デリバティブを清算に回す場面や、清算機関に差し入れる証拠金を管理する場面で、清算機関の仕組みが出てきます。清算会員になるか、清算会員を通して使うかで、清算機関との関わり方も変わります。

清算機関が間に入ると何が変わるか

清算機関は、複数の市場参加者の売買を、すべて自分を相手方とする関係に置き換えます1。売り手に対しては買い手、買い手に対しては売り手になるため、未決済の取引の履行は清算機関が確保します2。元の取引が 2 つの取引に置き換わるノベーションの説明と、清算される取引とされない取引の違いは、清算取引と相対取引で扱います。

清算機関が相手方になる効果は 2 つあります。1 つは、参加者に対するリスクを減らせることです。相手の違う取引も清算機関との取引として差し引けること(マルチラテラル・ネッティング)と、参加者により実効的なリスク管理を課せることによります2。市場をまたいだネッティングで決済の量が大きく減り、理論上は個別の参加者の信用リスクを考えずに取引できます3。

もう 1 つは、リスクが清算機関に集まることです。清算機関は通常、参加者に対してオープンポジション(未決済の取引)を持つため、市場価格が動くと、参加者との間で損失が生じるおそれがあります。参加者が破綻すると、清算機関が破綻した参加者の取引をヘッジしたり、他へ移したり、処理し終えたりするまでの間にも、価格は動きます4。そこで清算機関は、証拠金や清算基金のような、事前に拠出される財務資源で備えます。

清算会員と顧客はどう清算機関につながるか

清算機関と直接取引して清算に参加する者を、以下、清算会員と書きます。JSCC の資料では清算参加者です。清算会員でない顧客は、清算会員に清算を依頼し、清算会員を通して清算機関を使います。PFMI は、清算機関に直接参加する者を直接参加者、直接参加者を通して使う者を間接参加者と呼びます5。こうした階層的な参加から生じる清算機関への重要なリスクは、特定し、監視し、管理するよう、PFMI の原則 19 が求めています6。清算機関に対して顧客の債務の履行に責任を負うのは、直接参加者である清算会員です7。

顧客会員を通す清算会員直接参加清算機関清算の依頼顧客分の取引顧客分の証拠金損益の受け払い
図 1清算機関、清算会員、顧客の関係
図の説明

顧客は、清算会員に清算を依頼します。清算会員は、顧客分の取引と証拠金を、自己分とは別に清算機関へ出します。清算機関は、清算会員を直接の相手方として、損益を受け払いします。

顧客の保護のため、清算機関は顧客分を自己分と分けて管理します。JSCC の CDS と金利スワップの清算では、清算会員の自己分と顧客分のポジションと証拠金を別々に管理し、顧客分は顧客ごとの口座で分けて管理します8。上場デリバティブでは、顧客分を複数の顧客をまとめた口座(オムニバス口座)か、顧客ごとの口座のどちらかで管理します8。

清算会員が破綻したときは、顧客がポジションと証拠金を別の清算会員に移すこともできます。JSCC の上場デリバティブ、CDS、金利スワップの清算では、破綻した清算会員の同意は要らず、移し先の清算会員の承諾が要ります8。PFMI の原則 14 は、こうした分別管理と勘定移管の規則を清算機関に求めています9。金融庁の監督指針にも、同じ趣旨の着眼点があります10。

証拠金と清算基金で会員の破綻に備える

清算機関が会員から預かる財務資源は、大きく 2 つです2。1 つは当初証拠金と変動証拠金です。JSCC は、会員が破綻したときの損失を、その会員の負担でカバーするための担保として証拠金を預かります。変動証拠金は、未決済の取引を直近の価格で評価し直した(値洗い)損益を、少なくとも 1 日 1 回、会員との間で受け払いします。当初証拠金は、今後起こりうる損失(ポテンシャル・フューチャー・エクスポージャー)を、通常の市場環境で、損失が 100 回のうち 99 回以上は収まる水準(信頼水準 99% 以上)でカバーするように設計します11。

もう 1 つが清算基金です。清算基金は、証拠金に加える財務資源として、複数の会員が破綻する場合を想定して、会員があらかじめ預けておく資金です。JSCC は、CDS、金利スワップ、国債店頭取引、現物取引、指数先物などで、上位 2 先の清算会員(関係会社を含む)が破綻する想定を置いて、清算基金の所要額を決めています。破綻した会員以外の会員の清算基金も、損失に充てる可能性があります12。

損失を埋める順序について、JSCC は、まず破綻した清算会員の負担(証拠金など)で補償し、その後に破綻していない清算会員の負担(清算基金など)で補償するのを基本にしています。ただし、清算機関がリスク管理を適切に行う動機を保つため、破綻していない清算会員の負担の前に、JSCC の負担で補償します13。この順序のような、清算機関の損失を埋める財源の一連の備えを、PFMI ではウォーターフォールと呼びます。ウォーターフォールには、破綻した参加者の当初証拠金と清算基金への拠出、清算機関自身の資金の一部、破綻していない参加者の清算基金への拠出が含まれることがあります14。

ある会員が破綻して、取引を処理するのに 10 億円の損失が出た架空の例で考えます。金額は清算機関の仕組みごとに違い、順序の理解のためだけの数字です。

順 損失を埋める財源 埋める額(億円) 累計(億円)
1 破綻した会員の証拠金と清算基金への拠出 7 7
2 清算機関の負担 1 8
3 破綻していない会員の清算基金 2 10

この例では、3 番目の財源が使われるため、破綻していない会員にも損失の一部が回ります。清算基金があることで、会員は自分の取引相手でない会員の破綻から、損失を負うことがあります。一方で、1 番目の財源だけで損失を埋められるなら、ほかの会員の負担は生じません。

事前に拠出した財源で足りない損失が出たときの追加の徴収の権限と割当方法も、清算機関の業務方法書などで明確に定めるよう、金融庁の監督指針が求めています15。

清算会員になるには

清算会員になろうとする者は、清算機関に資格の取得を申請して、承認を受けます。JSCC は、取得基準と維持基準の資格の要件を定めています。清算機関が個々の取引相手の信用リスクを負うため、清算会員には高い信用力を求めるという考え方です17。

承認の後も、清算機関は会員を見続けます。JSCC は、財務の状況、経営体制、業務の執行体制を継続的に確かめています。財務の状況は、月次から年次までの報告と、ニュースや市場の情報(株価、CDS と債券のスプレッド)で見ます。業務の執行体制は、毎日の金銭の支払い、証券の引渡し、担保の預託が期限までに行われているかでも見ます。要件を満たさないと分かったときは、業務の執行体制やポジションの改善の指示、債務の引受けと負担の全部か一部の停止、資格の取消しの措置を取れます17。

参加の要件は、客観的で、リスクの評価に基づくものを設定し、公表するよう、PFMI の原則 18 が求めています。公正で開かれたアクセスと、清算機関の財務の健全性のためのリスクに関連する合理的な要件を、両立させるためです1819。

JSCC、LCH、CME の違い

JSCC、LCH Limited、CME は、扱う商品と、清算機関としての根拠になる免許、認可、登録を出す当局が違います。次の表は、3 つの清算機関の違いです。

清算機関 国 扱う商品 規制の根拠
日本証券クリアリング機構(JSCC) 日本 取引所取引、CDS と金利スワップの店頭デリバティブ、国債店頭取引、上場商品デリバティブ 金融商品債務引受業の免許(2003 年 1 月)と、商品取引債務引受業の許可(2020 年 7 月)20
LCH Limited 英国(ロンドン) 店頭の金利、インフレ率、通貨、株式、商品などのデリバティブ、レポなど。上場の金利デリバティブも含む イングランド銀行による清算機関の認可(2014 年 6 月 12 日)21
Chicago Mercantile Exchange, Inc.(CME Clearing) 米国 先物、オプション、スワップ 米国商品先物取引委員会(CFTC)に登録したデリバティブ清算機関22

JSCC は、2020 年 7 月に日本商品清算機構と合併して商品市場の清算に広げました2023。商品取引債務引受業の許可は、この統合に伴うものです。金融庁、農林水産省、経済産業省が規制と監督をします20。

海外の当局からも認証や免除を受けています。米国の CFTC からは、金利スワップの清算で米国商品取引所法のデリバティブ清算機関の登録の免除を 2015 年 10 月に受けました。欧州連合では 2015 年 4 月に、欧州証券市場監督局(ESMA)から第三国 CCP の認証を受けました。そのため、米国の清算会員や欧州連合の金融機関は、それぞれの国や地域の清算の義務を、JSCC の清算で果たせます20。

LCH Limited は、イングランド銀行が認可した英国の清算機関で、ロンドンにあります。認可は 2014 年 6 月 12 日で、それ以前の 2001 年 11 月 22 日から清算機関として認められていました。認可の対象は、2023 年 3 月 1 日に更新された表で、店頭の金利デリバティブ(2014 年 6 月 12 日)、インフレ率のデリバティブ(2015 年 3 月 27 日)、通貨、株式、商品のデリバティブなどです2124。イングランド銀行の一覧には、フランスの LCH SA も別の清算機関として載っています。

CME は、Chicago Mercantile Exchange, Inc. の清算部門(CME Clearing)で、先物、オプション、スワップを清算しています。CFTC に登録したデリバティブ清算機関で、ドッド・フランク法第 8 編の下で CFTC が監督機関です。連邦準備制度理事会の資料は、CME を、金融市場ユーティリティとして指定された 8 つの機関の 1 つに挙げています(2015 年 1 月 29 日の更新と表示)22。イングランド銀行は、CME を英国で清算サービスを提供できる英国外の清算機関として、2024 年 5 月 24 日に認めています25。

証拠金の計算方法、清算基金の仕組み、損失を埋める順序は、清算機関と、同じ清算機関の中の清算業務ごとに違います。JSCC は、清算業務ごとに損失補償の仕組みを作り、ある業務で出た損失がほかの業務に及ばないようにしています13。

清算機関自体のリスクと PFMI

清算機関は、参加者の破綻を引き受ける分、自らの安全性が市場全体に影響します。清算機関の健全性が確保されないと、その業務の安定性だけでなく、金融システム全体の健全性が損なわれるおそれ(システミック・リスク)があります。そのため、清算機関は、金融商品債務引受業とその附帯業務に専念し、原則として他の業務を行えません26。

清算機関のリスク管理が実効的で、財務資源が適切であることが、清算機関が参加者のリスクを減らす効果を得る前提です2。損失を共同で分担する財務資源を増やすと、清算機関は極端な状況の破綻に備えやすくなる一方、参加者どうしの結びつきも強まります。PFMI は、証拠金のように参加者ごとに分けた財務資源と、共同で分担する財務資源のバランスを取るよう求めています27。JSCC は、損失補償の財源が十分かを、ストレステストで少なくとも 1 日 1 回確かめています13。

清算機関に関わる PFMI の原則には、信用リスク(原則 4)、証拠金(原則 6)、参加者破綻時処理の規則・手続(原則 13)があります。分別管理・勘定移管(原則 14)、アクセス・参加要件(原則 18)、階層的参加形態(原則 19)もあります28。原則の全体は、市場インフラの全体像で扱います。金融庁の監督指針は、清算機関が PFMI を踏まえた情報開示を定期的に行うことも求めています29。

注

  1. 日本証券クリアリング機構「JSCCとは」の「「清算機関」の機能」。 ↩

  2. BIS 支払・決済システム委員会、証券監督者国際機構専門委員会「金融市場インフラのための原則」(仮訳、2012 年 4 月)のパラグラフ 1.13(11〜12 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  3. 日本証券クリアリング機構「JSCCとは」の「JSCCの役割」。 ↩

  4. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 3.4.14(56 ページ)。 ↩

  5. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 3.19.1(146 ページ)。 ↩

  6. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)の原則 19 の本文(概要の 4 ページ)。 ↩

  7. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 3.19.9(149 ページ)。 ↩

  8. 日本証券クリアリング機構「リスク管理 分別管理・勘定移管」(2023 年 4 月 14 日現在と表示)の「顧客ポジション・証拠金の分別管理」と「ポジション及び証拠金の移管」。 ↩ ↩2 ↩3

  9. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)の原則 14 の本文(概要の 3 ページ)。 ↩

  10. 金融庁「清算・振替機関等向けの総合的な監督指針」III-3-6の「(1)意義」と「(2)主な着眼点」。 ↩

  11. 日本証券クリアリング機構「リスク管理 証拠金」(2024 年 12 月 18 日現在と表示)の本文。 ↩

  12. 日本証券クリアリング機構「リスク管理 清算基金」(2021 年 9 月 21 日現在と表示)の本文。 ↩

  13. 日本証券クリアリング機構「リスク管理 損失補償」(2026 年 10 月 1 日現在と表示)の本文。 ↩ ↩2 ↩3

  14. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 3.4.17(57〜58 ページ)。 ↩

  15. 金融庁「清算・振替機関等向けの総合的な監督指針」III-3-5の「(2)主な着眼点」。 ↩

  16. 日本証券クリアリング機構「免許・認証取得状況」の「日本の規制当局からの免許取得状況」。告示は、銀行法第 14 条の 2 の規定に基づき、銀行が保有する資産等に照らして自己資本の充実の状況が適当かどうかを判断するための基準(自己資本規制比率に関する金融庁告示)で、該当は第 270 条の 8 第 1 項。 ↩

  17. 日本証券クリアリング機構「リスク管理 清算参加者管理」(2026 年 3 月 31 日現在と表示)の本文。 ↩ ↩2

  18. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)の原則 18 の本文(概要の 4 ページ)。 ↩

  19. 金融庁「清算・振替機関等向けの総合的な監督指針」III-3-1-2の「(1)意義」。 ↩

  20. 日本証券クリアリング機構「免許・認証取得状況」の「日本の規制当局からの免許取得状況」と「海外の規制当局からの認証等の取得状況」の米国と欧州連合の項。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  21. Bank of England, "Who are we?" の「UK CCPs」の LCH Limited の項(2026 年 7 月 23 日更新と表示)。 ↩ ↩2

  22. Board of Governors of the Federal Reserve System, "Designated Financial Market Utilities" の指定された機関の一覧と「Chicago Mercantile Exchange, Inc.」の項。 ↩ ↩2

  23. 日本証券クリアリング機構「JSCCとは」の「沿革」。 ↩

  24. Bank of England, "Table 1: Classes of financial instruments covered by LCH Limited's authorisation"(2023 年 3 月 1 日更新と表示)。 ↩

  25. Bank of England, "Who are we?" の「Recognised non-UK CCPs」の Chicago Mercantile Exchange の項(2026 年 7 月 23 日更新と表示)。 ↩

  26. 金融庁「清算・振替機関等向けの総合的な監督指針」III-4-2の「(1)趣旨」。業務の限定は金融商品取引法第 156 条の 6 第 2 項。 ↩

  27. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)のパラグラフ 3.4.18 の脚注 54(58 ページ)。 ↩

  28. 「金融市場インフラのための原則」(仮訳)の原則の一覧(概要の 1〜4 ページ)の原則 4、6、13、14、18、19。 ↩

  29. 金融庁「清算・振替機関等向けの総合的な監督指針」III-3-8の「(2)主な着眼点」。 ↩