デスクのトレーダーが日中に見ている損益を、その日の終わりに取引をしない部署が確かめ直し、経営への報告に載せる場面で出てくる業務です。

損益を独立した部署が確かめる理由

トレーディングの損益は、フロント(営業・トレーディング)が出した数字をそのまま使わず、取引をしない部署が毎日計算し直して確かめます。米国の連邦準備制度理事会(FRB)の検査の手引き(以下「検査の手引き」)の 1998 年 2 月付けの節によると、損益は経営陣が事業の成果とリスクを比べる材料になり、トレーダーやセールスの報酬を決めるのにも使われることがありました1。取引をする人が自分の損益を決められると、誤りや不正が損益の数字に隠れるおそれがあります。

時価の評価の手続きが弱いと不正の余地が大きくなり、トレーディングの利益が本当かどうか疑わしくなります。よくある欠陥は、トレーダーと管理の担当者の職務の分離が不十分なことと、トレーダーの入力に頼りすぎて評価の入力値を独立して確かめていないことです2。フロントと管理の部署で評価の前提や方法が食い違うと、財務報告と市場リスクの評価も誤ります3。

英国の健全性規制機構(PRA)の規則は、トレーディング勘定の持ち高を少なくとも毎日公正価値で評価し直し、その変化を損益に計上するよう金融機関に求めています4。

市場データの確定から損益の報告までの流れ

日次の時価と損益は、その日の終わりの市場データを確定させるところから始まり、確定した損益の報告で終わります。検査の手引きの記述をもとにすると、流れは次の 5 つの手順になります。手順を受け持つ部署の名前と分け方は金融機関によって違います。損益を確かめる部署は、英国の金融サービス機構(FSA)が 2012 年の UBS への最終通知で使っている呼び名にならい、プロダクト・コントロール(損益と時価を検証する部署)と呼びます5。

フロント損益の検証経営陣など持ち高の時価を日中に見るその日の終わりの市場データを確定する時価と日次の損益を計算するフロントの損益と突き合わせる差の理由を調べて記録する損益の内訳を説明する確定した損益の報告を受ける
図 1日次の時価と損益を確定させる流れ
図の説明

日次の時価と損益を確定させる業務の流れです。フロントは日中に持ち高の時価を見ています。損益を検証する部署(プロダクト・コントロール)は、その日の終わりの市場データを確定し、時価と日次の損益を計算して、フロントの損益と突き合わせます。差があれば理由を調べて記録し、そのうえで損益の内訳を説明します。最後に、経営陣などが確定した損益の報告を受けます。確定させる損益は、フロントの見積もりではなく、取引をしない部署が計算した損益です。

  1. その日の終わりの市場データを確定します。持ち高は、ふつう営業終了の時点で、フロントから独立した市場の値を使って評価します。値は自動の取り込みで入れるのが基本です。取り込めない値は、トレーダーではなく、ミドル(リスク管理など)やバック(事務・決済)の管理の部署が入力します。値を決めるのにトレーダーが関わることはあります6。どの時点の値を終値とするかは、評価の方針に書いておきます7。
  2. プロダクト・コントロールが、持ち高の時価と日次の損益を計算します。約定の入力で記録された取引から持ち高を集め、市場の価格が観測できる持ち高はその価格で、観測できない流動性の低い持ち高は評価のモデルで時価を出します1。取引が少なく、モデルでも評価しにくい商品は、週 1 回や月 1 回の評価にすることがあり、どの取引を毎日の評価から外すかを方針で決めておきます6。取引の入力と確かめ方は約定の管理で扱います。
  3. プロダクト・コントロールが、フロントの損益と突き合わせます。時価は、トレーダーが日中に持ち高を見るために出し、管理の部署が損益への影響を確かめるために毎日出し直します。トレーダーの入力と独立した市場の値の差は、原因を突き止めて解消し、記録に残します3。持ち高と損益は、フロントの記録と総勘定元帳(会社全体の帳簿)の両方と照合します8。
  4. プロダクト・コントロールなど、トレーダーから独立した部署が、損益の内訳を説明します。日次の損益を要因ごとに分け、どこから損益が出たかを確かめます(次の節)9。
  5. 独立した管理の部署が、確定した損益を報告します。日次の損益の内訳の報告と、月末の公式の損益の報告を作り、経営陣に届けます。デスクの責任者には、新しい取引の損益を含む日次の報告を渡します10。

損益の説明

損益の説明は、日次の損益を、市場の動き、時間の経過、新しい取引などの要因に分け、どれだけの損益がどこから出たかを示す作業です。日次の損益の出どころを正しく示せることは、時価の評価が妥当かを確かめる大事な管理の 1 つです11。説明できない損益が大きいときや、いつもと違う内訳が出たときは、評価の手続きに誤りがあり、報告した利益が多すぎたり少なすぎたりしているおそれがあります。持ち高が抱えているのに捉えていないリスクがあることもあります。要因に分けた損益を説明できた損益といい、実際の損益との差を説明できない損益といいます9。

説明できない損益=実際の損益−説明できた損益\text{説明できない損益} = \text{実際の損益} - \text{説明できた損益}

金利スワップを扱う 1 つのデスクの 2 日分の損益を要因に分ける架空の例で考えます。このデスクは、説明できない損益の大きさ(プラスかマイナスかを問わない)が 100 万円を超えたら原因を調べると決めているとします。

要因 1 日目(万円) 2 日目(万円)
市場の動き(金利の変化) 1,200 −900
時間の経過 100 100
新しい取引 300 200
説明できた損益 1,600 −600
実際の損益 1,650 −1,000
説明できない損益 50 −400

1 日目は金利の動きで利益が出て、説明できない損益は 50 万円で基準の内に収まります。2 日目は金利の動きで損失が出て、説明できない損益は −400 万円と基準を超えるため、原因を調べます。調べた結果によっては、評価のモデルを直したり、ボラティリティや相関のような評価の入力値の選び方を見直したりします9。調べる基準の金額は金融機関によって違い、金額を決めずに担当の部署がそのつど判断する例もあります9。

分け方の細かさは、デスクが管理しているリスクで変わります。検査の手引きの例では、デスクは損益を、スプレッドの動き、時間の経過による価値の減り(タイム・ディケイ)などの要因に分けます。管理しているリスクに合わせて、デルタ、ガンマ、セータ、ロー、ベガのような感応度ごとに日次の損益を分けるデスクも多くありました9。

使う書類とデータ

日次の損益の確定では、市場データ、持ち高、計算の結果、差の記録、報告を扱います。表の書類とデータの名前は、実際には金融機関とシステムによって違います。

書類・データ 中身 作る部署・作り方
その日の終わりの市場データ 金利、為替、価格、ボラティリティなどの値と、値を取った時点と取得元 自動の取り込み。取り込めない値は管理の部署が入力
持ち高 取引の記録から集めた、ブック(デスク)ごとの持ち高 取引の記録から集計。バックがトレーダーの持ち高の記録と総勘定元帳を照合
時価と日次の損益 持ち高ごとの時価と、前の日からの変化 プロダクト・コントロール
差の記録 フロントの数字との差、差の理由、損益への影響 プロダクト・コントロール
日次の損益の報告 ブックごとの損益、要因ごとの説明、リスク プロダクト・コントロール
新しい取引の報告 顧客名、満期、想定元本、時価、新しい取引の損益など プロダクト・コントロール

表の中身は、検査の手引きの記述と、英国の規則が評価の方針に書くよう求める項目(市場の情報の取得元、終値の時点など)によります23107。

関わる部署と役割

時価と損益の確定には、取引をする部署と、それを確かめる部署が分かれて関わります。部署の役割の全体と、分ける理由はフロント・ミドル・バックの役割で扱います。

部署 役割
フロント 新しい取引の初めの価格を付け、日中に持ち高の時価を見る。評価の値を決めるのに関わることもある
プロダクト・コントロール 時価と損益を計算し直して確かめ、フロントの数字と突き合わせ、損益の内訳を説明し、報告を作る
リスク管理部門 金融機関によっては損益の説明を受け持つ。時価の評価の結果をリスク量の計測の出発点に使う
バック トレーダーの持ち高の記録と総勘定元帳を照合する
経営陣 日次と月末の損益の報告を受け、大きな差の報告を受ける

表の分担は、検査の手引きと FSA の最終通知の記述によります6231095。1998 年 2 月付けの検査の手引きによると、時価の評価、収益の出どころの特定、経営への報告は、財務の管理(financial control)など取引をしない部署が受け持つのがふつうでした。業務や管理の担当者を事業の部門の中に置き、事業の責任者に報告させる銀行も出てきており、検査ではその場合も取引をする部署から十分に独立しているかを確かめます1。2003 年 4 月時点では、大きな金融機関の多くで、損益の説明をリスク管理部門かミドルが受け持っていました9。

不正取引で 23 億ドルの損失を出した 2011 年の UBS では、プロダクト・コントロールは財務部門に属し、損益とそのもとになる持ち高を理解して確かめる役割を持っていました135。

毎日の時価の評価とは別に、時価と評価の入力値を、取引をしない部署が定期的に確かめ直します。これを独立した時価の検証といいます。英国の規則は、トレーディング勘定から利益を得る人や部署から独立した人か部署が、少なくとも月 1 回、市場の価格と評価の入力値を確かめるよう求めています14。検査の手引き(1998 年 2 月)では、この評価し直しはふつう月 1 回でした。単純で数の多い商品は抜き取りで、複雑な取引は全部か金額の大きな取引を選んで評価し直す例がありました6。

損益の保留と調整を見逃さない

損益の計上の保留や調整、帳簿の後からの修正は、どれも報告する損益の数字を変えます。FSA の最終通知と検査の手引きから引ける防ぎ方は、保留や調整を日次の報告で別に示して申し出の理由を問い直すことと、評価の見積もりを変えたことによる帳簿の修正をはっきり記録して経営陣に報告することです。

保留や調整の申し出の確かめが働かなかった例が、2011 年の UBS です。プロダクト・コントロールは、記帳の誤り、約定の入力の時点のずれ、価格の反映の遅れを理由に、損益の計上を保留したり調整したりできました。保留はふつうトレーダーから申し出られ、2011 年 8 月 18 日まで日次の損益の報告で別に示されていませんでした。同じ年の 8 月にトレーダーが申し出た保留は合わせて 16 億ドルでしたが、若手の担当者は十分に問い直さず、上の役職にも報告しませんでした15。

FSA の最終通知は、デスクの利益がその日の終わりのリスクの持ち高では説明できないほど増えていたのに、プロダクト・コントロールが理由を調べなかったことも指摘しています。説明のつかない利益と大きな保留が重なったことは、より詳しく調べるべき兆しだったとしています16。説明できない損益は、損失だけでなく利益も調べる対象です。

1998 年 2 月付けの検査の手引きは、評価の見積もりを変えたことで総勘定元帳を後から修正するときは、はっきり記録して経営陣に報告するよう求めていました3。同じ手引きは、独立した時価の検証で帳簿の価値と大きく違う結果が出たときは、原因を調べ、財務報告を直す必要があるかを判断するよう求めていました6。

関係する規制

PRA の規則(第 105 条)は、評価の手続きについて次のことを求めています。評価の方針と手続きを文書にし、関わる部署の責任、市場の情報の取得元、終値の時点、評価を直す手続き、月末と随時の検証の手続きなどを書きます。評価を受け持つ部署の報告の線は、フロントから独立させます7。評価調整を検討する手続きも求めます17。

日本では、自己資本比率の告示が、実損益を「日次の損益計算プロセスで計算した実際の損益」と定めています18。内部モデルで市場リスクの所要自己資本を計る銀行は、この実損益と、前日の持ち高を当日の市場データで評価し直した仮想損益を、日次の VaR と比べてモデルを確かめます19。

金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」は、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の取引を含む市場性のあるクレジット商品を対象に、着眼点を挙げています。フロント部門が算出した価格をリスク管理上の時価に使うときに、リスク管理部門などが独立した立場から検証しているかという点です。「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」も、同じ着眼点を置いています20。

注

  1. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2100.1「Financial Performance」(1998 年 2 月)の 1 ページ(前文と "VALUATION")。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  2. 同じ手引きの Section 2060.1「Operations and Systems Risk (Back-Office Operations)」(1998 年 2 月)の 5 ページ、"REVALUATION" と "Reconciliations"。 ↩ ↩2 ↩3

  3. 同じ手引きの Section 2060.1(1998 年 2 月)の 6 ページ("REVALUATION" の続き)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  4. Prudential Regulation Authority「PRA Rulebook」の Trading Book (CRR) Part、Article 105「Requirements for Prudent Valuation」(2025 年 2 月 8 日の版)の第 3 項。 ↩

  5. Financial Services Authority「Final Notice」(UBS AG、2012 年 11 月 25 日)の 41 項。 ↩ ↩2 ↩3

  6. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2100.1(1998 年 2 月)の 2 ページ。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  7. Prudential Regulation Authority「PRA Rulebook」の Trading Book (CRR) Part、Article 105(2025 年 2 月 8 日の版)の第 2 項 (a) と (b)。 ↩ ↩2 ↩3

  8. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.2「Examination Objectives」(1998 年 2 月)の 1 ページの 8。 ↩

  9. 同じ手引きの Section 2100.1(2003 年 4 月)の 9 ページ、"INCOME ATTRIBUTION" の続き、"Explained Profits and Losses"、"Unexplained Profits and Losses"。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8

  10. 同じ手引きの Section 2100.1(2003 年 4 月)の 9 ページ、"Reports to Management"。 ↩ ↩2 ↩3

  11. 同じ手引きの Section 2100.1(2003 年 4 月)の 8〜9 ページ、"INCOME ATTRIBUTION"。 ↩

  12. Prudential Regulation Authority「PRA Rulebook」の Trading Book (CRR) Part、Article 105(2025 年 2 月 8 日の版)の第 7 項 (d) と (e)、同じ項の最後の段落。 ↩

  13. Financial Services Authority「Final Notice」(UBS AG、2012 年 11 月 25 日)の 23 項。 ↩

  14. Prudential Regulation Authority「PRA Rulebook」の Trading Book (CRR) Part、Article 105(2025 年 2 月 8 日の版)の第 8 項。 ↩

  15. Financial Services Authority「Final Notice」(UBS AG、2012 年 11 月 25 日)の 42 項。 ↩

  16. 同じ最終通知の 61 項の vi。 ↩

  17. Prudential Regulation Authority「PRA Rulebook」の Trading Book (CRR) Part、Article 105(2025 年 2 月 8 日の版)の第 9 項と第 10 項。 ↩

  18. 「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(平成十八年金融庁告示第十九号。金融庁の全体版、2026 年 8 月 24 日更新)の第 1 条第 92 号(仮想損益)と第 95 号(実損益)(24〜25 ページ)。 ↩

  19. 「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」の第 275 条の 2 第 1 項(460 ページ)。 ↩

  20. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-3-3-2(3)①ロ(126 ページ)と、金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅣ-2-3(3)⑦イb(121 ページ)。 ↩