デリバティブの取引の当事者は、清算機関に清算を申し込む、取引情報蓄積機関に取引を報告するといった取引後の業務で、金融市場インフラのそれぞれの機関とやり取りします。

清算・決済・記録を集中する仕組み

金融市場インフラ(FMI)は、運営者を含む参加機関が共同で使う仕組みで、支払、証券、デリバティブなどの取引について、清算、決済、記録を行います1。通常は、すべての参加者に共通の規則と手続、技術インフラ、リスク管理の制度を持ち、清算・決済・記録を集中して行うことで、参加者が各自のリスクを効率的に管理できるようにします。場合によっては、特定のリスクをなくすこともあります1。

集中させることには代償もあります。適切に管理されないと、金融市場インフラ自体が、流動性不足や信用損失(資金繰りの悪化や貸し倒れ)といったショックを生む原因になることがあります。そのショックが国内外の市場に広がる主な経路になることもあります2。

「金融市場インフラ」は、金融市場インフラのための原則(PFMI)が対象とする 5 種類(次の節の表)を指します。「市場インフラ」と書くときは、取引基盤(取引所や取引執行機関のような取引の場)やコンプレッションのようなサービスも含めた広い言い方です。

金融市場インフラの 5 種類と役割の分担

PFMI は、機能で金融市場インフラを分け、次の 5 種類を対象にしています3。同じ事業体が複数の種類の機能を果たすこともあり、たとえば多くの証券集中振替機関は証券決済システムも運営しています4。次の表の日本の例は、主なものです5。

種類 役割 日本の例
資金決済システム 参加者の間の資金移動のための手段、手続、規則6 日本銀行の日銀ネット(当預系)、全国銀行内国為替制度(全銀システム)、外国為替円決済制度
証券集中振替機関(CSD) 証券の口座を提供し、集中管理のサービスや、償還などの管理のサービスを提供する7 日本銀行の資料に、CSD としての記載はない(証券保管振替機構(JASDEC)は証券決済システムに分類)
証券決済システム(SSS) 帳簿上の振替で証券の移転と決済を行う8 JASDEC、日本銀行の日銀ネット(国債系)
清算機関(CCP) 取引の当事者の間に入り、すべての売り手に対する買い手、すべての買い手に対する売り手となって、取引の履行を確保する9 日本証券クリアリング機構(JSCC)、東京金融取引所、ほふりクリアリング
取引情報蓄積機関(TR) 取引データの電子的な記録(データベース)を集中して管理する10 DTCC データ・レポジトリー・ジャパン(DDRJ)

PFMI は、店頭デリバティブの清算機関と取引情報蓄積機関に追加の指針を置いています11。清算機関が取引を引き受けて債務を負う手続(ノベーション)、証拠金、損失の分担は、清算機関(JSCC、LCH、CME など)で扱います。

金融市場インフラの運営者は、中央銀行のことも民間のこともあります。PFMI の原則は、中央銀行が運営する金融市場インフラにも、民間が運営する金融市場インフラにも適用されます12。日本では、日銀ネットを日本銀行が運営し、JSCC などの清算機関と DDRJ は民間が運営しています5。

取引が市場インフラを使う順

JSCC の金利スワップを例にすると、清算される取引は、取引、照合、清算、決済の順に進みます。取引情報蓄積機関への報告は、それと別に行われます。

取引当事者清算機関決済機関取引情報蓄積機関取引を約定する取引を照合し清算を申し込む債務を負担し取引を清算する清算機関が振替を指図する取引情報を報告する
図 1清算される取引と市場インフラのつながり(JSCC の資料にもとづく例)
図の説明

取引当事者が取引を約定した後、取引を照合して清算機関に清算を申し込みます。清算機関は債務を負担し、受け払いをネッティングしたうえで、決済機関に振替の指図を出します。これと別に、取引の情報は取引情報蓄積機関に報告されます。報告の矢印は、報告される取引の元を示すもので、報告の時点は示しません。

JSCC の金利スワップでは、取引の両当事者が海外の照合プラットフォームや取引執行プラットフォームで、取引の照合と債務負担の申込みを行います。JSCC は、取引が適格か、担保が足りているかなどを確かめます。両当事者に問題がないことを確かめてから債務負担を実施し、債務負担のステータスや証拠金などのレポートを配信します13。決済では、清算機関が一般に、ネッティングの結果に基づいて証券・資金の決済機関に振替の指図を行います14。

報告は、清算や決済とは別に行われます。日本では、店頭デリバティブ取引を行った金融機関に、取引データを金融庁に報告する義務があります。DDRJ は、金融機関などから報告を受けた取引データを金融庁へ報告する役割を担っています。2020 年の金融商品取引法の改正で、店頭デリバティブ取引の報告は DDRJ への報告に一本化され、2024 年 4 月 1 日から施行されました15。

ここで示したのは、JSCC の金利スワップの一例です。清算される取引とされない取引の違いは、清算取引と相対取引で扱います。

清算集中が進められた経緯

2000 年代後半のグローバル金融危機では、店頭デリバティブなどに関する市場インフラの整備が不十分でした。そのため、店頭デリバティブ取引を清算機関で清算させる清算集中が、政策として進められました16。

G20 の合意は次のとおりです。2009 年のピッツバーグ・サミットの G20 は、2012 年末までに、標準化されたすべての店頭デリバティブを清算機関で集中して清算することに合意しました17。2010 年のトロント・サミットの宣言は、このコミットメントを再確認しています。あわせて、適当な場合には取引所や電子取引プラットフォームで取引すること、店頭デリバティブ契約を取引情報蓄積機関に報告することにも触れています18。

日本では、JSCC が 2012 年 10 月に金利スワップ取引の清算業務を開始しました19。取引情報蓄積機関については、DDRJ が金融庁の指定を受けた日本で唯一の機関です15。

PFMI の位置づけ

金融市場インフラのための原則(PFMI)は、BIS 支払・決済システム委員会(CPSS)と証券監督者国際機構(IOSCO)専門委員会が 2012 年 4 月に公表した国際基準です。従来の 3 つの国際基準(資金決済システム、証券決済システム、清算機関向け)を調和させ、適切な場合には強化したもので、店頭デリバティブの清算機関と取引情報蓄積機関に対する追加の指針も含みます11。

原則は金融市場インフラの種類ごとに適用される範囲が違い、複数の種類の機能を果たす主体には、果たしている機能に対応する原則のすべてが適用されます20。取引情報蓄積機関に固有の原則は、原則 24(取引情報蓄積機関による市場データの開示)です21。

日本銀行は、日本の金融市場インフラの制度設計やリスク管理、運営状況をモニタリングし、安全性と効率性を評価するオーバーサイトを行っています22。

取引基盤とコンプレッションの位置づけ

PFMI は、一般に、取引所や取引執行機関、多者間のコンプレッションのシステムのような市場インフラを対象にしていません。ただし関係当局は、原則の一部または全部を、正式な対象でない種類の市場インフラに適用すると決めることができます23。取引基盤と多者間のコンプレッションのシステムは、PFMI の正式な対象の 5 種類とは分けて扱います。

取引情報蓄積機関が持つ記録は、取引の当事者や清算機関のほか、ポートフォリオ・コンプレッションや照合消込み、担保管理といった補完的なサービスを提供する業者も使う情報として、PFMI の資料に挙がっています24。

この記事が書いていないこと

証券の保管と決済の業務の詳細は、この記事では扱いません。

注

  1. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳、2012 年 4 月)のパラグラフ 1.8(8〜9 ページ)。 ↩ ↩2

  2. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.3(6〜7 ページ)。 ↩

  3. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.9(9 ページ)。 ↩

  4. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.11〜1.12(10〜11 ページ)とパラグラフ 1.22(17 ページ)。 ↩

  5. 日本銀行「決済システムレポート 2024」の「Ⅱ.わが国の金融市場インフラ(FMI)の動向」の本文と図表 2(6〜8 ページ)。日銀ネットの当預系と国債系は同じ節の本文。 ↩ ↩2

  6. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.10(10 ページ)。 ↩

  7. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.11(10 ページ)。日本銀行「決済システムレポート 2024」の図表 2(8 ページ)は JASDEC を証券決済システムに分類しており、CSD とは書いていません。 ↩

  8. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.12(11 ページ)。 ↩

  9. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.13(11〜12 ページ)。 ↩

  10. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.14(12 ページ)。 ↩

  11. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.2(6 ページ)とパラグラフ 1.6(8 ページ)。 ↩ ↩2

  12. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.23(17〜18 ページ)。 ↩

  13. 日本証券クリアリング機構「金利スワップ 債務負担」の「債務負担のワークフロー・イメージ」。 ↩

  14. 日本証券クリアリング機構「JSCCとは」の「「清算機関」の機能」。 ↩

  15. 日本銀行「決済システムレポート 2024」の「8.DTCC データ・レポジトリー・ジャパン(DDRJ)」(19 ページ)。 ↩ ↩2

  16. 日本銀行「決済システムレポート 2024」(2024 年 9 月)の「3.清算機関・決済システムの頑健性強化の要請」の「清算機関の役割の拡大」(4 ページ)。 ↩

  17. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.26(19〜20 ページ)と脚注 21(2009 年ピッツバーグ・サミットの G20 宣言)。 ↩

  18. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のボックス 1 の脚注 15(13 ページ。2010 年のトロント・サミット宣言の附属書 II のパラグラフ 25 の引用)。 ↩

  19. 日本証券クリアリング機構「JSCCとは」の「沿革」。 ↩

  20. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.22(17 ページ)と表 1 の注(18 ページ)。 ↩

  21. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)の原則 24 の本文。 ↩

  22. 日本銀行「決済システムレポート 2024」の図表 2 の後の本文(オーバーサイト。8 ページ)。 ↩

  23. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.3 の脚注 2(7 ページ)。 ↩

  24. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 1.14(12 ページ)。 ↩