取引を結んだ後、フロントは取引の条件をシステムに入力し、バックは取引相手と確認書を取り交わして自社の記録と照合します。入力の誤りや確認書の食い違いは、この入力と照合の場面で見つけて直す対象です。

入力ミスの種類と損失へのつながり

約定の入力ミスは取引の条件のどの項目でも起き、誤った記録のまま持ち高の管理、担保、決済が進むと損失につながります。主な項目ごとの誤りの例は次のとおりです。

項目 入力ミスの例 誤りが残ると起きること
売買の向き 売りを買いとして入れる 持ち高の向きが逆に記録される
金額 100 万ドルを 1,000 万ドルと入れる(桁の誤り) 持ち高と決済の金額が 10 倍で記録される
日付 決済日を 3 か月後ではなく 6 か月後と入れる 本当の決済日に支払いの準備ができない
通貨 ドルをユーロと入れる 別の通貨の持ち高として管理される
取引相手 K 社を別の会社と入れる 与信の限度と担保が別の相手のものとして管理される
条件の入れ違い 2 つの取引のレートを取り違えて入れる 2 つの取引の時価と損益がどちらも誤る

Y 銀行が K 社に、3 か月後に 100 万ドルを 1 ドル 150 円で売る為替予約を結んだ架空の例で考えます。Y 銀行は 3 か月後に 100 万ドルを渡し、1 億 5,000 万円を受け取ります。担当者がこの取引を「Y 銀行が 100 万ドルを買う」と逆に入力すると、記録上は 100 万ドルの買いの持ち高になります。実際は 100 万ドルの売りなので、記録と実際の持ち高は 200 万ドルずれます。

Y 銀行が記録上の買いの持ち高を打ち消すつもりで、同じ日に、3 か月後に 1 ドル 150 円で 100 万ドルを売る為替予約を市場で結んだとします。記録では持ち高が 0 になりますが、実際は 200 万ドルの売りの持ち高が残ります。決済の日に 1 ドルが 152 円になっていれば、Y 銀行はこの持ち高で 400 万円の損をし、148 円になっていれば 400 万円の得をします。どちらになるかは相場の動きしだいで、誤りに気づくまで、この持ち高はリスクの管理の外に置かれます。

表の項目は、取引の記録に書く基本の項目です。米国の連邦準備制度の検査マニュアル(1998 年 2 月付け)は、約定した取引の記録に、取引日、決済日、取引相手、商品、金額、価格やレート、決済の方法を含めるとしています1。日本で店頭デリバティブの取引情報として当局に報告する項目にも、取引当事者、取引の方向(買主か売主か、支払人か受取人か)、発効日、満期日、決済通貨、価格、想定元本が並びます2。

取引相手ごとのエクスポージャー(相手が破綻したときに失いうる額)や、担保の請求も、社内の記録から計算します。そのため、記録に誤りが残ると、エクスポージャーや担保の額も誤ることがあります3。支払いと受け取りの誤りは、大きな損失になりえます4。入力ミスによる損失は、自己資本比率の告示が示すオペレーショナル・リスクの損失の種類のうち、「注文等の執行、送達及びプロセスの管理」に当たります5。オペレーショナル・リスクの全体像はデリバティブ取引のオペレーショナル・リスクで扱います。

取引確認書の役割と照合の流れ

取引確認書(コンファメーション)は、取引を結んだ後、決済の前に、それぞれの当事者が取引の条件を書いて相手に送る記録です。確認書には取引の条件を細かく書くため、法的な証拠になり、実務の確かめと不正の防止にも使われます6。米国のスワップの規則は、確認書を、取引のすべての条件についての当事者の合意を記録した、法的な拘束力のある文書と定めています。一方が送った条件の記録に、受け取った側が署名すると確認書ができあがります7。

取引の執行と確認の担当は分けます8。確認書は、フロント(営業・トレーディング)ではなくバック(事務・決済)が送り、相手の返事を追いかけて管理します。相手から届いた確認書を、自社が送った確認書の控えと突き合わせるのが基本の形です。事業会社との取引では、確認書を 2 通送り、相手に署名した 1 通を返してもらう方法もあります6。このように 2 つの記録を突き合わせて違いを見つけ、直すことを照合といいます。

Y 銀行のフロントY 銀行のバックK 社不一致一致K 社と為替予約を約定する取引の条件をシステムに入力する入力の内容を確かめる確認書をK 社に送る確認書を自社の記録と比べる違いの原因を調べて不一致を解消する署名された確認書を記録と照合し確認済みにする
図 1為替予約の確認書を取り交わす流れ
図の説明

Y 銀行と K 社が為替予約の確認書を取り交わす流れです。一致すれば K 社が署名した 1 通を返し、一致しなければ違いの原因を調べます。自社の誤りなら入力を直して、直した条件で確認書を取り直します。K 社の誤りなら K 社に知らせ、K 社が記録を直したうえで署名した確認書を返してもらいます。どちらの場合も、返ってきた確認書を同じように照合し、一致すれば確認済みにします。バックの確かめで見落とした誤りも、相手の記録と突き合わせる段階で見つかります。

確認書は、相手の取引部門から独立した部署あてに送ります。照合の手続きは取引部門から完全に独立させ、確認書などの書類は、取引の後できるだけ早く仕上げて取り交わします9。

不一致が見つかったときの対応

不一致が見つかったら、すべてを記録に残して原因を調べ、解消します。条件を直すことに合意したときは、直した条件で確認書を取り直します。大きな不一致は、取引部門から独立した担当者が調べます。先の例で、Y 銀行が「Y 銀行が 100 万ドルを買う」と書いた確認書を送ると、K 社は自社の記録ではドルを買う側なので、売買の向きが違うと返してきます。Y 銀行のバックは、フロントの注文の記録と突き合わせて、誤りが自社の入力にあることを確かめます。入力を直すと、記録上の持ち高は実際の 200 万ドルの売りになり、リスクの管理の対象に戻ります。

連邦準備制度の検査マニュアルは、不一致の扱いとして次の手順を挙げています10。

  • 届いた確認書と自社の記録の不一致は、どう片づいたかにかかわらず、すべて不一致の記録簿に書き、未解決のものを定期的に見直します。
  • 大きな不一致は、取引部門から独立して調べます。小さな不一致は、日ごろ相手とやりとりしているトレーダーに、相手へ確かめてもらってもかまいません。
  • 不一致の解決は、取引部門から独立した責任者が見届けます。
  • 条件の変更に合意したら、新しい確認書を取り交わします。

外国為替の取引では、自社の記録と合わない確認書を受け取ったら、社内で確かめたうえで速やかに相手に知らせます。相手が取引をしたと言っているのに自社の記録にないときも、その旨を相手に知らせます。確かめられない取引や争いのある取引は、上の役職に報告して解決を早める手続きを整えておきます11。取引を直したり取り消したりする手続きは、オペレーション(バック)、セールス、トレーディングの担当を分け、直しと取り消しの状況を管理職に定期的に報告します12。

確認の遅れと期限の決まり

確認書を取り交わさないままの取引(未確認の取引)が積み上がると、入力ミスが見つからないまま残ります。2008 年の米国の議会証言によると、店頭デリバティブの取引の後の処理は長く紙が中心で、ディーラーは多くの未確認の取引を抱え、その相当部分は 30 日以上残っていました。確認が遅れると、取引相手とのエクスポージャーを小さく見積もったり、担保を請求し損ねたりすることがあります。相手が破綻したときに、その相手との取引を解約して置き換える手続きも遅れるおそれがあります3。

未確認の取引は、2005 年には特にクレジット・デフォルト・スワップで多く積み上がっていました。2005 年 9 月からニューヨーク連邦準備銀行を中心に当局とディーラーが取り組み、ディーラーは電子的に確認書を取り交わす仕組みを多く使うようにしました。2006 年 9 月までに、30 日を超えて未確認の取引は、ディーラー全体で 85% 減りました。一方で、2007 年 6 月から 8 月には未確認の取引が 5 倍近くに増え、取引が急に増えると減らした状態を保てないことが分かりました13。

期限の決まりもあります。米国の商品先物取引委員会(CFTC)の規則では、スワップのディーラー(規則の呼び方はスワップ・ディーラー)どうしのスワップは、約定の翌営業日の終わりまでに確認書を取り交わします。スワップ・ディーラーと金融事業者との取引も、約定の翌営業日の終わりまでです。金融事業者は、規則が挙げる、ファンドや企業年金、銀行業など金融の業務を主にする者です。それ以外の相手とは 2 営業日後の終わりまでです。スワップ・ディーラーは、この期限を守るための手続きを書面で定めて守ります14。

日本の取引情報の報告では、店頭デリバティブの取引を報告するときに、確認書を取り交わしたかどうかを「未確認」「電子的」「電子的でない」の区分で示します15。

外国為替の取引では、自動で確認書を突き合わせる仕組みが使えるなら使います。確認書は、できる限り、業界で合意したひな型と、標準化した電文の形式で送ります8。上級管理職は、確認できていない取引の数と、確認までにかかった時間を定期的に受け取ります。そして、その取引相手と取引を続けることで生じるオペレーショナル・リスクを評価します11。

入力ミスと不一致を防ぐ統制

入力ミスと不一致は、入力の確かめ、職務の分離、定期的な照合を重ねて、早い段階で見つけます。フロントが取引システムに入力する場合は、バックが入力の内容を確かめてから取引を受け付けます16。外国為替の取引では、取引データをフロントのシステムからバックのシステムへ直接自動で送るのが勧められる方法で、自動で送れないときは、データが漏れなく正確に取り込まれるよう管理します17。

職務の分離では、取引をする人に、確認書への署名、記録の照合、決済、担保の支払いの管理を任せません18。日本では、主要行等向けの監督指針が、市場リスクを管理するための規程で、フロント、バック、ミドル(リスク管理など)の管理者の役割と権限をはっきりさせることを求めています19。

部署の間の照合では、フロント、ミドル、バックのシステムの記録を定期的に突き合わせ、事業部門から独立した担当者が差異を見つけて解決まで追いかけます20。トレーダーは、日々の持ち高を、バックが別に作った記録と照らし合わせます。記録を照合する人は、取引データを入力する人とは別の人にします21。予想した資金の出入りと、口座の実際の出入りの照合も、入力漏れや入力の誤りを早く見つける手段になります22。

取引相手との間では、確認書の照合に加えて、ポートフォリオの照合があります。ポートフォリオの照合は、相手とのすべてのスワップの主な条件と評価額を交換し、違いを解決する手続きです。米国の規則では、スワップ・ディーラーどうしで取引が 500 件以上あれば毎営業日、50 件を超え 500 件未満なら毎週、50 件以下なら四半期ごとに照合します。照合で主な条件の食い違いが見つかれば、すぐに解決します23。

独立した部署が確認書を受け取ることは、不正の防止にもなります。トレーダーが確認書を送った後に控えを捨て、相手からの確認書も自分あてに届くようにすれば、会社が知らない持ち高を作れます。相手からの確認書を独立した部署が受け取って確かめれば、この不正はすぐに見つかります24。確認書を偽った不正取引の事例は、不正取引の事例(ベアリングス、ソシエテ・ジェネラルなど)で扱います。

注

  1. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2050.1(1998 年 2 月)の 3 ページ、"Transaction Flow"。 ↩

  2. 金融庁企画市場局市場課「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令第4条第1項で定める作成・保存・報告事項 ガイドライン」(2022 年 12 月)の「報告事項 一覧」。取引当事者は 7 と 8、取引の方向は 10 と 11、発効日は 1、満期日は 2、決済通貨は 21、価格は 64、想定元本は 87。 ↩

  3. Board of Governors of the Federal Reserve System「Over-the-counter derivatives」(Parkinson の議会証言、2008 年 7 月 9 日)の "Supervisory Efforts to Strengthen the Infrastructure…" の第 1 段落。 ↩ ↩2

  4. 連邦準備制度「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1「Operations and Systems Risk (Back-Office Operations)」(1998 年 2 月)の 4 ページ、"Settlement Process"。 ↩

  5. 金融庁「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(平成 18 年金融庁告示第 19 号。2026 年 8 月 24 日更新の全体版)の別表第二(第 310 条第 1 号ハ関係)「損失事象の種類」(614〜615 ページ)。 ↩

  6. 連邦準備制度「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 3 ページ、"Confirmations"。 ↩ ↩2

  7. 17 CFR 23.500(a)(Acknowledgment)と 23.500(c)(Confirmation)。 ↩

  8. グローバル外為市場委員会「グローバル外為行動規範」(2024 年 12 月版、東京外国為替市場委員会による仮訳)の原則 46(46〜47 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  9. 連邦準備制度「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 4 ページ("Confirmations" の続き)と 7 ページ。 ↩

  10. 同マニュアルの Section 2060.1(1998 年 2 月)の 4 ページと、Section 2060.3「Examination Procedures」(1998 年 2 月)の 3 ページ、"CONFIRMATION PROCEDURES" の 2。 ↩ ↩2

  11. グローバル外為市場委員会「グローバル外為行動規範」の原則 48(47〜48 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  12. 同規範の原則 45(46 ページ)。 ↩

  13. 連邦準備制度「Over-the-counter derivatives」(Parkinson の議会証言、2008 年 7 月 9 日)の "Supervisory Efforts to Strengthen the Infrastructure…" の第 1〜4 段落。 ↩

  14. 17 CFR 23.501(a)(1)〜(3)。金融事業者の定義は 23.500(e)。清算機関に持ち込んで受け入れられた取引などの扱いは 23.501(a)(4)。 ↩

  15. 金融庁「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令第4条第1項で定める作成・保存・報告事項 ガイドライン」(2022 年 12 月)の報告事項の表の 19「Confirmed(コンファメーションの有無)」の許容値と備考。 ↩ ↩2

  16. 連邦準備制度「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2050.1(1998 年 2 月)の 2 ページ、"Transaction Flow"。 ↩

  17. グローバル外為市場委員会「グローバル外為行動規範」の原則 44(46 ページ)。 ↩

  18. 連邦準備制度「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1 の 2 ページ(2003 年 4 月)、"INTERNAL CONTROLS"。 ↩

  19. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-2-3-3-2(1)②。 ↩

  20. グローバル外為市場委員会「グローバル外為行動規範」の原則 27(35 ページ)。 ↩

  21. 連邦準備制度「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1 の 2 ページ(2003 年 4 月、"TICKET FLOW")と 5 ページ(1998 年 2 月、"Reconciliations")。 ↩

  22. グローバル外為市場委員会「グローバル外為行動規範」の原則 54(51 ページ)。 ↩

  23. 17 CFR 23.500(i)(Portfolio reconciliation)と 23.502(a)(3)(i)〜(iii)、(a)(4)。スワップ・ディーラー以外の相手とは 23.502(b)(3)。 ↩

  24. 連邦準備制度「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.1(1998 年 2 月)の 4 ページ("Confirmations" の続き)。 ↩