リスク管理部門やミドルの担当者は、日次の損益がどのリスクからどれだけ出たのかを点検するときに、損益の要因分析を使います。

なぜ損益をリスク要因に分けるのか

米国の連邦準備制度理事会の検査の手引き(以下「手引き」)は、この作業をトレーダーから独立した部署が受け持つものとしています1。2003 年 4 月の節の時点では、大きな金融機関の多くでリスク管理部門かミドルが担っていたと述べています。

損益の要因分析は、日次の損益を、どのリスクからどれだけ出たかに分けて示す作業です。トレーディングの損益は複数の要因から生じます。そのため金融機関は、取引ごとの損益を元になった要因に結び付け、価値の変化の理由をつかもうとします。要因の例は、売値と買値の差の獲得、取引を組成したときの利益、自己勘定のポジションの取り方です。さらにデスクが、デルタ、ガンマ、セータ、ロー、ベガのように、実際に管理しているリスクごとに日次の損益を分ける例もあります2。

日次の損益の出どころを正しく示せることは、トレーディングの時価の評価が妥当かを確かめる大事な管理の 1 つです。損益を測って要因に結び付ける作業は、リスクが正確に測られて監視されているかの確認にもなります2。日次の損益そのものの算出と評価の検証は日次の時価と損益の確定で扱います。用語としては損益の説明と同じ作業です。

要因分析の作り方

損益のうち、リスクの要因に結び付けられた分を説明できた損益といい、実際の損益との差を説明できない損益といいます3。

説明できない損益=実際の損益−(各要因の寄与の合計)\text{説明できない損益} = \text{実際の損益} - (\text{各要因の寄与の合計})

オプションを多く持つデスクの 2 日分の架空の例で考えます。手引きに要因ごとの寄与の算出方法はないので、前日のポジションの感応度に、その日のリスクファクターの動きを掛けて求める単純な約束を置き、手で計算できる形にします。

時価と損益は万円、原資産の価格は円、ボラティリティは % で測ります。前日の終わりの感応度は、デルタが 20(原資産が 1 円上がると 20 万円の得)、ガンマが −4、ベガが 30(ボラティリティが 1% 上がると 30 万円の得)、セータが −15(1 日で 15 万円の損)です。ガンマの寄与は、ガンマに動きの 2 乗を掛けて 2 で割った値と置きます。

要因 計算 1 日目(万円) 2 日目(万円)
原資産の価格の変化 入力 +3 円 +10 円
ボラティリティの変化 入力 −1% 0%
デルタ 20 × 価格の変化 60 200
ガンマ 0.5 × (−4) × (価格の変化)² −18 −200
ベガ 30 × ボラティリティの変化 −30 0
セータ −15 × 1 日 −15 −15
説明できた損益 4 要因の合計 −3 −15
実際の損益 架空の値 −4 −35
説明できない損益 実際 − 説明できた −1 −20

このデスクは、説明できない損益の大きさ(プラスかマイナスかを問わない)が 10 万円を超えたら原因を調べる基準を置いているとします。1 日目は、デルタの得とガンマ、ベガ、セータの損が打ち消し合って説明できた損益は −3 万円、説明できない損益は −1 万円と基準の内に収まります。2 日目は、価格が 10 円動いて、デルタの得 200 万円とガンマの損 200 万円が打ち消し合ったのに、実際の損益は −35 万円で、説明できない損益は −20 万円と基準を超えます。この表だけでは、差の原因が近似の粗さなのか、評価の誤りなのかは決まりません。調べるのはそのためです。感応度の限界はセンシティビティ(DV01、ベガ、年限別の感応度)で扱います。

説明できない損益を調べる

説明できない損益が大きいときや、いつもと違う内訳が出たときは、評価の手続きに欠陥があり、報告した利益が多すぎたり少なすぎたりしているおそれがあります。ポジションに、捉えきれず測れていないリスクが残っていることもあります2。調べた結果によっては、評価のモデルを直したり、ボラティリティや相関のような評価の入力値の選び方を問い直したりします3。

要因分析の手順は、事業部門をまたいで標準化し、一貫して適用することが求められます1。調べる基準の金額は金融機関ごとに違い、金額を決める例と、リスク管理の部署がそのつど判断する例の両方があります3。新しい取引の初日の利益を、セールス、組成、自己勘定のデスクや評価の留保に配分する場合も、その配分の妥当性は、独立して確かめることが求められます3。

規制での使われ方(損益要因分析テスト)

日本の自己資本比率の告示(銀行法第十四条の二の規定に基づく金融庁の基準。以下「告示」)は、FRTB の内部モデル方式で市場リスクの資本を計る銀行に、損益要因分析テストを求めています。

テストは、フロント部門のモデルと内部モデル方式を比べ、内部モデル方式で時価評価を簡易にしたことが重要な差を生んでいないかを調べるものです。トレーディング・デスクごとに、2 つの損益を毎日比べます4。

  • リスク理論損益: デスクのリスク管理モデルで計算した損益です5。
  • 仮想損益: 前日の終わりに持っていたポジションを、当日の終わりの市場データで評価し直して生じる日次の損益です。手数料、日中の取引、新規や変更の取引などは除きます5。

リスク理論損益のリスクファクターには、モデル化できるものもできないものも全部を含めます6。仮想損益と実際の損益(日次の損益の計算の過程で出した損益)は、同じ時価評価のモデルで計算します。リスク理論損益はデスクのリスク管理モデルで計算するので、別のモデルです。このテストで比べるのはリスク理論損益と仮想損益で、実際の損益は使いません。バックテストでは、VaR を仮想損益と実際の損益の両方と比べます7。

テストの指標は 2 つで、直近 250 営業日の時系列データから計算します。順位の相関を見るスピアマンの順位相関指標と、分布の近さを見るコルモゴロフ・スミルノフ検定(KS 検定)の指標です8。結果は、次の表のとおりグリーン、アンバー、レッドに分かれます9。

区分 条件 デスクの扱い
グリーン スピアマンが 0.80 を超え、かつ KS が 0.09 未満 内部モデル方式を使える
アンバー グリーンにもレッドにも当たらない 資本サーチャージを課して、内部モデル方式を続けられる
レッド スピアマンが 0.70 未満、または KS が 0.12 を超える 標準的方式を使う
はいいいえスピアマンが 0.70 以上で、かつ KS が 0.12 以下かレッド原則として標準的方式を使うはいいいえスピアマンが 0.80 を超え、かつ KS が 0.09 未満かアンバー資本サーチャージを課すグリーン内部モデル方式を原則使える
図 1損益要因分析テストの区分の判定
図の説明

先にレッドの条件、次にグリーンの基準の順に確かめる図です。どちらにも当たらなければアンバーです。

図 1 の流れを、A 銀行の 3 つのデスクに当てはめます。指標を直近 250 営業日のデータから計算した架空の例で考えます。

デスク スピアマン KS 区分 理由
甲 0.85 0.07 グリーン 0.80 を超え、かつ 0.09 未満
乙 0.85 0.10 アンバー スピアマンはグリーンの範囲だが、KS が 0.09 未満でなく、0.12 を超えてもいない
丙 0.68 0.05 レッド KS は小さいが、スピアマンが 0.70 未満

2 つの指標は両方を見ます。境目の値では、スピアマンがちょうど 0.80 なら「0.80 を超え」に当たらず、KS がちょうど 0.09 でも「0.09 未満」に当たらないので、どちらの場合もグリーンになりません。グリーンにならないデスクがアンバーかレッドかは、スピアマンが 0.70 未満か、KS が 0.12 を超えるかで決まり、片方でも当たればレッドです。スピアマンがちょうど 0.70 なら「0.70 未満」に当たらないので、スピアマンの側ではレッドの条件に当たりません。

深掘り5 日分の損益で順位相関を手で計算する

仕組みを見るために、5 日分の仮の損益で、告示の算式(順位データの共分散を、両方の標準偏差の積で割る)どおりに計算します。実際のテストは 250 営業日分です。

日 仮想損益 順位 リスク理論損益 順位
1 −4 1 −3 1
2 2 3 1 3
3 −1 2 −2 2
4 6 5 4 4
5 3 4 5 5

順位の平均はどちらも 3 です。平均からの差の積は、日 1 から順に 4、0、1、2、2 で、合計 9 を 5 で割った共分散は 1.8 です。差の 2 乗の平均は、どちらの順位も (4 + 0 + 1 + 4 + 1) ÷ 5 = 2 なので、標準偏差はどちらも √2 です。スピアマンの順位相関指標は 1.8 ÷ (√2 × √2) = 0.9 になります8。4 日目と 5 日目で順位が入れ替わったぶん、1 から下がっています。

結果は、アンバーかレッドになったときに、原因と対処の方針を添えて金融庁長官に届け出ます10。このほか、直近 12 か月のバックテストの超過が 99% の信頼水準で 12 回、97.5% で 30 回を超えたデスクも標準的方式になります11。レッドから内部モデル方式に戻すには、改めて実施したテストでグリーンになり、直近 12 か月のバックテストの超過がこの回数を超えていないことが要ります9。

関係する規制

規制の中身は、告示の第 275 条の 4 から第 275 条の 9(損益要因分析テスト)と、第 1 条の損益の定義にあります。告示は内部モデル方式を使う銀行に、四半期ごとにデスク別の損益要因分析テストを行い、結果の区分を更新することを求めています12。テストの指標の値は、金融庁、日本銀行の 2019 年 1 月の概要でも、スピアマンの順位相関指標と KS 検定の指標が、黄ゾーンの 0.80 と 0.09、赤ゾーンの 0.70 と 0.12 と示されています13。

注

  1. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2100.1「Financial Performance」(2003 年 4 月)の 9 ページ(PDF の 150 ページ)、"INCOME ATTRIBUTION" の 2 つ目の段落。 ↩ ↩2

  2. 同手引きの Section 2100.1 の 8〜9 ページ(PDF の 149〜150 ページ)、"INCOME ATTRIBUTION" の冒頭と "Explained Profits and Losses"。 ↩ ↩2 ↩3

  3. 同手引きの Section 2100.1 の 9 ページ(PDF の 150 ページ)、"Unexplained Profits and Losses" と "Explained Profits and Losses" の末尾。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  4. 「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(平成十八年金融庁告示第十九号。金融庁の全体版、2026 年 8 月 24 日更新)の第 275 条の 4 第 1 項と第 3 項(462〜463 ページ)。 ↩

  5. 同告示の第 1 条第 91 号(損益要因分析テスト)、第 92 号(仮想損益)、第 94 号(リスク理論損益)、第 95 号(実損益)(24〜25 ページ)。 ↩ ↩2

  6. 同告示の第 275 条の 5 第 1 項、第 3 項、第 7 項(463 ページ)。第 7 項は、仮想損益と実損益の算出に同一の時価評価モデルを用いると定めています。 ↩

  7. 同告示の第 275 条の 3 第 1 項(461 ページ)。 ↩

  8. 同告示の第 275 条の 7 第 1 項から第 4 項(465 ページ)。 ↩ ↩2

  9. 同告示の第 275 条の 8(465〜466 ページ)。 ↩ ↩2

  10. 同告示の第 275 条の 9 第 1 号から第 3 号(466〜467 ページ)。 ↩

  11. 同告示の第 275 条の 3 第 4 項(462 ページ)。直近 12 か月のバックテストの超過が、99% の信頼水準で 12 回、97.5% の信頼水準で 30 回を超えたデスクは、標準的方式を使うと定めています。 ↩

  12. 同告示の第 272 条の 6 第 10 号ロ(3)(443 ページ)。バック・テスティングと損益要因分析テストを四半期ごとに実施して分類を更新する手順です。 ↩

  13. 金融庁、日本銀行「「マーケット・リスクの最低所要自己資本」の概要(2019 年 1 月)」の 14 ページ(PDF の 15 ページ)、「IMA:2016 年の規則文書からの変更点」の「PLA テスト」。 ↩