市場リスクの資本を計算する銀行は、トレーディング勘定に入れる商品の範囲を文書にするときに、この規制を使います1。内部モデル方式を使う銀行では、デスクごとの標準的方式の資本の毎月の報告2と、デスクの検証3にも使います。
何を求める規制か
FRTB は、銀行が持つトレーディング勘定の市場リスクに備える自己資本の計算を、全面的に作り直した規制です。きっかけは 2007 年に始まった金融危機で、極端な市場ストレスのときにトレーディング勘定の資本が足りなかったと分かったことでした4。
バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は、2009 年 7 月に当面の対応としてバーゼル 2.5 を公表し、2011 年末から実施しました。VaR に、ストレス期間のデータを使うストレス VaR を加え、デフォルトと格付遷移のリスク(追加的リスク)を捕捉し、証券化商品の扱いを銀行勘定に近づけました5。ただし応急措置だったため、枠組みに一貫性がなく、次の課題が残りました5。
| 対象 | 残った課題 |
|---|---|
| トレーディング勘定と銀行勘定の境界 | 「トレーディングの意図」という主観的な基準で解釈が難しく、勘定の間の規制裁定を防ぐ措置も足りない |
| 内部モデル方式 | VaR は分布の裾の損失(テイル・リスク)と市場流動性リスクを十分に捉えず、ヘッジと分散の効果を過大に評価する |
| 標準的方式 | 内部モデル方式と計測方法が整合せず、リスク感応的でなく、複雑な商品のリスクの捕捉が不十分で、内部モデル方式が使えなくなったときの代替にならない |
BCBS は 2009 年から見直しを検討し、3 回の市中協議を経て 2016 年 1 月に最終文書を公表しました4。その後の経緯は次のとおりです。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2016 年 1 月 | 規則文書「マーケット・リスクの最低所要自己資本」を公表 |
| 2017 年 12 月 | システム整備と残る課題への対応のため、実施時期を 2019 年 1 月から 2022 年 1 月に延期 |
| 2018 年 3 月 | 規則文書の見直しに向けて市中協議を実施 |
| 2019 年 1 月 | 見直しを終え、最終規則文書を公表 |
| 2023 年 1 月 | バーゼル III 最終化の国際的な実施時期(当初は 2022 年 1 月で、新型コロナウイルスの影響で 1 年延期) |
表の 2016 年から 2019 年の行は金融庁と日本銀行の概要に6、2023 年 1 月の行は金融庁の「バーゼル規制の概要」にあります7。金融庁は、この規則文書をバーゼル III の最終化に含めて、標準的方式をリスク感応的に作り直し、内部モデルの計測を精緻にして承認の要件を厳しくしたものと整理しています8。バーゼル規制の全体はバーゼル規制とデリバティブで扱います。
FRTB は、勘定の境界、標準的方式、内部モデル方式の 3 つを見直し、標準的方式と内部モデル方式の関係も強めました。内部モデル方式を使う銀行にも、デスクごとの標準的方式の資本を毎月計算して報告することを求めています2。検証に通らなかったデスクは、標準的方式に移ります9。
根拠と所管
日本では、銀行法に基づく金融庁の告示(平成 18 年金融庁告示第 19 号。脚注では「自己資本比率告示」と書きます)が、自己資本比率の計算を定めています10。市場リスクの資本は告示の第九章が定め、内部モデル方式の承認は金融庁長官が行います1112。金融庁は、この規則文書を含むバーゼル III の最終化を、2023 年 3 月期から段階的に実施しています8。
規模の小さい銀行は、簡易的方式で計算できます。特定取引勘定設置銀行の場合、特定取引勘定の資産と負債の合計額と、外国為替リスク・カテゴリーの持ち高の純額が、それぞれ 1,000 億円未満であることなどが要件です13。
| 節 | 内容 | 条 |
|---|---|---|
| 第一節 | 算出方式と計測対象、トレーディング・デスクの要件と承認 | 第 271 条〜第 271 条の 9 |
| 第二節 | 内部モデル方式 | 第 272 条〜第 279 条 |
| 第三節 | 標準的方式 | 第 280 条〜第 292 条 |
| 第四節 | 簡易的方式 | 第 293 条〜第 302 条 |
| 第五節〜第八節 | 証券化エクスポージャー、特定順位参照型クレジット・デリバティブ、コリレーション・トレーディングの特例と、特定項目のうち調整項目に算入されない部分等の特例 | 第 302 条の 2〜第 302 条の 9 |
トレーディング勘定と銀行勘定の境界は、告示の第二章(国際統一基準の連結自己資本比率)にあります。単体の自己資本比率と国内基準にも、同じ内容の条が章ごとにあります14。以下では、境界の規定は国際統一基準の連結の章のものを書きます。
条文は 2026 年 10 月 6 日時点で公開されている版(金融庁の全体版、2026 年 8 月 24 日更新)を確かめました。
トレーディング勘定と銀行勘定の境界
トレーディング勘定の商品のリスクは、市場リスクの資本の計測対象です。銀行勘定の商品は、為替リスクとコモディティ・リスクだけが計測対象に入ります15。そのため、商品をどちらの勘定に入れるかで、資本の計算が変わります。FRTB は、バーゼル 2.5 の「トレーディングの意図」を踏まえて「トレーディングの目的」を定義し、具体的な商品の一覧を示して、勘定の境界を明確にしました16。
告示は、次の商品をトレーディング勘定に入れると定めています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| トレーディング目的を持つ商品 | 短期間の再売却、相場などの短期の価格変動からの利益、市場間の裁定取引による利益、またはこれらの目的で持つ商品のリスクのヘッジのために持つ商品17 |
| 特定取引等の資産・負債として持つ商品(特定取引勘定を置かない銀行では、商品有価証券勘定と売付商品債券勘定の商品) | 次の行で除かれるもの以外のすべて17 |
| 入れない(特定取引等から除外) | 表の下に挙げる商品17 |
| 特定取引等でなくても入れるもの(その 1) | マーケット・メイカーとして持つ商品、上場株式、トレーディング業務のレポ形式の取引、オプション、ルックスルーなどの要件を満たすファンドへの出資17 |
| 特定取引等でなくても入れるもの(その 2) | コリレーション・トレーディング・ポートフォリオ(CTP)の商品、株式や信用リスクのネット・ショート・ポジションを作る商品、引受け業務から生じる商品17 |
特定取引等から除かれるのは、次のものです。
- 非上場株式
- 証券化の裏付資産にする予定の商品
- 直接保有の不動産
- 個人または中堅中小企業への信用供与
- ファンドへの出資(「その 1」の要件を満たすものを除く)
- これらを原資産とするデリバティブ取引やファンド
- これらのリスクをヘッジする商品
表のどの行にも当たらない商品は、銀行勘定に入ります18。特定取引等商品などのうち、トレーディング目的以外で持つものは、あらかじめ金融庁長官に届け出れば銀行勘定に入れられます。コリレーション・トレーディング、ネット・ショート、引受けの商品は、この届出の対象に入っていません18。金融庁と日本銀行の 2016 年の概要は、国際基準では監督当局の承認が要ると書いていますが、告示の条文は届出としています19。
勘定の間の振替は、原則として禁止されています。例外として振替ができるのは、取締役等の承認を受け、内部監査を行い、開示するときで、事前に金融庁長官への届出も要ります20。振替で所要自己資本が減ったときは、減った分を所要自己資本に加算します20。銀行は、トレーディング勘定に入れる商品の範囲を決める方針と手続を文書にし、内部監査部署が年に 1 回以上、この分類を監査します1。
内部取引(銀行内の組織の間や勘定の間のデリバティブ取引)では、トレーディング勘定から銀行勘定へのリスクの移転を、市場リスクの資本の計測に含めません。銀行勘定からトレーディング勘定へのリスクの移転は、信用リスクと株式リスクでは、トレーディング勘定で第三者との外部ヘッジ取引により内部取引の持ち高を完全に相殺するときなどに限って、ヘッジの効果を認めます21。
標準的方式の計算の構造
標準的方式(SA)の資本は、感応度方式、デフォルト・リスクの資本賦課、残余リスク・アドオンの 3 つを足したものです22。
感応度方式
感応度方式の資本は、デルタ・リスク、ベガ・リスク、カーベチャー・リスクの 3 つの資本の合計です23。デルタ・リスクは、リスクファクター(持ち高の価値を動かす要因)の小さな変化による価値の変化の線形の推計値で、ベガ・リスクは、インプライド・ボラティリティの変動によるデリバティブの価値の変化から生じる潜在的な損失額です24。カーベチャー・リスクは、オプション性のある商品で、デルタ・リスクを上回る追加の潜在的な損失額です24。計算では、リスクファクターを大きく動かしたときの価値の変化から、デルタで予想される変化を引きます25。デルタとベガは、リスクファクターごとの感応度から求めます。
デルタは標準的方式を使うデスクのすべての商品が対象で、証券化商品のうち CTP 以外のもの(非 CTP)は除かれます。ベガとカーベチャーはオプション性を持つ商品が対象です26。
リスク・クラスは、一般金利、信用スプレッド(非証券化商品、非 CTP の証券化商品、CTP の証券化商品の 3 区分に分かれます)、株式、コモディティ、外国為替の 7 区分です27。デルタとベガの資本は、次の順に求めます28。
- リスクファクターごとの感応度に、リスク・ウェイト(RW)を掛けて、リスク加重後の感応度 にします。
- 同じバケットの を、リスクファクターの間の相関 を使って合算し、バケットの資本 にします。
- バケットの資本を、バケットの間の相関 を使って合算し、リスク・クラスの資本にします。
- リスク・クラスの資本を足し合わせます。
バケットの資本とリスク・クラスの資本は、次の式で求めます。 はバケット b の の合計です。
相関は 3 つのシナリオで計算します。中間のシナリオは告示の表の相関をそのまま使い、高相関のシナリオは相関を 1.25 倍に(1 を超えるときは 1 に)し、低相関のシナリオは相関 を に置き換えます。シナリオごとにデルタ、ベガ、カーベチャーの資本を合計し、その最大の額を感応度方式の資本にします29。
標準的方式を使う R 銀行のデスクが、同じバケットの 2 つの株式を持つ架空の例で考えます。A 株を 100 億円買い、B 株を 60 億円売っています。デルタの感応度は、株価が 1% 動いたときの価値の変化を 0.01 で割った値で、現物を 1 対 1 で持つなら持ち高の金額に等しくなるため、+100 億円と −60 億円です30。リスク・ウェイト 20% と、リスクファクターの間の相関 50% は、説明のために置いた仮の値で、告示の値ではありません。ほかのリスクはないとします。
リスク加重後の感応度は、A 株が 20 億円、B 株が −12 億円です。 なので、3 つのシナリオの資本は次のとおりです。
| 相関のシナリオ | 相関 | (億円の 2 乗) | (億円) |
|---|---|---|---|
| 中間 | 50% | 304 | 17.44 |
| 高相関(1.25 倍) | 62.5% | 244 | 15.62 |
| 低相関 | 37.5% | 364 | 19.08 |
買いと売りが相殺する持ち高は、相関が低いほど相殺が効かず、資本が大きくなります。この例で資本になるのは最大の 19.08 億円です。ここではバケットが 1 つなので、リスク・クラスの資本は に等しくなります31。
深掘り標準的方式の 2016 年から 2019 年の変更点
金融庁と日本銀行の概要は、2016 年の規則文書から 2019 年の最終化にかけて、標準的方式が次のように変わったとしています32。
- 一般金利のリスク・ウェイトを 2016 年の規則文書より 30% 引き下げ、外国為替のリスク・ウェイトを 50% 引き下げた。
- 信用スプレッドで、ハイ・イールドと無格付のソブリン債(バケット 9)のリスク・ウェイトを 3.0% から 2.0% に下げた。
- インデックス商品用のバケットを新設し、低相関のシナリオの式を今の形(上の式)に改めた。
- カーベチャー・リスクの式に、資本の段差を和らげるフロアを入れた。
デフォルト・リスクの資本
デフォルト・リスクの資本賦課は、感応度方式では捉えられない、債務者のデフォルトによる損失を対象にします33。非証券化商品の場合、エクスポージャーごとに「デフォルトしたときに損失が出る金額」(JTD)を求め、同じ債務者の買いと売りを相殺し、バケットに分け、信用リスク区分ごとのリスク・ウェイトを掛けます。バケットの中で、買いのリスク加重額から、売りのリスク加重額にヘッジ効果比率を掛けた額を引き、バケットごとの額を単純に足します34。
JTD は、デフォルト時損失率(LGD)と想定元本の積に、時価評価損益(P&L)を足して求めます。買いが 、売りが です。LGD は、株式関連商品と負債性商品が 100%、シニア債務が 75%、カバード・ボンドが 25% です35。この JTD は、満期までの残存期間が 1 年以上のエクスポージャーの場合です。1 年未満のものには、残存期間を年換算した値(0.25 を下回らない値)を掛けます36。
R 銀行の例で、シニア債 2 銘柄の組み立てを確かめます。A 社のシニア債を想定元本 100 億円で買い、別の債務者の B 社のシニア債を想定元本 40 億円で売っていて、どちらも時価は額面と同じ( は 0)、満期までの残存期間は 1 年以上とします。両社は同じバケットで、信用リスク区分は 8-4(リスク・ウェイト 6.0%)とします。
| 項目 | A 社(買い) | B 社(売り) |
|---|---|---|
| JTD(億円) | 0.75 × 100 = 75 | 0.75 × (−40) = −30 |
| リスク加重額(億円) | 0.06 × 75 = 4.5 | 0.06 × 30 = 1.8 |
ヘッジ効果比率は 75 ÷ (75 + 30) = 0.714 で、バケットの資本は 億円です37。売りを持たなければ、資本は 4.5 億円です。
残余リスク・アドオン
残余リスク・アドオンは、感応度方式とデフォルト・リスクの資本で捕捉できないリスクのための資本です。対象は、複雑な原資産を持つ商品と、それ以外で残余リスクを持つ商品です。後者には、ペイオフがプレーン・オプションの組合せで再現できない商品などがあります。グロスの想定元本に、前者は 1.0%、後者は 0.1% を掛けます。上場商品と清算集中されている商品などは対象外です38。
想定元本 100 億円の商品なら、前者は 1 億円、後者は 0.1 億円(1,000 万円)の資本です。
内部モデル方式の計算の構造
内部モデル方式(IMA)は、銀行が自社のモデルで市場リスクの資本を計算する方式で、金融庁長官の承認を受けた銀行だけが使います1239。ここで言う内部モデル方式は市場リスクの方式で、カウンターパーティ信用リスクの「期待エクスポージャー方式」とは別の方式です40。
内部モデル方式を使える条件
内部モデル方式は、次の 3 つの段階で使えるかを判定します。
| 段階 | 判定すること | 根拠 |
|---|---|---|
| 銀行 | 重要なリスクを網羅的に把握する管理システム、ストレステストの定期的な実施、バックテスト結果の提出などの要件を満たすか。金融庁長官が承認する | 第 272 条、第 272 条の 641 |
| デスク | トレーディング・デスクの要件を満たし、金融庁長官の承認を受けているか。デスクごとのバックテストと損益要因分析テストに通っているか | 第 271 条の 3、第 271 条の 4、第 275 条42 |
| リスクファクター | リスクファクターのモデル化可能性テストに通るか。四半期ごとに判定する | 第 274 条の 543 |
デスクは、明確な事業戦略を実行するトレーダーなどのグループです44。告示は、デスクごとにヘッド・トレーダー(原則 1 名)、リスク許容範囲、取締役会等への報告、事業戦略の文書、週に 1 回以上のリスク管理報告書などを求めています45。内部モデル方式を使うデスクが検証に通らないと、そのデスクの資本は標準的方式で計算します。
期待ショートフォールと流動性ホライズン
内部モデル方式の資本の中心は、期待ショートフォール(ES)です。ES は、一定の確率の範囲で予想される VaR を上回る損失の平均値です46。統計の説明は期待ショートフォールで扱います。ここでは規制の計算の構造だけを書きます。
告示は、内部モデル方式を使うデスク全体と、デスクごとのポートフォリオについて、ES を日次で求めると定めています。信頼水準は片側 97.5%、基準の期間(ベース・ホライズン)は 10 日です47。VaR のときは保有期間を一律 10 日と想定していましたが48、FRTB では、リスクファクターごとの市場の流動性に応じた流動性ホライズンを使います。流動性ホライズンは 10、20、40、60、120 日の 5 段階で、リスクファクターのカテゴリーごとに告示が定めます。
| リスクファクターのカテゴリー(一部) | 流動性ホライズン(日) |
|---|---|
| 一般金利(特定通貨) | 10 |
| 株価(大型株) | 10 |
| 信用スプレッド:コーポレート(投資適格) | 40 |
| その他のコモディティ価格 | 60 |
| 信用スプレッドに係るボラティリティ | 120 |
流動性ホライズンは固定値ではなく下限で、承認を受ければ、デスクごとにもっと長い期間を設定できます4748。流動性ホライズンは、10 日の ES を次の式で組み合わせて反映します。
は 10 日、 はすべてのリスクファクターを動かして求めた 10 日の ES、 は流動性ホライズンが 以上のリスクファクターだけを動かして求めた 10 日の ES です。 から は 10、20、40、60、120 日です。
R 銀行の例で確かめます。すべてのリスクファクターを動かした ES が 100 億円、流動性ホライズンが 20 日以上のものだけで 60 億円、40 日以上のものだけで 30 億円で、60 日以上のものはないとします。
| j | (日) | (億円) | 係数 | 項(億円) | 項の 2 乗 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 10 | 100 | (係数なし) | 100 | 10,000 |
| 2 | 20 | 60 | 1 | 60 | 3,600 |
| 3 | 40 | 30 | 1.414 | 42.43 | 1,800 |
2 乗の合計は 15,400 で、ES は 124.10 億円です49。流動性ホライズンがすべて 10 日なら 100 億円なので、流動性の低いリスクファクターを持つほど資本が大きくなります。
資本の計算には、さらに市場が混乱した時期のデータを使います。「市場混乱時を想定した ES」は、少なくとも 2007 年まで遡る観測期間のうち、最も市況が厳しかった 12 か月のデータで求めた ES です50。告示は、モデル化可能なリスクファクターの資本(IMCC)を、5 つのリスク・クラスをまとめて求めた値と、リスク・クラスごとに求めた値の合計を、係数 0.5 で組み合わせて求めると定めています51。たとえば、全体で求めた値が 40 億円、リスク・クラスごとの値の合計が 50 億円なら、IMCC は 0.5 × 40 + 0.5 × 50 = 45 億円です。
深掘り市場混乱時を想定した期待ショートフォールの式
市場混乱時を想定した ES は、ストレス期間の ES に、最近 12 か月の比率を掛けて求めます52。
は、低減したリスクファクター(十分な観測期間のあるモデル化可能なリスクファクターの一部)について、ストレス期間のデータで求めた ES です。 は同じリスクファクターについて最近 12 か月のデータで、 はすべてのリスクファクターについて最近 12 か月のデータで求めた ES です。低減したリスクファクターには、 の に対する比率の直近 12 週間の平均が 75% 以上であることなどの要件があります。
モデル化できないリスクファクター
リスクファクターは、ES のモデルに入れてよいかを、リスクファクターのモデル化可能性テストで判定します。テストに通らないものが、モデル化できないリスクファクター(NMRF)です53。テストでは、リスクファクターに結び付けた実在価格の観測を数えます。直近 12 か月に 24 個以上あり、かつどの 90 日間にも 4 個以上あること、または 100 個以上あること(どちらも 1 日に 1 個まで)が基準です54。実在価格には、自社の取引の価格、第三者間の実際の取引の価格、確定気配値を参照した価格などがあり、証拠金の担保の授受で参照される価格は含みません54。
NMRF の資本は ES ではなく、ストレス・シナリオで求めます。シナリオは片側 97.5% の信頼水準で、同じリスク・クラスのすべての NMRF に共通の 12 か月のストレス期間を使い、流動性ホライズンは 20 日以上です55。NMRF の資本(SES)は、次の 3 つを足して求めます。
は信用スプレッドの NMRF(2019 年の概要は「信用スプレッド・リスクの個別リスク」と呼びます56)、 は株式の個別リスクの NMRF、 はそれ以外の NMRF です。 と は、それぞれの NMRF 1 つ分の資本、 は の NMRF 1 つ分の資本です。 は 0.6 です55。たとえば、それ以外の NMRF が 2 つで、資本がそれぞれ 30 億円と 40 億円なら、、 なので、SES は 億円です。単純な合計の 70 億円と、相関ゼロとしたときの 50 億円の間に入ります。
デフォルト・リスクと全体の合算
内部モデル方式を使うデスクのデフォルト・リスクの資本は、DRC モデルで求めます。デフォルト・シミュレーションを使い、片側 99.9% の信頼水準、保有期間 1 年(株式のポートフォリオは 60 日でもよい)の信用バリュー・アット・リスクを、週次で計測します。資本は、直近の計測値と、直近 12 週間の平均値の大きいほうです57。
DRC 以外の内部モデル方式の資本()は、算出基準日の IMCC と SES の合計と、直近 60 営業日の平均を使った額の、大きいほうです58。
と は算出基準日の値、 と は算出基準日を含む直近 60 営業日の平均です。乗数 は、全社的なバックテストの超過の回数に応じた乗数(超過 0〜4 回で 1.50、10 回以上で 2.00)に、金融庁長官が指定する定性的アドオンを加えたものです5958。
デスクのバックテストと損益要因分析テスト
内部モデル方式を使うデスクは、デスクごとのバックテストと損益要因分析テストの両方に通る必要があります3。ここでは規制上の判定だけを書きます。
デスクごとのバックテストは、直近 250 営業日の日次の VaR と、仮想損益と実損益を比べます。VaR は 97.5% と 99% の 2 つの信頼水準で求め、直近 12 か月の超過が 97.5% で 30 回、99% で 12 回を超えたデスクは、標準的方式で資本を計算します60。
損益要因分析テストは、デスクのリスク管理モデルが計算するリスク理論損益と、前日の持ち高を当日の終値の市場データで再評価した仮想損益を、デスクごとに日次で比べます。指標は、2 つの損益の順位相関を見るスピアマンの順位相関と、分布の近さを見るコルモゴロフ・スミルノフ(KS)検定のテスト指標で、直近 250 営業日のデータで求めます61。結果は 3 つのゾーンに分かれます62。
| ゾーン | スピアマンの順位相関 | KS 検定のテスト指標 | デスクの扱い |
|---|---|---|---|
| グリーン | 0.80 超 かつ | 0.09 未満 | 内部モデル方式を使える |
| アンバー | グリーンとレッド以外 | グリーンとレッド以外 | 内部モデル方式を続けられるが、資本サーチャージの対象 |
| レッド | 0.70 未満 または | 0.12 超 | 標準的方式を使う |
レッドのデスクが内部モデル方式を再び使えるのは、改めて行ったテストがグリーンで、直近 12 か月にデスクごとのバックテストの超過がないときです62。
図の説明
デスクごとに内部モデル方式の資本を使えるかを、前の節の表の 3 段階の判定を含め、4 つの質問で順に確かめる図です。どれかが「いいえ」なら、そのデスクの資本は標準的方式で計算し、すべて「はい」なら内部モデル方式で計算します。アンバーは 4 つ目で「はい」の側で、資本サーチャージが加わります。モデル化できないリスクファクターの扱いなど、このページが扱う 4 つ以外の条件は図に含みません。
図 1 のとおり、内部モデル方式は銀行の承認だけでは足りず、デスクごとの要件と 2 つのテストが続きます。アンバーのデスクの資本サーチャージと、銀行全体の資本の合算は、次の式です58。
は、内部モデル方式と標準的方式に基づく市場リスクの資本(マーケット・リスク相当額)の合計です。 は、グリーンとアンバーのデスクの ES の資本()とデフォルト・リスクの資本の合計です。 はその 2 つのゾーンのデスクを標準的方式で計算した資本、 は全デスクを標準的方式で計算した資本、 は内部モデル方式を使わないデスク(レッドのデスクなど)の標準的方式の資本です。 はデスク i を標準的方式で計算した資本で、 はアンバーのデスク、 はグリーンとアンバーのデスクの集合です。
R 銀行の例で確かめます。グリーンのデスクの が 120 億円、アンバーのデスクが 80 億円、レッドのデスクが 60 億円とします。 は 200 億円、 は 260 億円、 は 0.5 × 80 ÷ 200 = 0.2 です。
| 項目(億円) | が 150 のとき | が 250 のとき |
|---|---|---|
| 資本サーチャージ | 0.2 × (200 − 150) = 10 | 0.2 × 0 = 0 |
| min{150 + 10 + 60, 260} = 220 | min{250 + 0 + 60, 260} = 260 | |
| 0 | 50 | |
| 合計 | 220 | 310 |
内部モデル方式の資本が標準的方式を下回れば、合計は全デスクを標準的方式で計算した 260 億円より小さくなり、上回れば上回った分が足されて 260 億円を超えます63。
日本の告示での適用時期と各国の実施
日本では、告示の改正(令和 4 年金融庁告示第 22 号)が 2023 年 3 月 31 日から適用されました。ただし、経過措置で、適用の日から 1 年(内部モデルを用いない国内基準行は 2 年)を過ぎる日までの自己資本比率は、従前の例によって計算します64。金融庁の資料は、この経過措置の結果の適用日を次のように整理しています7。告示の附則から読み取れるのは 1 年後と 2 年後の 2 区分までで、下の表の区分は金融庁の資料の整理です。
| 対象 | 適用日 |
|---|---|
| 国際統一基準行、内部モデルを採用する国内基準行(最終指定親会社を除く) | 2024 年 3 月 31 日 |
| 内部モデルを採用しない国内基準行、最終指定親会社 | 2025 年 3 月 31 日 |
| 早期に適用を希望する金融機関 | 2023 年 3 月 31 日以降、金融庁への届出で適用できる |
図の説明
日本の告示の適用日を、古い順に並べた図です。最初の適用開始は塗りの丸で、経過措置のため、多くの銀行の実施はその後の 2 段階になります。早期に適用を希望する銀行は、金融庁への届出で最初の適用日から適用できます。後の 2 段階は銀行の区分で分かれ、実施の日が 1 年異なります。区分ごとの対象は、本文の表のとおりです。
内部モデル方式を使う銀行には、損益要因分析テストの経過措置もあります。基準日から 1 年を過ぎる日までは、テストでレッドかアンバーに分類しても、グリーンに分類したものとみなして資本を計算します65。
ほかの国と地域の実施の時期は、金融庁の資料が 2025 年 12 月時点でまとめています7。
| 国・地域 | 実施の時期(2025 年 12 月時点) |
|---|---|
| EU | 2025 年。ただし市場リスクだけは 2027 年に延期 |
| 英国 | 2027 年。ただし市場リスクのうち内部モデルの適用は 2028 年に延期予定 |
| 米国 | 未定 |
実務への影響
内部モデル方式を使う銀行は、毎月の報告2のほかに、リスクファクターのモデル化可能性テストを四半期ごとに実施します43。内部モデル方式を採用するポートフォリオの範囲の更新も、四半期ごとです41。
この記事が書いていないこと
簡易的方式の計算、リスク・ウェイトと相関の表、カーベチャー・リスクの計算の式とバケットへの集計は、この記事では扱いません。バックテストと損益要因分析の手順、米国の市場リスクの規則(12 CFR の第 217 部)、CVA リスクの資本とカウンターパーティ信用リスクの資本は、この記事では扱いません。
注
-
「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(平成十八年金融庁告示第十九号。金融庁の全体版、2026 年 8 月 24 日更新。以下「自己資本比率告示」。ページは全体版のもの)の第 11 条の 5 第 1 項、第 3 項(57 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3
-
金融庁、日本銀行「「マーケット・リスクの最低所要自己資本」の概要」(2016 年 4 月)の 2 ページ「最終文書公表の経緯」。 ↩ ↩2
-
金融庁、日本銀行「「マーケット・リスクの最低所要自己資本」の概要」(2016 年 4 月)の 3 ページ「バーゼル 2.5 と未解決の課題」。 ↩ ↩2
-
金融庁、日本銀行「「マーケット・リスクの最低所要自己資本」の概要」(2019 年 1 月)の 2 ページ「経緯」。2016 年 1 月の公表、2017 年 12 月の延期、2018 年 3 月の市中協議、2019 年 1 月の最終規則文書の公表が書かれています。 ↩
-
金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 10 ページ「バーゼルⅢ最終化の実施時期」。国際的な合意の実施時期(2023 年 1 月。当初は 2022 年 1 月で、新型コロナウイルスの影響で 1 年延期)、日本の適用日、他国の実施時期と予定(2025 年 12 月時点)が書かれています。 ↩ ↩2 ↩3
-
金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 9 ページ「バーゼルⅢ最終化の概要」のマーケットリスクの欄と、日本の実施(2023 年 3 月期から段階的)の記述。 ↩ ↩2
-
金融庁、日本銀行「「マーケット・リスクの最低所要自己資本」の概要」(2016 年 4 月)の 8 ページ「標準的方式と内部モデル方式の関係」の③。 ↩
-
自己資本比率告示(平成十八年金融庁告示第十九号)の表題(1 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の目次(5〜6 ページ)の第九章。第八節は第 302 条の 9。 ↩
-
自己資本比率告示の第 271 条の 2 第 4 項第 1 号(434〜435 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 271 条の 2 第 6 項第 2 号(435 ページ)が引く第 11 条の 3、第 22 条の 3、第 34 条の 3、第 45 条の 3 の各第 3 項第 2 号ロ。国際統一基準の連結の章の境界の条は第 11 条の 2〜第 11 条の 12(55 ページから)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 271 条第 1 項(433 ページ)。 ↩
-
金融庁、日本銀行「「マーケット・リスクの最低所要自己資本」の概要」(2016 年 4 月)の 4 ページ「トレーディング勘定と銀行勘定の境界(1)」(目的の定義)と 5 ページ「トレーディング勘定と銀行勘定の境界(2)」(商品の一覧)。 ↩
-
自己資本比率告示(平成十八年金融庁告示第十九号)の第 11 条の 3 第 1 項から第 5 項(55〜56 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
金融庁、日本銀行「「マーケット・リスクの最低所要自己資本」の概要」(2016 年 4 月)の 5 ページ「トレーディング勘定と銀行勘定の境界(2)」。 ↩
-
自己資本比率告示(平成十八年金融庁告示第十九号)の第 11 条の 6 第 1 項から第 3 項、第 11 条の 7 第 1 項(58 ページ)と第 11 条の 8 第 2 項(59 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3
-
自己資本比率告示の第 11 条の 9 第 1 項、第 2 項(59 ページ)と第 11 条の 10 第 1 項(59 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 280 条(478 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 281 条(479 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 282 条の 3 第 2 項(481〜482 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 282 条(479〜480 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 280 条の 2 第 1 号(478〜479 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 282 条の 2(480〜481 ページ)。式の記号は告示のもので、 はバケットの の合計。 ↩
-
自己資本比率告示の第 282 条の 4 第 1 項から第 3 項(483 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 283 条の 3 第 3 号(491 ページ)。式は 。 ↩
-
説明用の仮の値による計算です。、。高相関の相関は 、低相関の相関は 。 は小数第 3 位を四捨五入。 ↩
-
金融庁、日本銀行「「マーケット・リスクの最低所要自己資本」の概要」(2019 年 1 月)の 5 ページ(一般金利、信用スプレッド、外国為替のリスク・ウェイト)、6 ページ(インデックス商品用のバケット)、9 ページ(低相関のシナリオ)、10 ページ(カーベチャーのフロア)。 ↩
-
自己資本比率告示(平成十八年金融庁告示第十九号)の第 288 条(524 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 289 条の 3 第 2 項から第 5 項(528〜529 ページ。信用リスク区分 8-4 のリスク・ウェイトは 528 ページの表)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 289 条第 1 号から第 3 号(525〜526 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 289 条第 6 号(526 ページ)。 ↩
-
説明用の仮の値による計算です。、 を小数第 2 位に四捨五入。 ↩
-
自己資本比率告示(平成十八年金融庁告示第十九号)の第 292 条第 2 項から第 7 項(535〜537 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 1 条第 12 号の 2、第 12 号の 3(10 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 79 条第 1 項(188 ページ)。派生商品取引の与信相当額を SA-CCR か期待エクスポージャー方式で求めます。 ↩
-
自己資本比率告示の第 271 条の 4 第 1 項(438 ページ)、第 271 条の 6 第 1 項(438 ページ)と、第 275 条第 2 項(459 ページ)。 ↩ ↩2
-
自己資本比率告示の第 1 条第 89 号(24 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 271 条の 3 第 3 項第 1 号、第 2 号、第 4 号、第 5 号、第 8 号、第 10 号(435〜437 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 1 条第 96 号(25 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 276 条の 2 第 1 項から第 3 項(467〜470 ページ。流動性ホライズンの表は 468〜469 ページ)。 ↩ ↩2
-
金融庁、日本銀行「「マーケット・リスクの最低所要自己資本」の概要」(2016 年 4 月)の 14 ページ「主な定量的要件」。現行規制の保有期間と、流動性ホライズンをフロア値として使い、当局承認のもとデスクごとに長くできることが書かれています。 ↩ ↩2
-
説明用の仮の値による計算です。(小数第 3 位を四捨五入)。 ↩
-
自己資本比率告示(平成十八年金融庁告示第十九号)の第 1 条第 97 号(25 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 276 条の 4(471〜472 ページ)。式は 、。 ↩
-
自己資本比率告示の第 276 条の 3 第 1 項、第 2 項第 1 号(470〜471 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 1 条第 101 号、第 104 号、第 105 号(25 ページ)。 ↩
-
金融庁、日本銀行「「マーケット・リスクの最低所要自己資本」の概要」(2019 年 1 月)の 24 ページ「IMA:2016 年の規則文書から最終化にかけての変更点(2)NMRF ⑤SES の計測方法の見直し(続)」の式の注記。 ↩
-
自己資本比率告示(平成十八年金融庁告示第十九号)の第 277 条第 1 項から第 3 項(473〜474 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 279 条(477〜478 ページ)。表記の は告示の ( と DRC の合計)、 は告示の 、 は告示の「資本サーチャージ」。 ↩ ↩2 ↩3
-
自己資本比率告示の第 275 条の 2 第 4 項の表(460〜461 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 275 条の 3 第 1 項、第 2 項、第 4 項(461〜462 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 275 条の 4 第 1 項(462 ページ)、第 275 条の 7 第 1 項、第 2 項(465 ページ)と、第 1 条第 92 号、第 94 号(24 ページ)。 ↩
-
説明用の仮の値による計算です。、、。 のとき 、250 のとき に を足して 310。 ↩
-
自己資本比率告示(平成十八年金融庁告示第十九号)の附則(令和四年四月二十八日金融庁告示第二十二号)の第 1 条(596 ページ)と第 2 条第 1 項、第 2 項(596〜597 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の附則(令和四年四月二十八日金融庁告示第二十二号)の第 22 条(606〜607 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 275 条の 9(466〜467 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 283 条の 2(490 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 275 条の 6 第 1 項(464 ページ)。 ↩
-
自己資本比率告示の第 271 条の 8 第 1 項(439 ページ)。 ↩