で考えます。売りたい投資家も買いたい投資家も、すぐに取引できる相手がいることになります。
マーケット・メイカーが出した呼値で売買が成立すると、その取引はマーケット・メイカーの計算による取引になります。取引参加者が最終顧客の計算でマーケット・メイクをするときは、大阪取引所はその最終顧客をマーケット・メイカーと呼ぶことがあり、損益は最終顧客のものです17。大阪取引所は、値段を出す時間や売呼値と買呼値の差の上限などの条件を決め18、条件を満たした度合いに応じて取引手数料の割引などをします19。呼値の単位は限月と呼値で扱います。
取引所の先物やオプションを売買できるのは、その取引所の取引参加者などに限られます。J 社が日経225mini を 2 単位買う注文を K 証券に出す架空の例で考えます。K 証券は J 社の委託による注文として取引所に出します。買えれば、J 社の取引になります。金融商品取引法は、取引所の市場で売買などができる者を、その取引所の会員等(会員と取引参加者)に限っています20。
顧客の取引の担保も、ブローカーを通して清算機関に預けます。顧客が証券会社などに差し入れた証拠金は、清算機関の清算に参加している証券会社など(清算参加者)を通じて、日本証券クリアリング機構(JSCC)に預けられます21。
日本の法令での区分
日本では、デリバティブ取引をする業務も、その媒介や取次ぎの業務も、金融商品取引法の金融商品取引業に当たります。同法は、次の行為などを業として行うことを金融商品取引業と定めています(政令で除かれるものなどを除く)23。
| 行為 | 主に当たる役割 | 金融商品取引法の条 |
|---|---|---|
| 市場デリバティブ取引(一部を除く)そのもの | ディーラー | 第 2 条第 8 項第 1 号 |
| 市場デリバティブ取引の媒介、取次ぎ、代理 | ブローカー | 第 2 条第 8 項第 2 号 |
| 取引所の市場での市場デリバティブ取引の委託の媒介、取次ぎ、代理 | ブローカー | 第 2 条第 8 項第 3 号 |
| 店頭デリバティブ取引と、その媒介、取次ぎ、代理 | ディーラーとブローカー | 第 2 条第 8 項第 4 号 |
金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行えません。店頭デリバティブ取引とその媒介などは、第一種金融商品取引業に入ります24。銀行などの金融機関は、有価証券に関係するもの以外のデリバティブ取引とその媒介などを業として行えます。そのときは、この登録の代わりに、金融機関の登録を受けます。この登録を受けた金融機関を登録金融機関といいます25。銀行法も、銀行が営める付随業務に、デリバティブ取引(内閣府令で定めるもの)と、その媒介、取次ぎ、代理を挙げています26。
注
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大阪取引所「指数先物取引制度要綱」(2026 年 4 月 13 日現在)の 2 ページ、Ⅰ の 1(2)「Large取引、Mini取引及びMicro取引」。 ↩
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金融経済教育推進機構(J-FLEC)「証券会社ってどんな会社?」(金融経済ナビ)の「証券会社の4大業務」。 ↩
-
日本取引所グループ「取引参加者(用語集)」。 ↩
-
Federal Reserve Bank of New York, Staff Report No. 557(2012 年 3 月)の 3〜4 ページ、"II. Background on the IRD Market"。 ↩
-
日本銀行金融市場局「店頭デリバティブ取引データからみた円金利スワップ市場」(日銀レビュー 2021-J-7、2021 年 6 月)の 1〜2 ページ、「金利スワップ取引の概要」。 ↩ ↩2
-
同じ資料の 2 ページ、「店頭デリバティブ取引データの概要」と、7 ページ、脚注 2。 ↩
-
CFTC の規則案 "Swap Execution Facilities and Trade Execution Requirement"(Federal Register、2018 年 11 月 30 日)の 61957 ページ、"c. Swaps Broking Entities, Including Interdealer Brokers"。 ↩
-
同じ資料の 61958 ページ、"(1) Structure and Operations of Swaps Broking Entities, Including Interdealer Brokers"。 ↩
-
同じ資料の 61958 ページ、"(1) Structure and Operations of Swaps Broking Entities, Including Interdealer Brokers" の 2 段落目。 ↩
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日本銀行金融市場局「店頭デリバティブ取引データからみた円金利スワップ市場」の 2 ページ、「金利スワップ取引の概要」。 ↩
-
Federal Reserve Bank of New York, Staff Report No. 557 の 14 ページ、"VIII. Notional Trade Sizes"。 ↩
-
同じ資料の 18 ページ、"IX. Market-Making Activity"。 ↩
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日本銀行金融市場局「店頭デリバティブ取引データからみた円金利スワップ市場」の 7 ページ、脚注 1。 ↩
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大阪取引所「先物・オプション取引に係るマーケットメイカー制度の取扱い」(2026 年 6 月 30 日改正、2026 年 8 月 3 日適用)の 1 ページ、Ⅱの 1「定義」と、3〜4 ページ、Ⅱの 2「対象取引・種類」。 ↩
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同じ資料の 1〜2 ページ、Ⅱの 1「定義」の備考欄と、8 ページ、Ⅱの 4(2)①「取引手数料の割引」。 ↩
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同じ資料の 7 ページ、Ⅱの 4(1)①「マーケットメイクの条件」。 ↩
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同じ資料の 8 ページ、Ⅱの 4(2)「PMM のインセンティブ」。 ↩
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「金融商品取引法」第 111 条第 1 項。「会員等」は会員と取引参加者(第 81 条第 1 項第 3 号)。 ↩
-
日本証券クリアリング機構「先物・オプション取引に係る取引証拠金」の「顧客が差し入れる証拠金」。 ↩
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大阪取引所「先物・オプション取引に係るマーケットメイカー制度の取扱い」の 5 ページ、Ⅱの 3(2)「マーケットメイカーの指定申請」。 ↩
-
「金融商品取引法」第 2 条第 8 項第 1 号から第 4 号。 ↩
-
「金融商品取引法」第 29 条(登録)、第 28 条第 1 項第 2 号(第一種金融商品取引業)。 ↩
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「金融商品取引法」第 33 条第 3 項、第 33 条の 2 第 3 号、第 2 条第 11 項(登録金融機関)。 ↩
-
「銀行法」第 10 条第 2 項第 12 号、第 13 号。 ↩