デリバティブの残高を管理する担当者や、レバレッジ比率の算定を担当する人が、取引の本数と想定元本の総額を減らす手段として確かめる仕組みです。
何のためにあるか
デリバティブの取引を重ねて、持ち高が打ち消し合う取引を両方持つことがあります。たとえば、固定金利を払う取引と受け取る取引を持てば、金利が動いたときの損益はほとんど打ち消し合います。それでも契約は 2 本あり、それぞれに想定元本があるため、正味の持ち高に比べて想定元本の合計は大きくなります。コンプレッションは、こうした取引を解約して、リスク量を概ね変えないまま、想定元本の総額で測る残高を小さくします1。
想定元本を減らす動機として、日本銀行の 2017 年の資料は、レバレッジ比率規制への対応を挙げています。当時の規制は、有価証券、貸出、デリバティブなどの総エクスポージャーに応じた Tier 1 資本を求めるものでした。デリバティブのエクスポージャーは、時価を表す再構築コストと、想定元本にリスク・ウェイトを掛けて求めるアドオンの合計でした。再構築コストは、ネッティング契約と現金の証拠金で減らせるものの、アドオンを減らすには、想定元本そのものを減らす必要がありました2。
ここまでは 2017 年 6 月時点の算定です。その後、バーゼル銀行監督委員会は、2017 年 12 月に最終文書を公表しました。最終文書は、レバレッジ比率のデリバティブのエクスポージャーを、SA-CCR を修正した方式で測ることに改めました。修正した方式では、エクスポージャーは、再構築コストとポテンシャル・フューチャー・エクスポージャー(PFE)の合計の 1.4 倍です3。今の算定はレバレッジ比率で扱います。
同じ資料は、世界の OTC デリバティブの残高が 2014 年以降に大きく減ったことと、その背景として BIS が金融機関のコンプレッションの活用を指摘していたことも書いています4。
数値の例で見る
ある参加者が、同じ清算機関に 2 本の金利スワップを持つ架空の例で考えます。どちらも固定金利は年 2%、満期と変動金利の指標は同じです。実際のコンプレッションには、相手と 2 者で行うものも、多数の参加者の取引を同時に対象にするものもあります。この例は、清算機関を相手にした 1 参加者の取引に簡略化したものです。
- 取引 A は、固定金利を払い、変動金利を受け取る取引で、想定元本は 100 億円です。
- 取引 B は、固定金利を受け取り、変動金利を払う取引で、想定元本は 60 億円です。
2 本を合わせた持ち高は、固定金利を払う側の 40 億円(100 億円から 60 億円を引いた額)です。コンプレッションでは、取引 B を全部解約し、取引 A を 60 億円分だけ部分的に解約します。
解約の前後は、次のようになります。
| 項目 | 解約前 | 解約後 |
|---|---|---|
| 取引の本数 | 2 本(A、B) | 1 本(A) |
| 想定元本の合計 | 100 億円 + 60 億円 = 160 億円 | 40 億円 |
| 固定金利を払う側の正味の想定元本 | 100 億円 − 60 億円 = 40 億円 | 40 億円 |
1 年分の利息の受け払いで確かめます。取引 A の受け取りは「想定元本 × (変動金利 − 2%)」、取引 B は「想定元本 × (2% − 変動金利)」です。単位は億円で、マイナスは支払いです。
| 変動金利 | 解約前の取引 A | 解約前の取引 B | 解約前の合計 | 解約後(取引 A のみ) |
|---|---|---|---|---|
| 年 3% | 100 × (3% − 2%) = 1.0 | 60 × (2% − 3%) = −0.6 | 0.4 | 40 × (3% − 2%) = 0.4 |
| 年 1% | 100 × (1% − 2%) = −1.0 | 60 × (2% − 1%) = 0.6 | −0.4 | 40 × (1% − 2%) = −0.4 |
変動金利が年 3% なら 0.4 億円の受け取り、年 1% なら 0.4 億円の支払いで、金額は解約の前後で変わりません。
種類と運営する主体
コンプレッションは、取引の相手と相対で行うものと、多数の金融機関が参加して一括で行うもの(一括コンプレッション)があります5。
清算機関が、清算した取引を対象に一括コンプレッションを実施することもあります。日本証券クリアリング機構(JSCC)は、円建て金利スワップの清算業務で実施しています6。実施にはサービス事業者のサービスを使っています。2017 年 9 月の第 16 回サイクルは TriOptima 社の triReduce、2025 年 3 月は Quantile Technologies 社のサービスを使いました67。
清算されていない取引を対象にするコンプレッションでは、一方が解約したくても、相手に解約の必要がなければ、その取引は解約できませんでした。清算された取引では、取引の相手が清算機関に置き換わっています。清算機関は、自らの受け払いが釣り合う範囲で解約に応じるため、元の相手の合意の有無と切り離して解約でき、コンプレッションの効率が上がりました。日本銀行の資料は、この方式を Unlink 型と呼んでいます8。
Unlink 型は、2017 年時点で世界最大の OTC デリバティブの清算機関である LCH が 2014 年入り後に、JSCC が 2015 年 9 月に始めました8。
JSCC は、一括コンプレッションの結果を告知しています。告知は、解約した件数を全解約と部分解約に分けて示しています6。
| 実施日 | 解約した件数 | 全解約 | 部分解約 | 想定元本 |
|---|---|---|---|---|
| 2017 年 9 月 15 日(第 16 回サイクル) | 14,012 件 | 9,718 件 | 4,294 件 | 73 兆 9,887 億円(往復ベース) |
| 2025 年 3 月 27 日 | 19,143 件 | 14,226 件 | 4,917 件 | 168 兆 9,773 億円 |
2017 年の第 16 回サイクルには、清算委託者を含む国内外の主要金融機関 18 社が参加しました。件数と想定元本は往復ベースで、片道ベースの値は往復ベースの半分です。JSCC の統計は片道ベースで表します6。2025 年の告知は、往復と片道のどちらの値かを書いていないので、2 回の想定元本は比べられません7。
コンプレッションの流れは、参加者が自社の取引の情報を持ち寄り、リスク量が概ね変わらない形で複数の取引を一斉に解約するものです1。コンプレッションを提供するサービスの提供範囲と運営者は、取引後の効率化サービスで扱います。
解約の前後で変わるもの、変わらないもの
変わるのは、取引の本数と想定元本の総額です。リスク量は概ね変わらないように解約を決めます1。数値の例では、取引は 2 本から 1 本に、想定元本の合計は 160 億円から 40 億円になり、正味の想定元本は 40 億円のまま変わりませんでした。
規制との関係
米国と EU の規則には、取引の削減の手続きを求めるものがあります。どちらも日本の規制ではありません。
米国では、CFTC の規則(17 CFR 23.503)が、スワップ・ディーラーと主要スワップ参加者に、次の方針と手順を書面で定めて守ることを求めています。
- 相手が別のスワップ・ディーラーか主要スワップ参加者の場合: 完全に打ち消し合うスワップを適切な時期に解約すること。相手との 2 者間(バイラテラル)のコンプレッションを適切なときに定期的に行うこと。複数の参加者で行う(マルチラテラル)コンプレッションの手順を定めること。
- 相手がそれ以外の者の場合: 完全に打ち消し合うスワップの定期的な解約とコンプレッションを、相手の求めに応じる範囲で行うこと。
「完全に打ち消し合うスワップ」(fully offsetting swap)は、同じ規則の 23.500(f) の定義で、条件が同じで、支払いを相殺すると、どちらの相手にも正味の支払いが残らないスワップです。この規則は、デリバティブ清算機関が清算するスワップには適用されません9。
EU の店頭デリバティブの規則(EMIR)の委任規則 149/2013 は、第 14 条(2018 年 1 月 3 日の改訂版)で、手続きを定めることを求めています。対象は、清算されていない店頭デリバティブ契約を 1 つの取引相手との間に 500 本以上持つ金融機関と非金融機関です。その手続きでは、少なくとも年 2 回、取引相手との間でコンプレッションを行う可能性を分析し、適切であれば行います。取引相手に対する信用リスクを減らすことが目的です。行うのが適切でないと判断したときは、当局に妥当な説明ができなければなりません11。
注
注
-
日本銀行「(日銀レビュー)最近のOTCデリバティブ市場の動向 : OTCデリバティブ統計からみた特徴点」(2017-J-8、2017 年 6 月)の「コンプレッションの普及」(p.5)の「コンプレッションによる残高の削減」。 ↩ ↩2 ↩3
-
同資料の「レバレッジ比率規制への対応」(p.5〜6)と図表 10。当時の算定の説明。アドオンを減らす必要がある旨は p.6。 ↩
-
金融庁、日本銀行「「レバレッジ比率の枠組みの見直し」の概要」(2018 年 2 月)の 3 ページ「スケジュール」(2017 年 12 月にレバレッジ比率の規制の枠組みを最終化)と 5 ページ「デリバティブ・エクスポージャー(修正 SA-CCR の採用)」。エクスポージャー = 1.4 ×(RC + PFE)。RC は再構築コスト、PFE はポテンシャル・フューチャー・エクスポージャー。 ↩
-
同資料の「コンプレッションによる残高の削減」(p.5)と注 14。 ↩
-
同資料の「コンプレッションの普及」(p.5)。 ↩
-
日本証券クリアリング機構「金利スワップ取引において一括コンプレッションを実施いたしました。」(2017 年 9 月 15 日)。第 16 回サイクルの件数、想定元本、参加社数、往復ベースの注記。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
日本証券クリアリング機構「金利スワップ取引において一括コンプレッションを実施いたしました。」(2025 年 3 月 27 日)。件数と想定元本は表のとおり。(※)の注記で、ユーロ円 TIBOR-OIS ベーシス・スワップの解約分は含まれない。 ↩ ↩2
-
17 CFR 23.500(f)(Definitions。fully offsetting swaps)、23.503(a)(1)(Bilateral offset)、(a)(2)、(a)(3)、(b)(スワップ・ディーラーと主要スワップ参加者以外が相手の場合。相手の求めに応じる範囲)、(c)(Portfolio compression of cleared swaps)。 ↩
-
17 CFR 23.503(d)(1)、(d)(2)。 ↩
-
Commission Delegated Regulation (EU) No 149/2013 の Article 14(Portfolio compression)。legislation.gov.uk に掲載された、2018 年 1 月 3 日の改訂版(Revised 03/01/2018)の条文。 ↩