債券の価格付けや、金利が動いたときの評価額の変化を管理する業務では、将来の受け払いの現在価値を計算します。評価額が動いた理由は、金利の動きと割引係数の変化に分けて説明できます。
現在価値は将来のお金の今の価値
金利が 2% の架空の例で考えます。今の 100 円を預けると 1 年後に 102 円になります。逆に言えば、1 年後に受け取る 102 円の今の価値は 100 円です。このように、将来のお金を今の時点の価値に直すことを「割り引く」といい、直した金額を現在価値(PV)といいます。
割引係数の求め方
将来の 1 円の今の価値を割引係数(ディスカウント・ファクター、DF)といいます1。年に 1 回の複利で考えると、1 年後の割引係数は 1 を「1+金利」で 1 回割った値、2 年後は 2 回割った値です。金利 2% なら、1 年後は 1 ÷ 1.02 で約 0.9804、2 年後は 1 ÷ 1.02 ÷ 1.02 で約 0.9612 になります。複利の数え方による違いは複利と割引で扱います。
将来のキャッシュフロー(お金の受け払い)の現在価値は、その金額に、受け取る時点の割引係数を掛けて求めます。キャッシュフローが何回もあるときは、キャッシュフローごとに現在価値を求めて足し合わせます2。
深掘り割引係数と現在価値の式
年に 1 回の複利の金利 で、 年後の割引係数は次の式になります。
各時点のキャッシュフロー の現在価値を足し合わせると、次の式になります。
は 年後までの期間の金利(スポットレート)で、期間ごとに違う値を使えます。期間によらず同じ金利とみなすときは とします。
計算例:3 年の債券の現在価値
元本 100 億円、利息が年 1 回 2%(毎年 2 億円)、満期 3 年の債券を、割り引く金利 2% で評価する例で考えます。金利は期間によらず一定とします3。
図の説明
債券の保有者は、1 年後と 2 年後に利息 2 億円を受け取り、3 年後に利息 2 億円と元本 100 億円の合わせて 102 億円を受け取ります。どれも受取のため、矢印はすべて上向きです。矢印の長さは金額の大きさの目安で、小さい金額も見えるよう、利息の矢印は実際の比より長く描いています。
受け取る時点ごとに割引係数を掛けると、次の表になります。
| 受け取る時点 | キャッシュフロー(億円) | 割引係数(金利 2%) | 現在価値(億円、金利 2%) |
|---|---|---|---|
| 1 年後 | 2 | 0.9804 | 1.96 |
| 2 年後 | 2 | 0.9612 | 1.92 |
| 3 年後 | 102 | 0.9423 | 96.12 |
| 合計 | 100.00 |
利息の率と割り引く金利が同じ 2% なので、現在価値の合計は元本と同じ 100 億円になります。
金利が上がると現在価値は下がる
割引係数は、割り引く金利が高いほど小さくなります。金利がプラスなら、受け取る時点が遠いほど小さくもなります。同じ債券を金利 5% で割り引くと、割引係数はどの時点でも 2% のときより小さく、現在価値の合計は 91.83 億円です4。金利が 2% から 5% に上がっただけで、将来のキャッシュフローは変わらないのに、現在価値は約 8.17 億円下がります。
| 受け取る時点 | キャッシュフロー(億円) | 割引係数(金利 5%) | 現在価値(億円、金利 5%) |
|---|---|---|---|
| 1 年後 | 2 | 0.9524 | 1.90 |
| 2 年後 | 2 | 0.9070 | 1.81 |
| 3 年後 | 102 | 0.8638 | 88.11 |
| 合計 | 91.83 |
この例の 1 年から 3 年では、割引係数の下がり方は遠い時点ほど大きくなります。金利が 2% から 5% になると、1 年後の割引係数は 0.0280 下がるのに対し、3 年後は 0.0785 下がります。反対に、割り引く金利が下がれば割引係数は大きくなり、受け取るキャッシュフローの現在価値は上がります。
1 回だけ受け取る 100 の現在価値で比べると、金利 2% では 10 年後の割引係数が 0.8203、現在価値が 82.03 です。金利が 5% なら、10 年後の割引係数は 0.6139 まで下がります。
- 割引係数(複利の頻度: 年 1 回)
- 割引係数(連続複利とみなした場合)
- 10 年後の割引係数
- 0.8203
- 10 年後に受け取る 100 の現在価値
- 82.03
- 同じ金利を連続複利とみなした割引係数
- 0.8187
単純化している点
- 金利は期間によらず一定とし、金利カーブの形は考えません。
- 年数は日数計算の慣行を使わずに年単位で数えます。
このシミュレーターは学習のために単純化した計算で、実際の取引の評価やリスク管理には使えません。(免責事項)
シミュレーターの説明
金利と満期までの年数を変えて、0 年から満期までの割引係数のグラフと、満期に受け取る 100 の現在価値の動きを見ます。金利を上げると、どちらも小さくなります。金利がプラスなら、年数を延ばしても小さくなります。複利の頻度も変えられ、グラフには比べるために連続複利とみなした曲線も出ます。
実務での使われ方
利息や元本などの将来のキャッシュフローを現在価値に直して評価し、金利などが動いたときの変わり方を調べる考え方を、日本銀行の資料は「現在価値アプローチ」と呼んでいます5。現在価値を動かすもの(リスクファクター)には、金利のほか、株価や為替があります。金融機関は、リスクファクターが動いたときの現在価値の変化を計算し、リスクの大きさとして管理します6。
前提と限界
計算例は、どの期間も同じ金利で割り引き、年数も整数にしています。実際の市場では、1 年、2 年、3 年と期間ごとに金利が違い、その期間の金利(スポットレート)で割り引きます8。スポットレートの求め方はゼロレートとフォワードレートで扱います。
注
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日本銀行金融機構局 金融高度化センター「Ⅰ.市場リスクの計測手法 ― 現在価値アプローチ―」(2009 年 3 月)の 7 ページ。同じセンターの「Ⅱ.市場リスクの把握と管理」(2012 年 6 月)の 5 ページも、割り引く掛け目を「ディスカウント・ファクター」と呼んでいます。 ↩
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「Ⅱ.市場リスクの把握と管理」(2012 年 6 月)の「現在価値の計測方法」(5 ページ)。 ↩
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同じ資料の「具体例① 債券投資」(6 ページ)と「具体例② 債券投資」(8 ページ)の条件です。 ↩
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現在価値は、割引係数を丸めずに計算してから億円の小数第 2 位に四捨五入しています。表の各時点の値(丸めた後)の合計は 91.82 億円です。 ↩
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「Ⅱ.市場リスクの把握と管理」(2012 年 6 月)の「現在価値アプローチの考え方」(4 ページ)。 ↩
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同じ資料の「(参考)リスクファクター:現在価値の変動をもたらすもの」(11 ページ)と「(参考)金融商品とリスクファクター」(12 ページ)。同じ考え方は「Ⅰ.市場リスクの計測手法 ― 現在価値アプローチ―」(2009 年 3 月)の 20 ページ。 ↩
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「Ⅱ.市場リスクの把握と管理」(2012 年 6 月)の「(1)BPV(ベーシス・ポイント・バリュー)」(13 ページ)。 ↩
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同じ資料の「(参考)割引率(スポットレート)の定義」(10 ページ)。 ↩