デリバティブの与信相当額を計算して自己資本比率に反映する業務と、その数値を確かめる業務では、SA-CCR の式が出てきます。時価、担保、想定元本、残存期間という入力と、与信相当額という出力の対応を確かめる場面が中心です。

何を求める規制か

SA-CCR(カウンターパーティ・クレジットリスクの標準的手法)は、デリバティブの取引相手がデフォルトしたときのエクスポージャーを、自己資本比率規制の中で見積もる方法です。計算の結果はデフォルト時エクスポージャー(EAD)で、日本の告示では「与信相当額」といいます。バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は、2014 年 3 月 31 日に最終規則文書「カウンターパーティ信用リスクエクスポージャーの計測に係る標準的手法」を公表しました1。日本では、2018 年 3 月 23 日に公布した告示の改正が、2018 年 3 月 31 日から適用されています2。

デリバティブの与信相当額は、SA-CCR か内部モデル方式(告示では期待エクスポージャー方式)で求めます。国内基準行は、条件を満たせばカレント・エクスポージャー方式(CEM)も使えます3。規制全体の中での位置づけは規制上の扱いの概要(SA-CCR、内部モデル方式、CVA リスク)で扱います。

SA-CCR を定める告示の箇所は次のとおりです。

定めること 告示の箇所
与信相当額の算出方式の選択と、CVA の額の控除 第 79 条第 1 項〜第 3 項、第 7 項
与信相当額の式、再構築コスト、担保のボラティリティ調整率、リスクのマージン期間、PFE 第 79 条の 2 第 1 項〜第 6 項
資産クラスへの割り当てとヘッジ集合 第 79 条の 2 第 7 項〜第 10 項
資産クラスごとのアドオン(金利、為替、クレジット、エクイティ、コモディティ) 第 79 条の 2 第 11 項〜第 15 項
複数のネッティング・セットが同じマージン・アグリーメントの下にある場合 第 79 条の 2 第 16 項〜第 18 項

告示の語と、米国の規則(12 CFR 217.132)が使う英語の語は、次のように対応します4。

告示の語 米国の規則の語
デルタ調整値 supervisory delta adjustment
デュレーション調整値 supervisory duration
マージン期間調整値 maturity factor
掛目 supervisory factor

与信相当額の式:再構築コストと PFE

告示は、与信相当額をネッティング・セットごとに次の式で求めます5。

EAD=1.4×(RC+PFE)EAD = 1.4 \times (RC + PFE)

RCRC は再構築コスト、PFEPFE はポテンシャル・フューチャー・エクスポージャー(告示では「将来の潜在的なエクスポージャー額」)です。ネッティング・セットは、法的に有効な相対ネッティング契約の下にある取引の集まりで、契約がなければ 1 取引が 1 つのネッティング・セットです。求めた与信相当額からは、財務会計で認識した CVA の額を引きます(0 を下回れば 0)6。

再構築コスト

担保の契約(告示では「マージン・アグリーメント」)があるときの再構築コストは、次の式です7。

RC=max⁡{V−C, TH+MTA−NICA, 0}RC = \max\{V - C,\ TH + MTA - NICA,\ 0\}

VV はネッティング・セットの取引の時価の合計です。CC は、受け入れた担保から差し入れた担保を引いた額で、ヘアカット(ボラティリティ調整率)で調整した後の値です。ただし、第三者が分別管理し、取引相手の倒産手続で損失が出ないよう措置された差入担保は、差し入れた額に入れません。

THTH は変動証拠金を求めない閾値(告示では「信用極度額」)、MTAMTA は最低受渡額(告示では「最低引渡担保額」)です。NICANICA は、CC から変動証拠金を除いた額です。閾値と最低受渡額の項があるため、担保で時価が覆われていても(V−C=0V - C = 0)、再構築コストは TH+MTA−NICATH + MTA - NICA の分まで残ります。

担保の契約がないときの式は RC=max⁡{V−C, 0}RC = \max\{V - C,\ 0\} です。5 つの状態を並べた計算は、規制上の扱いの概要で扱います。

PFE と乗数

PFE は、乗数とアドオンの合計の積です8。

PFE=multiplier×AddOnaggregatePFE = \text{multiplier} \times AddOn_{\text{aggregate}} multiplier=min⁡{1, 0.05+(1−0.05)exp⁡(V−C2×(1−0.05)×AddOnaggregate)}\text{multiplier} = \min\left\{1,\ 0.05 + (1 - 0.05)\exp\left(\frac{V - C}{2 \times (1 - 0.05) \times AddOn_{\text{aggregate}}}\right)\right\} AddOnaggregate=AddOnIR+AddOnFX+AddOnCredit+AddOnEquity+AddOnComAddOn_{\text{aggregate}} = AddOn_{\text{IR}} + AddOn_{\text{FX}} + AddOn_{\text{Credit}} + AddOn_{\text{Equity}} + AddOn_{\text{Com}}

AddOnaggregateAddOn_{\text{aggregate}} は、金利、為替、クレジット、エクイティ、コモディティの 5 つの資産クラスのアドオンを足した額です。資産クラスの間では差し引きません。乗数は、V−CV - C が 0 以上なら 1 です。時価が担保より小さい(時価がマイナスのときや、担保が時価を上回るとき)と、乗数は指数関数で下がり、下限は 0.05 です。V−CV - C をアドオンの合計で割った値ごとの乗数は次のとおりです(式から計算し、小数第 2 位に丸めた値で、告示の表ではありません)。

(V−C)/AddOnaggregate(V - C) / AddOn_{\text{aggregate}} 乗数
0 以上 1.00
−0.5 0.78
−1 0.61
−2 0.38
−5 0.12
−10 0.05

乗数の下限、アルファ、CEM との違い

乗数は、担保が時価を上回る分と、時価がマイナスである分の両方を反映します。米国の当局は、2020 年 1 月 24 日公表の最終規則で、下限の 0.05 を、担保がどれだけ多くても PFE が 0 にならないようにするもので、担保が時価を上回る場合でも一定の資本が残ることを意図したものと説明しています9。

同じ最終規則で、当局は、アルファの 1.4 を、SA-CCR で捉えきれないリスクに備え、SA-CCR の値が内部モデル方式の値を一般に下回らないようにするためのものと説明しています10。

従来のカレント・エクスポージャー方式(CEM)は、米国では 1989 年に導入され、最後の大きな更新が 1995 年でした。当局は、米国での SA-CCR の実施を、リスクに対する感応度と較正を CEM より高め、CEM が大手銀行の市場慣行に追いついていないという懸念に応えるものと説明しています10。

アドオンの計算手順

アドオンは、取引ごとの実効想定元本を求め、ヘッジ集合と資産クラスで集計して求めます。手順は 4 つです11。

  1. 取引を、時価に影響する主な要因(リスク・ドライバー)に応じて、金利、為替、クレジット、エクイティ、コモディティのデリバティブに割り当てます。複数の要因を持つ取引は、複数の資産クラスに割り当てられます。
  2. 資産クラスの中で、取引をヘッジ集合に分けます。金利は同じ通貨ごと、為替は同じ通貨ペアごと、コモディティはエネルギー、金属、農産物、その他ごとです。クレジットとエクイティは、それぞれ 1 つです。ベーシス(同じ通貨の異なるリスクファクターの差)を参照する取引は同じリスクファクターの組合せごと、ボラティリティを参照する取引は資産クラスごとに別のヘッジ集合を作ります。
  3. 取引ごとに、実効想定元本を求めます。
  4. 実効想定元本に掛目を掛けて、ヘッジ集合の中で集計し、資産クラスの中で足します。
取引ヘッジ集合資産クラスセット全体取引を資産クラスに割り当てるヘッジ集合に分ける実効想定元本を求める掛目を掛けて集計する資産クラスの中で足す5 つを足し乗数で PFE1.4 × (RC +PFE)で与信相当額
図 1SA-CCR の与信相当額を求める手順
図の説明

SA-CCR の計算は、取引、ヘッジ集合、資産クラス、ネッティング・セットの 4 つの単位を行き来しながら、最後にネッティング・セット全体の与信相当額にまとめます。図の手順 3 で取引の列に戻るのは、実効想定元本が取引ごとの値だからです。再構築コストは、与信相当額の式の章で求めた値を、最後の 1.4 × (RC + PFE) に使います。実効想定元本と掛目は、このあとの式で定義します。

実効想定元本は、次の積です。

実効想定元本=調整後想定元本×デルタ調整値×マージン期間調整値\text{実効想定元本} = \text{調整後想定元本} \times \text{デルタ調整値} \times \text{マージン期間調整値}

調整後想定元本は、金利とクレジットでは想定元本にデュレーション調整値を掛けた額、エクイティとコモディティでは原資産の単位数に算出基準日の価格を掛けた額(時価調整後想定元本額)、為替では想定元本額です12。

デュレーション調整値は、取引が参照する期間の開始までの年数を SS、終了までの年数を EE(どちらも営業日数を年換算した値で、開始が過ぎていれば SS は 0)として、次の式で求めます13。

デュレーション調整値=exp⁡(−0.05S)−exp⁡(−0.05E)0.05\text{デュレーション調整値} = \frac{\exp(-0.05 S) - \exp(-0.05 E)}{0.05}

この値が 10 営業日を年換算した値を下回るときは、その値を使います。

デルタ調整値は、オプションでも、クレジットの合成型証券化取引でもない取引では、+1 か −1 です。参照する要因(金利、為替レート、株価、コモディティの価格など)が上がると時価が上がる取引が +1、時価が下がる取引が −1 です。クレジットでは、この「上がる」は参照先の信用状態の悪化にあたります。合成型証券化取引は階層ごとの別の式を使い、オプションは次の深掘りの式を使います14。

マージン期間調整値は、担保の契約がない取引では、残存期間 MM(営業日数)から次の式で求めます。担保の契約がある取引では、リスクのマージン期間(MPOR)から求めます15。

マージン期間調整値=min⁡{M, 250}250(担保の契約なし)\text{マージン期間調整値} = \sqrt{\frac{\min\{M,\ 250\}}{250}} \quad (\text{担保の契約なし}) マージン期間調整値=32MPOR250(担保の契約あり)\text{マージン期間調整値} = \frac{3}{2}\sqrt{\frac{MPOR}{250}} \quad (\text{担保の契約あり})

担保の契約がない取引は、残存期間が 1 年(250 営業日)以上なら値が 1 で頭打ちになります。担保の契約がある取引は、MPOR が 10 営業日なら 0.30 です。残存期間が長い取引では、この差が、変動証拠金でアドオンが小さくなる理由です。式から、min⁡{M, 250}\min\{M,\ 250\} が MPOR の 2.25 倍を超えるときに限り、担保の契約があるほうが小さくなります。残存期間が短い取引では逆になり、たとえば残存期間 20 営業日、MPOR 10 営業日なら、担保なしは 20/250=0.28\sqrt{20/250} = 0.28、担保ありは 0.30 です。MPOR の決め方は、後の「ネッティングと担保の扱い」で扱います。

深掘りオプションのデルタ調整値の式

オプションのデルタ調整値は、次の dd と d′d' から求めます14。

d=ln⁡(P/K)+0.5 σ2TσT,d′=−d=−ln⁡(P/K)−0.5 σ2TσTd = \frac{\ln(P/K) + 0.5\,\sigma^2 T}{\sigma\sqrt{T}}, \qquad d' = -d = \frac{-\ln(P/K) - 0.5\,\sigma^2 T}{\sigma\sqrt{T}}

PP はオプションが参照する水準、KK は行使価格、TT は最も遅い権利行使日までの営業日数を年換算した値、σ\sigma は告示が資産クラスごとに定めたボラティリティです。Φ\Phi は標準正規分布の累積分布関数です。

取引 デルタ調整値
コール・オプションの買い Φ(d)\Phi(d)
コール・オプションの売り −Φ(d)-\Phi(d)
プット・オプションの買い −Φ(d′)-\Phi(d')
プット・オプションの売り Φ(d′)\Phi(d')

ここでのコールは、参照する水準が上がると時価が上がるオプション、プットは水準が上がると時価が下がるオプションです。クレジットのオプションでは、水準を参照先(事業法人等またはインデックス)の信用状態に、「上がる」を「悪化する」に読み替えます。

資産クラスごとのアドオン

掛目、オプションのボラティリティ、相関、ヘッジ集合の中の集計の仕方は、資産クラスごとに決まっています16。

資産クラス 掛目(%) オプションのボラティリティ(%) 相関
金利 0.50 50 −
為替 4 15 −
クレジット(事業法人等) 0.38、0.42、0.54、1.06、1.60、6.00 100 0.5
クレジット(インデックス) 0.38、1.06 80 0.8
エクイティ(株価) 32 120 0.5
エクイティ(株価指数) 20 75 0.8
コモディティ(電力) 40 150 0.4
コモディティ(電力以外) 18 70 0.4

クレジットの掛目は、事業法人等では参照先の格付に対応する信用リスク区分の 1-1 から 1-6 の順に、0.38 から 6.00 まで 6 段階です。インデックスは、区分が 4-3 または 5-3 以上なら 0.38、未満なら 1.06 です。ベーシスを参照するヘッジ集合の掛目は、金利、エクイティ、コモディティで通常の半分です。ボラティリティを参照するヘッジ集合の掛目は、金利、為替、エクイティ、コモディティで通常の 5 倍です(金利は 0.50 に対し 2.50)。

集計の仕方は、為替、クレジットとエクイティ、コモディティ、金利の順に次のとおりです。クレジット、エクイティ、コモディティは、相関を使う同じ形の式です。

為替の集計は、ヘッジ集合(通貨ペア)の中の実効想定元本を、為替レートの向きをそろえて足し、その絶対値に 4% を掛けます。

クレジットとエクイティの集計では、ネッティング・セットの全体が 1 つのヘッジ集合です。参照先(クレジットでは事業法人等かインデックス、エクイティでは銘柄か指数)ごとにアドオン AddOnkAddOn_k(実効想定元本に掛目を掛けた合計)を求め、相関 ρk\rho_k を使って次の式で合わせます。

AddOn=(∑kρk×AddOnk)2+∑k(1−ρk2)×AddOnk2AddOn = \sqrt{\left(\sum_k \rho_k \times AddOn_k\right)^2 + \sum_k \left(1 - \rho_k^2\right) \times AddOn_k^2}

相関が 1 なら参照先のアドオンの単純な合計になり、0 なら二乗和の平方根になります。

コモディティの集計では、ヘッジ集合(エネルギー、金属、農産物、その他)ごとに、同じ形の式で、コモディティの種類 kk のアドオンを相関 0.4 で合わせ、ヘッジ集合のアドオンを足します。

金利の集計では、ヘッジ集合(通貨)の中を、残存期間で 3 つに分けます。参照する金利契約の終了までの年数が 1 年未満、1 年以上 5 年以下、5 年超の実効想定元本の合計を D1D_1、D2D_2、D3D_3 として、次の式 1 か式 2 のどちらかで合わせ、0.50% を掛けます。通貨の間は差し引かず、足します。2026 年 10 月時点の告示で金利の集計を定めた号は、式 1 と式 2 を並べて「いずれかの算式を用いて」と定めるだけで、どちらを使うかの条件を示していません17。

式 1:D12+D22+D32+1.4 D1D2+1.4 D2D3+0.6 D1D3\text{式 1}: \sqrt{D_1^2 + D_2^2 + D_3^2 + 1.4\,D_1 D_2 + 1.4\,D_2 D_3 + 0.6\,D_1 D_3} 式 2:∣D1∣+∣D2∣+∣D3∣\text{式 2}: |D_1| + |D_2| + |D_3|
深掘り金利のヘッジ集合での差し引き(式 1 と式 2)

円建ての金利スワップが 2 本あるネッティング・セットの架空の例で考えます。1 本目は、想定元本 100 億円、残り 5 年で、金利が上がると時価が上がる側(デルタ調整値 +1)の取引です。2 本目は、想定元本 100 億円、残り 10 年で、金利が上がると時価が下がる側(デルタ調整値 −1)の取引です。どちらも開始は過ぎていて、担保の契約はありません。

1 本目のデュレーション調整値は (1−e−0.25)/0.05=4.424(1 - e^{-0.25}) / 0.05 = 4.424 で、実効想定元本は 442.40 億円(デルタ +1)です。残り 5 年は D2D_2 に入ります。2 本目は (1−e−0.5)/0.05=7.869(1 - e^{-0.5}) / 0.05 = 7.869 で、実効想定元本は −786.94 億円(デルタ −1)です。残り 10 年は D3D_3 に入ります。マージン期間調整値は、どちらも 1 です。D1=0D_1 = 0 です。

式 1 は 442.402+786.942−1.4×442.40×786.94=572.36\sqrt{442.40^2 + 786.94^2 - 1.4 \times 442.40 \times 786.94} = 572.36、式 2 は 442.40+786.94=1,229.34442.40 + 786.94 = 1{,}229.34 です。0.50% を掛けたアドオンは、式 1 が 2.86 億円、式 2 が 6.15 億円です。式 1 は、期間の隣り合う区分の間で、逆向きの取引の差し引きを認めます。式 2 は区分の間で差し引かず、絶対値を足します。

数値の例:S 銀行の金利スワップ

S 銀行が、ある取引相手との間で、円建ての金利スワップ 1 本だけをネッティング・セットに持つ架空の例で考えます。想定元本は 100 億円、残り期間は 5 年で、S 銀行にとって、金利が上がると時価が上がる側の取引と仮定します。取引の開始は過ぎているので S=0S = 0、E=5E = 5 です。250 営業日を 1 年とすると、残り 5 年は 1,250 営業日です。

金利が上がると時価が上がる側と仮定したので、デルタ調整値は +1 です。デュレーション調整値は (1−e−0.25)/0.05=4.424(1 - e^{-0.25}) / 0.05 = 4.424 なので、調整後想定元本は 100×4.424=442.40100 \times 4.424 = 442.40 億円です。この取引は金利のヘッジ集合(円)の、残存期間 1 年以上 5 年以下の区分に入ります。

3 つの場合を比べます。A は担保の契約がなく、時価が +1 億円の場合です。B は担保の契約がなく、時価が −3 億円の場合です。C は、毎日値洗いして変動証拠金を受け渡す契約があり、時価が +1 億円で、S 銀行が現金の変動証拠金 1 億円を受け入れている場合です。C の閾値は 0、最低受渡額は 0.1 億円、当初証拠金はなく、リスクのマージン期間は 10 営業日です。

項目(億円。乗数とマージン期間調整値は倍率) A B C
時価の合計 VV 1.00 −3.00 1.00
ネット担保額 CC 0 0 1.00
マージン期間調整値 1.00 1.00 0.30
実効想定元本 442.40 442.40 132.72
アドオン(0.50% を掛けた額、PFE の元) 2.21 2.21 0.66
再構築コスト RCRC 1.00 0 0.10
乗数 1.00 0.52 1.00
PFEPFE 2.21 1.14 0.66
与信相当額 1.4×(RC+PFE)1.4 \times (RC + PFE) 4.50 1.60 1.07

A では、時価がプラスで担保がないため、再構築コストが 1 億円になり、乗数も 1 です。B では、時価がマイナスなので再構築コストは 0 になり、乗数が 0.52 まで下がって PFE も小さくなります。C では、変動証拠金で V−CV - C が 0 になり、再構築コストは max⁡{0, 0+0.1−0, 0}=0.1\max\{0,\ 0 + 0.1 - 0,\ 0\} = 0.1 億円まで下がり、マージン期間調整値 3210/250=0.30\frac{3}{2}\sqrt{10/250} = 0.30 でアドオンも A の 0.30 倍の 0.66 億円になります18。

S 銀行にとって時価がマイナス(取引相手に払う側)の B でも、アドオンは残るため、与信相当額は 0 になりません。時価が大きくマイナスになるほど乗数は 0.05 に近づき、PFE は小さくなりますが、下限があります。

ネッティングと担保の扱い

ネッティングは、2 つの段階で効きます。ネッティング・セットの中では、時価 VV が取引の間で差し引かれます。ヘッジ集合の中では、実効想定元本が、逆向きの取引と差し引かれます。ただし、金利のヘッジ集合では期間の区分が分かれ、通貨の間と資産クラスの間では差し引かれません。法的に有効な相対ネッティング契約がない取引は、1 取引が 1 つのネッティング・セットで、時価の差し引きは働きません6。

担保は、再構築コストの式の CC、乗数、マージン期間調整値の 3 か所に入ります。変動証拠金は、時価と担保の差を縮めて再構築コストを下げます。担保の契約がある取引では、マージン期間調整値が残存期間でなく MPOR で決まります。MPOR(マージン・ピリオド・オブ・リスク)は、告示では「リスクのマージン期間」で、取引相手のデフォルトに伴う市場リスクのヘッジが終わるまでの期間です。ネッティング・セットの区分ごとの営業日数は次のとおりです19。

ネッティング・セットの区分 MPOR(営業日)
流動性の低い担保、または再構築の困難な取引を含む 20
日々の値洗いで、算出基準日のある四半期の 1 つ前の四半期に、取引件数が 5,000 件を超えた時点がある 20
日々の値洗いで、銀行が直接清算参加者の立場で、間接清算参加者の取引を中央清算機関(適格なもの)に取り次ぐことで、間接清算参加者との間に生じたネッティング・セット 5
日々の値洗いで、上の 3 つに当たらない 10
NN 日ごと(NN は 2 以上)の値洗い F+N−1F + N - 1

FF は、上の 4 つの区分で決まる営業日数です。係争があった場合は、この営業日数が変わります19。条件は、算出基準日を含む四半期より前の、直近の 2 つの連続した四半期に、担保額の調整についての係争のため、上の営業日数より長い清算期間がかかったことが 3 回以上あったことです。

この条件に当たると、その次の 2 つの連続した四半期は、そのネッティング・セットの MPOR を、上の営業日数の 2 倍以上にします19。

MPOR は、担保自体のボラティリティ調整率にも入ります。担保の契約があるときの調整率は、10 営業日の標準的な調整率に MPOR/10\sqrt{MPOR / 10} を掛けた値です20。

担保が再構築コストを動かす様子を、Q 銀行と、ある取引相手のネッティング・セットが次の 5 つの状態にある架空の例で考えます。担保はすべて取引と同じ通貨の現金で、ボラティリティ調整率は 0% です21。NICANICA は告示では記号だけで定められ、CC から変動証拠金を除いた額です7。

状態 V(億円) C(億円) NICA(億円) TH + MTA(億円) RC(億円)
1. 担保の契約なし 10 0 − − 10
2. 閾値 0、最低受渡額 0.5、変動証拠金 9.5 を受け入れ 10 9.5 0 0.5 0.5
3. 閾値 5、最低受渡額 0.5、変動証拠金 4.5 を受け入れ 10 4.5 0 5.5 5.5
4. 閾値 0、最低受渡額 0.5、変動証拠金 3 と分別管理しない当初証拠金 2 を差し入れ −3 −5 −2 0.5 2.5
5. 4 と同じで、当初証拠金 2 は第三者が分別管理 −3 −3 0 0.5 0.5

状態 1 は担保の契約がないため、再構築コストは max⁡{V−C,0}\max\{V - C, 0\} で 10 億円です。状態 2 では、Q 銀行が受け入れた変動証拠金で時価のほとんどが覆われ、再構築コストは 0.5 億円まで下がります。状態 3 は閾値が 5 億円あるため、担保で覆われない分が残り、5.5 億円です。状態 4 では、Q 銀行から見た時価はマイナス 3 億円ですが、分別管理されない当初証拠金 2 億円を差し入れているため NICANICA はマイナス 2 億円で、TH+MTA−NICATH + MTA - NICA が 2.5 億円になり、再構築コストは 2.5 億円になります。差し入れた当初証拠金が第三者に分別管理されている状態 5 では、0.5 億円にとどまります。状態 4 と状態 5 の差の 2 億円は、分別管理されない当初証拠金の額です。

複数のネッティング・セットが 1 つのマージン・アグリーメントの下にあるときは、それらをまとめて 1 つの与信相当額を求めます。再構築コストは、ネッティング・セットごとの時価のプラス分とマイナス分を分けて、担保と比べる式で求めます。PFE は、各ネッティング・セットの PFE を、担保の契約がないものとして計算して足します22。

日本と米国での適用

日本の告示は、BCBS の文書の公表から 4 年後に SA-CCR を取り込みました。

日付 出来事
2014 年 3 月 31 日 BCBS が最終規則文書を公表1
2017 年 12 月 22 日 金融庁が告示の改正案を公表。派生商品取引の与信相当額の標準的な手法を、SA-CCR と CEM のどちらかから選べるようにする案23
2018 年 3 月 23 日 改正した告示を公布2
2018 年 3 月 31 日 改正した告示を適用2

2026 年 10 月時点の告示では、CEM を使えるのは、条件を満たす国内基準行だけです。直近の算出基準日に SA-CCR を使っていた銀行は、やむを得ない理由で続けられないと届け出た場合などを除き、SA-CCR を続けます3。

SA-CCR の与信相当額は、ほかの規制の入力にも使われます。CVA リスクの基礎的方式(BA-CVA)では、SA-CCR を使う銀行は、ネッティング・セットの与信相当額に、CVA の影響を引く前の額を使います24。計算はCVA リスクの資本賦課で扱います。レバレッジ比率は、2017 年 12 月の BCBS の最終文書で、デリバティブのエクスポージャーを SA-CCR を修正した方式で測る形になりました25。

米国では、連邦準備制度理事会の規則 12 CFR 217.132(c) が SA-CCR を定めています。式の骨格は告示と同じで、与信相当額は 1.4 ×(再構築コスト + PFE)、PFE は乗数とアドオンの合計の積です。金利、為替、エクイティ、コモディティの掛目も、金利 0.50%、為替 4%、株価 32%、株価指数 20%、電力 40%、電力以外 18% と、告示の表と一致します26。米国の規則には、次の定めがあります。

項目 米国の規則の定め
単一名クレジットの掛目 3 段階(投資適格 0.46%、投機的格付 1.3%、投機的格付未満 6.0%)。告示は 6 段階(0.38% から 6.00%)27
商業エンドユーザーとのネッティング・セット アルファの 1.4 を掛けない(217.132(c)(5)(iv))28
変動証拠金の契約があるネッティング・セット 変動証拠金の契約がないものとして計算した額と比べ、小さいほうを与信相当額にする(217.132(c)(5)(ii))29
顧客向けのデリバティブ取引 MPOR の下限が 5 営業日に再証拠金の頻度を足して 1 を引いた値(217.132(c)(9)(iv)(A)(2)(ii))30

米国の当局の説明では、商業エンドユーザーのアルファを外したのは、意見募集で、商業エンドユーザーの取引には方向性があり担保のないポートフォリオが多く、CEM より与信相当額が増えるという懸念が出たためです。当局は、商業エンドユーザーとの取引には、金融担保として認められない信用リスクの軽減手段があることや、リスクの向きが有利に働く可能性が高いことを挙げ、アルファを外すと SA-CCR の較正が良くなると述べています。

変動証拠金の契約があるネッティング・セットの額に上限を置いたのは、たとえば取引の残存期間が 10 営業日以下の短いものでは、担保がある側のマージン期間調整値が 1.5 倍になり、担保なしより額が大きくなる場面があるためです。当局は、そうした場面はまれで、資本への影響は小さいとみています31。

米国の規則は、2020 年 1 月 24 日公表の最終規則で、2020 年 4 月 1 日に発効しました。先進的手法を使う銀行組織には、2022 年 1 月 1 日が義務の適用日でした32。日本の告示の適用時期とは、法域ごとに別に決まっています。

実務への影響

ネッティング・セットごとの入力は、取引の時価、想定元本、開始日と終了日、デルタ、資産クラスとヘッジ集合、掛目の区分です。担保の契約があるネッティング・セットでは、閾値、最低受渡額、担保の種類と通貨、分別管理の有無、値洗いの頻度も入力になり、MPOR の区分には取引件数と係争の履歴が要ります719。

この記事が書いていないこと

CEM と SA-CCR の式の細かい違いと、米国の規則の表のうち商業エンドユーザー、変動証拠金の契約があるネッティング・セット、顧客向けの MPOR の下限が告示にもあるかは、この記事では扱いません。

注

  1. 金融庁「バーゼル銀行監督委員会による最終規則文書「カウンターパーティ信用リスクエクスポージャーの計測に係る標準的手法」の公表について」(2014 年 4 月 2 日)。BCBS が 3 月 31 日に公表したとあります。 ↩ ↩2

  2. 金融庁「「自己資本比率規制(第1の柱・第3の柱)に関する告示の一部改正(案)」等のパブリックコメントの結果等について」(2018 年 3 月 23 日)の「3.公布・適用日」。 ↩ ↩2 ↩3

  3. 「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(平成十八年金融庁告示第十九号。金融庁の全体版)第 79 条第 1 項〜第 3 項(188〜189 ページ)。以下、同じ告示の箇所は印刷されたページ番号で書きます。 ↩ ↩2

  4. 告示の第 79 条の 2 第 11 項の第 2 号(掛目)、第 5 号(デュレーション調整値)、第 6 号(デルタ調整値)、第 7 号(マージン期間調整値)。米国の語は 12 CFR 217.132(c)(9) の (i)〜(iv) と Table 3。 ↩

  5. 告示の第 79 条の 2 第 1 項(190 ページ)。1 つのネッティング・セットに複数のマージン・アグリーメントがある場合は、各アグリーメントの対象になっている取引をひとまとまりにして、そのまとまりごとに与信相当額を求めます。 ↩

  6. 告示の第 79 条第 7 項(189〜190 ページ)。 ↩ ↩2

  7. 告示の第 79 条の 2 第 2 項(190〜191 ページ)。C=Ccollect×(1−Hccollect−Hfxcollect)−Cpost×(1+Hcpost+Hfxpost)C = C_{\text{collect}} \times (1 - Hc_{\text{collect}} - Hfx_{\text{collect}}) - C_{\text{post}} \times (1 + Hc_{\text{post}} + Hfx_{\text{post}}) です。CcollectC_{\text{collect}} は受け入れた適格金融資産担保、CpostC_{\text{post}} は差し入れた担保(第三者が分別管理するものを除く)、HcHc は担保の種類によるボラティリティ調整率、HfxHfx はエクスポージャーと担保の通貨が違うときの調整率です。NICANICA は「前号に規定する C と同じ。ただし、変動証拠金は除く」と定められています。 ↩ ↩2 ↩3

  8. 告示の第 79 条の 2 第 6 項(192〜193 ページ)。乗数の式の記号は、告示の exp⁡\exp を指数関数として書き直しています。 ↩

  9. Federal Register「Standardized Approach for Calculating the Exposure Amount of Derivative Contracts」(2020 年 1 月 24 日の最終規則。以下、最終規則)の I.B(乗数の趣旨)と III.D の 3「PFE Multiplier」(下限の趣旨)。 ↩

  10. 最終規則の SUMMARY、I.C「Overview of the Proposal」(CEM の導入年と更新年、SA-CCR の位置づけ)、II「Overview of the Final Rule」のアルファ係数の枠(アルファの目的)。 ↩ ↩2

  11. 告示の第 79 条の 2 第 7 項〜第 10 項(193〜194 ページ)。第 7 項に、複数のリスク・ドライバーを持つ取引を複数の資産クラスに同時に割り当てられるとあります。 ↩

  12. 告示の第 79 条の 2 第 11 項第 4 号、第 5 号(金利、194〜195 ページ)、第 12 項第 3 号(為替、197 ページ)、第 13 項第 4 号(クレジット、199 ページ)、第 14 項第 4 号(エクイティ、202 ページ)、第 15 項第 3 号(コモディティ、204 ページ)。 ↩

  13. 告示の第 79 条の 2 第 11 項第 5 号(194〜195 ページ)。クレジットには第 13 項第 5 号(199 ページ)が準用します。 ↩

  14. 告示の第 79 条の 2 第 11 項第 6 号(195〜196 ページ)。為替は第 12 項第 4 号、クレジットは第 13 項第 6 号、エクイティは第 14 項第 5 号、コモディティは第 15 項第 4 号が準用し、ボラティリティを読み替えます。 ↩ ↩2

  15. 告示の第 79 条の 2 第 11 項第 7 号(196 ページ)。取引の原資産がデリバティブで受け渡す場合の残存期間 MM は、その原資産の満期日から算出基準日までを営業日で数えた日数(十営業日未満であるときは、十営業日)です。 ↩

  16. 告示の第 79 条の 2 第 11 項第 2 号、第 3 号(金利)、第 12 項第 1 号、第 2 号(為替)、第 13 項第 1 号〜第 3 号(クレジット)、第 14 項第 1 号〜第 3 号(エクイティ)、第 15 項第 1 号、第 2 号(コモディティ)、第 8 項〜第 10 項(ヘッジ集合)。 ↩

  17. 告示の第 79 条の 2 第 11 項第 3 号(194 ページ)に「イ又はロのいずれかの算式を用いて算出する」とあります。 ↩

  18. 計算は丸めずに行い、表には小数第 2 位までを示しています。A の与信相当額は 1.4×(1+2.212)=4.49681.4 \times (1 + 2.212) = 4.4968、B は 1.4×1.1398=1.59571.4 \times 1.1398 = 1.5957、C は 1.4×(0.1+0.6636)=1.06901.4 \times (0.1 + 0.6636) = 1.0690 です。 ↩

  19. 告示の第 79 条の 2 第 4 項、第 5 項(192 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  20. 告示の第 79 条の 2 第 3 項第 2 号(191 ページ)。担保の契約がないときの調整率は、同項第 1 号(191 ページ)が別の式で定めています。 ↩

  21. 「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」第 94 条の表の「現金及び自行預金」(232 ページ)。 ↩

  22. 告示の第 79 条の 2 第 16 項〜第 18 項(205〜206 ページ)。 ↩

  23. 金融庁「自己資本比率規制(第1の柱・第3の柱)に関する告示の一部改正(案)等の公表について」(2017 年 12 月 22 日)の「1.自己資本比率規制に関する告示等」。 ↩

  24. 告示の第 270 条の 3 の 3 第 2 項(396〜397 ページ)。EADNSEAD_{NS} について、SA-CCR を用いる場合は第 79 条の 2 第 1 項の与信相当額とし、CVA の影響は勘案しないと定めています。 ↩

  25. 金融庁、日本銀行「「レバレッジ比率の枠組みの見直し」の概要」の 5 ページ「デリバティブ・エクスポージャー(修正 SA-CCR の採用)」。2017 年の最終文書は、修正 SA-CCR で、エクスポージャー = 1.4 ×(RC + PFE)とします。 ↩

  26. 12 CFR 217.132(c)(5)(i)(与信相当額)、(c)(7)(PFE)、Table 3 to § 217.132(掛目)。2026 年 10 月 5 日に eCFR の API で取得した本文です。 ↩

  27. 12 CFR 217.132 の Table 3(Credit, single name: Investment grade 0.46、Speculative grade 1.3、Sub-speculative grade 6.0)。告示の第 79 条の 2 第 13 項第 2 号イ(198〜199 ページ)。 ↩

  28. 12 CFR 217.132(c)(5)(iv)。商業エンドユーザー(commercial end-user)の定義はこの規則の別の箇所にあります。 ↩

  29. 12 CFR 217.132(c)(5)(ii)。取引相手が変動証拠金を差し入れる義務を負わない契約は除きます。 ↩

  30. 12 CFR 217.132(c)(9)(iv)(A)(2)(ii)。顧客向け(client-facing)でない取引の下限は (A)(2)(i) に、10 営業日に再証拠金の頻度を足して 1 を引いた値と定められています。 ↩

  31. 最終規則の III.A「Exposure Amount」(商業エンドユーザーとアルファ)と、III.C「Replacement Cost」の脚注 75(変動証拠金のあるネッティング・セットの額の上限)。 ↩

  32. 最終規則の DATES と II.B「Effective Date and Compliance Deadline」。発効日は 2020 年 4 月 1 日です。先進的手法を使う銀行組織(advanced approaches banking organizations)の義務の適用日は 2022 年 1 月 1 日です。 ↩

  33. MPOR が 20 営業日のとき、マージン期間調整値は 1.5×20/250=0.42431.5 \times \sqrt{20/250} = 0.4243、実効想定元本は 442.3984×0.4243=187.69442.3984 \times 0.4243 = 187.69 億円、アドオンは 0.005×187.69=0.93850.005 \times 187.69 = 0.9385 億円です。再構築コストは 0.1 億円、乗数は 1(V−C=0V - C = 0)なので、与信相当額は 1.4×(0.1+0.9385)=1.45391.4 \times (0.1 + 0.9385) = 1.4539 億円です。 ↩