約定の記録は、入力を確かめるバックと、その記録を使って評価、リスク管理、報告をする担当にとって、すべての後工程の出発点です。記録に誤りがあると、時価の計算も確認書の照合も決済も、誤った条件のまま進みます。
約定の入力と、その記録を使う業務
約定の入力は、約定した取引の条件を、社内のシステムに記録することです。金融機関が取引相手と、想定元本 100 億円、期間 5 年の金利スワップを約定した架空の例で考えます。金融機関は固定金利 年 1% を払い、変動金利を受け取ります。この条件を正しく入力すれば、システムは固定金利の支払いを毎年 1 億円(100 億円 × 1%)と計算します。想定元本を 10 億円と入力すると、支払いは毎年 1,000 万円と記録され、時価と持ち高も 10 分の 1 の取引として計算されます。
入力した記録は、その後の業務のもとになります。米国の連邦準備制度理事会の検査の手引き(1998 年。以下「検査の手引き」)は、約定の記録を、会計の記帳と、満期までの決済に使うとしています。記録した取引は定期的に評価し直し、満期の支払いや受け取りの指図もこの記録から出す、という流れです1。検査の手引き(2003 年)は、すべての取引を正しく記録し、経営陣がリスクの大きさと損益を把握できるようにする手続きも求めています2。
金利スワップのような店頭デリバティブでは、約定の日に入れた記録が、満期までの何年もの間、利払いの計算に使われ続けます。行使や期限前の解約などの取引期間中のイベント(ライフサイクル・イベント)の処理のもとにもなります1。
入力の誤りは、取引をした部署とは別の部署が見つけます。検査の手引き(1998 年)は、フロント(営業・トレーディング)とバック(事務・決済)の職務を分け(職務の分離)、バックを、誤りを見つけてトレーダーに知らせる場所とするべきだとしています3。部署ごとの役割の全体は、フロント・ミドル・バックの役割で扱います。
約定から照合に回すまでの流れ
約定から取引相手との照合に回すまでは、入力、社内での確認、照合への引き継ぎの順に進みます。誰が入力するかは、金融機関のシステムの作りで変わります。検査の手引き(1998 年)では、フロントとバックで取引のシステムが分かれていれば、トレーダーが書いた約定の伝票をもとにバックが入力します。約定から決済までを一続きで処理する STP や自動処理のシステムでは、ふつうはフロントが入力し、バックが確かめてから受け付けます4。
入力した取引が限度(市場リスクの限度枠や、取引相手ごとの与信枠など)に収まるかを誰が確かめるかも、金融機関で違います。バックの担当者が確かめる場合と、フロントから独立したリスク管理の部署が確かめる場合があります5。下の図は、フロントが入力し、ミドル(リスク管理など)が限度を確かめる形の例です。
図の説明
フロントが約定の内容を入力すると、ミドルは限度を、バックは入力が約定の記録と合うかを、それぞれ確かめます。合わなければフロントが訂正してバックがもう一度照らし、合っていればバックが確認書を送って取引相手との照合に回します。入力した部署とは別の部署が確かめてから、取引を外に出す流れです。
バックは、フロントから受け取った約定の伝票や入力の中身が正しいかを確かめ、足りない情報があれば集めて記録します。確かめ終えると、取引相手に取引確認書(コンファメーション)を送ります。取引相手から返ってきた確認書が一致すれば取引は確認され、違いがあれば解決の手続きに回ります1。トレーダーが約定の伝票をバックに渡す流れでは、渡した後は、トレーダーは処理から外れます。トレーダーが関わるのは、自分の持ち高をバックが別に作った記録と照らすときと、バックが作った報告を確かめるときだけです6。
確認書のやりとり、照合で不一致が見つかったときの対応、確認の期限と、入力ミスの種類とそれが損失につながる道筋は、約定の入力ミスと確認書の不一致で扱います。
電子確認のサービスに送る場合
ここまでの流れは、バックが確認書を作って取引相手に送る形です。電子確認プラットフォームを使うときは、約定した取引の条件の送り先が、サービスになります。
OSTTRA の説明では、ブローカー、ディーラー、取引の場がサービスに送った取引を、当事者が受け入れる(アファメーションする)と、次の手順に進みます。その手順は通常、取引の記帳と確認です7。バックが確認書を送る形では、入力、バックの確認、確認書の送付の順に進みます1。
電子の確認では、当事者がそれぞれ送った取引を突き合わせる(マッチング)か、受け入れる(アファメーション)ことで取引の条件を確認します7。
入力する項目と入力の期限
入力する項目は、トレーダーに聞き直さなくても契約書を作れるだけの取引の条件です。約定の記録には、次の項目を含めます8。金利スワップには 1 回だけの決済日がないため、例では決済日の欄に開始日と満期日を書いています。
| 項目 | 金利スワップの例での中身 |
|---|---|
| 取引日と約定の時刻 | 約定した日と時刻 |
| 決済日 | 取引の開始日と、5 年後の満期日 |
| 取引相手 | 取引相手の名前 |
| 商品 | 金利スワップ。金融機関が固定金利を払い、変動金利を受け取る |
| 金額 | 想定元本 100 億円 |
| 価格やレート | 固定金利 年 1% |
| 決済の方法と場所(商品による) | 利払いの受け払いに使う口座 |
約定の伝票には、商品の種類をはっきり書き、契約書を作るのに要る情報をすべて入れます9。当局への取引情報の報告の項目にも、発効日、満期日、取引当事者、取引の方向、想定元本などが並びます10。
入力は、約定と同時か、その直後にします。約定の伝票と持ち高の記録は遅れず漏れなく作るものとされ、取引の量や速さによっては、約定とほぼ同時に作ることが求められる場合もあります11。
日本では、証券会社など(第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者)は、店頭デリバティブの取引を含めて注文伝票を作ります。約定の日時と約定の価格も、伝票の記載事項です。自己の取引では、発注するときに速やかに伝票を作ります。コンピュータで作るときは、約定の結果を除く項目を発注するときまでに入力します。入力の日付と時刻は、自動で記録されるようにします12。
通常の取引時間の外やディーリング・ルームの外での取引は、認められた担当者と取引できる商品を決めておき、すぐに書面で報告して記録します1314。
部署ごとの確認と承認
入力の後は、取引をした部署とは別の担当者が、入力の中身と、取引が決まりの範囲に収まっているかを確かめます。確かめる担当の分け方は金融機関の組織で違いますが、検査の手引き(1998 年と 2003 年の節)では、次の分担が示されています。
| 担当 | 約定の入力で確かめること |
|---|---|
| フロントのトレーダー | 約定の伝票に時刻を入れ、中身を確かめる。日々の持ち高を、バックが別に作った記録と照らす176 |
| バック | 入力を約定の伝票と照らし、足りない情報を集める。相場から外れた価格での取引は、理由を記録簿に書く118 |
| 取引部門から独立した部署 | 日々の報告から、認められた取引の限度の超過を見つける19 |
| 管理職 | 限度を超える取引を、超える前に承認して記録に残す。相場から外れた価格での取引の理由を確かめる20 |
約定の伝票には、トレーダーとバックの担当者の両方が署名する形もあります9。価格の確かめでは、トレーダーの日々の取引の記録を、その日の相場の値幅と照らします。相場から外れた価格での取引は、損益を別の金融機関や別の期に移すことに使われうるため、理由を記録して承認を得ます2118。口頭で約定した取引はできるだけ早く確認します。電話での取引は記録に残して後から書面で裏付け、口頭で合意した条件と、後で確認書で確かめた条件が合っているかを見ます22。
限度の確かめは、約定の前から始まっています。トレーダーは約定する前に、取引が取引相手の与信枠と、そのほかの認められた取引の限度に収まるかを確かめます23。グローバル外為行動規範が扱う外国為替の取引では、与信枠はフロントから独立して決め、承認された枠に収まる取引だけを受けます24。約定の後に確かめるのは、この事前の確認を通っているか、超えるなら事前の承認があるかです。
入力の訂正と取消の手続き
入力の訂正と取消は、決まった手続きで、入力した担当とは別の担当が関わって行います。外国為替の取引については、行動規範が次の手続きを求めています。取引の更改(ノベーション)、修正、取消の手続きをはっきり定め、事務、営業、取引の担当を分けます。修正と取消の状況は、それぞれの担当の管理職に定期的に報告します25。訂正や取消の後は、できるだけ早く確認書を取り交わし直します26。事業の目的のない取引や調整で、損益やリスクが隠されたり操作されたりするのを見つけるため、取引の監視も求められます27。
先の例で、フロントが想定元本を 10 億円と入力し、バックが約定の伝票と照らして 100 億円の誤りに気づいたとします。フロントは入力を 100 億円に訂正し、バックが訂正の後の入力をもう一度照らしてから、確認書を送ります。訂正の前の 10 億円の記録は消さず、訂正の記録と一緒に残します。日本では、証券会社などが注文伝票をコンピュータに直接入力して作るときの留意点として、入力の取消や修正をした記録がそのまま残るシステムが挙げられています15。
番号と時刻、ホールドオーバーの管理
約定の伝票に連番を振っておくと、必要なときに取引の履歴をたどり直せます17。約定の時刻を記録しておけば、日中の取引の価格を確かめたり、取引の動きをたどり直したりできます。トレーダーごとの伝票の時刻の順番が、伝票の番号の順番とほぼ一致するかも、検査の手引き(1998 年)は確かめる点に挙げています28。
その日の終わりまでに帳簿に載らなかった取引は、ホールドオーバーとして記録簿で管理します。検査の手引き(1998 年)は、検査官が確かめる点として、ホールドオーバーの取引を記録簿で見分けられること、トレーダーの持ち高の報告に含まれること、ホールドオーバーが多いときの理由を挙げています29。
注
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1 の 3 ページ(1998 年 2 月)、"TICKET FLOW" の続き。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
検査の手引き Section 2060.1 の 2 ページ(2003 年 4 月)、"INTERNAL CONTROLS"。 ↩
-
検査の手引き Section 2050.1「Operations and Systems Risk (Front-Office Operations)」(1998 年 2 月)の 1 ページ(冒頭の第 2 段落)。 ↩
-
検査の手引き Section 2050.1(1998 年 2 月)の 2 ページ、"Transaction Flow"。 ↩
-
検査の手引き Section 2060.1 の 1 ページ(2003 年 4 月。バックが担う管理の仕事の段落)。 ↩
-
検査の手引き Section 2060.1 の 2 ページ(2003 年 4 月、"TICKET FLOW")と 3 ページ(1998 年 2 月、"TICKET FLOW" の続き)。 ↩ ↩2
-
OSTTRA「Trade Processing」の Affirm の項と Confirm の項。2026 年 10 月 8 日に確かめた。 ↩ ↩2
-
検査の手引き Section 2050.1(1998 年 2 月)の 2〜3 ページ、"Transaction Flow"。 ↩
-
検査の手引き Section 2060.4「Operations and Systems Risk (Back-Office Operations): Internal Control Questionnaire」の 2 ページ(1998 年 2 月)、"TICKET FLOW" の 1〜4。 ↩ ↩2 ↩3
-
金融庁企画市場局市場課「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令第4条第1項で定める作成・保存・報告事項 ガイドライン」(2022 年 12 月)の「報告事項 一覧」の、発効日、満期日、取引当事者、取引の方向、想定元本の項目。 ↩
-
検査の手引き Section 2050.1(1998 年 2 月)の 4 ページ、"SOUND PRACTICES"。 ↩
-
「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 157 条第 1 項第 3 号、第 158 条第 1 項第 10・11 号、第 2 項第 1・3 号。対象の行為は「金融商品取引法」第 2 条第 8 項第 1〜4 号(第 4 号が店頭デリバティブ取引)。 ↩
-
グローバル外為市場委員会「グローバル外為行動規範」(2024 年 12 月版、東京外国為替市場委員会による仮訳。以下「行動規範」)の原則 36(41〜42 ページ)。 ↩
-
検査の手引き Section 2060.1 の 3 ページ(1998 年 2 月。通常の取引時間の外の取引の段落)。 ↩
-
金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3(4)「注文伝票のコンピュータへの直接入力による作成」の④と⑤。 ↩ ↩2
-
金融庁の上記ガイドライン(2022 年 12 月)の報告事項の表の 101「Action type」の定義。 ↩
-
検査の手引き Section 2060.3「Operations and Systems Risk (Back-Office Operations): Examination Procedures」(1998 年 2 月)の 2 ページ、"TICKET-FLOW PROCEDURES" の 1 と 2。 ↩ ↩2
-
検査の手引き Section 2060.1 の 3 ページ(1998 年 2 月。"TICKET FLOW" の続きの、相場から外れた取引の段落)。 ↩ ↩2
-
検査の手引き Section 2060.4 の 2 ページ(1998 年 2 月)、"SEGREGATION OF DUTIES" の 15。 ↩
-
検査の手引き Section 2060.3(1998 年 2 月)の 2〜3 ページ、"TICKET-FLOW PROCEDURES" の 3 と 7。 ↩
-
検査の手引き Section 2050.1(1998 年 2 月)の 2 ページ、"TRADE CONSUMMATION"(日々の取引の記録と相場から外れた価格の段落)と 4 ページ("UNACCEPTABLE PRACTICES" の、相場から外れたレートでの取引の段落)。 ↩
-
検査の手引き Section 2060.1 の 2 ページ(2003 年 4 月。口頭で約定した取引の確認の段落)。 ↩
-
検査の手引き Section 2050.1(1998 年 2 月)の 2 ページ、"TRADE CONSUMMATION"。 ↩
-
行動規範の原則 29(36 ページ)。 ↩
-
行動規範の原則 45(46 ページ)。 ↩
-
行動規範の原則 46(46 ページ)。 ↩
-
行動規範の原則 38(42〜43 ページ)。 ↩
-
検査の手引き Section 2060.1 の 3 ページ(1998 年 2 月。約定の時刻の記録の段落)。 ↩
-
検査の手引き Section 2060.3(1998 年 2 月)の 3 ページ、"TICKET-FLOW PROCEDURES" の 8 と 9。 ↩