地域銀行で ALM やリスク管理を担う人は、預金、貸出、有価証券の金利と為替の変動への備えとして、デリバティブに関わります。取引先を担当する人は、事業会社にデリバティブを提供する場面で関わります。
地域金融機関の範囲と抱えるリスク
金融庁の資料では、地方銀行と第二地方銀行を合わせて地域銀行と呼び、信用金庫と信用組合を加えた範囲を地域金融機関と呼んでいます1。2026 年 3 月末の時点で、地域銀行は 97 行、信用金庫と信用組合は合わせて 397 でした2。以下の例と資料は、主に地域銀行についてのものです。
資産と負債の金利の決まり方や期間が合わないと、金利が動いたときに損をするおそれがあります。これを金利リスクといいます。金利が動く局面では、預金と貸出の金利が市場の金利にどれだけついていくかが、金融機関の収益やバランスシートに影響しえます。そのため、預金、貸出金、有価証券などの資産と負債をまとめて見るリスク管理(ALM)に、より注意が求められます3。実例として、ある地方銀行は、預金などで集めた資金を貸出や有価証券で運用するため金利変動の影響を受けやすく、ALM の一環としてデリバティブを取引しています4。
外国債券を持つ地域金融機関は、円に換えたときの価値が為替相場で動く為替リスクも負います。損失を抑えるヘッジと、利益を狙う投機の違いは、ヘッジ・投機・裁定で扱います。
金利スワップで金利のずれを調整する
変動する金利の預金で固定金利の貸出をまかなう銀行は、固定金利を払い変動金利を受け取る金利スワップを結ぶと、利ざやの縮小を抑えられます。預金の金利が上がったときに差が出ます。
期間 5 年、固定金利 2.0% の貸出 100 億円を預金でまかなう A 銀行の架空の例で考えます。預金の金利は毎年、その年の指標金利と同じ水準に見直されるとします。A 銀行は、想定元本 100 億円、期間 5 年で、固定金利 1.5% を払い、指標金利を受け取る金利スワップを結びます。利払いは年 1 回とします。
図の説明
毎年の利払いの向きです。貸出の利息を受け取る流れは省いています。
| その年の指標金利 | 貸出の利息(万円) | 預金の利息(万円) | スワップなしの利ざや(万円) | スワップの差し引きの受け取り(万円、マイナスは支払い) | スワップありの利ざや(万円) |
|---|---|---|---|---|---|
| 0.5% | 20,000 | 5,000 | 15,000 | −10,000 | 5,000 |
| 1.5% | 20,000 | 15,000 | 5,000 | 0 | 5,000 |
| 2.5% | 20,000 | 25,000 | −5,000 | 10,000 | 5,000 |
指標金利が上がるとスワップの受け取りが預金の利息の増えた分を埋め、下がるとスワップの支払いが預金の利息の減った分を削るので、どちらでも利ざやは年 5,000 万円です。スワップがなければ、指標金利が 2.5% に上がると赤字になり、0.5% に下がると利ざやは大きくなっていました。
先に挙げた地方銀行は、ALM の一環の金利スワップを、貸出金と債券の金利変動のリスクをヘッジする手段にしています5。
デリバティブを使わずに金利のずれを縮める方法もあります。日本銀行の 2026 年 4 月の金融システムレポートによると、地域金融機関の中には、固定金利の貸出が満期を迎えたときに市場金利に連動する貸出に切り替える先があります6。有価証券でも、長めの年限の債券の残高が減り、金利リスク量は下がる傾向にあります7。
例では預金の金利を指標金利と同じ水準にしましたが、実際の預金の金利がそうなるとは限りません。2025 年 12 月の政策金利の引き上げを受けて多くの金融機関が普通預金の金利を引き上げましたが、その水準は同じ時期の無担保コールレート(翌日物)を下回っています8。金利を見直す時期が決まっておらず、いつでも引き出せる預金のうち、引き出されずに長く銀行に残る部分をコア預金といいます。コア預金をどう定めるかによって、計算される金利リスクの量は大きく変わります9。
日本銀行の 2021 年 6 月の資料によると、新しく結ぶ円金利スワップのうち清算機関を通す取引の割合は、2014 年の 6〜7 割から 2017 年以降は 9 割程度に上がりました。日本銀行の区分の「地銀等」(地方銀行のほか信用金庫などを含む)では、この割合が特に大きく上がりました。日本銀行は、2014 年 12 月に取引規模 1 兆円以上、2015 年 12 月に 3,000 億円以上の金融機関の取引に清算集中が義務づけられた効果と見ています10。
外国債券の為替のリスクをヘッジする
外国債券の元本の為替リスクは、為替予約や為替スワップなどでヘッジできますが、2 つの通貨の金利の差にあたるヘッジコストがかかります。先物相場は 2 つの通貨の金利の差を埋めるように決まり、ドルの金利が円の金利より高いと、先物相場は今の相場より円高になるためです11。日本銀行の資料は、日本の生命保険会社が外貨建て債券の為替ヘッジに為替スワップなどを使っているとの指摘を紹介しています12。
1 ドル 150 円のときに利回り年 4% の米国債 1 億ドルを 150 億円で買い、1 年後に 1 億ドルを 1 ドル 147 円で売る為替予約でヘッジする B 銀行の架空の例で考えます。元本は為替相場によらず 147 億円で円に戻り、買ったときの 150 億円との差の 3 億円がヘッジコストです。為替ヘッジは、円高の損を防ぐ代わりに円安の得を手放す仕組みです。
ヘッジを 1 年ごとに結び直すと、ヘッジコストはそのときの金利の差で変わります。B 銀行の債券の利息は年 400 万ドルで、1 ドル 150 円で円に換えると年 6 億円です。ドルで見た債券の価格は変わらず、結び直す日の相場も 150 円とします。
| 結び直すときの 1 年後の先物相場 | ヘッジコスト(億円) | 債券の利息(億円) | 差し引き(億円) |
|---|---|---|---|
| 147 円 | 3 | 6 | 3 |
| 144 円 | 6 | 6 | 0 |
| 141 円 | 9 | 6 | −3 |
ドルの金利が円の金利より大きく上がり、先物相場が 141 円まで円高の側に離れると、ヘッジコストが利息を上回り、差し引きで年 3 億円の赤字になります。
地域銀行を含む日本の金融機関は、外貨の調達の多くを市場に頼っています13。過去の低金利のときに買った外国債券の中には、2022 年以降の外貨の調達金利の大幅な上昇で、調達の費用が利回りを上回る銘柄も見られます14。
地域金融機関の実例では、先に挙げた地方銀行が、為替変動のリスクに通貨スワップや為替スワップなどを使っています15。
取引先にデリバティブを提供する
地域銀行は、取引先の事業会社と店頭デリバティブを取引するとともに、大手行や外国銀行などのほかの金融機関とも取引しています16。3 か月後に輸入の代金 100 万ドルを払う C 社が、取引先の D 銀行(地域銀行)と、1 ドル 150 円で 100 万ドルを買う為替予約を結ぶ架空の例で考えます。D 銀行は同じ日に、大手のディーラーの E 銀行と、1 ドル 150 円で 100 万ドルを買う為替予約を結びます。取引先との予約はすべて反対の予約で打ち消し、2 つの予約の相場は同じとして、手数料は考えません。
図の説明
3 か月後の受け渡しの向きです。D 銀行は、C 社から受け取る円を E 銀行に払い、E 銀行から受け取るドルを C 社に渡します。
| 3 か月後の相場(1 ドル) | C 社との予約による D 銀行の得と損(万円) | E 銀行との予約による D 銀行の得と損(万円) | D 銀行の合計(万円) |
|---|---|---|---|
| 160 円 | −1,000 | 1,000 | 0 |
| 150 円 | 0 | 0 | 0 |
| 140 円 | 1,000 | −1,000 | 0 |
160 円の円安になると、D 銀行は 1 億 6,000 万円の価値のあるドルを C 社に 1 億 5,000 万円で売るため、C 社との予約で 1,000 万円を失います。E 銀行からは同じドルを 1 億 5,000 万円で買えるので同額を得て、合計は 0 円です。E 銀行との予約がなければ、D 銀行は円安で 1,000 万円を失い、140 円の円高では 1,000 万円を得ます。
運用として持つ仕組貸出のリスク
仕組貸出は、貸出の形をとりながら、有価証券を裏付けにしてデリバティブを組み込んだ取引です20。ここでの仕組貸出は、地域銀行が運用として持つ側の資産で、前の節の取引先へのデリバティブの提供とは別の話です。仕組貸出は実質的には有価証券の運用です。金融庁によると、2025 年 9 月末の時点で、地域銀行の 8 割強が仕組貸出を持ち、残高は 11 兆円程度、評価損は 0.4 兆円程度でした。仕組貸出は、デリバティブを組み込み、特別目的会社(SPC)などを使って有価証券を貸出に変えるなど、リスクの構造が複雑です21。
リスク管理の面では、リスクの特性をつかみにくいこと、追加の取引コストがかかること、流動性が低くストレスのときの対応を妨げうることが注意点です。開示の面では、会計上は貸出金として開示されるため、外の関係者から実態が見えにくいことが注意点です21。金利や流動性、スワップの取引相手、オプションの非線形のリスクの計測が十分でない例も、懸念事例に挙がっています22。
銀行勘定の金利リスクの監督
銀行勘定は、トレーディング(特定取引)以外の取引をまとめた区分です23。金利ショックによる銀行勘定の経済的価値の減少額(ΔEVE)は、決められた幅で金利が動いたと想定したとき、銀行勘定の資産と負債から見た価値がどれだけ減るかを表します。国内基準行(自己資本比率に国内の基準を使う銀行)では、ΔEVE が自己資本の額の 20% を超えると、追加の分析の対象です24。自己資本の額が 1,000 億円の国内基準行の架空の例で考えます。ΔEVE が 250 億円なら、比率は 25% で 20% を超えます。ΔEVE が 150 億円なら 15% で、超えません。
深掘りΔEVE を計算するシナリオと国際統一基準行の基準
国内基準行の ΔEVE は、監督指針が挙げる 3 つのシナリオ(上方パラレルシフト、下方パラレルシフト、スティープ化)で計算した値のうち、最も大きいものを使います。国際統一基準行では、ΔEVE の最大値が Tier1 資本の額の 15% を超えるかを見ます24。
固定金利を払う金利スワップは金利が上がると有利になるため25、決められた幅で金利が上がると想定したときに ΔEVE が大きくなる銀行では、ΔEVE を小さくする向きに働きます。この基準に当たったことで、過大なリスクをとっているとはみなされず、改善が自動的に求められるわけでもありません26。
日本銀行の 2026 年 4 月の金融システムレポートによると、資産の側の貸出と有価証券、負債の側の預金を合わせた金融機関の銀行勘定全体では、円金利のリスク量が自己資本と比べて低い水準にあります。資産の側と負債の側のリスク量も、おおむね釣り合っています27。
2023 年 9 月の時点で、地域銀行のうち有価証券運用でとるリスクが大きい銀行は、選ばれて重点的に監視されています。参考になる例は、銀行勘定の金利リスクの比率と ΔEVE を通貨別、シナリオ別に見て要因を分析する取組みです28。2026 年 7 月の報告書では、早期警戒制度の枠組みや検査などを通じて、地域金融機関の有価証券運用の市場リスクをモニタリングしたとしています29。監督指針の全体の構成は金融庁の監督指針で扱います。
注
-
金融庁「地域銀行 有価証券運用モニタリングレポート」(2023 年 9 月)のページ 1(PDF の 3 ページ目)、脚注 5。 ↩
-
金融庁「預金取扱等金融機関モニタリング・分析レポート」(2026 年 7 月)のページ 41(PDF の 43 ページ目)、図表Ⅳ-3-3の(注2)と脚注 43(「協同組織金融機関」は信用金庫と信用組合)。 ↩
-
同じ資料のページ 11(PDF の 13 ページ目)、Ⅱ.4.「小括」の第 2 段落。 ↩
-
株式会社岩手銀行「ディスクロージャー誌2026【統合報告書 資料編】」のページ 7(PDF の 8 ページ目)、連結財務諸表の注記の「金融商品関係」の (1)「金融商品に対する取組方針」。 ↩
-
同じ資料のページ 7(PDF の 8 ページ目)、「金融商品関係」の (2)「金融商品の内容及びそのリスク」の最後の 2 段落。 ↩
-
日本銀行「金融システムレポート(2026 年 4 月)」のページ 45(PDF の 50 ページ目)、脚注 16。 ↩
-
同じ資料のページ 37(PDF の 42 ページ目)、Ⅳ.2.の「金利リスク」の本文と図表Ⅳ-2-1。 ↩
-
同じ資料のページ 10(PDF の 15 ページ目)、Ⅱ.2.の「短期金融市場」の本文と、ページ 68(PDF の 73 ページ目)、Ⅵ.1.(2)「金利上昇と金融機関の基礎的収益力」の本文。 ↩
-
金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅡ-2-5-2(2)②(ページ 47〜48)。 ↩
-
日本銀行金融市場局「店頭デリバティブ取引データからみた円金利スワップ市場」(日銀レビュー 2021-J-7、2021 年 6 月)のページ 6 の BOX「清算集中比率」と、ページ 3 の図表 4 の(注 2)(地銀等の範囲)。 ↩
-
投資信託協会「為替ヘッジってなに?‐2」(メールマガジン No.183、2009 年 6 月 3 日発行)の「フォワードレートの決まり方」と「ヘッジコスト」。 ↩
-
日本銀行金融機構局「生命保険会社の国際比較:ビジネスモデルの変化に伴う金融安定上の論点」(日銀レビュー 2026-J-7、2026 年 5 月)の脚注 18(ページ 8)。 ↩
-
金融庁「地域銀行 有価証券運用モニタリングレポート」(2023 年 9 月)のページ 11(PDF の 13 ページ目)、Ⅱ.2.(4) ②「外貨流動性ストレステスト」。 ↩
-
同じ資料のページ 13(PDF の 15 ページ目)、Ⅱ.2.(5) ②「期間損益減少リスクへの備え」。 ↩
-
株式会社岩手銀行「ディスクロージャー誌2026【統合報告書 資料編】」のページ 8(PDF の 9 ページ目)、「金融商品関係」の (3) ② b「為替リスクの管理」。 ↩
-
金融庁「店頭デリバティブ取引市場の多面的実態把握に向けた検証」(FSA Analytical Notes、2026 年 3 月)のページ 6、図表 10 と脚注 13(「地域銀行」の範囲)。集計の対象は、2024 年 4 月 1 日から 2025 年 9 月 30 日までに約定し、金融庁に報告された取引(ページ 2)。 ↩
-
金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅡ-2-4-2(7)①と②(ページ 45)。 ↩
-
金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅡ-3-2-1-2(2)①イの a〜c(ページ 85〜87)。 ↩
-
同じ資料のⅡ-3-2-1-2(2)①イの g(ページ 87)。 ↩
-
金融庁「預金取扱等金融機関モニタリング・分析レポート」(2026 年 7 月)の脚注 42(ページ 41、PDF の 43 ページ目)。 ↩
-
金融庁「地域銀行における仕組貸出モニタリングレポート(2026)概要」(2026 年 3 月)の 1 ページ目、「地域銀行の取組状況」と「モニタリングにおける主な論点等」。 ↩ ↩2
-
同じ資料の 2 ページ目、「懸念事例」の「入口審査」。 ↩
-
同じ資料のⅡ-2-5-2(1)③(ページ 47。特定取引(トレーディング)部門と非特定取引(バンキング)部門)と、開示の着眼点のⅢ-4-9-4-4(1)⑥イ(ページ 281。「銀行勘定と特定取引勘定を区別すること」)。 ↩
-
金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅡ-2-5-3(2)②イ(ページ 50〜51)。 ↩ ↩2
-
日本銀行金融市場局「店頭デリバティブ取引データからみた円金利スワップ市場」(日銀レビュー 2021-J-7、2021 年 6 月)のページ 3 の本文(固定受けは金利が低下すると有利、固定払いはその逆)。 ↩
-
金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅡ-2-5-3(2)②の(注3)(ページ 51)。 ↩
-
日本銀行「金融システムレポート(2026 年 4 月)」のページ 38(PDF の 43 ページ目)の本文と図表Ⅳ-2-3「銀行勘定の金利リスク」。 ↩
-
金融庁「地域銀行 有価証券運用モニタリングレポート」(2023 年 9 月)のページ 1(PDF の 3 ページ目)の「Ⅰ.公表の趣旨」と、ページ 12(PDF の 14 ページ目)の (5) ①の参考事例。 ↩
-
金融庁「預金取扱等金融機関モニタリング・分析レポート」(2026 年 7 月)のページ 41(PDF の 43 ページ目)、Ⅳ.3.「地域金融機関のモニタリング」の第 1 段落。 ↩