EU に拠点を置く銀行やファンド、事業会社を相手に店頭デリバティブを取引するとき、相手に清算、担保の交換、取引の報告の義務があるかを確かめる場面で出てきます。
何を求める規制か
EMIR(欧州市場インフラ規則)は、EU の金融カウンターパーティ(FC)と非金融カウンターパーティ(NFC)に、店頭デリバティブの清算と、清算されない取引の担保の交換などを求める規則です。デリバティブ契約の報告は、店頭デリバティブに限らず、全デリバティブ契約に及びます。EU の域外の主体も、EU の FC や NFC と契約するときは対象になることがあります。
規則の目的は、店頭デリバティブ市場の透明性を高め、取引相手の信用リスクと運営上のリスクを減らすことです。欧州委員会は、2008 年の金融危機で店頭デリバティブ市場の弱点が明らかになったことを背景に、EU が 2012 年に EMIR を定めたと説明しています1。国際的な合意との関係は、G20 の店頭デリバティブ改革で扱います。
規則は、題のとおり、店頭デリバティブ、中央清算機関、取引情報蓄積機関を扱います。中央清算機関(清算機関、CCP)は、清算を引き受ける機関です。取引情報蓄積機関(TR)は、デリバティブの記録を集めて保管する法人です2。規則が定めることは、次の 4 つです3。
| 柱 | 求めること | 規則の条 |
|---|---|---|
| 清算義務 | 清算義務の対象と宣言された種類の店頭デリバティブ契約を、認可か認定を受けた清算機関で清算する | 第 4 条から第 8 条、第 10 条 |
| 報告義務 | デリバティブ契約の詳細を、TR に報告する | 第 9 条 |
| 清算されない取引のリスク管理 | 清算されない店頭デリバティブ契約について、確認、突合、値洗い、担保の交換などの手続きを持つ | 第 11 条 |
| 清算機関と TR の要件 | 清算機関の認可と、その組織、行為、健全性の要件。TR の登録と、その要件 | 第 14 条から第 82 条 |
根拠と所管
EMIR は、欧州議会と理事会の 2012 年 7 月 4 日付の規則 (EU) No 648/2012 です4。EU の「規則」(Regulation)は、全体に拘束力があり、すべての加盟国に直接適用されます5。規則は 9 つの Title(編)に分かれます。次の表は、このうち Title I から VII です。Title VIII は共通の規定、Title IX は経過規定と最終規定です。
| Title | 内容 | 条 |
|---|---|---|
| I | 目的、適用範囲、定義 | 第 1 条から第 3 条 |
| II | 店頭デリバティブの清算、報告、リスク軽減 | 第 4 条から第 13a 条 |
| III | 清算機関の認可と監督 | 第 14 条から第 25q 条 |
| IV | 清算機関の要件 | 第 26 条から第 50d 条 |
| V | 清算機関どうしの相互運用の取り決め | 第 51 条から第 54 条 |
| VI | TR の登録と監督 | 第 55 条から第 77 条 |
| VII | TR の要件 | 第 78 条から第 82 条 |
表の Title の見出しと条の範囲は、legislation.gov.uk の目次によります6。
誰が何を担うかは、次のとおりです。FC と NFC の定義は、対象になる者の項にあります。
| 事項 | 担う者 | 根拠 |
|---|---|---|
| 清算義務の対象になる種類 | 欧州証券市場監督機構(ESMA)が規制技術基準(RTS)の案を作り、欧州委員会が採択する | 第 5 条第 2 項7 |
| 清算機関の認可 | 清算機関が設立された加盟国の所管当局。認可は EU 全域で有効 | 第 14 条第 1 項、第 2 項8 |
| 清算機関の監督 | 加盟国が指定する所管当局 | 第 22 条第 1 項9 |
| TR の登録と監督 | ESMA が登録し、直接監督する10。登録は EU 全域で有効 | 第 55 条第 1 項、第 3 項11 |
| 金融カウンターパーティ(FC)の監督 | 各業態の EU の法令が定める所管当局 | 第 2 条 (13)12 |
| 非金融カウンターパーティ(NFC)の監督 | 加盟国が指定する当局。2 年に 1 回以上、ESMA に報告する | 第 10 条第 5 項13 |
| 罰則 | 加盟国が定める。少なくとも行政上の罰金を含む | 第 12 条第 1 項14 |
規制技術基準(RTS)は、EMIR が、ある事項の細目を定めるよう求める基準です。ESMA などの欧州監督機関が案を作り、欧州委員会が採択します15。
違反の扱いも、規則が定めます。所管当局は、清算義務や報告義務などの違反に科した罰則を、市場に深刻な害を与える場合などを除き、公表します16。違反は、店頭デリバティブ契約の有効性や強制執行を妨げず、契約の相手方に損害賠償を求める権利も生じさせません17。
条文は 2026 年 10 月 3 日時点で公開されている版を確かめました。
対象になる者
EMIR は、FC と NFC に義務を課します。規則は、清算機関とその清算参加者、FC、TR に適用され、NFC と取引基盤には、規定がある場合に適用されます18。
FC は、規則が次の者を挙げています19。
| 区分 | 規則が挙げる者 |
|---|---|
| 投資会社 | 指令 2014/65/EU で認可された者 |
| 信用機関 | 指令 2013/36/EU で認可された者 |
| 保険会社、再保険会社 | 指令 2009/138/EC で認可された者 |
| UCITS | 指令 2009/65/EC で認可された UCITS と、必要な場合はその運用会社 |
| 職域年金の機関(IORP) | 指令 (EU) 2016/2341 が定める機関 |
| 代替投資ファンド(AIF) | EU に設立された AIF か、EU で認可または登録された運用者(AIFM)が運用する AIF と、必要な場合はその AIFM |
| 中央証券保管機関 | 規則 (EU) No 909/2014 で認可された者 |
表に出る指令と規則は、FC の区分を決めるために EMIR が引く EU の別の法令です。従業員持株制度のためだけに作られた UCITS と AIF、証券化のための特別目的事業体の AIF は除かれます。
非金融カウンターパーティは、EU に設立された事業体のうち、清算機関と FC を除いた者です20。
適用されない者と、清算義務の免除
次の者には、EMIR が適用されないか、一部が免除されます。
| 対象 | 扱い | 条 |
|---|---|---|
| 欧州中央銀行制度の構成員、同様の機能を持つ加盟国の機関、公的債務の管理に関わる EU の公的機関、国際決済銀行 | 規則が適用されない | 第 1 条第 4 項 (a)、(b)21 |
| 日本、米国、オーストラリア、カナダ、香港、メキシコ、シンガポール、スイス、英国の中央銀行と、公的債務の管理に関わる公的機関 | 規則が適用されない | 第 1 条第 4 項 (c)21 |
| 多国間開発銀行、中央政府が保有し明示の保証がある公共部門の事業体、欧州金融安定ファシリティ、欧州安定メカニズム | 報告義務を除き、規則が適用されない | 第 1 条第 5 項22 |
| 同じグループの取引(条件あり) | 清算義務の対象外 | 第 4 条第 2 項 |
| カバード・ボンドか証券化に関連して、金利か通貨のミスマッチをヘッジするだけの契約(条件あり) | 清算義務の対象外 | 第 4 条第 5 項23 |
| 域外の年金制度との契約(条件あり) | 清算義務の対象外 | 第 4 条第 4 項24 |
| 事後のリスク削減(PTRR)のサービスで生じた取引(条件あり) | 清算義務の対象外 | 第 4b 条25 |
同じグループの取引の免除を使うとき、EU に設立された 2 者は、利用の 30 暦日以上前に、それぞれの所管当局に書面で通知します。EU と域外の 2 者は、EU 側が所管当局の認可を受けます26。
EU の域外の主体
EMIR は、EU に設立されていない主体の取引にも及ぶことがあります。清算義務の対象は、FC か NFC と、EU に設立されていれば清算義務を負う域外の主体との契約です。EU に設立されていれば清算義務を負う域外の主体どうしの契約も、EU 内に直接的で実質的な、予見できる効果を持つとき、または規則の回避を防ぐために必要か適切なときは対象です27。清算されない取引のリスク管理の義務も、同じ条件で域外の主体どうしの契約に及びます28。
清算に使う清算機関は、EU で認可された清算機関か、域外の清算機関で ESMA が認定した清算機関でなければなりません29。欧州委員会は、域外の国の法と監督の枠組みが EU のものと同等だと判断する決定を採択します。その国に所在する清算機関と TR は、その決定を受けて、ESMA に認定を申請できます30。欧州委員会は 2025 年 1 月 31 日に、英国の清算機関の同等性を、2028 年 6 月 30 日まで 3 年間延ばす決定を採択しています31。
求められること
清算義務
清算義務の対象になるのは、次の 3 つの条件をすべて満たす店頭デリバティブ契約です27。
- 清算義務の対象と宣言された種類(クラス)に属すること。
- 清算義務が効力を持つ日以後に、締結またはノベーションされたこと。
- その締結またはノベーションの日に、両当事者が、次の表のいずれかの組み合わせに当たること。
| 当事者 A | 当事者 B |
|---|---|
| 清算義務を負う FC | 清算義務を負う FC |
| 清算義務を負う FC | 清算義務を負う NFC |
| 清算義務を負う NFC | 清算義務を負う NFC |
| FC か NFC(清算義務を負う者) | EU に設立されていれば清算義務を負う域外の主体 |
| EU に設立されていれば清算義務を負う域外の主体(EU 内に直接的で実質的な、予見できる効果を持つ契約か、回避を防ぐために必要か適切な場合) | EU に設立されていれば清算義務を負う域外の主体 |
表の「清算義務を負う」FC と NFC は、次の「清算閾値」で決まります。
図 1 は、契約が清算義務の対象になるかを、上の条件と、免除の表の順に見たものです。
図の説明
店頭デリバティブ契約が EMIR の清算義務の対象かを、4 つの質問で順に確かめる図です。最初の 3 つは「いいえ」なら対象外です。最後の質問だけは向きが逆で、「はい」(免除の表にある取引)なら対象外です。すべて通ると、原則として対象です。免除ごとの条件(通知、条文が挙げる要件)と、域外の主体の組み合わせの条件は図に描かず、前の節と「EU の域外の主体」の節で扱います。
K 銀行(EU の信用機関で、清算義務を負う FC)が、清算義務の対象と宣言された種類の店頭デリバティブ契約を、清算義務が効力を持つ日以後に結ぶ架空の例で考えます。
| 例 | 取引 | 効いた条件 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 1 | NFC の Z 社が、清算閾値を超えて通知した 4 か月後に、超えた種類の契約を結ぶ | Z 社も清算義務を負い、同じグループではなく、免除の表の取引にも当たらない | 原則として対象 |
| 2 | NFC の Z 社が、持ち高を数えて閾値を超えておらず、通知もしていない | Z 社は清算義務を負う者ではない(3 番目の質問) | 対象外 |
| 3 | 同じグループの、EU に設立された FC(清算義務を負う)と結び、利用の 30 暦日以上前に所管当局へ通知した | 同じグループの取引の免除に当たる(免除のほかの条件は、この例では置かない) | 対象外 |
対象の種類は、次の手順で決まります。
- 所管当局が、ある種類の店頭デリバティブの清算を清算機関に認可したときは、すぐに ESMA に通知します。
- ESMA は、その通知から 6 か月以内に、公開の意見募集と欧州システミックリスク理事会(ESRB)への意見聴取を経て、対象の種類、義務が効力を持つ日(段階的な導入を含む)などを定めた RTS の案を、欧州委員会に出します。案を作るときは、契約条件と業務の標準化の程度、取引量と流動性、価格情報の入手のしやすさを考慮します。
- 欧州委員会が採択すると、その種類が対象になります32。
- ESMA は、対象の種類と、それを清算できる清算機関、義務の効力が生じる日を、公開の登録簿に載せます33。
対象の契約は、EU で認可されたか、認定を受けた清算機関で、登録簿に載るものを使って清算します。当事者が清算するには、清算参加者になるか、清算参加者の顧客になるか、間接的な清算の取り決めを結びます。間接的な取り決めは、カウンターパーティ・リスクを増やさず、資産と持ち高が同等の保護を受けるものに限られます29。清算サービスを提供する清算参加者と顧客は、公正、合理的、無差別で透明な商業条件で提供しなければなりません34。
免除の表にある事後のリスク削減(PTRR)は、次の条件で決まります。圧縮、リバランス、最適化のサービスで生じた取引は、サービスの提供者と参加者が条件を満たすと、清算義務の対象から外れます。提供者は、指令 2014/65/EU で認可された、取引当事者から独立した者です。提出された各ポートフォリオのリスクを減らし、市場リスク中立で、価格形成に寄与しないことなども、条件です25。
清算閾値
FC と NFC は、12 か月ごとに、店頭デリバティブの持ち高を数え、清算閾値と比べることができます。数えるかどうかは任意です。数えない者にも、通知と 4 か月の猶予は、閾値を超えた者と同じ決まりが当てはまります。清算する範囲は、超えた NFC は超えた種類だけ、数えない NFC は対象の種類のすべてで、下の表のとおり違います。
| 金融カウンターパーティ(FC) | 非金融カウンターパーティ(NFC) | |
|---|---|---|
| 数える持ち高 | 清算されない持ち高と、清算済みを含む合計の持ち高35 | 清算されない持ち高36 |
| 数えない、または閾値を超えたとき | 直ちに ESMA と所管当局に通知する | 直ちに ESMA と所管当局に通知する |
| 通知から 4 か月以内 | 清算の取り決めを設ける | 清算の取り決めを設ける |
| 清算する範囲 | 通知から 4 か月を超えたあとに締結かノベーションした契約から、清算義務の対象の種類のすべて35 | 通知から 4 か月を超えたあとの契約から、閾値を超えた種類。数えなかったときは対象の種類のすべて37 |
FC の持ち高は、どちらも前の 12 か月の月末の平均で、グループ内の他の事業体の契約を含み、UCITS と AIF はファンドごとに数えます。NFC は、事業活動か財務活動に直接関係するリスクを減らすと客観的に測れる契約を数えません。
清算義務を負ったあとは、持ち高が閾値以下になっても、所管当局にそのことと、数え方が持ち高を系統的に少なく見積もっていないことを示すまで、清算を続けます38。
閾値は、店頭デリバティブの種類ごとに、総想定元本で決まっています。ESMA のページに載る現行の閾値(2026 年 10 月時点)は、次のとおりです39。
| 種類 | 清算閾値(総想定元本) |
|---|---|
| クレジット・デリバティブ | 10 億ユーロ(EUR 1 billion) |
| 株式デリバティブ | 10 億ユーロ(EUR 1 billion) |
| 金利デリバティブ | 30 億ユーロ(EUR 3 billion) |
| 外国為替デリバティブ | 30 億ユーロ(EUR 3 billion) |
| 商品デリバティブとその他 | 40 億ユーロ(EUR 4 billion) |
ESMA のページは、この値を、FC の合計の持ち高と、清算されない持ち高のどちらに当てるかを示していません。ESMA の最終報告は、意見募集の時点の閾値を、清算済みと清算されない持ち高を合わせた持ち高に基づくものと書いています40。
ESMA は、閾値の値を RTS で定め、少なくとも 2 年に 1 回、見直します41。2026 年 2 月 25 日に、ESMA は、EMIR 3 の新しい制度に合わせて閾値を改める RTS の案を、欧州委員会に提出しました。案は、FC の合計の持ち高と、FC と NFC の清算されない持ち高に、別の閾値を置きます。FC の合計の持ち高の閾値は、クレジットと金利だけです42。案の閾値は、次のとおりです。
| 種類 | FC の合計の持ち高 | 清算されない持ち高 |
|---|---|---|
| クレジット | 10 億ユーロ | 8 億ユーロ |
| 株式 | 案に値がない | 7 億ユーロ |
| 金利 | 30 億ユーロ | 22 億ユーロ |
| 外国為替 | 案に値がない | 30 億ユーロ |
| 商品と排出枠 | 案に値がない | 40 億ユーロ |
現行の閾値の表は ESMA のページに載る値で、案が採択されて適用されると変わります。
清算されない取引のリスク管理
規則は、清算されない店頭デリバティブ契約に、次の手続きを求めます43。
| 求めること | 対象 | 根拠 |
|---|---|---|
| 契約条件を、電子的な手段が使えるときはそれで、速やかに確認する | 清算されない契約を結ぶ FC と NFC | 第 1 項 (a) |
| ポートフォリオを突き合わせ、紛争を早期に見つけて解決し、残っている契約の価値を監視する、頑健で監査できる手続きを持つ | 同上 | 第 1 項 (b) |
| 残っている契約を、毎日値洗いする。市場の状況で値洗いできないときは、信頼できる慎重なモデルで評価する | FC と、第 10 条の NFC | 第 2 項 |
| 担保を、適時に、正確に、分別して交換する手続きを持つ | FC と、第 10 条の NFC | 第 3 項 |
| 担保の交換で覆えないリスクに、適切で釣り合う額の自己資本を持つ | FC | 第 4 項 |
表の「第 10 条の NFC」は、第 11 条が日次の値洗いと担保の交換を求める、第 10 条に定める NFC です37。担保の交換の手続きは、FC では 2012 年 8 月 16 日以後の契約が対象です。清算閾値を超えた NFC では、閾値を超えた日以後の契約が対象で、NFC は、通知から 4 か月以内に取り決めを整えます。その 4 か月の間に結んだ契約は、免除されます44。担保の水準と分別の取り決めは、欧州監督機関(ESAs)が RTS の案を作ると、規則が定めます45。
当初証拠金を計算するモデルを使うか変えるときは、事前に所管当局の認可が要ります。当局は、新しいモデルの申請に 6 か月以内に、既存のモデルの変更の申請に 3 か月以内に答えます。市場主導で作られた共通のモデル(pro forma model)に基づく場合は、欧州銀行監督機構(EBA)の検証を受けます46。ただし、単一株式のオプションと株価指数のオプションは、清算されないものでも、担保の交換の手続きを求められません47。
同じグループの取引には、担保の交換の免除の定めがあります。同じ加盟国に設立された 2 者は、資金の移転や債務の返済を妨げる現在か将来の実際上、法律上の障害がないことなどを条件に、免除されます。所在地が異なる場合や、EU と域外にまたがる場合は、所管当局の決定か、当局への届出と当局が異議を述べないことが要ります48。
報告義務
清算されるかどうかにかかわらず、すべてのデリバティブ契約の詳細と、その変更と解消を、TR に報告します。TR は、EU で登録されたか、域外の TR として認定されたものです。期限は、契約の締結、変更、解消の翌営業日までです49。対象は、2014 年 2 月 12 日より前に締結されて同日にも残っていた契約と、同日以後に締結された契約です49。
報告するのは、取引の当事者と清算機関で、報告は委任できます50。報告するデータの質を保つ手続きを持つことも求められます49。報告の内容と形式は、RTS と実施技術基準(ITS)が定めます。報告には、少なくとも、当事者、契約の種類、原資産、満期、想定元本、価格、決済日が含まれます。データの形式には、LEI、ISIN、UTIが含まれます51。TR が使えないときは、ESMA に報告します52。
報告の誤りには、罰則があります。所管当局は、報告に明らかな系統的な誤りが繰り返し含まれるときに、行政上の罰金か定期的な制裁金を科します。定期的な制裁金は、前の事業年度の 1 日あたりの平均売上高の 1% が上限です53。
清算機関と TR の要件
清算機関は、設立された加盟国の所管当局の認可を受けて、清算サービスを提供します。認可は、清算する種類を指定し、EU 全域で有効です8。認可を受けた清算機関には、規則が、組織、行為、健全性の要件を課します。
| 区分 | 主な項目 | 条 |
|---|---|---|
| 組織 | 上級管理者と取締役会、リスク委員会、記録の保存、利益相反、事業継続、外部委託 | 第 26 条から第 35 条 |
| 行為 | 参加の要件、透明性、分別と移管 | 第 36 条から第 39 条 |
| 健全性 | エクスポージャーの管理、証拠金、清算基金、流動性リスクの管理、デフォルト・ウォーターフォールなど | 第 40 条から第 50 条 |
健全性には、ほかに、その他の財務資源、担保、投資方針、デフォルトの手続き、モデルの見直しとストレステスト、決済があります。表の条の範囲と項目は、legislation.gov.uk の目次によります54。清算機関の仕組みは、清算機関(JSCC、LCH、CME など)で扱います。
TR は、EU に設立された法人で、TR の要件を満たすと、ESMA に登録されます11。要件は、一般的な要件、運営の信頼性、保全と記録、透明性とデータの提供です55。
施行と改正
EMIR の主な日付は、次のとおりです。表の区分は、規則を定めた日、官報(Official Journal)への掲載、発効、適用開始です。EMIR 3 は、この順に進みました(発効と適用開始は同じ日です)。
| 日付 | 出来事 | 区分 |
|---|---|---|
| 2012 年 7 月 4 日 | 欧州議会と理事会が規則 (EU) No 648/2012 を定めた | 定めた4 |
| 2012 年 8 月 16 日 | EMIR が発効 | 発効56 |
| 2019 年 5 月 20 日 | EMIR Refit(規則 (EU) 2019/834)を定めた | 定めた57 |
| 2019 年 10 月 23 日 | EMIR 2.2 を定めた。清算機関の認可の手続きと、域外の清算機関の認定の要件を見直した | 定めた57 |
| 2024 年 11 月 27 日 | EMIR 3(規則 (EU) 2024/2987)を、欧州議会と理事会が定めた | 定めた58 |
| 2024 年 12 月 4 日 | EMIR 3 が官報に掲載 | 掲載58 |
| 2024 年 12 月 24 日 | EMIR 3 が発効し、規定の適用が始まった | 発効、適用5859 |
| 2025 年 6 月 25 日 | EMIR 3 の有効口座の義務が、条件を満たす者に適用された | 適用59 |
EMIR の発効は、官報に掲載された日の 20 日後と定められています60。
図 2 は、表の日付のうち、規則の成立と発効、改正の節目を時間の順に並べたものです。
図の説明
EMIR に関する日付を古い順に並べた年表です。発効のあと、改正が 2 つの時期にあったことが読み取れます。塗りの丸は発効の日です。間隔は、日付の間の長さを表しません。
2019 年の改正(Refit)
EMIR Refit は、清算義務、清算義務の停止、報告、清算されない取引のリスク軽減、TR の登録と監督、TR の要件を見直しました57。FC と NFC が清算義務の対象になる時点を決める新しい制度も導入しました。FC と NFC は、持ち高を数えて閾値と比べるかを選びます39。この制度の詳細は、2024 年の改正で変わりました。
2024 年の改正(EMIR 3)
EMIR 3 の目的は、EU の清算市場の魅力を高めること、EU の清算の仕組みの強さを高めること、システム上重要な域外の清算機関への過度の依存を減らすことです58。主な改正は、次のとおりです。
| 改正 | 内容 | 条 |
|---|---|---|
| 有効口座(active account) | 対象の金利デリバティブで清算閾値を超えた FC と NFC は、EU の清算機関に有効口座を持ち、代表的な数の取引をそこで清算する | 第 7a 条61 |
| 清算閾値の計算 | 取引所取引と店頭の区別から、店頭の清算されない取引を中心にした方法に変わった。FC は、清算されない持ち高と合計の持ち高を数える | 第 4a 条、第 10 条58 |
| 事後のリスク削減 | 圧縮などの取引を、清算義務の対象から外す | 第 4b 条2562 |
| 域外の清算機関での清算の報告 | 域外の清算機関での清算の活動を、毎年、所管当局に報告する | 第 7d 条59 |
有効口座の義務を負うのは、清算義務を負い、ユーロかポーランド・ズロチ建ての金利デリバティブ、またはユーロ建ての短期金利デリバティブで清算閾値を超えた FC と NFC です。義務を負ってから 6 か月以内に口座を設け、ESMA と所管当局に通知します。違反には、1 日あたりの平均売上高の 3% を上限とする定期的な制裁金などが科されます61。
有効口座の義務の、運営の条件と報告の詳細を定める RTS は、ESMA が 2025 年 6 月 19 日に欧州委員会に提出し、欧州委員会が 2025 年 10 月 29 日に採択しました。ESMA は、2025 年 12 月 11 日の時点で、欧州議会と理事会が審査中だと書いています。ESMA は、有効口座の義務の最初の報告を 2026 年 7 月までに受けると見込んでいました59。
実務への影響
EU の FC や NFC と店頭デリバティブを取引するときは、取引ごとに、清算義務の対象かを判定します。清算されない取引では、FC と NFC が契約ごとの確認とポートフォリオ単位の突合を行い、日次の値洗いと担保の交換は、FC と、第 10 条の NFC が行います。相手が NFC の場合は、清算閾値との関係で、清算の範囲が変わります。デリバティブ契約は、取引の当事者と清算機関が、翌営業日までに TR へ報告し、報告は委任もできます。
この記事が書いていないこと
EMIR 本体の官報への掲載と適用開始の経過、EMIR Refit の発効の日付は、この記事では扱いません。
注
-
欧州委員会 "Derivatives / EMIR"(2025 年 12 月 4 日更新、2026 年 10 月 3 日に取得)の "What the EU is doing and why" の "Role of derivatives" と "Objectives of EMIR"。 ↩
-
EMIR 第 2 条 (2)("trade repository")。ESMA の Interactive Single Rulebook(2026 年 10 月 3 日に取得)。以下、EMIR の条文の脚注は、断りのない限り同じ資料の条のページ。 ↩
-
EMIR 第 1 条第 1 項。 ↩
-
EMIR 第 91 条("binding in its entirety and directly applicable in all Member States")。 ↩
-
legislation.gov.uk の EMIR の目次の Title I から VII の見出しと条の題。条の範囲の始まりと終わりは、ESMA の Interactive Single Rulebook の EMIR の目次と一致します。 ↩
-
EMIR 第 5 条第 2 項(ESMA が、対象の種類などを定める RTS の案を欧州委員会の採択のために作り、第 2 項の最後の副項が、採択の権限を欧州委員会に委ねる)。 ↩
-
EMIR 第 22 条第 1 項。 ↩
-
欧州委員会 "Derivatives / EMIR" の "Objectives of EMIR" の "Increase transparency in the OTC derivatives markets" の項。 ↩
-
EMIR 第 55 条第 1 項(ESMA への登録)、第 2 項(EU に設立された法人で、Title VII の要件を満たすこと)、第 3 項(EU 全域で有効)。 ↩ ↩2
-
EMIR 第 2 条 (13)("competent authority")。 ↩
-
EMIR 第 10 条第 5 項。 ↩
-
EMIR 第 12 条第 1 項。 ↩
-
EMIR 第 5 条第 2 項(ESMA が案を作り、欧州委員会に採択の権限を委ねる)、第 11 条第 14 項(ESMA が案を作り、欧州委員会に採択の権限を委ねる)、第 15 項(ESAs が共同で案を作り、欧州委員会に採択の権限を委ねる)。 ↩
-
EMIR 第 12 条第 2 項(対象は第 4 条、第 5 条、第 7 条から第 11 条の違反)。 ↩
-
EMIR 第 12 条第 3 項。 ↩
-
EMIR 第 1 条第 2 項。 ↩
-
EMIR 第 2 条 (8) (a) から (g)。 ↩
-
EMIR 第 2 条 (9)。 ↩
-
EMIR 第 1 条第 5 項。 ↩
-
EMIR 第 4 条第 5 項((a) から (c) の条件)。 ↩
-
EMIR 第 4 条第 4 項の最後の副項。 ↩
-
EMIR 第 4 条第 2 項の第 2 副項 (a)(EU に設立された 2 者)、(b)(EU と域外の 2 者)。 ↩
-
EMIR 第 11 条第 12 項。 ↩
-
EMIR 第 4 条第 3 項(第 1 副項は清算機関の条件で、第 14 条の認可と第 25 条の認定。第 2 副項は清算参加者、顧客、間接的な取り決め)。 ↩ ↩2
-
欧州委員会 "Derivatives / EMIR" の "Equivalence decisions under EMIR"。 ↩
-
欧州委員会 "Derivatives / EMIR" の "Policy making timeline" の 2025 年 1 月 31 日の項。 ↩
-
EMIR 第 5 条第 1 項(所管当局から ESMA への通知)、第 2 項 (a)、(b)(6 か月、意見募集、ESRB への意見聴取、RTS の案)、第 4 項(考慮する 3 つの基準)。 ↩
-
EMIR 第 6 条第 1 項、第 2 項 (a) から (c)。 ↩
-
EMIR 第 4 条第 3a 項の第 1 副項。 ↩
-
EMIR 第 4a 条第 1 項(12 か月ごと、通知、4 か月)、第 3 項(グループ、ファンドごと)、第 5 項("uncleared position" の定義)。 ↩ ↩2
-
EMIR 第 10 条第 3 項。 ↩
-
EMIR 第 4a 条第 2 項(FC)、第 10 条第 2 項(NFC)。 ↩
-
ESMA "Clearing thresholds"(2026 年 10 月 3 日に取得)の冒頭の段落と "When does…"、"Value of the clearing thresholds"、"Notification"の各項。 ↩ ↩2 ↩3
-
ESMA "Final Report On the draft technical standards amending Regulation (EU) 149/2013 to further detail the new EMIR clearing thresholds regime"(以下、最終報告)の 2 章の 21 項と 22 項(11 ページ)。 ↩
-
EMIR 第 10 条第 4 項 (b)(RTS で閾値の値を定める)、第 4a 項(少なくとも 2 年ごとの見直し)。 ↩
-
ESMA "ESMA sets out clearing thresholds under EMIR 3"(2026 年 2 月 25 日)。最終報告の Annex(55、56 ページ)と 2 章の 17 項から 19 項。 ↩
-
EMIR 第 11 条第 1 項 (a)、(b)、第 2 項、第 3 項、第 4 項。 ↩
-
EMIR 第 11 条第 3 項の第 1 副項、第 2 副項と、第 2 項の第 2 副項。 ↩
-
EMIR 第 11 条第 15 項の第 1 副項 (a)。 ↩
-
EMIR 第 11 条第 3 項の第 3 副項から第 5 副項、第 12a 項("pro forma model" の定義を含む)。 ↩
-
EMIR 第 11 条第 3a 項の第 1 副項。 ↩
-
EMIR 第 11 条第 5 項から第 10 項。 ↩
-
EMIR 第 9 条第 1 項の第 1 副項(TR への報告、期限)、第 2 副項(データの質)、第 4 副項(2014 年 2 月 12 日)。TR は第 55 条で登録されたか、第 77 条で認定されたもの。 ↩ ↩2 ↩3
-
EMIR 第 9 条第 1 項の第 1 副項(報告する者)と、第 1f 項(委任)。 ↩
-
EMIR 第 9 条第 5 項(RTS。報告の内容)、第 6 項 (a)(ITS。データの標準と形式)。 ↩
-
EMIR 第 9 条第 3 項。 ↩
-
EMIR 第 12 条第 1a 項。 ↩
-
legislation.gov.uk の EMIR の目次(英国の法として改訂された版)の Title IV の Chapter 1(第 26 条から第 35 条)、Chapter 2(第 36 条から第 39 条)、Chapter 3(第 40 条から第 50 条)の条の題。 ↩
-
legislation.gov.uk の EMIR の目次(英国の法として改訂された版)の Title VII の第 78 条から第 81 条の題("General requirements" など 4 つ)。 ↩
-
ESMA "Post-trading"(2026 年 10 月 3 日に取得)の "European Markets Infrastructure Regulation (EMIR)" の第 1 文("EMIR came into force on 16 August 2012")。 ↩
-
欧州委員会 "Derivatives / EMIR" の "Policy making timeline" の 2019 年 5 月 20 日の項と 10 月 23 日の項、"Relevant legislation" の Refit。 ↩ ↩2 ↩3
-
ESMA 最終報告の Executive Summary(6 ページ)と脚注 2、"1 Introduction" の 2 項と 3 項(8 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
ESMA "ESMA communication on upcoming reporting obligations under EMIR 3"(2025 年 12 月 11 日)の 1 ページ(脚注 1 を含む)と 2 ページ。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
EMIR 第 91 条の第 1 文("twentieth day following that of its publication")。 ↩
-
ESMA "Post-trading" の "Related Press & News" の "ESMA consults on post-trade risk reduction services under EMIR 3"(2026 年 2 月 26 日)。 ↩
-
EMIR 第 9 条第 1a 項の第 1 副項から第 3 副項。 ↩
-
EMIR 第 9 条第 1b 項から第 1d 項。 ↩
-
EMIR 第 9 条第 1e 項。 ↩
-
EMIR 第 9 条第 2 項。 ↩
-
EMIR 第 7a 条第 3 項 (a) から (c)、第 4 項の第 4 副項。 ↩
-
EMIR 第 7a 条第 5 項。 ↩