銀行の自己資本比率やレバレッジ比率を計算して開示する業務は、バーゼル規制が決める基準を前提にしています。デリバティブの取引相手のリスクや CVA、マーケット・リスクに備える資本を計算する場面でも、同じ基準が根拠になります。

バーゼル規制は何を決めるか

バーゼル規制は、銀行が健全に経営されているかを国際的に同じ物差しで判断するための基準で、自己資本比率や流動性比率などを含みます。基準を策定するのはバーゼル銀行監督委員会(BCBS)で、金融庁は、これに基づく国内規制として告示、監督指針、Q&A を整備しています1。BCBS の上位機関は中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループ(GHOS)で、2017 年のバーゼル III の最終化はこのグループが承認しました2。国際的に合意された基準は最低基準にあたり、各国・地域はより厳しい規制を採用してもかまいません2。金融庁の「バーゼル規制の概要」は、分かりやすさを重視して作った資料で、規制に対応するときは告示や監督指針を確かめるよう求めています3。

日本では、1993 年にバーゼル I が、国際的に活動する銀行の自己資本比率の測り方と最低水準を定めました。2007 年のバーゼル II は、金融取引の多様化に合わせてリスクの計測手法を精緻にし、2013 年以降に適用されたバーゼル III が、自己資本の質と量の強化、レバレッジ比率規制、流動性規制を加えました4。

自己資本比率規制は、バーゼル II 以降、3 つの柱が補い合って銀行の健全性を保つものと位置づけられています5。

柱 何を求めるか
第 1 の柱(最低所要自己資本) 最低所要比率を定め、銀行が抱えるリスクに応じた自己資本を求めます。下回ると、当局が是正措置を命じます
第 2 の柱(銀行の自己管理と監督上の検証) 銀行は、第 1 の柱の対象でないリスクも含めて主要なリスクを評価し、経営に必要な自己資本を検討します。当局は、その取組みが十分かを評価します
第 3 の柱(市場規律) 銀行が情報を開示し、市場参加者がリスク管理の良し悪しを見比べられるようにします

第 2 の柱では、第 1 の柱の対象でないリスクも含めて主要なリスクを評価します5。たとえば銀行勘定の金利リスクは、第 1 の柱の資本賦課の対象ではなく、第 2 の柱と第 3 の柱の下で扱われます6。第 3 の柱は情報開示の枠組みで、自己資本の構成、リスク・アセットの概要、レバレッジ比率、流動性カバレッジ比率を四半期ごとに開示します(国際統一基準の銀行に求める項目)7。

自己資本の最低水準とバッファー

自己資本比率は、自己資本をリスク・アセット(RWA)で割った比率です。海外に営業拠点を持つ銀行に当てはまる国際統一基準では、分子の自己資本を 3 通りに分け、それぞれに最低水準があります89。

比率 分子 最低水準
普通株式等 Tier1(CET1)比率 普通株、内部留保などの CET1 資本 4.5%
Tier1 比率 CET1 資本に、優先株や永久劣後債などの「その他 Tier1 資本」を加えた額 6%
総自己資本比率 Tier1 資本に、期限付きの劣後債などの Tier2 資本を加えた額 8%

分母の RWA の求め方と、リスク・ウェイトによる計算例はリスク・アセット(RWA)で扱います。海外に営業拠点を持たない銀行には、別に国内基準が適用されます(後の節で扱います)。最低水準を下回った銀行に、当局は区分に応じて、経営改善計画の提出などの早期是正措置を命じることができます10。

国際統一基準の銀行には、最低水準に加えて資本バッファーも求められます。資本保全バッファーは 2.5% で、将来のストレスに備えるものです。カウンター・シクリカル・バッファーは、国内の信用供与が過剰と認められる場合に各国が定め、日本の水準は 2026 年 8 月時点で 0% です。グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)には 1.0〜3.5% の追加の資本賦課があり、国内のシステム上重要な銀行(D-SIB)の水準は各国が決めます。バッファーが基準値を下回ると、配当、賞与、自社株買いなどの社外流出が制限されます11。

レバレッジ比率と流動性規制

レバレッジ比率は、銀行システムでレバレッジが拡大するのを抑えるために導入された、簡素な指標です。資産の種類ごとの重み(リスク・ウェイト)を掛けず、Tier1 資本を、貸出などの資産と保証などの帳簿外の取引を合わせたエクスポージャー額で割って求め、リスクベースの自己資本比率を補います12。Tier1 資本が 3 兆円、エクスポージャー額が 100 兆円の架空の例で考えます。レバレッジ比率は 3% です。リスク・ウェイトの低い資産ばかりで自己資本比率が高く出る銀行でも、エクスポージャー額が大きければ、この比率は低くなります。

流動性規制は 2 つあります。流動性カバレッジ比率(LCR)は、30 日間のストレス下で資金が流出しても対応できるよう、現金や国債などの適格流動資産を持つことを求めます。適格流動資産が 12 兆円、純資金流出額が 10 兆円の架空の例で考えます。LCR は 120% で、水準を満たします。ストレス期間の純資金流出額が 13 兆円に増えると、LCR は約 92% に下がり、100% を下回ります。

安定調達比率(NSFR)は、残存期間の長い資産や市場流動性の低い資産を持つなら、それを支える安定した調達を求めます13。

規制 比率の形 最低水準 日本での導入(国際統一基準の銀行) 国内基準の銀行
レバレッジ比率 Tier1 資本 ÷ エクスポージャー額 3%(日本は 2024 年 4 月以降 3.15%。下の本文) 2015 年に開示(第 3 の柱)、2019 年に最低所要(第 1 の柱) 当局にデータを提出
LCR 適格流動資産 ÷ 30 日間のストレス期間の純資金流出額 100% 2015 年から段階的に 当局にデータを提出
NSFR 利用可能な安定調達額 ÷ 所要安定調達額 100% 2021 年 9 月期から 適用なし

レバレッジ比率は、2024 年 4 月以降、日本銀行への預け金をエクスポージャー額から除く代わりに、最低水準が 3.15% に上がっています12。

金融危機後のバーゼル III

バーゼル III は、金融危機後の規制改革作業として進められました2。金融危機では、取引相手の信用力が悪化したために生じたデリバティブの時価損失が、取引相手が実際にデフォルトして生じた損失より大きくなった例がありました。バーゼル II には、取引相手のデフォルトに備える資本(取引相手の信用リスクに対する資本)の枠組みはありました。しかし、取引相手の信用力の悪化によるデリバティブの時価の変動に備える枠組み、つまり信用評価調整(CVA)の資本賦課はありませんでした。2010 年に公表されたバーゼル III が、この CVA の資本賦課を加えました14。同じ年の 12 月には、レバレッジ比率規制の導入も表明されています15。

その後、BCBS は、2011 年に相対取引の取引相手の信用リスクの自己資本上の取扱いを最終化し、2014 年にはSA-CCR の最終規則文書を公表しました。2013 年には、BCBS と証券監督者国際機構(IOSCO)が、中央清算されないデリバティブ取引の証拠金規制の最終報告書を公表しています16。この報告書は、中央清算されない取引を行う金融機関などに、取引相手のリスクに応じた当初証拠金と変動証拠金の授受を求めています17。

2017 年の最終化と日本での実施時期

2017 年 12 月 7 日に、GHOS はバーゼル III の最後の未了部分を承認し、バーゼル III が最終化されました。最終化には、CVA リスクの枠組みの見直し、総アウトプット・フロア(銀行の内部モデルで出したリスク・アセットに下限を置く仕組み)の導入、信用リスクやオペレーショナル・リスクの計算方法の見直しなどが含まれます2。2019 年 1 月に公表された「マーケット・リスクの最低所要自己資本」も、金融庁はバーゼル III 最終化に含めています1。目的は、銀行ごとのリスク・アセットのばらつきを抑え、自己資本比率を比べやすくすることです2。

国際的な実施の時期は、当初の 2022 年 1 月から、コロナ禍の影響で 1 年延びて 2023 年 1 月になりました。日本の適用は次のとおりです18。

時点 内容
2022 年 4 月以降 日本で関連規制を整備
2023 年 3 月 31 日以降 希望する金融機関は、金融庁に届け出れば、これより早く適用できる
2024 年 3 月 31 日 国際統一基準の金融機関と、内部モデルを採用する国内基準の金融機関(最終指定親会社を除く)。内部モデルは、銀行が自前のモデルでリスクを測る方法
2025 年 3 月 31 日 内部モデルを採用しない国内基準の金融機関と、最終指定親会社(金融商品取引法に基づく区分)

金融庁の資料は、ほかの国と地域の実施時期も 2025 年 12 月時点でまとめています。EU は 2025 年(市場リスクだけは 2027 年に延期)、英国は 2027 年(市場リスクのうち内部モデルの適用は 2028 年に延期予定)で、米国の時期は未定です18。

国際統一基準と国内基準の区分

日本では、海外に営業拠点(海外子会社、海外支店)を持つ銀行に国際統一基準、それ以外の銀行に国内基準が適用されます19。2 つの基準は、銀行法に基づく金融庁の告示で定められています8。銀行持株会社、農林中央金庫、商工中金、信用金庫などには、それぞれ別の告示があります120。

銀行を分けるのは、海外に営業拠点(海外子会社、海外支店)を持つかどうかの 1 点です。持てば国際統一基準、持たなければ国内基準の区分になります。

C 銀行が海外に支店を持つ場合と持たない場合の架空の例で考えます。3 通りの比率の最低水準は「自己資本の最低水準とバッファー」の表、コア資本比率は下の表にあります。

  • C 銀行が海外に支店を持つ場合は、海外に営業拠点を持つ条件に当たるため、国際統一基準の区分です。3 通りの比率の最低水準に加え、資本バッファーと NSFR が適用されます。
  • C 銀行が海外に営業拠点を持たない場合は、その条件に当たらないため、国内基準の区分です。原則として、最低水準はコア資本比率だけで、資本バッファーと NSFR は適用されません。

どちらの区分に当たるかは、海外に営業拠点を持つかだけでなく、告示の適用範囲に照らして決まります8。

国際統一基準との違いは、次のとおりです。レバレッジ比率、LCR、NSFR の扱いは前の表のとおりです21。

項目 国際統一基準 国内基準
自己資本の分子 CET1 資本、Tier1 資本、総自己資本の 3 通り コア資本(普通株、内部留保などの区分)
最低水準 CET1 比率 4.5%、Tier1 比率 6%、総自己資本比率 8% コア資本比率 4%
資本バッファー 適用 適用なし
自己資本比率の分母 リスク・アセット 国際統一基準と同じ考え方(一部の簡便法を使える)

デリバティブに関わる論点の案内

デリバティブに関わる論点は、バーゼル規制の中で次のように分かれています2216。

論点 何に備えるか 詳しく扱うページ
取引相手の信用リスク 取引相手のデフォルトによる損失 規制上の扱いの概要(SA-CCR、内部モデル方式、CVA リスク)
CVA リスク 取引相手の信用力の変化による時価の変動 CVA リスクの資本
マーケット・リスク(FRTB) 保有する有価証券などの価格が市場の動きで変動するリスク。標準的方式と内部モデル方式の計算が見直された FRTB
非清算デリバティブの証拠金 中央清算されない取引の証拠金の授受 BCBS-IOSCO の証拠金規制

FRTB は、マーケット・リスクの資本の枠組みで、2016 年 1 月に BCBS が公表し、2019 年 1 月に見直されました23。

この記事が書いていないこと

国内基準の銀行の例外と、リスク・アセットの計算方法に関わる細かい違いは、この記事では扱いません。

注

  1. 金融庁「自己資本比率規制等(バーゼル規制)について」(ウェブページ、2026 年 10 月時点)の冒頭の「バーゼル規制の概要」の欄(バーゼル III 最終化の説明を含む)と、告示の一覧。 ↩ ↩2 ↩3

  2. 金融庁「プレス・リリース「中央銀行総裁・銀行監督当局長官はバーゼルⅢの最終化に合意」(仮訳)」(2017 年 12 月 7 日)の 1 ページ(GHOS の位置づけ、金融危機後の規制改革作業、目的)、1〜2 ページ(最終化に含まれる見直し)、2 ページ(最低基準)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  3. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 1 ページ(表紙の注記)。 ↩

  4. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 2 ページ「我が国におけるバーゼル規制(自己資本比率規制等)の実施」。 ↩

  5. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 18 ページ「自己資本比率規制における「3本の柱」」。 ↩ ↩2

  6. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 19 ページ「銀行勘定の金利リスク(IRRBB)」。 ↩

  7. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 20 ページ「開示の主な項目と頻度」。四半期ごとの項目は、自己資本の構成、リスクアセットの概要、レバレッジ比率、流動性カバレッジ比率。バーゼル III 最終化後に国際統一基準の金融機関に求められる項目。 ↩ ↩2

  8. 銀行法第十四条の二の規定に基づく自己資本比率の告示(平成十八年金融庁告示第十九号。令和 8 年 8 月 24 日更新の全体版)の第 2 条(26〜27 ページ)、第 1 条第 10 号の 2 と第 10 号の 3(10 ページ)、第 25 条(94〜95 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3

  9. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 3 ページ(最低水準と、CET1 資本、その他 Tier1 資本、Tier2 資本の区分)。 ↩

  10. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 13 ページ「最低所要自己資本比率を下回ったときの対応」(銀行法第 26 条第 2 項に規定する区分等を定める命令等に基づく早期是正措置)と、3 ページの注記。 ↩

  11. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 5 ページ「資本バッファー」。G-SIB の追加の資本賦課の水準は 1.0〜3.5%。 ↩

  12. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 6 ページ「レバレッジ比率」。2024 年 4 月以降の枠組みは、同ページの「(参考)」の欄。 ↩ ↩2

  13. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 7 ページ「流動性カバレッジ比率」と 8 ページ「安定調達比率」。導入時期は、7 ページに「2015 年から段階的に」、8 ページに「2021 年 9 月期より」。 ↩

  14. 金融庁、日本銀行「「信用評価調整(CVA)リスクの最低所要自己資本」の概要」(2018 年 2 月)の「1.これまでの経緯」(資料の 3 ページ)。 ↩

  15. 金融庁、日本銀行「「レバレッジ比率の枠組みの見直し」の概要」(2018 年 2 月)の「1. スケジュール」(資料の 3 ページ)の「2010 年 12 月」の行。 ↩

  16. 金融庁「バーゼル銀行監督委員会」(ウェブページ)の公表資料の一覧(2011 年の相対取引の取引相手の信用リスクの最終化、2013 年の BCBS と IOSCO の証拠金規制の最終報告書、2014 年の SA-CCR の最終規則文書)。 ↩ ↩2

  17. 金融庁「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制 <要旨>(仮訳)」(2013 年 9 月)の 6 ページ(主要な原則 2。対象主体は取引相手のリスクに応じて当初証拠金と変動証拠金を授受すること)。 ↩

  18. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 10 ページ「バーゼルⅢ最終化の実施時期」。他国の実施時期は 2025 年 12 月時点の資料。金融庁「自己資本比率規制等(バーゼル規制)について」の「バーゼル規制の概要」の欄にも、2022 年 4 月以降の整備と、2024 年と 2025 年の 3 月 31 日の適用の記載。 ↩ ↩2

  19. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 16 ページ「国際統一基準と国内基準」。 ↩

  20. 自己資本比率の告示(平成十八年金融庁告示第十九号)の第 2 条の 2 第 1 項(27〜28 ページ)。銀行持株会社に適用する告示(平成十八年金融庁告示第二十号)への言及。 ↩

  21. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 17 ページ「国際統一基準と国内基準の差異」(コア資本と最低 4%、資本バッファーと NSFR は適用なし、レバレッジ比率と LCR は当局にデータを提出、分母の簡便法)。 ↩ ↩2

  22. 金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 9 ページ「バーゼルⅢ最終化の概要」(CVA リスクとマーケットリスクの見直し)、12 ページ(マーケット・リスク)、14 ページ「リスク計測手法」(SA-CCR などの区分)。 ↩

  23. 金融庁「バーゼル銀行監督委員会」(ウェブページ)の公表資料の一覧の最終規則文書「マーケット・リスクの最低所要自己資本」(2016 年)と、金融庁「自己資本比率規制等(バーゼル規制)について」の 2019 年 1 月の「マーケット・リスクの最低所要自己資本」の公表。 ↩