デリバティブの決済資金を円で受け払う場面と外貨で受け払う場面では、使う決済システムと口座が違い、支払いがいつ確定するか、資金が足りないときの手段、外貨の支払いが通る口座もそれぞれ異なります。

グロス決済とネット決済

資金決済の方式は、支払いを 1 件ずつ決済するグロス決済と、受払いを差し引いて決済するネット決済に分かれます。

資金決済システムは、参加者の間で資金を移すための一連の手段、手続、規則で、運営する主体も含みます。大口で優先度の高い支払いを扱う大口資金決済システムの多くは、中央銀行が運営し、RTGS(即時グロス決済)か、それに相当する仕組みを使います1。RTGS は、支払いの指図を 1 件ずつ即時に決済する方法です2。これに対して時点ネット決済(DNS)は、指図を集めて受払いの差額を計算し、決まった時点に差額だけを決済します3。

項目 RTGS 時点ネット決済
決済の単位 支払いの指図 1 件ずつ 受払いを差し引いた差額
決済の時期 資金が確保されていれば直ちに 決済の時点まで繰り延べる
決済までのリスク 軽減または除去できる 繰り延べの間、参加者が決済リスクを負う
必要な日中の資金 多くなりやすい 相対的に少なくて済む

RTGS では決済のリスクを減らせますが、参加者がすべての支払いをまかなえる資金を持つ必要があり、日中に要る資金が増えます4。

1 つの国の中でも、金額によって方式が分かれます。全国銀行内国為替制度(全銀システム)では、1 件 1 億円以上の大口取引は、個々の指図が日銀ネット(日本銀行金融ネットワークシステム)の当預系に連携され、日本銀行の当座預金上で RTGS により決済されます。1 億円未満の小口取引は、全銀ネットが指図を集計し、全銀ネットと各金融機関の受払差額を、1 日に 1 度、日銀当座預金上の時点ネット決済で処理します(2024 年 9 月時点)3。

RTGS での決済の最終性

決済の最終性(ファイナリティ)は、決済が無条件かつ取り消せない形で確定することです5。国際基準は、決済がいつファイナルになるかを運営者の規則と手続で明確に定めるよう求めています5。

日本銀行の当預系では、日本銀行が決済を確認して当座勘定元帳に記帳した時に、資金決済が完了します。この時点は日本銀行の当座勘定規定が定めており、決済のファイナリティは倒産法を含む適用される法令の下で確保されています。その法的な確実性は、外部の法務の専門家の法的レビューなどで確かめられています6。

支払いの指図を取り消せるかも、取引先との約定で決まっています。通常の当座勘定(通常口)の振替依頼は、日本銀行が受け付けると遅れずに処理され、すぐ記帳されるため取り消せません。条件の成就を起点に処理される振替依頼には、取消しを認めないものと、条件が成就するまで取消しを認めるものがあります7。

日中の流動性と待ち行列

RTGS では支払いのたびに全額の資金が要るため、日中の資金が足りないときの手段が用意されています。日銀当座預金には用途の違う口座があり、通常口では日中当座貸越で借り、待ち行列の仕組みがある同時決済口では相手からの入金を待ちます。

日本銀行は、取引先の金融機関に、当日の終業時を返済期限とする当座貸越の形で日中の流動性を供与しています。これを日中当座貸越といい、同時決済口以外の当座勘定(通常口)で行われます。差し入れた担保の評価額の範囲で、利息を取らずに借りられます。終業時に貸越の残高があると、基準貸付利率に年 6% を加えた延滞利息がかかります8。

もう 1 つが、日銀ネットの流動性節約機能で、当座勘定の同時決済口で提供されます。支払いの指図を受け付けたとき、引落しの資金が足りなければ待ち行列に待たせます(待ち行列機能)。同時に決済すれば資金不足にならない指図の組合せがあれば、まとめて決済します(複数指図同時決済機能)。

組合せの探し方は 2 通りです。新しい指図の送信や残高の増加のたびに 2 者間で探す方法と、1 日 8 回(10 時 30 分から概ね 1 時間ごと)、全金融機関の待ち行列から探す方法があります。同時に決済しても、1 件ずつグロスで処理し、ネッティングは行いません9。

C 銀行と D 銀行が、日銀当座預金の残高をそれぞれ 10 億円持つ架空の例で考えます。同時決済口で決済する場合です。C 銀行が D 銀行に 30 億円、D 銀行が C 銀行に 20 億円を、別々の取引の支払いとして同じ時刻に指図します。

時点 C 銀行の残高 D 銀行の残高 処理
指図の前 10 億円 10 億円 なし
指図の直後 10 億円 10 億円 2 件とも残高不足で待ち行列
同時に決済した後 0 円 20 億円 2 件を同時に、1 件ずつ決済

2 件を同時に決済すると、C 銀行の残高は 10 − 30 + 20 で 0、D 銀行の残高は 10 − 20 + 30 で 20 億円になり、どちらも残高が負になりません。相手の指図が出ない間は、C 銀行の 30 億円は待ち行列にとどまります。

日銀ネット当預系と外為円決済

日銀ネットは、日本銀行が運営する決済のネットワークで、資金を扱う当預系と、国債を扱う国債系からなります。当預系は、金融機関どうしの資金取引の決済、国債などの証券取引の資金決済、民間決済システムの最終的な資金決済を、日銀当座預金の振替で処理します。2023 年中の資金決済は、1 営業日の平均で約 235 兆円、約 8.3 万件でした10。

当預系に口座を持つ取引先は、銀行や信用金庫、資金清算機関のほか、金融商品取引業者、証券金融会社、金融商品取引清算機関、短資会社の中から日本銀行が選びます11。日本証券クリアリング機構とCLS 銀行も、日本銀行と当座預金取引をする取引先です12。CLS 取引の円資金は通常口で決済され、取引先どうしの市中取引は原則として同時決済口で決済されます13。国債と資金を同時に受け渡すDvPの決済は、証券決済と証券集中振替機関(DvP、JASDEC、T+1)で扱います。

日銀ネットの入力の時刻は、2026 年 10 月時点の日本銀行の決定で次のとおりです。コアタイムは、日銀ネットを使うすべての先が事務処理の体制を整える時間帯です14。

項目 時刻
オンライン入力の開始 午前 8 時 30 分
オンライン入力の締切 午後 9 時
コアタイム(当座預金決済。外国為替円決済を除く) 午前 9 時〜午後 5 時
コアタイム(外国為替円決済) 午前 9 時〜午後 3 時
コアタイム(国債決済) 午前 9 時〜午後 4 時 30 分

外国為替円決済制度は、海外と日本の間の円建ての送金や、外国為替市場の売買などに伴う円資金を決済する仕組みです。全国銀行協会が運営し、支払いの指図の伝送などの事務は、日本銀行が日銀ネット当預系を使って受託しています。大口の決済が中心で、RTGS で処理します15。決済方法は、2008 年 10 月に即時グロス決済へ完全に移行しました16。SWIFT で送られる電文は、金融機関が外国為替円決済制度の電文に変換して送受信します。日本銀行は、この制度と海外預り金関係の取引の電文に使う ISO 20022 の版を、2025 年 11 月 25 日にバージョン 8(2019 年版)へ改訂しました1718。

米国、英国、ユーロ圏の RTGS

主要な通貨にも、中央銀行の口座を使う RTGS があります。

システム 通貨と運営 決済の最終性
日銀ネット当預系 円。日本銀行 日本銀行が記帳した時
Fedwire Funds Service 連邦準備銀行 処理された時点で即時、確定、取消不能
CHAPS 英ポンド。イングランド銀行の RTGS で決済 直接参加者の間で取消不能
T2 ユーロ。ユーロシステム 即時にファイナル

Fedwire Funds Service は、連邦準備銀行に口座を持つ預金取扱金融機関などが参加できる RTGS で、処理された支払いは即時に確定し、取り消せません。大口で急ぎの支払いに使われます19。各システムの稼働時間は、2026 年 10 月に各運営者が公表している内容です。Fedwire の営業日は前日の午後 9 時(米国東部時間)に始まり、午後 7 時に終わります。顧客あての送金の締切は午後 6 時 45 分です20。

CHAPS は、英ポンドの当日中の大口の支払いを決済します。直接参加者の間の支払いは、同じ日に 1 件ずつグロスで決済され、取り消せません。直接参加しない金融機関は、直接参加者を通して支払います。銀行間の支払いは午後 6 時に締め切り、顧客の支払いは午後 5 時 40 分までに出します21。

T2 は、2023 年 3 月に TARGET2 に代わって始まったユーロシステムの RTGS で、支払いの指図を中央銀行のマネーで 1 件ずつ、連続して決済します。金額の上限と下限はありません。月曜から金曜に開き、土日と一部の祝日は休みです。デンマーク・クローネの決済も 2025 年 4 月から扱っています22。

イングランド銀行と欧州中央銀行は、稼働時間の延長を検討しています。イングランド銀行は、更新した RTGS を 24 時間 7 日に近い時間まで広げられる設計にし、延長の可否を業界と検討しています23。欧州中央銀行は 2026 年 5 月に、T2 の稼働時間の延長に向けた工程表を公表しました22。

コルレス銀行とノストロ口座

外貨の支払いは、銀行どうしの国際的なネットワークを通じて、支払指図の伝達と資金の決済を順に進めます24。海外の金融機関から決済業務を受託する銀行を、頼む側から見てコルレス銀行といいます25。頼む側がコルレス銀行に持つ自社の口座が、ノストロ口座です。外貨の受払いの残高と照合は、この口座で管理します26。

C 銀行が、取引先の依頼で、受取人に 100 万米ドルを支払う架空の例で考えます。D 銀行は C 銀行の米ドルのコルレス銀行で、C 銀行は D 銀行に米ドルのノストロ口座を持ち、その残高は 300 万米ドルです。受取人は D 銀行に口座を持ちます。

C 銀行仕向けるD 銀行口座を預かる受取人D 銀行に口座支払指図ノストロの引落し米ドルの入金
図 1ノストロ口座を使った米ドルの支払い
図の説明

C 銀行が支払指図を送ると、D 銀行は C 銀行のノストロ口座から 100 万米ドルを引き落とし、受取人の口座に入金します。D 銀行の帳簿の上の振替で完結するため、この例では米ドルの決済システムは使いません。

この順序は、送金銀行と受取銀行がコルレス契約を結んでいる場合の流れです。支払い後のノストロ口座の残高は 200 万米ドルです。残高が支払いの額に足りなければ、口座がマイナスになるオーバードラフトのリスクがあり、足りる範囲なら追加の資金を調達せずに払えます27。

送金銀行と受取銀行が直接の口座を持たないときは、双方とコルレス契約を結ぶ第三の銀行(中継銀行)が仲介します。中継銀行が受取銀行と同じ国にあるときは、一部の銀行間の資金移動に国内の決済システムが使われることがあります。日本では外国為替円決済制度がこれに当たります28。

ノストロ口座の残高の確かめと入金の照合の業務は、決済で扱います。

注

  1. BIS 支払・決済システム委員会、証券監督者国際機構専門委員会「金融市場インフラのための原則」(外部サイト)(仮訳、2012 年 4 月)のパラグラフ 1.10(10 ページ)。 ↩

  2. 「金融市場インフラのための原則」(外部サイト)(仮訳)のパラグラフ 3.8.6(92〜93 ページ)。 ↩

  3. 日本銀行「決済システムレポート 2024」(外部サイト)(2024 年 9 月)の 12 ページ、「2.全国銀行内国為替制度(全銀システム)」。 ↩ ↩2

  4. 「金融市場インフラのための原則」(外部サイト)(仮訳)のパラグラフ 3.8.7(93 ページ)。 ↩

  5. 「金融市場インフラのための原則」(外部サイト)(仮訳)の原則 8 とパラグラフ 3.8.1(90〜91 ページ)。 ↩ ↩2

  6. 日本銀行「日本銀行が運営する資金決済システムに関する情報開示」(外部サイト)(2025 年 7 月 31 日)の 1-2(3 ページ)と、原則 8 の重要な考慮事項 1(14 ページ)。 ↩

  7. 同資料(外部サイト)の原則 8 の重要な考慮事項 3(42 ページ)。 ↩

  8. 日本銀行「日中当座貸越基本要領」(外部サイト)の 1(対象の口座)、3(担保)、4(貸越極度額)、5(返済期限)、6(利息)、7(延滞利息)。2019 年 3 月 31 日改正。 ↩

  9. 日本銀行「日本銀行が運営する資金決済システムに関する情報開示」(外部サイト)(2025 年 7 月 31 日)の 1-2 の注 3(3 ページ)と、3-4 の説明(13 ページ)。 ↩

  10. 日本銀行「決済システムレポート 2024」(外部サイト)(2024 年 9 月)の 9〜10 ページ、「1.日銀ネット(当預系・国債系)」。 ↩

  11. 日本銀行「日本銀行が運営する資金決済システムに関する情報開示」(外部サイト)(2025 年 7 月 31 日)の 1-3(3 ページ)。 ↩

  12. 日本銀行「日銀当座預金取引・当座貸越取引」(外部サイト)の「当座預金取引の相手方に関する関連公表資料」の表(日本証券クリアリング機構は 2003 年 1 月、CLS Bank International は 2002 年 6 月)。 ↩

  13. 日本銀行「日本銀行が運営する資金決済システムに関する情報開示」(外部サイト)(2025 年 7 月 31 日)の 1-2(3〜4 ページ)。 ↩

  14. 日本銀行「日銀ネットにおけるオンライン入力開始時刻等に関する件」(外部サイト)(2015 年 7 月 31 日決定、2016 年 1 月 19 日改正)の 1 と 2。総裁が必要と認める日は、入力開始を繰り上げ、締切を繰り下げられる(3)。 ↩

  15. 日本銀行「決済システムレポート 2024」(外部サイト)(2024 年 9 月)の 13 ページ、「3.外国為替円決済制度」。 ↩

  16. 日本銀行「日銀ネットにおいて、民間資金決済システムでの金融機関間の受払はどのように行われていますか?」(外部サイト)の「外国為替円決済制度」。 ↩

  17. 日本銀行「日銀ネットで利用するISO20022電文のバージョン改訂の実施について」(外部サイト)(2025 年 11 月 25 日)。 ↩

  18. 日本銀行「決済システムレポート 2024」(外部サイト)(2024 年 9 月)の 14 ページ、図表 6 の下の段落。 ↩

  19. Board of Governors of the Federal Reserve System, "Fedwire Funds Service"(外部サイト)の説明。RTGS であること、参加できる機関、大口で急ぎの支払いに使われること。 ↩

  20. Federal Reserve Financial Services, "Fedwire Funds Service and National Settlement Service Operating Hours"(外部サイト)の "Fedwire Funds Service Schedule" と "Processing Times"。 ↩

  21. Bank of England, "CHAPS"(外部サイト)の冒頭、"Who uses CHAPS?"、"How does CHAPS work?"(営業時間の記述を含む)。 ↩

  22. European Central Bank, "What is T2?"(外部サイト)の "How does T2 work?"、"T2 opening hours"、"Multi-currency in T2"、"Public consultation …"、"TARGET and TARGET2"。 ↩ ↩2

  23. Bank of England, "The renewed RTGS service key benefits"(外部サイト)の "Improved user functionality"。 ↩

  24. 日本銀行「決済システムレポート 2024」(外部サイト)(2024 年 9 月)の 41〜42 ページ、「2.クロスボーダー送金のメカニズム」の図表 30 と注 30(送金銀行から見た場合のノストロ口座)。 ↩

  25. 日本銀行「金融機関の決済リスク管理について」(外部サイト)(2000 年 2 月)の 9 ページと、図表 1「決済システムにおける参加者の位置付け」。 ↩

  26. グローバル外為市場委員会「グローバル外為行動規範」(外部サイト)(2024 年 12 月版、東京外国為替市場委員会による仮訳)の原則 54(51 ページ)。 ↩

  27. グローバル外為市場委員会「グローバル外為行動規範」(外部サイト)(2024 年 12 月版、東京外国為替市場委員会による仮訳)の原則 53(50〜51 ページ)。 ↩

  28. 日本銀行「決済システムレポート 2024」(外部サイト)(2024 年 9 月)の 42〜43 ページ、図表 31 と 32。 ↩

  29. グローバル外為市場委員会「グローバル外為行動規範」(外部サイト)(2024 年 12 月版、東京外国為替市場委員会による仮訳)の原則 53(50〜51 ページ)と原則 54(51 ページ)。 ↩