デリバティブの市場の大きさを見るときと、取引相手の信用リスクを見るときでは、使う数値が違います。市場の大きさには想定元本の残高を、信用リスクには正の市場価値を使います。
定例市場報告とサーベイ
BIS と中央銀行のデリバティブの統計には、残高だけを半期ごとに調べる調査と、取引高と残高を 3 年ごとに調べる調査の 2 つがあります。前者を「デリバティブ取引に関する定例市場報告」(定例市場報告)、後者を「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ」(サーベイ)といいます。2 つの違いは次の表のとおりです12。
| 項目 | 定例市場報告 | サーベイ |
|---|---|---|
| 調べる頻度 | 半期ごと(6 月末と 12 月末の時点) | 3 年ごと |
| 調べる項目 | 残高 | 取引高と残高 |
| 参加する金融機関 | 主要 12 か国の約 70 先(2019 年 6 月の実績) | 52 か国・地域の 1,100 先超(2025 年の調査) |
| 日本から参加する金融機関 | 主要なデリバティブ・ディーラー 16 先 | 取引高の調査では 35 先(2025 年 4 月の分) |
| 日本分の公表日 | 2026 年 6 月末の分を 2026 年 9 月 10 日に公表 | 2025 年 4 月の取引高を 2025 年 10 月 6 日、2025 年 6 月末の残高を 2025 年 9 月 10 日に公表 |
定例市場報告は、1998 年 6 月末の分から作られている、店頭デリバティブ(OTC デリバティブ)の残高の統計です3。参加するのは、主要な先進国に本拠があって海外でも業務をする銀行や証券会社などで、数は限られています4。日本からは、銀行、信託銀行、証券会社などの主要なディーラー 16 先が参加しています5。
サーベイは、外国為替の取引の調査として 1986 年に始まり、1995 年からデリバティブ取引も調べるようになりました6。2025 年の調査では、2025 年 4 月の 1 か月の取引高を調べました。日本分の対象は、日本の銀行など 12 行庫、外資系銀行 15 行、日本の証券会社 2 社、外資系証券会社 6 社の 35 先です7。
サーベイは広い範囲を 3 年に 1 度調べ、定例市場報告は主要な参加者に絞って速報を重んじます。2 つを合わせて見ると、世界の金融市場の動きをより正しくつかめます2。2025 年 6 月末のサーベイの残高の日本分は、対象と項目が定例市場報告と同じため、定例市場報告と同じ結果になっています8。どちらの統計も、日本銀行が日本分を集計して公表し、BIS が各国の分を集めて世界全体(グローバル・ベース)の結果を公表しています37。
想定元本で見た取引の残高
残高は、ある時点で金融機関が持っている取引をすべて合わせた量で、想定元本の合計と市場価値の合計の両方で調べます9。想定元本は、デリバティブ取引で受け払いするキャッシュフローを計算するためのもとの金額です10。想定元本 100 億円の金利スワップを A 銀行が B 社と結び、A 銀行が固定金利 1% を払う架空の例で考えます。A 銀行が 1 年に払う固定金利の利息は 1 億円ですが、想定元本で見た残高には 100 億円が入ります。
この例のように、金利関連の取引の多くでは、想定元本そのものは受け払いしません。一方で、外国為替関連の取引のように、想定元本にあたる金額を受け渡すものもあります10。
日本の主要なデリバティブ・ディーラーの 2026 年 6 月末の残高は、次の表のとおりです11。
| 区分 | 残高(想定元本、兆米ドル) |
|---|---|
| 店頭取引の合計 | 94.8 |
| うち金利関連の取引 | 81.9 |
| うち外国為替関連の取引 | 11.3 |
| うちクレジット・デリバティブ | 1.0 |
| 取引所取引の合計 | 4.5 |
店頭取引の内訳は、キャッシュフローを決める要因(リスクファクター)ごとに分けています。金利関連は損益が 1 つの通貨の金利に連動する取引で、金利スワップや金利オプションが入ります。外国為替関連は損益が複数の通貨に連動する取引で、為替スワップや通貨スワップが入ります。このほか、株価に連動するエクイティ、商品の価格に連動するコモディティ、企業や国の信用度に連動するクレジットなどの区分があります12。
表の内訳は主な区分だけのため、足しても合計にはなりません。定例市場報告は店頭デリバティブの統計ですが、日本分の結果には上場デリバティブにあたる取引所取引の残高も載っています。
残高を市場価値で見る
市場価値は、1 つの取引から今後受け取る額と払う額を差し引き、その差額を現在価値に直した金額です。先ほどの金利スワップで、A 銀行が今後受け取る額から払う額を差し引いて現在価値にすると 2 億円になったとします。このとき A 銀行にとっては 2 億円の受け取り超過で、これを正の市場価値といいます。反対側の B 社にとっては 2 億円の払い超過で、これを負の市場価値といいます13。現在価値の求め方は現在価値と割引係数で扱います。
統計では、取引ごとの正の市場価値と負の市場価値を、それぞれ合計して報告します。取引相手ごとに差し引きする前の金額で合計したものが、グロスベースの市場価値です。日本の主要なデリバティブ・ディーラーの 2026 年 6 月末の店頭取引では、次の表のとおりでした14。
| 区分 | 正の市場価値(兆米ドル) | 負の市場価値(兆米ドル) |
|---|---|---|
| グロスベース | 1.01 | 1.06 |
| ネッティング考慮後 | 0.35 | 0.39 |
グロスベースの正の市場価値 1.01 兆米ドルは、同じ時点の店頭取引の想定元本 94.8 兆米ドルの約 1% です15。想定元本は受け払いの計算に使う仮の金額で、デリバティブ取引の信用リスクを直接表すものではありません。これに対して正の市場価値は、取引相手が債務不履行(デフォルト)になったときに受け取れなくなるおそれのある金額で、信用リスクにさらされている額にあたります16。先ほどの例で B 社がデフォルトすると、A 銀行は 2 億円を受け取れなくなるおそれがあります。ただし、市場価値は金利や為替などの動きで刻々と変わるため、同じ取引でも時点によって金額が違います16。
表のネッティング考慮後は、ネッティングの契約を結んだ取引相手との正の市場価値と負の市場価値を差し引いた後の金額です17。A 銀行と B 社の間に、A 銀行から見て正の市場価値 2 億円の取引と、負の市場価値 1.5 億円の取引がある架空の例で考えます。グロスベースでは正が 2 億円、負が 1.5 億円ですが、2 社がネッティングの契約を結んでいれば、差し引いた後は正の 0.5 億円だけが残ります。日本銀行は、金融機関が担保を取ったりネッティングの契約を結んだりしているため、実際の信用リスクは正の市場価値の合計よりさらに小さいとみています16。ネッティングと担保の効果はネッティングと担保による削減効果で扱います。
図の説明
図は、手順ではなく、見る量の並びを示したものです。数値は、日本の主要なデリバティブ・ディーラーの 2026 年 6 月末の店頭取引で、上の 2 つの表と同じ値です。想定元本のレーンは、受け払いの計算に使う想定元本の合計で、94.8 兆米ドルです。市場価値のレーンは、取引相手ごとに差し引く前のグロスベースの正の市場価値が 1.01 兆米ドル、ネッティングの契約を結んだ取引相手との間で差し引いた後の正の市場価値が 0.35 兆米ドルです。矢印は、見る量を、想定元本から正の市場価値へ、取引相手ごとの差し引きの後へと絞っていく順を表しています。計算で 94.8 兆米ドルが 1.01 兆米ドルになるわけではありません。
取引高は一定の期間に結んだ取引の量
取引高は、一定の期間に新しく結んだ取引の想定元本の合計で、ある時点に抱えている取引の合計である残高とは別の量です9。ある銀行が 4 月に、期間 5 年、想定元本 100 億円の金利スワップを 1 本だけ結んだ架空の例で考えます。4 月の取引高は 100 億円で、4 月の営業日が 20 日なら、1 営業日平均の取引高は 5 億円です。このスワップは期間が 5 年あるため、途中で解約しなければ、6 月末の残高にも想定元本の 100 億円が入ります。
図の説明
図は、上の金利スワップが、一定の期間の量である取引高と、ある時点の量である残高に入る時点を並べたものです。取引高に入るのは結んだ 4 月だけで、残高には、その時点で取引を抱えていれば入ります。スワップの想定元本 100 億円は、4 月の取引高に入り、解約していなければ 6 月末の残高にも入ります。
サーベイは、取引高を一定の期間(2025 年の調査では 4 月の 1 か月)の量として調べ、取引地(国・地域)ごとの所在地ベースで集計します9。これに対して残高は、ある時点の量を連結ベースで集計します。日本分の連結ベースでは、日本の主要なディーラーの海外の支店や現地法人などが行った取引も含めます4。
2025 年 4 月の取引高は次の表のとおりで、どれも 1 営業日平均です1819。
| 区分 | 日本(1 営業日平均、兆米ドル) | 世界全体(同) |
|---|---|---|
| 外国為替取引 | 0.44 | 9.6 |
| 金利デリバティブ取引 | 0.17 | 7.9 |
国・地域ごとの取引高の順位は、日本が外国為替取引で 5 位、金利デリバティブ取引で 7 位で、どちらも 1 位は英国でした19。日本銀行の資料が示す日本の「グローバルに占めるシェア」は、外国為替取引で 3.5%、金利デリバティブ取引で 2.0% で、上の表の日本の値を世界全体の値で割った値とは一致しません20。
外国為替取引は、スポット、フォワード、為替スワップ、通貨スワップ、通貨オプションを合わせた量です。金利デリバティブ取引は、金利先渡し取引(FRA)、金利スワップ、金利オプションを合わせた量です21。
金利関連の残高の内訳
内訳を見ると、日本の主要ディーラーが持つ金利関連の店頭取引の残高は、通貨では米ドルと円が多く、取引相手では清算機関が大半を占めます。取引相手は 3 つに分けます。報告対象の金融機関は、この統計に参加している金融機関です。報告対象外の金融機関は、参加していないすべての金融機関で、清算機関もここに入ります。残りの非金融機関の顧客には、一般の事業法人や政府部門が入ります22。
報告対象外の金融機関には、保険会社、投資信託、年金基金などが入ります23。次の表の取引相手別の 3 行は、報告対象の金融機関と、報告対象外の金融機関を清算機関とそれ以外に分けたもので、非金融機関の顧客の行は省いています。2026 年 6 月末の内訳は次の表のとおりです11。
| 内訳の分け方 | 区分 | 残高(想定元本、兆米ドル) |
|---|---|---|
| 通貨別 | 米ドル | 31.0 |
| 通貨別 | 円 | 29.1 |
| 通貨別 | ユーロ | 14.9 |
| 取引相手別 | 報告対象の金融機関(ディーラー間の取引) | 6.6 |
| 取引相手別 | 清算機関 | 62.2 |
| 取引相手別 | 報告対象外の金融機関(清算機関を除く) | 10.8 |
| 残存期間別 | 1 年以内 | 29.6 |
| 残存期間別 | 1 年超 5 年以内 | 30.2 |
| 残存期間別 | 5 年超 | 22.2 |
金利関連の残高 81.9 兆米ドルのうち、米ドルと円を合わせると 60.1 兆米ドルで、約 73% です。取引相手が清算機関の取引は 62.2 兆米ドルで、約 76% を占めます24。通貨別と取引相手別の表は主な区分だけのため、足しても 81.9 兆米ドルにはなりません。残存期間別の 3 行を足すと 82.0 兆米ドルになり、81.9 兆米ドルと合わないのは四捨五入のためです。
日本分の数値を読むときの注意
定例市場報告の日本分は、東京市場の大きさを表す数値ではありません。日本の金融機関が海外の拠点で結んだ取引を含む一方で、外資系金融機関の日本支店の取引を含まないためです。日本分は、日本の主要なディーラーの国内外の支店や現地法人を含めた連結ベースで集計しています4。サーベイの取引高は、取引地ごとの所在地ベースで、日本分の対象には外資系の銀行や証券会社も入っています7。同じ「日本」の数値でも、統計によって集計の範囲が違います。
日本分の残高は、報告対象の金融機関どうしの取引の二重計上を調整していません。報告対象の A 銀行と B 銀行が 1 本の取引を結んだ架空の例で考えます。A 銀行の報告と B 銀行の報告の両方にその取引が入ります。BIS が後で公表する世界全体の残高では、この二重計上を調整します5。サーベイの取引高でも、国・地域ごとの数値と世界全体の数値では調整の範囲が違うため、国・地域の数値を足しても世界全体の数値に一致しません19。
外国為替関連の取引の通貨別の内訳は、取引の両側の通貨をそれぞれ 1 回ずつ数えます。たとえば米ドルと円を交換する取引は、米ドルの欄と円の欄の両方に入ります。そのため、通貨ごとの数値を足すと、外国為替関連の残高の合計の 2 倍になります25。サーベイの取引高の通貨別の内訳も同じです26。
数値は米ドル建てで集計しています5。サーベイの結果を過去の調査と比べるときは、対象の金融機関の範囲、項目の定義、為替相場の変動などの違いがあるため、ある程度の幅をもって見る必要があります27。公表した後に数値を訂正することもあります。定例市場報告の訂正は、2023 年 3 月 13 日、2025 年 9 月 10 日、2026 年 9 月 10 日に告知されています28。世界全体と各国の取引高の数値も、後で改められることがあります19。
注
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日本銀行金融市場局「「デリバティブ取引に関する定例市場報告」の解説」(2020 年 3 月)の 4(1)「外為・デリバティブ・サーベイとの相違点」の表。 ↩
-
日本銀行金融市場局「「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ」の解説」(2025 年 10 月)の 4(1) の本文と表。 ↩ ↩2
-
日本銀行金融市場局「「デリバティブ取引に関する定例市場報告」の解説」の 2(1)「調査対象先」と 2(2)「調査方法」。 ↩ ↩2 ↩3
-
日本銀行金融市場局「デリバティブ取引に関する定例市場報告(日本分集計結果:2026年6月末)参考図表」(2026 年 9 月 10 日)の 4 ページ、「(参考)「デリバティブ取引に関する定例市場報告」の概要」。 ↩ ↩2 ↩3
-
日本銀行金融市場局「「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ」の解説」の 1(1)「概要」。 ↩
-
日本銀行金融市場局「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ(2025年4月中 取引高調査)について:日本分集計結果」の 1 ページ、「1.本調査の概要」。 ↩ ↩2 ↩3
-
日本銀行金融市場局「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ(2025年6月末残高調査)について:日本分集計結果」(2025 年 9 月 10 日)の冒頭の説明。 ↩
-
日本銀行金融市場局「「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ」の解説」の 3(1)「調査項目」。 ↩ ↩2 ↩3
-
日本銀行金融市場局「デリバティブ取引に関する定例市場報告(2026年6月末)について」(2026 年 9 月 10 日)の 1「デリバティブ取引残高(想定元本)」と 2「OTC取引残高(想定元本)の内訳」。2026 年 6 月末の時点の数値。 ↩ ↩2
-
日本銀行金融市場局「「デリバティブ取引に関する定例市場報告」の解説」の 3(2) の 1)「リスク・ファクター別」。資料の表記は「リスク・ファクター」。 ↩
-
日本銀行金融市場局「「デリバティブ取引に関する定例市場報告」の解説」の 3(1) の 2)「正の市場価値」と 3)「負の市場価値」。 ↩
-
日本銀行金融市場局「「デリバティブ取引に関する定例市場報告」日本分集計結果(2026年6月末)」(2026 年 9 月 10 日)の表 6「OTC取引におけるネッティング考慮前後の市場価値」。百万米ドルの値を兆米ドルに直し、小数第 2 位に四捨五入しています。 ↩
-
本文の表の値から計算した割合。 ↩
-
日本銀行金融市場局「「デリバティブ取引に関する定例市場報告」の解説」の 3(1) の 2)「正の市場価値」と、4(2)「想定元本、正の市場価値と信用リスク・エクスポージャー」。 ↩ ↩2 ↩3
-
日本銀行金融市場局「「デリバティブ取引に関する定例市場報告」の解説」の 3(1) の 4)「ネッティング考慮後の市場価値」と、その注。 ↩
-
日本銀行金融市場局「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ(2025年4月中 取引高調査)について:日本分集計結果」の 2〜3 ページ、「2.日本分集計結果(別添1)の主な特徴点」。 ↩
-
日本銀行金融市場局「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ(2025年4月中 取引高調査)について:日本分集計結果」の 11 ページ、別添 2 とその注 1、注 2。世界全体と日本の値は兆米ドルに直して四捨五入しています。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
日本銀行金融市場局「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ(2025年4月中 取引高調査)について:日本分集計結果」の 1 ページ、注 3。 ↩
-
日本銀行金融市場局「「デリバティブ取引に関する定例市場報告」の解説」の 3(2) の 3)「取引相手先別」。 ↩
-
日本銀行金融市場局「「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ」の解説」の 3(1) の 4)「取引相手先別内訳」。 ↩
-
本文の表の値から計算した割合。 ↩
-
日本銀行金融市場局「「デリバティブ取引に関する定例市場報告」日本分集計結果(2026年6月末)」の表 1「外国為替関連取引」の注 1。 ↩
-
日本銀行金融市場局「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ(2025年4月中 取引高調査)について:日本分集計結果」の 7 ページ、図表 4「通貨別取引高(1営業日平均)」の注。 ↩
-
日本銀行金融市場局「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ(2025年4月中 取引高調査)について:日本分集計結果」の 2 ページ、注 4。 ↩
-
日本銀行「デリバティブ取引に関する定例市場報告」のページの「訂正のお知らせ」。 ↩