取引相手と取引の条件や時価が食い違っていると、担保の請求や受け渡しの額がずれます。店頭デリバティブの担保の請求や受け渡し、当局への紛争の報告の場面で、このずれを先に見つけて直す業務が、照合です。
何のためにあるか
デリバティブは、結んだ後も満期まで続き、時価が毎日動きます。取引の記録は取引相手がそれぞれ持つため、入力の誤りや時価の計算の違いがあると、2 社の数字がずれます。ポートフォリオの照合は、このずれを定期的に見つけて直す業務です。米国の商品先物取引委員会(CFTC)は、2012 年に規則を公表したときの文書で、照合を、取引の後の事務とリスク管理の手法と位置づけました。ねらいは 3 つあります。取引の条件の食い違いを、約定の直後から満期までのあいだに見つけて直すこと、すべての条件が確認されるようにすること、時価の食い違いを見つけて直すことです。担保の評価の食い違いを見つけるのにも役立つ場合があります1。
約定の後に条件を突き合わせる取引確認書とは、行う時期が違います。確認書は約定のあとに取り交わします。米国の規則は、スワップ・ディーラーと主要スワップ参加者の間のスワップについて、確認書を約定日の翌営業日の終わりまでに取り交わすよう定めています2。照合は、取引が続くあいだ、取引相手との全取引について繰り返します。
時価の食い違いは、変動証拠金の額の食い違いにつながります。確認書の条件をめぐる争いと、証拠金の支払いに響く時価の争いは、店頭デリバティブ市場で以前から大きな問題とされてきました。CFTC は、照合をこれらの争いの発見と解決の有効な手段と考え、定期的な照合で争いの大半を未然に防げると見ています3。担保の請求と受け渡しの業務は担保管理で扱います。
何を、どの順で突き合わせるか
照合で交換するのは、取引の主な条件と、取引ごとの時価です。CFTC の規則は、照合を、2 者が次の 3 つをする手続きと定めています。取引相手との間のすべてのスワップについて主な条件を交換すること、前営業日の営業終了時点の各スワップの時価を交換すること、条件と時価の食い違いを解決することです。規則で時価は、スワップの現在の市場価値か正味の現在価値です4。EU では、欧州市場インフラ規則(EMIR)の委任規則(149/2013)が、取引を特定する主な条件を対象とし、少なくとも各契約の時価を含めると定めています5。
流れは、規則の順に並べると次のとおりです。
- 取引相手と、照合の進め方を書面で合意します。EU では、契約を結ぶ前に合意します67。
- 取引の主な条件と、前営業日の営業終了時点の時価を、相手と交換します。
- 自社の記録と相手の記録を突き合わせ、条件と時価の食い違いを見つけます。
- 食い違いを解決します。解決の期限は、米国と EU でそれぞれ定めがあります。
数値の例で見る
O 社と P 銀行が 3 本の金利スワップを結んでいる架空の例で考えます。3 本だけなら、頻度と対象の表のとおり、規則の下限は、2 社の区分によって四半期に 1 回か年 1 回です。この例では、2 社が毎営業日に照合をし、前営業日の営業終了時点の時価を交換すると仮定します。時価は、O 社から見た値で、プラスは O 社が受け取る側、マイナスは払う側です。担保は、時価の正味の額を変動証拠金として受け渡し、閾値と最低受渡額はないと仮定します。3 本のうち取引 C 以外は、2 社の記録が一致しています。
| 取引 | 想定元本(O 社の記録) | 想定元本(P 銀行の記録) | 時価(O 社の計算) | 時価(P 銀行の計算) |
|---|---|---|---|---|
| A | 200 億円 | 200 億円 | +1.20 億円 | +1.20 億円 |
| B | 100 億円 | 100 億円 | −0.40 億円 | −0.40 億円 |
| C | 100 億円 | 90 億円 | +0.50 億円 | +0.45 億円 |
| 合計 | +1.30 億円 | +1.25 億円 |
2 社の合計は 0.05 億円(500 万円)違います。条件の欄を見比べると、取引 C だけ想定元本が違います。取引 C の条件が想定元本以外は同じで、時価の計算の方法と入力も同じなら、時価は想定元本に比例します。O 社の記録の時価 0.50 億円に 90 億円と 100 億円の比を掛けると、0.50 × 90 ÷ 100 = 0.45 億円で、P 銀行の時価と一致します。時価の違いは、想定元本の記録の違いで説明できます。
2 社が取引確認書を見直すと、想定元本は 100 億円で、P 銀行が 90 億円と入力していたことが分かった、と仮定します。P 銀行が記録を直すと、取引 C の時価は 0.50 億円になり、合計は 2 社とも +1.30 億円で一致します。
食い違ったままだと、変動証拠金の額が違います。P 銀行は O 社に、自分の計算の 1.25 億円を渡します。O 社は 1.30 億円を受け取るはずで、500 万円足りません。その分の取引相手のリスクを、担保でカバーできていません。逆に、P 銀行が取引 C を 110 億円と入力していたら、P 銀行の計算では取引 C の時価は 0.50 × 110 ÷ 100 = 0.55 億円で、合計は 1.35 億円です。P 銀行は 500 万円多く渡し、O 社はその分を余計に預かります。どちらの向きでも、照合で原因を見つけて記録を直せば、2 社の担保の額は一致します。
図の説明
O 社と P 銀行が条件と時価を交換し、食い違ったときに担保を受け渡す流れを示した図です。各箱の下の金額は、各社が記録した取引 C の想定元本です(O 社は 100 億円、P 銀行は 90 億円と入力)。食い違いを直さないと、P 銀行は自分の計算の 1.25 億円を変動証拠金として渡し、O 社は自分の計算の 1.30 億円より 500 万円少ない額しか受け取れません。
頻度と対象
米国と EU の規則は、取引相手との取引の件数に応じて、照合の下限の頻度を決めています。米国の規則が主な対象にするのは、スワップ・ディーラーと主要スワップ参加者です。EU の規則の対象は、金融カウンターパーティと、非金融カウンターパーティです。
| 対象 | 取引の件数 | 米国の規則(17 CFR 23.502) | EU の規則(委任規則 149/2013 第 13 条) |
|---|---|---|---|
| 米国はスワップ・ディーラーと主要スワップ参加者の間、EU は金融カウンターパーティと、EMIR 第 10 条に定める非金融カウンターパーティ | 500 件以上 | 毎営業日 | 毎営業日 |
| 同上 | 50 件を超え 500 件未満(EU は 51〜499 件) | 週 1 回 | 週 1 回 |
| 同上 | 50 件以下 | 四半期に 1 回 | 四半期に 1 回 |
| 米国は相手がスワップ・ディーラーでも主要スワップ参加者でもないとき、EU は EMIR 第 10 条に定める者以外の非金融カウンターパーティ | 100 件を超える | 四半期に 1 回 | 四半期に 1 回 |
| 同上 | 100 件以下 | 年 1 回 | 年 1 回 |
米国の規則では、この表の頻度を、スワップのポートフォリオごとに数えます。週 1 回の区分は、その週のいずれかの営業日の件数で決まります。四半期と年 1 回の区分は、その四半期か年のいずれかの時点の件数で決まります10。EU の規則は、取引相手との間で未決済の OTC デリバティブ契約の件数で区分します11。
件数だけを仮定した架空の例で考えます。表に当てはめると、たとえば、米国ではスワップ・ディーラーどうし、EU では金融カウンターパーティどうしの取引が 60 件あるときは、下限は週 1 回です。件数が 500 件になれば毎営業日です。40 件なら四半期に 1 回です。米国で相手がスワップ・ディーラーでも主要スワップ参加者でもなく、件数が 80 件のときは、年 1 回です。
清算機関で清算するスワップは、米国の規則の照合の対象外です12。CFTC は 2012 年に、清算機関が取引の確定した記録を持ち、拘束力のある日々の時価を決めるため、清算するスワップには照合が要らないと説明しています。同じ文書は、清算が義務づけられて相対の取引が減れば、照合の負担も軽くなると見込んでいました13。
食い違いの解決と紛争の流れ
食い違いが見つかったあとの扱い(照合の紛争の解決)は、米国と EU で次のように定められています。ここでは、取引の条件の食い違いと、時価の食い違いを分けます。
米国の規則では、スワップ・ディーラーと主要スワップ参加者に、次のことが義務づけられています。相手が同じ区分の者のとき、主な条件の食い違いは、ただちに解決します14。時価の食い違いは、できるだけ早く、遅くとも 5 営業日以内に解決できるよう、書面の方針と手続きを定め、守ります。解決するまでのあいだに、変動証拠金の規則にどう従うかも、その方針と手続きで決めます14。5 営業日以内に解決できなかった個々の紛争があっても、定めた方針と手続きを守っていれば、規則に違反しません15。相手が同じ区分の者でないときは、条件と時価の食い違いを、適時に解決できるよう手続きを定めます16。
高い方の時価の 10% 未満の時価の差は、食い違いとみなさなくてよいとされています。CFTC は、解決しなければならない紛争がどれかを明確にするために、10% の線を引いたと説明しています17。たとえば、高い方の時価が 1.00 億円なら、低い方が 0.90 億円以下のときに、食い違いとして扱います。前の節の取引 C は、差 0.05 億円が高い方の時価 0.50 億円のちょうど 10% で、「10% 未満」ではないため、食い違いとして扱います。この線は、合計の差ではなく、スワップごとの時価で見ます。
さらに、解決できない大きな紛争は、当局に報告します。米国では、2,000 万ドル(または他の通貨での同額)を超える時価の紛争が、相手がスワップ・ディーラーか主要スワップ参加者なら 3 営業日、そうでなければ 5 営業日たっても解決しないとき、当局に速やかに知らせます18。
EU の規則は、契約を結ぶときに、紛争の特定、記録、監視の詳しい手続きを決めておくことを求めています。対象は、契約の認識や時価をめぐる紛争と、担保の受け渡しをめぐる紛争です。紛争を適時に解決する手続きと、5 営業日以内に解決しない紛争の特別な手続きも決めておきます19。金融カウンターパーティは、1,500 万ユーロを超える金額の紛争が 15 営業日以上続くときに、所管当局に報告します20。
| 項目 | 米国(17 CFR 23.502) | EU(委任規則 149/2013 第 15 条) |
|---|---|---|
| 時価の紛争の解決の目安 | 5 営業日以内に解決できる方針と手続き(相手がスワップ・ディーラーか主要スワップ参加者のとき) | 5 営業日以内に解決しない紛争には、特別な手続き |
| 当局への報告の条件 | 2,000 万ドルを超え、3 営業日(相手が同じ区分のとき)か 5 営業日(そうでないとき)解決しない | 1,500 万ユーロを超え、15 営業日以上続く(金融カウンターパーティ) |
| 10% の線 | 高い方の時価の 10% 未満の差は、食い違いとみなさなくてよい | 第 13 条と第 15 条に同様の定めはない |
誰が照合するか
照合は、取引相手どうしが相対で行うことも、資格のある第三者が行うこともできます。米国の規則は、スワップ・ディーラーと主要スワップ参加者の間では、取引相手どうしか、資格のある第三者が行うとしています。相手がそれ以外のときは、取引相手どうしか、双方が書面で合意して選んだ第三者が行います21。EU の規則は、取引相手どうしか、取引相手の一方から委任された資格のある第三者が行うとしています5。第三者の選び方は、米国では、相手がスワップ・ディーラーでも主要スワップ参加者でもないときの書面の合意に含めます6。照合を提供するサービスの名前、提供範囲、運営者は、取引後の効率化サービスで扱います。
この記事が書いていないこと
日本の規則の照合の要件は、この記事では扱いません。EU の委任規則の現行の条文との違いは、この記事では扱いません。個々の事業者の比較は、この記事では扱いません。
注
-
CFTC の 77 FR 55904(2012 年 9 月 11 日)の「E. Portfolio Reconciliation—§ 23.502」の冒頭の段落。 ↩
-
17 CFR 23.501(a)(1)。相手がスワップ・ディーラーか主要スワップ参加者でないときの期限は、(a)(2)、(a)(3) が別に定めています。 ↩
-
同じ文書の「1. Statutory Basis for Portfolio Reconciliation」の最後の段落と、「2. General Comments to Portfolio Reconciliation」のコメントへの回答の最初の段落。 ↩
-
17 CFR 23.500(i)(Portfolio reconciliation)、(m)(Valuation)。主な条件(material terms)は 23.500(g) が、同じ subpart の Appendix 1 の最低限の主要な経済条件と定めています。 ↩
-
委任規則 (EU) No 149/2013 第 13 条第 2 項。資料は、2013 年に公表された採択時の原文(legislation.gov.uk の Original (As adopted by EU))。 ↩ ↩2
-
17 CFR 23.502(a)(1)、(b)(1)。(b)(1) は、第三者のサービス提供者の選定も合意に含めると定めています。 ↩ ↩2
-
委任規則 (EU) No 149/2013 第 13 条第 1 項(書面か、それと同等の電子的な手段で合意すること。契約を結ぶ前に合意すること)。 ↩
-
委任規則 (EU) No 149/2013 第 15 条第 1 項 (a)。 ↩
-
17 CFR 23.502(e)(23.202(a)(3)(iii) に沿った照合の記録を、23.203 に従って保存する)。 ↩
-
17 CFR 23.502(a)(3)(i)〜(iii)、(b)(3)(i)〜(ii)。 ↩
-
委任規則 (EU) No 149/2013 第 13 条第 3 項 (a)(i)〜(iii)、(b)(i)〜(ii)。 ↩
-
17 CFR 23.502(d)。 ↩
-
CFTC の 77 FR 55904 の「E. Portfolio Reconciliation—§ 23.502」の「2. General Comments to Portfolio Reconciliation—§ 23.502」の、コメントへの回答の最初の段落。 ↩
-
17 CFR 23.502(a)(4)(主な条件)と (a)(5)(時価。書面の方針と手続き、変動証拠金の規則への従い方)。(a) は、相手もスワップ・ディーラーか主要スワップ参加者であるスワップに適用されます。 ↩ ↩2
-
CFTC の 77 FR 55904 の「11. Resolution of Valuation Disputes in Portfolio Reconciliation—§ 23.502(a)(5) & (b)(4)」の、コメントへの回答の段落。 ↩
-
17 CFR 23.502(b)(4)("in a timely fashion")。 ↩
-
17 CFR 23.502(a)(5) の最後の文と (b)(4) の最後の文。CFTC の 77 FR 55904 の「11. Resolution of Valuation Disputes in Portfolio Reconciliation」の、10% の線についての段落。 ↩
-
17 CFR 23.502(c)(1)、(2)。 ↩
-
委任規則 (EU) No 149/2013 第 15 条第 1 項 (a)、(b)。 ↩
-
委任規則 (EU) No 149/2013 第 15 条第 2 項。 ↩
-
17 CFR 23.502(a)(2)、(b)(2)。 ↩