取引情報の報告に使うデータを作る業務では、法人、取引、商品をそれぞれ別の識別子で見分けて、報告のデータに載せます。
3 つの識別子は何を識別するか
取引主体識別子(LEI)、固有取引識別子(UTI)、固有商品識別子(UPI)は、規制当局への報告で、誰が、どの取引を、どの商品について結んだかを表します1。一般には、法人識別子、取引識別子、商品識別子とも呼びます。3 つはそれぞれ、国際標準化機構(ISO)の規格で形が決まっています2。
| 識別子 | 識別するもの | 規格と形 | 付ける者 |
|---|---|---|---|
| LEI | 取引の当事者になる法人やファンド | ISO 17442、20 文字の英数字 | 発行機関(LOU)が、法人の申請に応じて付ける |
| UTI | 報告の対象になる取引 1 件 | ISO 23897:2020、最大 52 文字(先頭の 20 文字は付けた者の LEI) | 取引ごとに、国際的な指針の問いの順で決まる者が付ける |
| UPI | 取引した店頭デリバティブの商品 | ISO 4914、日本の報告事項では 12 文字 | 国際的に指定された 1 つの機関(Derivatives Service Bureau、DSB)が付ける |
3 つは役割が違うため、1 つで代わりにはなりません。
法人 X と法人 Y が、同じ商品の金利スワップを 2 件結び、2 件とも報告の対象になる架空の例で考えます。
| 識別子 | 1 件目の報告 | 2 件目の報告 |
|---|---|---|
| LEI | X と Y の LEI | 1 件目と同じ X と Y の LEI |
| UPI | その商品の UPI | 1 件目と同じ UPI |
| UTI | 1 件目に付けた UTI | 2 件目に付けた、1 件目とは別の UTI |
同じ 2 つの法人が同じ商品の取引を何件も結んでいても、LEI と UPI は同じで、その取引がどれかを分けるのが UTI です。報告のデータは、LEI で当事者を、UPI で商品を、UTI でどの取引かを見分けます。UTI を X が付けたなら、その最初の 20 文字は X の LEI です。
LEI の構成と登録の情報
LEI は、法人ごとに 1 つだけ付きます。一度付いたコードは、その法人がなくなっても別の法人には付けません。1 つの法人が 2 つ目の LEI を取ることもできません3。
20 文字は、次のように分かれています3。
| 位置 | 中身 |
|---|---|
| 1〜4 文字目 | 発行機関ごとに割り当てた 4 文字の接頭辞 |
| 5〜6 文字目 | 予備。0 にする |
| 7〜18 文字目 | 法人ごとの部分。発行機関が方針に従って付ける |
| 19〜20 文字目 | 入力の誤りを見つけるための 2 桁の検査用の数字。ISO/IEC 7064(MOD 97-10)の方式 |
接頭辞が表すのは、その LEI を最初に発行した機関です(2012 年 11 月 30 日より前に発行したものは除きます)。法人が LEI の管理を別の機関へ移しても LEI は変わらないため、接頭辞から今の管理機関は分かりません3。日本取引所グループの Q&A によると、7〜18 文字目はランダムな英数字です4。
発行の仕組み
LEI は、国際的な枠組み(Global LEI System)の中で、発行機関(Local Operating Unit、LOU)が付けます。枠組みは LEI 規制監督委員会(Regulatory Oversight Committee、ROC)が監督します。運営の面は、2014 年 6 月に設立された非営利の財団 Global Legal Entity Identifier Foundation(GLEIF)が担います。発行機関は、GLEIF が ROC の監督のもとで認定します5。ROC は、LEI のほか UTI、UPI の国際的なガバナンスも担います6。
申請から公表までの流れは、次のとおりです7。
図の説明
法人が発行機関へ申請します(明示的に許可した代理人を通じる場合もあります)。発行機関は名称や住所などの最小限の情報を集め、法人に確認させます。そのあと、公的な登記簿などの信頼できる資料と照らし合わせ、LEI と登録の情報を公表します。照合の手順があるため、申請から公表までには時間がかかります。
日本では日本取引所グループ/東京証券取引所が発行機関で、登記事項証明書などの提出を求め、申請から発行まで最速でも 5 営業日以上かかると案内しています8。
発行機関には、特定の国だけを受け持つものと、世界の法人を受け付けるものがあります。使える言語、一括での登録、料金も発行機関ごとに違います7。
LEI に結び付く登録の情報
LEI には、「誰か」(法人の名前や所在地など)と「誰が所有しているか」(所有の構造)の登録の情報が結び付き、GLEIF の索引(Global LEI Index)で誰でも見られます9。登録の情報には、正式名称、本社と設立地の住所、LEI を最初に付けた日、最後に更新した日、失効日などがあります3。
日本の報告での使い方
日本の取引情報の報告では、報告義務者と取引当事者を LEI で書きます。支店 LEI を GLEIF に登録していても、報告するのは本社の LEI です。外国で発行された支店 LEI も報告できません12。LEI を持たない取引相手の扱いは、規制当局への報告で扱います。
日本の金融機関や事業法人も、欧州や米国などで取引するときは、各国の規制で LEI が必要になることがあります13。
UTI の付け方と付け直し
UTI は、報告の対象になる取引 1 件ごとに付けるコードです。報告の重複を防ぎ、当局が国をまたいでデータを集められるようにするために使います。大文字の英字と数字で最大 52 文字、最初の 20 文字は付けた者の LEI です14。
誰が付けるか
誰が付けるかは、国際的な指針(2017 年に公表された UTI テクニカル・ガイダンス)が、取引ごとに順に答える 13 の問いで決めます15。
主な段階は次のとおりです。番号は、指針のステップの番号ではなく、段階をまとめ直した順です。
- 清算機関が取引の当事者なら、清算機関が付ける。
- そうでなく、当事者が清算会員で、清算会員として取引しているなら、その清算会員が付ける。
- 取引プラットフォームで執行された取引は、そのプラットフォームが付ける。
- 取引が複数の法域にまたがるか、両方の当事者に報告義務があるかなど、取引の事情を問う段階が続く(指針のステップ 4〜10)。
- 当事者の間に付ける者を決める合意があれば、その合意に従う。なければ、電子的な照合の基盤、単一の取引情報蓄積機関の順に、付けられるかを問う。
- どれにも決まらないときは、当事者の識別子の文字を逆順に並べ、並びの先頭になった当事者が付ける。
日本の取引情報の報告は、報告義務者どうしの取引でこの流れに従い、従えないときは当事者の合意で決めます16。複数の国に報告する取引では原則として同じ流れに従います。ただし、相手の国の報告期限の早さを把握するのが難しいときは、その問いを飛ばして合意の段階へ進めます。その場合も、報告義務者は取引相手と事前に協議し、相手が従う付け方を尊重します17。
どう受け渡すか
報告義務者どうしの取引では、両方が同じ UTI を報告します。そのため、付ける者は報告の期限に間に合うよう、原則として約定のときに取引相手と共有します。共有の経路は、取引の種類によって次のように示されています18。
| 取引 | 共有の経路 |
|---|---|
| 金利のデリバティブ、クレジット・デフォルト・スワップ | 電子的な照合の基盤。基盤を使わない取引は、例として紙の取引確認書(コンファメーション)か電子メール |
| エクイティ・デリバティブ | 電子的な照合の基盤を使うなら照合の基盤。使わないなら紙の確認書か電子メール |
| 通貨オプション、NDF、NDO(non-deliverable option) | SWIFT、紙の確認書、電子メール |
同じ UTI を使う場面と付け直す場面
取引の途中で何かが変わったとき、同じ UTI を使い続けるか、新しく付けるかは、変わった中身で決まります19。
| 場面 | UTI |
|---|---|
| 再評価、確認書の取り交わし、アモチゼーションによる想定元本の変動、期限前の解約、UTI 以外の誤りの訂正 | 同じ UTI で報告を更新する |
| 取引相手が替わる(ノベーション、清算機関が当事者になる清算) | 新しい UTI を付ける |
| 取引が 1 つ以上の別の取引に置き換わる(コンプレッションなど) | 新しい UTI を付ける |
ノベーション、スワップションの行使によるスワップ、清算機関が報告する清算取引は、元の取引と 1 対 1 か 1 対多で結び付きます。これらの新しい取引には、元の取引の UTI を「過去の UTI」(Prior UTI)として報告します。コンプレッションのように、複数の取引が別の取引に置き換わる複数対 1、複数対複数の関係には、この項目は適用されません20。
ノベーションのうち、取引相手の全部が替わるものでは、元の取引は終わり、新しい取引に新しい UTI を付けます。一部だけが替わるものでは、元の取引は同じ UTI で続き、替わった分の取引に新しい UTI を付けます。スワップションでオプションを実行してスワップができるときは、そのスワップに新しい UTI を付け、スワップションの UTI を過去の UTI として報告します。
UPI と商品の属性
UPI は、報告される店頭デリバティブがどの商品かを識別するコードです。国際的な指針は、商品の種類ごとに 1 つの UPI を付け、その商品を表す参照データの項目と値の組と結び付ける仕組みを想定しています。項目と値の集まりは、UPI 参照データライブラリに置かれ、サービス提供者が運営します21。
サービス提供者は、金融安定理事会(FSB)が 2019 年 5 月に唯一の提供者に指定した DSB です。DSB は UPI を発行し、参照データライブラリを運営します22。日本の報告事項では、UPI は ISO 4914 に従う 12 文字で、DSB が決めた値を使います23。
参照データの項目は商品によって違います。DSB の説明にある、単一通貨の固定・変動の金利スワップの例では、資産クラス、商品の種類、固定・変動の別、想定元本のスケジュール(一定か)、単一通貨か複数通貨か、受渡しの種類、想定元本の通貨、参照金利、参照金利の期間が項目です24。利用者は、DSB の画面か API、ファイルのダウンロードで UPI を使います。UPI のコードからも、項目の値からも検索でき、UPI を新しく作れるのは利用者の種類によります25。
識別子の差し替えと既存の取引
報告に使う識別子は、UTI を仮の値で報告して差し替える場面、LEI の登録状況を確かめる場面、新しい報告事項の開始より前からある取引に当てはめる場面で、扱いが決まっています。
UTI は、付ける者からの共有に時間がかかるときは、付ける者でない報告義務者が仮の UTI を付けて報告できます。正式な UTI が付いたら、すぐに差し替えます。取引や照合の基盤が一時的なシステムの不具合で UTI を付けられないときは、取引当事者が仮の UTI を報告し、そのあとに正式な UTI へ差し替えます26。
LEI は、GLEIF の検索で登録状況(発行済みか、管理の移管待ちか)が分かります5。
複数の報告先のデータをつなぐ
店頭デリバティブの取引は、法域によって報告先の取引情報蓄積機関が違い、1 つの法域に複数の機関があることもあります。報告の情報は、複数の機関に分かれて集まります。FSB が 2014 年 9 月に公表した集約の調査は、集約には、LEI を世界で導入し、UTI と UPI を作ることを含む、データ項目の標準化が欠かせないとしました29。LEI が法人を、UPI が商品を、UTI が取引を共通の形で示せば、機関をまたいで同じ法人、同じ商品、同じ取引を見分けられます。
日本では、3 つとも報告事項で、UPI は 2025 年 4 月 7 日の報告から加わりました30。
注
-
金融庁企画市場局市場課「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令第4条第1項で定める作成・保存・報告事項 ガイドライン」(2022 年 12 月。以下「ガイドライン」)の別紙 2 の 2(2)(PDF の 49 ページ目)。UPI は同【新旧対照表】(2023 年 11 月)の事項 107(PDF の 2 ページ目)。 ↩
-
LEI は ROC「Global LEI System」の「The LEI」と日本取引所グループ Q&A の A1-1。UTI は金融庁のガイドラインの別紙 2 の 2(2)、UPI は同【新旧対照表】の事項 107 と FSB「Governance arrangements for the UPI」の注 2。 ↩
-
Regulatory Oversight Committee「Global LEI System」の「The LEI」。コードの構成(1〜4 文字目、5〜6 文字目、7〜18 文字目、19〜20 文字目)、一意性と排他性の原則、検査用の数字の方式、登録の情報の項目、「Managing LOU」の欄。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
日本取引所グループ「LEIに関するQ&A」の A1-5(1 ページ)。 ↩
-
Regulatory Oversight Committee「Global LEI System」の「The Global LEI Foundation」(GLEIF の設立、登録状況の "issued"、"pending transfer")と「Local Operating Units」(発行機関の認定)。 ↩ ↩2
-
金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2023 年 11 月 21 日)の「ROC(Regulatory Oversight Committee:LEI、UTI、UPI、CDE の国際的なガバナンス機関)」。 ↩
-
Regulatory Oversight Committee「Global LEI System」の「Local Operating Units」。自己登録、最小限の登録情報の収集と法人による確認、信頼できる資料との照合、国ごとの機関と世界向けの機関の違い、毎年の証明の例。 ↩ ↩2 ↩3
-
日本取引所グループ「LEIに関するQ&A」の A1-1、A1-2(1 ページ)、A2-2(2 ページ)。日本の発行機関は日本取引所グループ/東京証券取引所で、実在を証明する公的な資料(登記事項証明書など)の提出を求める。 ↩
-
Global Legal Entity Identifier Foundation「Introducing the Legal Entity Identifier (LEI)」。LEI が「誰か」と「誰が所有しているか」に答えること、Global LEI Index。 ↩
-
日本取引所グループ「LEIに関するQ&A」の A3-1、A3-2(3 ページ)。 ↩
-
日本取引所グループ「LEIに関するQ&A」の A2-3(2 ページ)。 ↩
-
金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2023 年 11 月 21 日)の No. 2(別紙 1 の項目 7、8)。 ↩
-
日本取引所グループ「LEIに関するQ&A」の A1-3(1 ページ)。 ↩
-
ガイドラインの別紙 2 の 2(2)「固有取引識別子(UTI)とは何か」(1 ページ)。PDF の 49 ページ目。 ↩
-
同じ資料の別紙 2 の 2(2)「(参考)テクニカル・ガイダンスにおけるフロー」のステップ 1〜13(2 ページ)。PDF の 50〜51 ページ目。ステップ 4 は法域をまたぐか、ステップ 5 は両方に報告義務があるか、ステップ 11 は合意、12 は照合の基盤、13 は単一の取引情報蓄積機関と、文字を逆順に並べて選ぶ方法。 ↩
-
同じ資料の別紙 2 の 3(1)(3 ページ)、3(2)(4 ページ)。PDF の 51〜52 ページ目。 ↩
-
同じ資料の別紙 2 の 3(3)(5 ページ)。PDF の 53 ページ目。 ↩
-
同じ資料の別紙 2 の 5(1)(6〜7 ページ)。PDF の 54〜55 ページ目。 ↩
-
同じ資料の別紙 2 の 5(1)の注 8(スワップション。6 ページ)と注 10(ノベーション。7 ページ)。PDF の 54〜55 ページ目。コンプレッションなどが対象外であることは、同じ資料の別紙 1 の Prior UTI(過去の UTI)の項目(PDF の 13 ページ目)。 ↩
-
Financial Stability Board「Governance arrangements for the UPI」(2019 年 10 月 9 日)の 1.3「The UPI」(3〜4 ページ)。PDF の 7〜8 ページ目。 ↩
-
同じ資料の Executive Summary の注 2(PDF の 5 ページ目)。DSB の発行と運営は、Derivatives Service Bureau「The Unique Product Identifier (UPI): How to search for, and create, a UPI via the GUI」(2023 年。以下「DSB のガイド」)の 1 ページ。 ↩
-
ガイドラインの【新旧対照表】(2023 年 11 月)の事項 107(PDF の 2 ページ目)。許容値は "Char(12)"、備考は "ISO 4914 Unique product identifier"、「UPI付番機関であるDSBが決定」。 ↩
-
DSB のガイドの 1 ページの Figure 1(DSB の試験環境での例)。項目の名前は資料の英語の日本語訳。 ↩
-
同じ資料の 1 ページ(画面、API、ファイルのダウンロード)、2〜3 ページ(UPI のコードと属性による検索)、5 ページ(UPI を作れる利用者の種類)。 ↩
-
ガイドラインの別紙 2 の 3(1)(3 ページ)と 4(1)(5 ページ)。PDF の 51、53 ページ目。 ↩
-
金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2023 年 11 月 21 日)の No. 5(別紙 1 の事項 43、107)。 ↩
-
ガイドラインの別紙 2 の 5(2)「既存取引の取扱い」(7 ページ)。PDF の 55 ページ目。 ↩
-
FSB「Governance arrangements for the UPI」の 1.1「FSB OTC derivatives data Aggregation Feasibility Study」(3 ページ)。PDF の 7 ページ目。2014 年 9 月の調査の結論の引用がある。 ↩
-
ガイドラインの【新旧対照表】(2023 年 11 月)の「固有商品識別子(UPI)及びデルタについて」(PDF の 1 ページ目)と事項 107(PDF の 2 ページ目)。UPI が 2024 年 4 月 1 日時点の報告事項に含まれていなかったことは、ガイドラインの別紙 1 の注(2 ページ)。 ↩