店頭デリバティブの取引を電子的な場で執行する業務で、執行の方式が国と区分で変わる場面や、米国の SEF が取引後の確認と報告を担う場面に出てきます。

電子取引基盤の狙いと、国ごとに求めること

米国のスワップ執行施設(SEF)、EU の多角的取引システム(MTF)と組織的取引システム(OTF)は、売買の気配を 1 つのシステムに集めて取引を成立させる場です。店頭デリバティブ取引規制には、清算集中規制、取引情報報告、証拠金規制とともに、電子取引基盤規制があります1。

制度の狙いと求めることは国で違います。米国の商品取引所法(CEA)は、SEF でのスワップの取引の促進と、スワップ市場の取引前の価格の透明性(取引の前に価格の情報が見られること)を、目標に掲げます2。

日本の金融商品取引法(金商法)は、取引の公正の確保のため、概要の迅速な開示が必要な取引を、特定店頭デリバティブ取引として、電子情報処理組織を使って行うよう求めます。取引高などから必要と認められるものは、内閣府令が定めます。金商法は、その組織を提供する者に、価格や数量などの公表も求めます3。

見積り要求と注文板はどう違うか

米国の SEF の規則が定める執行の方式は、見積り要求と注文板です。見積り要求は、参加者が特定の商品の売買の気配を取引システムの中の 3 者以上の参加者に送り、その全員が応じられる方式です。3 者は、依頼者とも互いにも、関連会社や支配関係にない者でなければなりません4。注文板は、参加者の全員が複数の売り気配と買い気配を出し、ほかの参加者の気配を見て、その気配で取引できるシステムです。SEF は、最低限、注文板を備えます5。

どちらを使うかは、スワップによって決まります。取引執行義務の対象となるスワップは、規則で「Required Transaction」と呼ばれ、ドッド・フランク法のもとで CEA 第 2(h)(8) 条が、SEF などで執行する義務を課します。このうちブロック取引(大口の取引)でないものは、SEF の上で注文板か、注文板と併設した見積り要求で執行します6。対象でないスワップには、SEF がどの方式も提供できます7。

見積り要求を提供する SEF には、次のことが求められます。依頼者が最初の応答を受けるのと同時に、注文板にある同じ商品の確定気配(すぐ約定できる気配)を依頼者に知らせること。依頼者がその気配にも約定できること。依頼を受ける参加者に、同じ優先度を与えることです8。ブローカーやディーラーが、顧客の注文と自社の注文、または 2 つの顧客の注文を事前に取り決めたうえで注文板に出すときは、1 つ目の注文と 2 つ目の注文の間に 15 秒以上の時間差を置きます。SEF は、スワップの流動性などに応じて、この時間を調整できます9。

EU の MTF と OTF は、執行の裁量の有無が違います。MTF の運営者は、注文の執行について非裁量的なルールを定めて実施します10。OTF の運営者は、裁量で執行します。裁量を使えるのは、OTF に注文を出すか引っ込めるかを決めるときと、顧客の具体的な指示に従う場合に特定の顧客の注文をほかの注文と付け合わせないと決めるときです。株式以外の取引を仲介する OTF では、顧客どうしの交渉を助けて、折り合いそうな複数の取引の意向を 1 つの取引にまとめることもできます11。

見積り要求から約定、清算までの例

見積り要求では、依頼者が複数のディーラーの気配を比べて、約定の相手を選びます。

N 社が、想定元本 100 億円、期間 5 年の金利スワップで固定金利を払う取引を、SEF の上で見積り要求によって執行する架空の例で考えます。N 社は 3 つのディーラー(甲、乙、丙)に気配を求め、次の固定金利が返ってきたとします。

ディーラー 固定金利(年) 固定金利の利息(年、億円)
甲 1.52% 1.52
乙 1.50% 1.50
丙 1.55% 1.55

N 社は固定金利を払うので、固定金利が最も低い乙の 1.50% が、払う利息の最も少ない気配です。丙の 1.55% と比べると、払う利息は年 0.05 億円、つまり 500 万円少なくなります。N 社が固定金利を受け取る取引で、同じ水準の気配が返ってきたなら、最も高い丙を選ぶと、乙より受け取る利息が年 500 万円多くなります。注文板に同じ商品の確定気配があれば、SEF は最初の応答と同時に N 社へ知らせ、N 社はそれも含めて比べます。この例の取引が取引執行義務の対象かどうかは、この例では決めません。

N 社ディーラーSEF清算機関3 社に見積りを要求する固定金利の気配を返す確定気配を知らせる最も低い気配で約定する約定の条件を書面で示す送られた取引を清算する
図 1見積り要求から清算までの流れ
図の説明

N 社が SEF の上で見積り要求を使い、約定して清算するまでの流れです。約定のあと、SEF は取引の条件を書面で N 社とディーラーに示し、清算される取引について、取引を清算機関へ送る体制を持ちます。

米国、EU、日本の区分の違い

運営者の資格と執行のルールは、国と区分で違います。

項目 米国の SEF EU の MTF EU の OTF 日本
根拠 CEA 第 5h 条 MiFID II 第 4 条第 1 項(22)、第 18 条、第 19 条 MiFID II 第 4 条第 1 項(23)、第 18 条、第 20 条 金商法 第 40 条の 7、第 60 条の 14
運営者 CFTC に SEF か DCM として登録した者 投資会社か市場運営者 投資会社か市場運営者 金融商品取引業者等と、内閣総理大臣の許可を受けた外国の事業者
執行のルール 注文板を最低限備える。取引執行義務の対象は注文板か見積り要求 非裁量的なルール 運営者の裁量 この記事では扱わない
参加者 会員は適格契約参加者(eligible contract participant) 3 つ以上の実質的に活発な会員か利用者 3 つ以上の実質的に活発な会員か利用者 この記事では扱わない

米国の SEF は、規則を所管するCFTC(米国商品先物取引委員会)に、SEF か指定契約市場(DCM)として登録しなければ、スワップの取引や処理の基盤を運営できません12。会員の最低限の財務基準として、適格契約参加者であることを求めます13。

EU の MTF と OTF は、運営者が投資会社か市場運営者です。どちらも少なくとも 3 つの実質的に活発な会員か利用者がいて、各会員が価格の形成について互いにやり取りできることが求められます14。運営者の自己勘定との関係も違います。MTF の運営者は、顧客の注文を自己資本で執行できず、マッチド・プリンシパル取引もできません15。マッチド・プリンシパル取引は、運営者が買い手と売り手の間に入る取引です。運営者は市場リスクを負わず、反対の取引を同時にし、手数料などのほかに損益を出しません。OTF の運営者は、顧客の注文を、自己資本やグループの主体の自己資本を相手方にして執行しない体制を整えます。マッチド・プリンシパル取引は顧客の同意があるときだけ認められ、清算義務の対象と宣言されたクラスのデリバティブには使えません16。

日本では、店頭デリバティブ取引を業として行う金融商品取引業者等は、特定店頭デリバティブ取引を行うとき、電子情報処理組織を使います。使うのは、自社の組織か、ほかの金融商品取引業者等や電子店頭デリバティブ取引等許可業者の組織です3。電子店頭デリバティブ取引等許可業者は、内閣総理大臣の許可を受けてなる区分です。対象は、外国の法令に準拠して外国で店頭デリバティブ取引等を業として行う者のうち、金融商品取引業者でも銀行などの金融機関でもない者です。有価証券関連業を行う者を相手方とする場合など、政令で定める場合に限ります17。

取引後の業務の変わり方

米国の SEF では、確認と取引情報蓄積機関への報告の一部を、取引の当事者でなく SEF が担います。

SEF は、約定したスワップの全条件を書いた記録を各当事者に出します。この記録は以前の合意の食い違う条件に優先し、取引の確認になります。確認は、約定の後、技術的に可能な限り速やかに行います18。清算される取引について、SEF は清算機関が受け付ける形で取引を送る体制を持ち、取引の処理の規則を清算機関と調整します19。

報告は、約定の場所で担い手が変わります。SEF の上で約定したスワップは、SEF が作成データを、約定日の翌営業日の終わりまでに取引情報蓄積機関に報告します。SEF や DCM の外で約定したスワップは、報告する当事者が報告します。その期限は、報告する当事者がスワップ・ディーラー、主要スワップ参加者、清算機関なら翌営業日の終わり、それ以外なら翌々営業日の終わりです20。

公表と決済の手配には、たとえば次の規定があります。米国の SEF は、価格、取引高などの取引のデータを、CFTC が定める範囲で公表します21。日本の電子情報処理組織を提供する者は、特定店頭デリバティブ取引の価格、数量などを公表します3。EU の MTF と OTF の運営者は、参加者に、取引の決済についてそれぞれが負う責任を明示し、決済を効率よく進める手配を整えます22。EU の取引前後の透明性は、MiFID II と MiFIRで扱います。

SEF で約定したあとの清算の仕組みは、清算機関(JSCC、LCH、CME など)で扱います。

電子取引基盤の使用義務はどこで決まるか

電子取引基盤を使う義務は、国ごとの規制で決まり、名称も違います。日本は使用義務、米国は取引執行義務、EU は取引義務です。米国の取引執行義務は CEA 第 2(h)(8) 条にあります。日本の使用義務は金商法第 40 条の 7 にあります。対象の取引は、金商法が内閣府令に委ねているため、条文だけでは決まりません3。

この記事が書いていないこと

各社の運用、日本の執行のルールと参加者、日本と EU の確認と報告の中身は、この記事では扱いません。

注

  1. 金融庁「店頭デリバティブ取引規制関連」のレガシー契約の項(店頭デリバティブ取引規制として清算集中規制、取引情報報告、電子取引基盤規制、証拠金規制を挙げる)。 ↩

  2. CEA 第 5h(e) 条(7 U.S.C. § 7b-3(e)。"promote the trading of swaps on swap execution facilities and to promote pre-trade price transparency in the swaps market")。 ↩

  3. 「金融商品取引法」第 40 条の 7 第 1 項(使用義務。特定店頭デリバティブ取引の定義は内閣府令に委ねる)と第 2 項(価格、数量などの公表)。e-Gov 法令検索で 2026 年 10 月 5 日に取得した版。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  4. 17 CFR § 37.9(a)(3)(LII の掲載版。2026 年 10 月 5 日に取得)。 ↩

  5. 17 CFR § 37.3(a)(2)(最低限の機能として注文板)、(a)(3)(iii)(注文板の定義)。 ↩

  6. 17 CFR § 37.9(a)(1)("Required Transaction" は CEA 第 2(h)(8) 条の取引執行義務の対象のスワップ)と(a)(2)(i)(ブロック取引でないものは注文板か、注文板と併設した見積り要求)。例外として同条(d)、(e)(パッケージ取引、事務上の誤りの取引)がある。 ↩

  7. 17 CFR § 37.9(c)("Permitted Transaction" は取引執行義務の対象でないスワップで、SEF はどの執行方法も提供できる)。 ↩

  8. 17 CFR § 37.9(a)(3)(i)〜(iii)。 ↩

  9. 17 CFR § 37.9(b)(1)、(b)(2)。時間差は 15 秒以上で、スワップの流動性などに応じて調整できる。 ↩

  10. Directive 2014/65/EU 第 19 条第 1 項。legislation.gov.uk の採択版(2014 年)で、条文は 2026 年 10 月に確かめた。 ↩

  11. Directive 2014/65/EU 第 20 条第 6 項。 ↩

  12. CEA 第 5h(a)(1) 条(7 U.S.C. § 7b-3(a)(1))。CFTC への登録は 17 CFR § 37.3(a)(1)。 ↩

  13. 17 CFR § 37.702(a)。 ↩

  14. Directive 2014/65/EU 第 18 条第 7 項。MTF の定義は第 4 条第 1 項(22)、OTF の定義は(23)。 ↩

  15. Directive 2014/65/EU 第 19 条第 5 項。マッチド・プリンシパル取引の定義は第 4 条第 1 項(38)。 ↩

  16. Directive 2014/65/EU 第 20 条第 1 項、第 2 項。清算義務の対象は、規則 (EU) No 648/2012 第 5 条にもとづき宣言されたクラスのデリバティブ。 ↩

  17. 「金融商品取引法」第 60 条の 14 第 1 項、第 2 項(第 2 項が、許可を受けた者を「電子店頭デリバティブ取引等許可業者」と定め、第 40 条の 7 第 2 項の公表を準用する)。 ↩

  18. 17 CFR § 37.6(b)。 ↩

  19. 17 CFR § 37.702(b)(1)、(b)(2)。 ↩

  20. 17 CFR § 45.3(a)(SEF か DCM の上で約定したスワップ)と(b)(それ以外。報告する当事者がスワップ・ディーラー、主要スワップ参加者、清算機関なら翌営業日の終わり、それ以外なら翌々営業日の終わり)。 ↩

  21. CEA 第 5h(f)(9) 条(7 U.S.C. § 7b-3(f)(9))。 ↩

  22. Directive 2014/65/EU 第 18 条第 6 項。 ↩