店頭デリバティブの取引情報を当局に報告する業務では、送り先の機関が何を受け取り、誰に何を渡すかを知っておく必要があります。

何のために作られたか

2009 年 9 月、G20 首脳は米国のピッツバーグで、店頭デリバティブの契約は取引情報蓄積機関に報告されるべきだと合意しました1。2008 年の金融危機のあと、当局は、店頭デリバティブ市場について、包括的で形のそろったデータの供給源が必要だと認識しました。そのため、取引情報蓄積機関の設立を促しました2。

金融市場インフラ(FMI)の国際的な原則である金融市場インフラのための原則(PFMI)によれば、取引情報蓄積機関は、取引データの電子的な記録(データベース)を集中して管理する機関です。店頭デリバティブ市場で新しく現れた種類の金融市場インフラで、適切に設計され、実効的なリスクコントロールを伴って運営されれば、データの収集、保管、配信を集中することで、当局と公衆への取引情報の透明性を高めることができます3。

当局が使う目的は 4 つです。システミック・リスクと金融の安定の評価、市場の監視と法の執行、市場参加者の監督、金融機関の破綻処理です4。2010 年の金融安定理事会(FSB)の提言は、取引が最終的に清算されるかどうかを問わず、すべての店頭デリバティブ取引のデータを集めることを求めました。清算された取引や途中で終了した取引では、元の取引条件を記録に残すことも求めています5。

日本の取引情報蓄積機関の役割

金融商品取引法(金商法)は、取引情報の送り先を取引情報蓄積機関か指定外国取引情報蓄積機関と定めています。清算機関(CCP)(金商法では金融商品取引清算機関等)は、自らが債務を負担した取引の情報を送ります。金融商品取引業者等は、原則として、清算機関が債務を負担した取引を除く取引の情報を送ります。清算機関が債務を負担した取引のうち、送る対象になるのは内閣府令が定める取引に限ります6。指定外国取引情報蓄積機関は、外国で同じ種類の業務をする者のうち、内閣総理大臣が指定したものです7。

取引情報の流れは次のとおりです。

  1. 清算機関か金融商品取引業者等が、取引情報を取引情報蓄積機関に送ります。
  2. 機関が取引情報の記録を保存し、金融庁長官に出します。
  3. 機関が残高と取引件数の集計を公表します。
送り手蓄積機関金融庁長官取引情報記録
図 1日本の取引情報の流れ
図の説明

図の 3 者のうち、送り手は、原則として清算機関か金融商品取引業者等です。蓄積機関は取引情報蓄積機関です。どの取引が対象になるかは、次の段落の内閣府令の定めによります。点線は、お金ではなく情報の流れです。機関は、集計の公表も行います。公表は、金融庁長官への報告とは別の業務で、図には矢印を描いていません。

対象になる取引は内閣府令が決めています。国、地方公共団体、日本銀行などを相手方とする取引と、親会社や子会社などを相手方とする取引は、対象に入りません8。報告の期限と項目、報告を作る業務は規制当局への報告で扱います。

流れの 2 と 3 を含め、取引情報蓄積機関が受け取った情報で行う業務は、金商法と内閣府令が決めています。

業務 内容
保存 提供を受けた取引情報の記録を作り、受渡しの日や権利行使期間の末日などから 5 年間、電磁的記録で保存します9
当局への報告 提供を受けた日の翌営業日までに、記録を金融庁長官に出します1011
公表 残高の合計と取引件数の合計などを、毎月 1 回以上、インターネットで公表します1213
秘密の保持と公平な扱い 役員と職員は、業務で知った秘密を漏らしてはなりません。特定の清算機関等や金融商品取引業者等を、不当に差別して扱ってもなりません14

取引情報の変更を知ったときも、知った日の翌営業日までに出し、保存している記録は毎月 1 回以上出します。金融庁長官が機関のデータを閲覧できる状態に置けば、報告に代えられます1011。

D 銀行が金融商品取引業者等にあたる架空の例で考えます。3 つの取引の情報を誰が送るかを、上の条件に当てはめます。

取引 本文の条件に当てはめると
清算機関が債務を負担した取引 原則として清算機関が送り、D 銀行は送る側に入りません。清算機関が送るのは、内閣府令が定める取引に限ります6
清算機関が債務を負担しない取引 対象の取引にあたるなら、D 銀行が情報を送ります6
日本銀行を相手方とする取引 内閣府令が対象から除く相手方にあたるため、報告の対象に入りません8

取引情報蓄積機関になるには、内閣総理大臣の指定を受けます。指定の要件は次のとおりです。

  • 外国の法令に準拠して設立された法人を除く法人であること
  • 過去の指定の取消しや刑罰、役員の欠格などの事由がないこと
  • 財産的基礎があり、収支の見込みが良好なこと
  • 人的構成から見て、業務を適正かつ確実に行える知識と経験があり、十分な社会的信用があること

指定したときは、商号、所在地、指定日が官報で公示されます16。

金融庁が公表する取引情報蓄積機関の一覧の 2015 年 1 月 6 日時点の版には、DTCC データ・レポジトリー・ジャパン株式会社の 1 社が載っています17。FSB の一覧では、2018 年 6 月末にこの機関が日本とオーストラリアで認められていました。日本で認められていた機関はほかにありません18。

当局と公衆は何を見られるか

PFMI の原則 24 によれば、取引情報蓄積機関は、当局と公衆のそれぞれのニーズに合うデータを、適時かつ正確に出します。公衆には、少なくとも、オープンポジション、取引件数、金額の合算データと、取引相手や通貨などのカテゴリー別の内訳を、入手できて適切な範囲で出します。当局には、市場の監視、金融機関の破綻処理といった任務に関係する範囲で、参加者ごとのデータへのアクセスが要ります19。

見る人 見られるもの 日本の仕組み
当局 取引情報の記録。国際原則では参加者ごとのデータを含む 取引情報蓄積機関が金融庁長官に取引情報の記録を出します10
公衆 国際原則では少なくとも合算データと内訳。米国では取引と価格のデータもリアルタイムで公表される(下の節) 機関が残高と取引件数の集計を毎月公表します。内訳は、業種ごと、清算機関等ごと、取引の種類ごとです13

当局が機関のデータに実際にアクセスできるかは、国ごとの法に左右されます。FSB の 2010 年の提言は、市場の規制当局、中央銀行、健全性の監督当局、破綻処理の当局が、任務に必要なデータに実効的にアクセスできるようにすることを求めました20。2015 年の FSB のピア・レビューは、当局のアクセスを妨げるものが広く残っていると指摘しています。国内の当局にも制約がある国があり、外国の当局が機関のデータにアクセスできる取り決めはほとんどありません21。

米国と欧州では機関をどう認めているか

機関を認める当局と方式は、国と地域で違います。

地域 機関の呼び方 認める当局 方式
日本 取引情報蓄積機関 内閣総理大臣 指定16
米国のスワップ スワップ・データ・リポジトリ(SDR) 商品先物取引委員会(CFTC) 登録
米国の証券ベース・スワップ 証券ベース・スワップ・データ・リポジトリ 証券取引委員会(SEC) 登録
欧州連合 取引情報蓄積機関(TR) 欧州証券市場監督機構(ESMA) 登録(域外の機関は認定)

米国の商品取引所法は、スワップ・データ・リポジトリの機能を果たすには CFTC への登録が必要と定めます。デリバティブ清算機関が、スワップ・データ・リポジトリとして登録することもできます22。リポジトリは、CFTC が定めるデータを受け付け、スワップの両当事者にデータの正確性を確かめ、保存します。CFTC には直接の電子的なアクセスを提供し、受け取った取引情報の秘密を守ります。請求があれば、銀行の規制当局、金融安定監督評議会、SEC、司法省、外国の当局などにも、取引相手ごとのデータを含むデータを、秘密を守る書面の合意を受けたうえで提供します23。証券ベース・スワップにも同じ枠組みがあり、登録先は SEC です24。

CFTC の規則は、リポジトリに、取引と価格のデータをリアルタイムで公衆に公表するシステムを持つよう求めます25。当局がデータにアクセスする手続も規則にあり、CFTC のほか、SEC、連邦準備銀行などの国内の当局と、CFTC が認めた外国の当局が対象です26。

欧州では、欧州市場インフラ規則(EMIR)のもと、ESMA が取引情報蓄積機関の登録、監督、認定の直接の責任を負います。EU に所在する機関は ESMA の登録が、EU で事業をする域外の機関は ESMA の認定が必要で、取引の当事者が報告義務を果たすために使えるのは、登録か認定を受けた機関です。ESMA は、登録後も、EMIR の要件を守っているかを、書面での監督、調査、立入検査で確かめます27。

ESMA の登録簿(2026 年 10 月 2 日に取得した版)では、登録済みの機関は 4 つです。ポーランドの KDPW、ルクセンブルクの Regis-TR、オランダの LSEG Regulatory Reporting B.V.、アイルランドの DTCC Data Repository (Ireland) Plc です。いずれも商品と排出枠、信用、通貨、株式、金利の資産クラスを受け付けます。登録簿の最終更新日は 2024 年 1 月 31 日です。登録簿によれば、最初の登録は 2013 年 11 月 14 日に効力を持ち、報告義務は 2014 年 2 月 12 日に始まりました28。

報告先が分かれると何が困るか

取引情報蓄積機関は、国や資産クラスごとに複数あります。FSB の 2014 年の報告書の時点で、25 の機関が、11 の法域で稼働しているか、稼働を予定していました29。2018 年 6 月末の FSB の一覧は、FSB の加盟法域で認められた取引情報蓄積機関を 22 挙げています。取引情報蓄積機関に似た機能を持つ機関(当局などを含みます)は 13 です18。

報告要件が法域ごとに違い、機関のやり方も違うため、データは多くの場所に分かれ、さまざまな形式で保存され、当局のアクセスの規則も異なっていました30。2015 年の FSB のピア・レビューによれば、競争の圧力と規制の要件で機関が増え、データが分散しました。データの形式、完全性、正確性の問題で、データの有用性も限られていました。機関が多く、機関と法域ごとに報告要件の細目も違うため、異なる出所のデータの集計や比較は非常に難しくなりました3132。

集計の妨げになるもう 1 つの点は、識別子です。取引と商品の識別子がそろっておらず、LEI の使い方にもばらつきがあるため、多くの当局にとって、正確に集計して分析するのは難しい状況でした。とくに国境をまたぐ場合は難しくなりました34。FSB の 2014 年の報告書は、次の 3 点を勧めました。LEI の導入を急ぐこと、UTI(固有取引識別子)と UPI(固有商品識別子)の作成を急ぐこと、報告するデータ項目の調和の指針を作ることです35。

同じ報告書は、世界全体の集計の方式を 3 つ比べています。

方式 内容 2014 年の報告書が挙げた点
物理的に集中 中央の集計の設備にデータを集める 大きく拡張できる保管と計算の設備が要り、データの新しさは直近の取り込みの時点までです
論理的に集中 各機関のデータベースを、中央の集計の仕組みにつなぐ 各機関がつなぐための技術を足す必要があり、取得に短い遅れが出ます
当局が個別に集める 各当局が機関から元のデータを集め、自分のシステムで集計する 当時使えたのはこの方式だけですが、当局のニーズの一部しか満たしません

報告書は、物理的に集中する方式と論理的に集中する方式が、当局が個別に集める方式より大いに望ましいとしました。前の 2 つの優劣は決めていません36。報告書は、仕組みを作ることが決まったとは見ていません。作ると決めた場合に要る手順として、法令の改正、統治の仕組み、データと技術の要件、費用の検討を挙げています35。

注

  1. Financial Stability Board, "Implementing OTC Derivatives Market Reforms"(2010 年 10 月 25 日)の Foreword(iii ページ)。G20 のピッツバーグでの合意を引用しています。 ↩

  2. Financial Stability Board, "Implementing OTC Derivatives Market Reforms"(2010 年 10 月)の 5.1 "Establishment of trade repositories"(44 ページ)。 ↩

  3. BIS 支払・決済システム委員会、証券監督者国際機構専門委員会「金融市場インフラのための原則」(日本銀行の仮訳)の 1.14(12 ページ)。 ↩

  4. Financial Stability Board, "Implementing OTC Derivatives Market Reforms"(2010 年 10 月)の Executive Summary "Reporting to trade repositories"(6 ページ)。 ↩

  5. Financial Stability Board, "Implementing OTC Derivatives Market Reforms"(2010 年 10 月)の提言 15 と 18(6 ページ)。 ↩

  6. 「金融商品取引法」第 156 条の 63 第 1 項(清算機関等)、第 156 条の 64 第 1 項(金融商品取引業者等)、第 156 条の 63 第 3 項。「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令」第 6 条の 2。 ↩ ↩2 ↩3

  7. 「金融商品取引法」第 156 条の 63 第 1 項。 ↩

  8. 「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令」第 6 条第 1 項(対象の取引)、第 2 項第 1 号〜第 4 号と第 6 号(対象から除く取引の相手方)。 ↩ ↩2

  9. 「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令」第 10 条第 2 項と第 4 項。「金融商品取引法」第 156 条の 65 第 1 項。 ↩

  10. 「金融商品取引法」第 156 条の 65 第 2 項と第 3 項。 ↩ ↩2 ↩3

  11. 「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令」第 11 条第 1 項〜第 3 項(提出の期限)、第 5 項(閲覧できる状態に置く措置)。 ↩ ↩2

  12. 「金融商品取引法」第 156 条の 66 第 1 項。 ↩

  13. 「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令」第 11 条の 2 第 1 項と第 2 項。 ↩ ↩2

  14. 「金融商品取引法」第 156 条の 70(秘密保持義務)、第 156 条の 75(差別的取扱いの禁止)。 ↩

  15. 「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令」第 3 条第 1 項(清算機関等)、第 7 条第 1 項(金融商品取引業者等)。 ↩

  16. 「金融商品取引法」第 156 条の 67 第 1 項(指定の要件)、第 2 項(官報での公示)。 ↩ ↩2

  17. 金融庁「取引情報蓄積機関」(平成 27 年 1 月 6 日時点)。金融庁の免許・許可・登録等を受けている業者の一覧のページが 2026 年 10 月 2 日に載せていた版。 ↩

  18. Financial Stability Board, "OTC Derivatives Market Reforms Thirteenth Progress Report on Implementation"(2018 年 11 月)の Appendix B の Table I(2018 年 6 月末。21〜22 ページ)と注 12(4 ページ)。 ↩ ↩2

  19. BIS 支払・決済システム委員会、証券監督者国際機構専門委員会「金融市場インフラのための原則」(日本銀行の仮訳)の原則 24 の説明 3.24.2(172〜173 ページ)。 ↩

  20. Financial Stability Board, "Implementing OTC Derivatives Market Reforms"(2010 年 10 月)の提言 16(6 ページ、46 ページ)。 ↩

  21. Financial Stability Board, "Thematic Review on OTC Derivatives Trade Reporting Peer Review Report"(2015 年 11 月 4 日)の Executive Summary(5 ページ)。 ↩

  22. 7 U.S.C. § 24a(a)(1)(A) と (B)。 ↩

  23. 7 U.S.C. § 24a(c)(1)〜(4)、(6)、(7)、(d)。 ↩

  24. 15 U.S.C. § 78m(n)(1)、(5)。 ↩

  25. 17 CFR § 49.15(a) と (b)。 ↩

  26. 17 CFR § 49.17(a) と (b)。 ↩

  27. European Securities and Markets Authority, "Trade repositories" のページの冒頭、"Registration and extension of registration"、"Supervision" の各節。 ↩

  28. European Securities and Markets Authority, "List of trade repositories registered in accordance with EMIR"(2026 年 10 月 2 日に取得)のシート EMIR_TR の Status の列(Registered の行)と、シートの説明文。 ↩

  29. Financial Stability Board, "Feasibility study on approaches to aggregate OTC derivatives data"(2014 年 9 月 19 日)の Executive Summary(1 ページ)。 ↩

  30. Financial Stability Board, "Feasibility study on approaches to aggregate OTC derivatives data"(2014 年 9 月 19 日)の Introduction(3 ページ)。 ↩

  31. Financial Stability Board, "Thematic Review on OTC Derivatives Trade Reporting Peer Review Report"(2015 年 11 月 4 日)の 11 ページ。 ↩

  32. Financial Stability Board, "Thematic Review on OTC Derivatives Trade Reporting Peer Review Report"(2015 年 11 月 4 日)の Executive Summary(5 ページ)。 ↩

  33. Financial Stability Board, "Thematic Review on OTC Derivatives Trade Reporting Peer Review Report"(2015 年 11 月 4 日)の Executive Summary(4 ページ)。 ↩

  34. Financial Stability Board, "Thematic Review on OTC Derivatives Trade Reporting Peer Review Report"(2015 年 11 月 4 日)の Finding 12(7 ページ)。 ↩

  35. Financial Stability Board, "Feasibility study on approaches to aggregate OTC derivatives data"(2014 年 9 月 19 日)の Executive Summary(2〜3 ページ)。 ↩ ↩2

  36. Financial Stability Board, "Feasibility study on approaches to aggregate OTC derivatives data"(2014 年 9 月 19 日)の Executive Summary(1 ページ)。 ↩