市場リスクの管理では、持ち高ごとに時価の変化をつかみ、限度を置いて見張ります。感応度は、そのための量で、部門や全社への足し上げにも使います。規制の資本を感応度から計算する方式(標準的方式)でも使います。

感応度とリスクファクター

持ち高の価値を動かす金利、為替、株価などを、リスクファクター(持ち高の価値を動かす要因)といいます。金利が動くと、将来のキャッシュフローを割り引く率が変わります。為替や株価が動くと、キャッシュフローの金額そのものが変わります。どちらも現在価値を動かします1。どのリスクファクターに反応するかは、持ち高の種類で決まります。

持ち高 主なリスクファクター
円建ての債券、預金、貸出 円の金利
外貨建ての債券、預金、貸出 為替、外貨の金利
株式 株価
仕組債、投資信託 円と外貨の金利、株価、為替
オプション 原資産の価格、ボラティリティ、残りの期間、金利

表のオプションの行は米国の連邦準備制度の検査マニュアル、ほかの行は日本銀行の研修資料の分け方です2。

感応度(センシティビティ)は、リスクファクターの 1 つだけを小さく動かし、ほかを変えずに評価し直したときの時価の変化です3。金利を動かした値が DV01、オプションの原資産の価格を動かした値がデルタ、ボラティリティを動かした値がベガです。オプションの感応度をグリークスといい、定義と符号はグリークスのページで扱います。

金利は、1 つのリスクファクターとして扱うと粗すぎます。1 年の金利と 10 年の金利は同じだけ動くとは限らず、イールドカーブ(以下、カーブ)の形も変わります。そのため、現在価値を年限ごとの金利 r1,r2,…,rnr_1, r_2, \dots, r_n の関数とみて、それぞれを別のリスクファクターとして扱います4。

DV01 と年限別の感応度の求め方

DV01 は、すべての年限の金利を同時に 1bp(0.01%)上げたときの時価の変化です。VV を持ち高の時価、rtr_t を tt 年の金利とすると、次の式になります4。

DV01=V(r1+0.01%,…,rn+0.01%)−V(r1,…,rn)\text{DV01} = V(r_1 + 0.01\%, \dots, r_n + 0.01\%) - V(r_1, \dots, r_n)

1 つの年限 tt の金利だけを 1bp 上げたときの時価の変化を、年限別の感応度といいます5。

st=V(r1,…,rt+0.01%,…,rn)−V(r1,…,rn)s_t = V(r_1, \dots, r_t + 0.01\%, \dots, r_n) - V(r_1, \dots, r_n)

日本銀行の研修資料は、DV01 と同じ量を BPV(ベーシス・ポイント・バリュー)、年限別の感応度を GPS(グリッド・ポイント・センシティビティ)と呼んでいます。この資料は 5 年の債券の計算例で、1 年から 5 年までの年限別の感応度を足した値が BPV に一致することを示しています6。

DV01≈∑tst\text{DV01} \approx \sum_{t} s_t

一般には、年限別の感応度の和は DV01 にほぼ等しくなるだけです。すべての年限を同時に動かすと、ある年限の金利の動きが別の年限の感応度を変える効果(交差の効果)が生じます。この効果は、1 つずつ別々に求めた個々の sts_t には入りません。1bp の動きでは、この効果はごく小さくなります。日本銀行の例のように、各キャッシュフローをその年限の金利だけで割り引く債券では、この効果がないため和は一致します。

このページでは、金利が上がって時価が増えるときをプラスにしています。

年限別の感応度とカーブの形の変化

V 銀行の金利の持ち高を年限別の感応度で表した、次の架空の例で考えます。短い年限では金利が上がると時価が増え、長い年限では金利が上がると時価が減る持ち高です。

年限 年限別の感応度(万円、その年限の金利 +1bp)
1 年 +20
2 年 +380
5 年 −50
10 年 −300
20 年 −50
合計(DV01 にほぼ等しい) 0

5 つの年限を足すと 20 + 380 − 50 − 300 − 50 = 0 で、DV01 はほぼ 0 万円です。すべての金利が同じだけ動くなら、V 銀行の時価はほとんど変わりません。

年限別の感応度(万円、+1bp)年限別の感応度−400−2000200400051015202 年10 年年限(年)
図 1V 銀行の年限別の感応度の形
図の説明

V 銀行の年限別の感応度を、1 年、2 年、5 年、10 年、20 年の点で結んだ折れ線です。縦軸は、その年限の金利が 1bp 上がったときの時価の変化(万円)です。縦の線で示した 2 年と 10 年は、偏りがとくに大きい年限で、2 年は金利が上がると時価が増え、10 年は減ります。点と点の間の線は見やすさのための補助で、途中の年限の値は表していません。+380 と −300 などの偏りが打ち消し合って合計は 0 万円になるため、DV01 の合計だけでは見えない、年限ごとの偏りが読み取れます。

金利が年限ごとに違う幅で動いたときの時価の変化は、年限別の感応度に各年限の金利の動き(bp)を掛けて足すと近似できます8。Δrt\Delta r_t は tt 年の金利の動きを bp で表した値です。

ΔV≈∑tst×Δrt\Delta V \approx \sum_{t} s_t \times \Delta r_t

短い年限の金利は変わらず、長い年限の金利だけが上がる動き(スティープ化)と、その逆に長い年限の金利だけが下がる動きで計算すると、次のとおりです。

年限 感応度(万円) 長い年限が上がる(bp) 損益(万円) 長い年限が下がる(bp) 損益(万円)
1 年 +20 0 0 0 0
2 年 +380 0 0 0 0
5 年 −50 +5 −250 −5 +250
10 年 −300 +10 −3,000 −10 +3,000
20 年 −50 +10 −500 −10 +500
合計 0 −3,750 +3,750

長い年限の金利が上がると V 銀行は 3,750 万円の損、下がると 3,750 万円の得になります。DV01 が 0 に近くても、年限の違う持ち高どうしは金利の水準の動きには打ち消し合う一方で、カーブの傾きが変わる動きには打ち消し合いません9。DV01 だけを見ていると、この持ち高は金利リスクがないように見えます。カーブの形の変化によるリスクは、年限別の感応度を並べて初めて分かります。

ベガを満期と行使価格の格子で見る

ベガは、インプライド・ボラティリティが 1% 上がったときのオプションの時価の変化です3。インプライド・ボラティリティは、オプションの行使価格と満期ごとに値が付き、全体でボラティリティ・サーフェスを作ります。サーフェスは平らではなく、その形も時とともに変わります10。そのため、リスク管理では、サーフェスを動かして評価し直すことがよくあります11。ベガも、1 つの合計の値ではなく、満期と行使価格の組ごとに分けて集計すると、どこのボラティリティの動きに弱いかが見えます。

V 銀行が持つ金利のオプションのベガを、満期と行使価格の格子で集計した架空の例で考えます。値は、その格子のインプライド・ボラティリティだけが 1% 上がったときの時価の変化です。

満期 行使価格が低い(万円) 中央(万円) 高い(万円) 合計(万円)
1 年 +30 +60 +10 +100
5 年 −20 −90 −40 −150
合計 +10 −30 −30 −50

すべての格子のボラティリティが 1% 上がったときの変化は合計の −50 万円で、ベガは小さく見えます。ところが、1 年のボラティリティだけが 2% 上がると +100 × 2 = +200 万円の得、5 年のボラティリティだけが 2% 上がると −150 × 2 = −300 万円の損です。V 銀行は、短い満期のオプションを買い、長い満期のオプションを売った形になっています。行使価格の列でも差があります。低い行使価格のボラティリティだけが 2% 上がると +10 × 2 = +20 万円、高い行使価格だけが 2% 上がると −30 × 2 = −60 万円です。行使価格ごとのボラティリティの差(スマイル)の形が変わっても、損益が出ます。

感応度の足し上げと限度

同じリスクファクターの感応度は、持ち高や部門をまたいで足し上げられます。V 銀行の 10 年の −300 万円が、債券の部門の −500 万円とスワップの部門の +200 万円を足した値なら、全社では 10 年の金利の動きに対して 200 万円分打ち消し合っています。自己資本比率の告示の標準的方式も、同じリスクファクターの感応度を持ち高の間で相殺(ネッティング)してから計算を始めます12。持ち高の大きさ(額面)では、デリバティブの価格の動きやすさが表れず、商品や部門をまたいで比べにくくなります。感応度なら、リスクファクターごとに同じ単位で足せます3。

違うリスクファクターの感応度を足した値は、リスクファクターの動きの相関を考えていません。相関の扱いは最後の節で述べます。

感応度は、限度(リミット)を置く単位にも使います。米国の連邦準備制度の検査マニュアル(1998 年)は、銀行がよく使う限度と、その運用として次のことを挙げています。オプションの持ち高のデルタ、ガンマ、ベガ、セータ、ローへの限度と、カーブの平行でない動きに備える年限ごとの限度です。限度は部門やトレーダーに割り当て、超えたときに見つけて対処する体制を置きます13。2012 年の日本銀行の研修資料には、市場部門の持ち高の管理に、全年限の金利の 10bp の変化や、年限ごとの 1bp の変化を使う例があります14。

感応度の限界と補い方

感応度は、リスクファクターが小さく動いたときの 1 次の近似です。原資産の価格が ΔS\Delta S、ボラティリティが Δσ\Delta \sigma 動いたときのオプションの時価の変化は、デルタ δ\delta、ガンマ Γ\Gamma、ベガを使って次のように近似できます15。ベガは 1% あたりの値なので、Δσ\Delta \sigma は % で表します。

ΔV≈δΔS+12Γ(ΔS)2+ベガ×Δσ\Delta V \approx \delta \Delta S + \frac{1}{2} \Gamma (\Delta S)^2 + \text{ベガ} \times \Delta \sigma

ガンマの項は動きの 2 乗で効くため、大きな動きほどデルタだけの近似から外れます。たとえば時価を万円、価格を円で測って、デルタが 0、ガンマが −10 の持ち高を考えます。原資産の価格が上下どちらに 1 円動いても損失は 0.5 × 10 × 1 = 5 万円ですが、10 円動くと 0.5 × 10 × 100 = 500 万円になります。ガンマが +10 なら、同じ動きで 5 万円と 500 万円の得です。デルタや DV01 のような感応度だけでは、こうした価格の曲がり方(凸性)はつかめません3。

感応度には、ほかに 2 つの限界があります。1 つは、価格がどれだけ動きやすいか(ボラティリティ)を含まず3、リスクファクターどうしがどう一緒に動くか(相関)も含まないことです9。もう 1 つは、「金利が 10bp 上がったら」のような前提を置いても、その前提がどれくらいの確率で起きるかは分からないことです16。

こうした限界は、ほかの尺度で補います。VaR(バリュー・アット・リスク)の分散共分散法は、感応度が一定で、リスクファクターが正規分布に従うと仮定します。そのうえで、感応度にリスクファクターの動きの大きさと相関を掛け合わせ、一定の確率で起こりうる損失を求めます。感応度が一定でない持ち高では、この方法は近似になります17。確率の分からない大きな動き(金利の 100〜200bp の上昇、株価の 50% の下落など)の損益は、ストレステストで評価し直して求めます16。求め方はVaRのページで扱います。

規制の資本の計算でも感応度を使います。自己資本比率の告示で市場リスクの資本を求める標準的方式は、年限別の金利の感応度やベガをリスク・ウェイトと相関で合算し、デルタで説明できない部分(カーベチャー・リスク)を加えます18。金利の感応度は 0.25 年から 30 年までの 10 の年限で、金利のベガはオプションの満期(0.5 年から 10 年までの 5 つ)などで分けて求めます18。

注

  1. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「Ⅱ.市場リスクの把握と管理」(2012 年 6 月。以下「日本銀行の研修資料」)の「(参考)リスクファクター」(11 ページ)。 ↩

  2. 日本銀行の研修資料の「(参考)金融商品とリスクファクター」(12 ページ)。オプションの行は連邦準備制度理事会 "Trading and Capital-Markets Activities Manual" section 2010.1(1998 年 2 月。以下「検査マニュアル」)の "Basic Measures of Optionality"(4 ページ)。 ↩

  3. 検査マニュアルの "Nominal Measures"、"Factor-Sensitivity Measures"、"Basic Measures of Optionality"(3〜4 ページ)。ベガを 1% あたりで示すのは、このサイトのグリークスのページの単位に合わせたものです。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  4. 日本銀行の研修資料の「(1)BPV(ベーシス・ポイント・バリュー)」(13 ページ)。現在価値を年限ごとの金利 r1,…,rnr_1, \dots, r_n の関数として書いています。 ↩ ↩2

  5. 日本銀行の研修資料の「(2)GPS(グリッド・ポイント・センシティビティ)」(14 ページ)。 ↩

  6. 日本銀行の研修資料の「BPV、GPSの計算例」(15 ページ)。元本 100 億円、クーポン 1.5% の 5 年の債券で、各年限のスポットレートを 1bp 上げた例です。 ↩ ↩2

  7. 金融庁「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(2026 年 8 月 24 日更新の版。以下「告示」)の第 283 条の 2 と第 283 条の 3 第 1 号(490 ページ)。 ↩

  8. 検査マニュアルの "Scenario Simulations"(5 ページ)。リスクファクターの変化を DV01 などの感応度に当てはめて、シナリオでの価値の変化を求める方法です。 ↩

  9. 検査マニュアルの 1〜2 ページ。年限の違う買いと売りの持ち高が、水準の変化にはヘッジされ、カーブの形の変化にはヘッジされていない場合の "yield curve" risk を説明しています。感応度どうしの相関が金利リスクの大きさを左右することは 1 ページにあります。 ↩ ↩2

  10. Martin Haugh "Black-Scholes and the Volatility Surface"(Columbia University)の 4 ページ。インプライド・ボラティリティを行使価格 KK と満期 TT の関数 σ(K,T)\sigma(K, T) とし、サーフェスが平らでなく、時とともに大きく変わることを示しています。 ↩

  11. 同じ資料の 5 ページ。サーフェスを "bumping" または "stressing" することが、リスク管理でよく行われるとしています。 ↩

  12. 告示の第 282 条の 2 第 2 項(480 ページ)。 ↩

  13. 検査マニュアルの "Market-Risk Limits"(6〜7 ページ)。 ↩ ↩2

  14. 日本銀行の研修資料の「(3)シナリオに基づくリスク量の把握(続き)」(18 ページ)。 ↩

  15. Martin Haugh "Black-Scholes and the Volatility Surface"(Columbia University)の "Delta-Gamma-Vega Approximations to Option Prices"(11〜12 ページ)。資料はデルタを δ\delta、ガンマを Γ\Gamma、ベガを vega と書いています。 ↩

  16. 日本銀行の研修資料の「(3)シナリオに基づくリスク量の把握」と「(続き)」(17〜18 ページ)。前提(シナリオ)の実現する確率は分からないことと、ストレステストでの金利上昇 +100〜200bp、株価下落 50% の例を挙げています。 ↩ ↩2

  17. 日本銀行の研修資料の「A.分散共分散法」(23〜24 ページ)と「留意事項②」(28 ページ)。 ↩

  18. 告示の第 281 条(479 ページ)、第 282 条の 2 第 3〜5 項(480〜481 ページ)、第 282 条の 3 第 2 項(481〜482 ページ)、第 283 条第 1 号イ(2)と第 2 号ロ(484〜486 ページ)。 ↩ ↩2