資産運用の担当者は外貨建て資産の為替や株式の資産配分を、リスク管理の担当者は資産と負債の金利を考えるときに、デリバティブを使います。

機関投資家の範囲と抱えるリスク

機関投資家には、生命保険会社、年金基金、投資信託の運用会社などが含まれます。日本版スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家のリストがあります。リストでは、信託銀行等、投信・投資顧問会社等、生命保険・損害保険会社、年金基金等、その他に区分されています1。機関投資家は、資金の運用を受託して投資する運用機関と、その資金の出し手を含むアセットオーナーに大別されます2。

機関投資家が運用する資産は、為替、株価、金利の値動きで価値が変わります3。生命保険会社は、金利のリスクや為替のリスクをヘッジするためにデリバティブの利用を進めています4。

損失を抑えるヘッジと、利益を狙う投機の違いは、ヘッジ・投機・裁定で扱います。

外貨建て資産の為替をヘッジする

外貨建ての資産を持つ機関投資家は、為替予約などで将来の円への交換の相場を先に決め、為替リスクを小さくできます。為替の値動きによる円での価値の変動を抑えるこの取引を、為替ヘッジといいます5。未生命(生命保険会社)が 1 億ドルの米国債を持ち、今の相場が 1 ドル 150 円の架空の例で考えます。円での価値は 150 億円です。未生命が、1 年後に 1 億ドルを 1 ドル 147 円で売る為替予約を結んだとします。説明のため、ドルで見た債券の価格は変わらないものとし、利息は考えません。図 1 は、この為替予約の 1 年後の損益です。

−30−20−100+10+20147損益(円)1 年後の相場(1 ドル)(円)利益損失損益分岐点 147
図 1未生命の為替予約(1 ドル 147 円で売る)の満期の損益
図の説明

1 年後に 1 ドルを 147 円で売る為替予約の、1 ドルあたりの損益です。1 年後の相場が 147 円より円高(ドルが安い)なら利益、円安(ドルが高い)なら損失になり、相場が動いた分だけ変わります。縦軸に 1 億ドルを掛けた額が、下の表の為替予約の損益です。

1 年後の相場(1 ドル) ヘッジなしの円での価値(億円) 為替予約の損益(億円) ヘッジありの合計(億円)
130 円(円高) 130 17 147
150 円(変わらず) 150 −3 147
170 円(円安) 170 −23 147

1 年後に 1 ドル 130 円の円高になると、ヘッジなしでは円での価値が 20 億円減ります。為替予約では 130 円のドルを 147 円で売れるため、差の 17 億円が利益になり、合計は 147 億円です。反対に 170 円の円安になると、ヘッジなしでは 20 億円増えます。しかし為替予約で 170 円のドルを 147 円で売るため 23 億円の損失が出て、合計はやはり 147 億円です。為替ヘッジは、円高の損失を防ぐ代わりに、円安の利益も手放します。

為替予約の相場(先物相場)は、今の相場(直物相場)と 2 つの通貨の金利の差で決まります。ドルの金利が円の金利より高いと、先物相場は直物相場より円高になります。この例の 147 円は、ドルの金利が円の金利より高いことを前提にした値です。1 億ドルを今の 150 円ではなく 147 円で売るため、3 億円の差が出ます。金利の差から生じるこの費用を、ヘッジコストといいます。投資信託協会の説明の例では、金利の高い外国の国債に投資して為替ヘッジをすると、ヘッジコストを差し引いた利回りは円の金利と同じ水準になります6。

機関投資家ごとの為替ヘッジの使い方は次のとおりです。

  • 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用資金には、為替ヘッジを付けた外国債券のファンドに配分した分があり、その分は国内債券として扱っています。為替ヘッジの取引には、為替予約など(GPIF の用語では為替先渡取引)があります5。
  • 日本の生命保険会社は、外貨建て債券の為替ヘッジに為替スワップなどを使っています。米国の金利が上がってヘッジコストが増えたため、為替スワップなどによるヘッジは近年減っています7。
  • 投資信託にとっての為替ヘッジは、為替の変動で基準価額が動く可能性を小さくすることで、一般に為替予約を使います8。

株価指数先物で資産配分を調整する

株価指数先物は、資産配分を目標に戻すリバランスで、株式の売買を終えるまでの値動きの影響を抑えるために使われます。運用資産 1 兆円の申年金基金が、国内株式を資産全体の 25%(2,500 億円)にする目標を持つ架空の例で考えます。株価の上昇とほかの資産の値下がりが重なり、資産全体は 1 兆円のまま、国内株式が 2,700 億円になったとします。目標より 200 億円多いため、200 億円分を売って目標に戻します。この例では株式を売り終えるまでに数日かかるとし、まず 200 億円分の株価指数先物を売り、株式を売り終えたら先物を買い戻します。説明のため、保有する株式と先物は同じ率で動くとし、手数料は考えません。

株式を売り終えるまでの株価 株式の売却額(億円) 先物の損益(億円) 合計(億円)
3% 下落 194 6 200
変わらず 200 0 200
3% 上昇 206 −6 200

株価が 3% 下がると、株式の売却額は 6 億円減りますが、先に売った先物で 6 億円の利益が出て、合計は 200 億円です。株価が 3% 上がると、株式は 6 億円多く売れますが、先物で 6 億円の損失が出ます。先物を使うと、売ると決めた時点の株価に近い金額で配分を戻せる一方、その後の値上がりの利益は手放します。

GPIF は、長期的な資産構成の目安を基本ポートフォリオとして定めています。2025 年 4 月 1 日から適用する基本ポートフォリオは、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式をそれぞれ 25% としています。資産ごとに ±5〜6% の乖離許容幅(基本ポートフォリオからのずれを認める幅)も置いています9。GPIF は株式に直接投資できず、国内債券の一部を除いて、個別の銘柄を選ぶ判断を外部の運用受託機関に任せています。一方で、リバランスの判断は GPIF が行います10。

GPIF は、法令に従い、保有する資産の売却の一時的な代わりとして株価指数先物を使います。投機を目的とした株価指数先物の取引はしません11。先物には、証拠金の差し入れと毎日の値洗いがあります。

金利スワップで金利リスクを調整する

負債の期間が長い生命保険会社が金利リスクを調整するため、金利が動いたときの資産と負債の値動きの差を小さくする手段の 1 つに、金利スワップがあります。金利が 0.01% 動いたときの価値の変化を DV01 といいます。生命保険会社の未生命が持つ資産の国債と、負債(将来の保険金の支払い)の時価がどちらも 1 兆円の架空の例で考えます。資産の DV01 は 10 億円、負債の DV01 は 15 億円で、金利が下がるとどちらの価値も上がります12。未生命が、DV01 が 5 億円の、固定金利を受け取り変動金利を払う金利スワップを結んだとします。

金利の動き 資産の変化(億円) 負債の変化(億円) 資産と負債の差の変化(億円) 金利スワップの変化(億円) スワップを含めた差の変化(億円)
0.1% 低下 100 150 −50 50 0
0.1% 上昇 −100 −150 50 −50 0

金利が 0.1%(0.01% の 10 倍)下がると、資産は 100 億円、負債は 150 億円増え、資産から負債を引いた差は 50 億円減ります。固定金利を受け取り変動金利を払う側は、金利が下がると払う変動金利が減って得をする立場です13。この例では金利スワップの価値が 50 億円上がり、差の減少を埋めます。金利が 0.1% 上がると、資産と負債の差は 50 億円増えますが、金利スワップで 50 億円を失い、この増加を手放します14。

終身保険や養老保険のような期間の長い契約が多い日本の生命保険会社では、負債のデュレーション(保険金を払うまでの期間)が 10 年を超えています(2024 年度末、開示データのある大手 4 社の中央値)15。日本では 2026 年 3 月末から、負債も時価で評価する経済価値ベースのソルベンシー規制の適用が始まっています16。

保有する国債の値下がりを抑える方法には国債先物の売りもあります17。

2023 年 1 月時点で、生命保険会社は、経済価値ベースのソルベンシー規制の導入を見据えて、資産と負債のデュレーションの差を縮めていました。主な手段は超長期債の積み増しでした。デリバティブやレポ(国債などの債券の貸し借り)を使う取引はレバレッジ取引と呼ばれ、金利スワップやレポも規模は限られるものの増えていました。大手 4 社の金利スワップは、固定金利を受け取る取引が払う取引を上回っていました(想定元本の差し引き)18。

証拠金の追加と英国の企業年金の事例

日本銀行は、生命保険会社が金利や為替のヘッジに使うデリバティブについて、市場にストレスが生じたときの追加の証拠金の差し入れを、潜在的なリスクとして挙げています19。清算機関を通さない店頭デリバティブの証拠金は証拠金規制のページで扱います。

英国では 2022 年 9 月下旬、大規模な減税を含む政府の財政パッケージの発表をきっかけに、長期金利が急に上がりました。英国の企業年金の一部は、債務主導投資(LDI)を採用していました。LDI は、負債の時価の動きに合わせて資産の時価が動くように運用する方法です。これらの企業年金は、固定金利を受け取り変動金利を払う金利スワップなどで、負債と資産の金利に対するバランスをとっていました。企業年金から運用を受託し、デリバティブやレポでレバレッジ取引をしていたファンドは、金利の急上昇で巨額の追加証拠金を求められ、資産の一部を売りました。その売却がさらに金利を押し上げ、イングランド銀行は国債の一時的な買入策を発表しました20。

2023 年 1 月時点で、日本の企業年金の多くは、あらかじめ決めた資産の構成割合(政策的資産構成割合)に沿って運用しており、当時レバレッジはあまり使っていませんでした21。

投資信託のデリバティブ取引の上限

投資信託のデリバティブ取引には、規則で上限が定められています。運用会社(委託会社)は、金利や通貨の価格などの変動で生じうる危険に対応する額を、あらかじめ定めた方法で計算します。その額が投資信託の純資産総額を超えるデリバティブ取引はできません22。

デリバティブ取引をヘッジ以外の目的で使う投資信託は、約款に投資態度をはっきり書きます。長期公社債投信や中期国債ファンドなどは、デリバティブ取引をヘッジ目的に限ります23。約款は投資信託契約の内容を定めたもので、運用会社は契約を結ぶ前にその内容を内閣総理大臣に届け出ます24。約款で為替予約をヘッジ目的に限った投資信託では、売る予約の対象は保有する外貨建て資産などです。予約の額は、規則の細則が定める限度の中に収めます25。

注

  1. 金融庁「スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家のリストの公表について」の、令和 8 年(2026 年)6 月 30 日時点のリストの区分。「その他」は機関投資家向けサービス提供者等。 ↩

  2. 金融庁「「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫」(2025 年 6 月 26 日)の前文 4. のページ 2(PDF の 3 ページ目)。 ↩

  3. 為替と株価は、年金積立金管理運用独立行政法人「カ行用語集」の「為替ヘッジ付き外国債券」と「株価指数先物」。金利は、日本取引所グループ「国債先物入門」(服部孝洋、2021 年)の「2.2 先物の役割:リスク管理の提供」(ページ 3、PDF の 4 ページ目)。 ↩

  4. 日本銀行金融機構局「生命保険会社の国際比較:ビジネスモデルの変化に伴う金融安定上の論点」(日銀レビュー 2026-J-7、2026 年 5 月)のページ 5 の本文。 ↩

  5. 年金積立金管理運用独立行政法人「カ行用語集」の「為替ヘッジ付き外国債券」。 ↩ ↩2

  6. 投資信託協会「為替ヘッジってなに?‐2」(メールマガジン No.183、2009 年 6 月 3 日発行)の「フォワードレートの決まり方」と「ヘッジコスト」。 ↩

  7. 日本銀行金融機構局「生命保険会社の国際比較:ビジネスモデルの変化に伴う金融安定上の論点」(日銀レビュー 2026-J-7、2026 年 5 月)の脚注 18(ページ 8)。 ↩

  8. 投資信託協会「為替ヘッジってなに?‐2」(メールマガジン No.183、2009 年 6 月 3 日発行)の冒頭と「先物為替予約でヘッジ」。 ↩

  9. 年金積立金管理運用独立行政法人「基本ポートフォリオの考え方」の「第5期中期目標期間(2025年度からの5カ年)における基本ポートフォリオ」の表。 ↩

  10. 年金積立金管理運用独立行政法人「GPIFは自ら運用を行っているのですか。」の回答の第 2 段落と第 4 段落。 ↩

  11. 年金積立金管理運用独立行政法人「カ行用語集」の「株価指数先物」の項。 ↩

  12. 資産の国債の向きは、「国債先物入門」の 2.2(ページ 3)。負債の向きは、日銀レビュー 2026-J-7 のページ 3 の本文と脚注 10(ページ 8)。 ↩

  13. 金融広報中央委員会「4-2 金利スワップの仕組み」(やさしいデリバティブ)の、固定金利を受け取り変動金利を払う側と、その逆の側の例。 ↩

  14. 日本銀行金融機構局「企業年金の運用戦略からみた金融安定への含意 ―英国債市場の混乱からの教訓―」(日銀レビュー 2023-J-2、2023 年 1 月)のページ 3 の本文(固定金利受けの金利スワップで市場金利の変動に対する負債と資産のバランスを図る)。 ↩

  15. 日本銀行金融機構局「生命保険会社の国際比較:ビジネスモデルの変化に伴う金融安定上の論点」(日銀レビュー 2026-J-7、2026 年 5 月)のページ 1 の本文と図表 1。 ↩

  16. 日銀レビュー 2026-J-7 の脚注 2(ページ 7)。負債も時価で評価することは、日銀レビュー 2023-J-2 のページ 6 の本文と脚注 23(ページ 8)。 ↩

  17. 日本取引所グループ「国債先物入門」(服部孝洋、2021 年)の「2.2 先物の役割:リスク管理の提供」(ページ 3、PDF の 4 ページ目)。 ↩

  18. 日銀レビュー 2023-J-2 のページ 6 の本文と図表 12 の注、ページ 3 の本文。レポは「国債先物入門」の 2.2(ページ 3)。 ↩

  19. 日本銀行金融機構局「生命保険会社の国際比較:ビジネスモデルの変化に伴う金融安定上の論点」(日銀レビュー 2026-J-7、2026 年 5 月)のページ 5 の本文と図表 13。 ↩

  20. 日本銀行金融機構局「企業年金の運用戦略からみた金融安定への含意 ―英国債市場の混乱からの教訓―」(日銀レビュー 2023-J-2、2023 年 1 月)のページ 1 とページ 3 の本文、ページ 7 の脚注 2。 ↩

  21. 同じ資料のページ 6 の本文。 ↩

  22. 投資信託協会「投資信託等の運用に関する規則」(2024 年 9 月 19 日改正)の第 17 条(ページ 14〜15)。 ↩

  23. 同じ資料の第 18 条(ページ 18)。 ↩

  24. 「投資信託及び投資法人に関する法律」第 4 条第 1 項。 ↩

  25. 投資信託協会「投資信託等の運用に関する規則」(2024 年 9 月 19 日改正)の第 16 条(ページ 14)。 ↩