銀行の資本の管理では、取引を増やす前後で必要な自己資本がいくら変わるかを RWA で見ます。デリバティブの与信や CVA の分も、RWA に加わって必要な自己資本を増やします。
RWA は自己資本比率の分母
リスク・アセット(RWA)は、自己資本比率の分母にあたる額です。自己資本比率は自己資本を RWA で割った比率で、国際的に活動する銀行は 8% 以上、国内のみで活動する銀行は 4% 以上を保つことが求められます1。分母に資産の額そのものを使わないのは、リスクの大きさで重みを付けるためです。貸出先のデフォルト、市場の値動き、事務の誤りや不正といった損失の可能性に見合う自己資本を、銀行に持たせる狙いがあります1。
重みの付け方を、事業会社に対する 1 億円の貸出で見ます。海外に営業拠点を持つ銀行に当てはまる国際統一基準の最低水準(総自己資本比率の 8%)を使うと、最低限必要な自己資本は RWA の 8% です。信用リスク・アセットは、告示第六章に定める方法の標準的手法で求め、リスク・ウェイトは相手の種類ごとに告示が定める値とします2。
| 事業会社向け 1 億円の貸出 | リスク・ウェイト(%) | RWA(万円) | 最低限必要な自己資本(8%、万円) |
|---|---|---|---|
| 格付に対応する区分が 4-1 | 20 | 2,000 | 160 |
| 格付がない | 100 | 10,000 | 800 |
| 格付に対応する区分が 4-5 | 150 | 15,000 | 1,200 |
貸出額は同じ 1 億円でも、リスク・ウェイトが 20% なら RWA は 2,000 万円、150% なら 1 億 5,000 万円で、最低限必要な自己資本は 7.5 倍になります。リスク・ウェイトが 100% の貸出なら、RWA は貸出額と同じ 1 億円で、必要な自己資本は 800 万円です1。リスク・ウェイトの値は、告示第 65 条の定める値です3。
自己資本比率の求め方
海外に営業拠点を持つ銀行に当てはまる国際統一基準では、自己資本の分子が 3 通りあり、分母はどれも同じ RWA です4。
分子の 3 つは、普通株や内部留保などの普通株式等 Tier1(CET1)資本、それに優先株や永久劣後債などのその他 Tier1 資本を加えた Tier1 資本、さらに期限付きの劣後債などの Tier2 資本を加えた総自己資本です5。
図の説明
RWA は、信用リスク・アセット(デリバティブの分と CVA の分を含む)に、マーケット・リスク相当額とオペレーショナル・リスク相当額をそれぞれ 8% で割った額を加えて求めます。マーケット・リスク相当額は、算入する場合に加えます。自己資本の額は CET1 資本、Tier1 資本、総自己資本の 3 通りを別に数えます。自己資本を RWA で割って 3 つの比率を求め、それぞれが最低水準以上かを確かめます。最低水準は、CET1 は 4.5%、Tier1 は 6%、総自己資本は 8% 以上です。
マーケット・リスク相当額を算入する場合、RWA は告示の算式に沿って次のように求めます46。
は信用リスク・アセットの額の合計額、 はマーケット・リスク相当額の合計額、 はオペレーショナル・リスク相当額の合計額です。0.08 は 8% のことで、 と を 8% で割ると、 と同じ資産の額の単位になります。3 つの比率は、それぞれ次の分子を RWA で割って求めます。
最低水準は、CET1 比率が 4.5% 以上、Tier1 比率が 6% 以上、総自己資本比率が 8% 以上です4。これに加えて、資本保全バッファーとして 2.5% が求められ、バッファーは CET1 資本で見ます7。概要資料の図では、総自己資本比率の最低水準 8% にバッファー 2.5% を加えた水準が 10.5% です7。
バッファーが足りなくなると、配当や自社株買いなど社外への流出が制限されます8。このほか、カウンター・シクリカル・バッファー(日本の水準は 0%)もあります8。
リスク・ウェイトの決まり方
事業会社などの法人向けのエクスポージャーで格付がある場合、告示は格付を信用リスク区分(4-1 から 4-5)に対応させます。リスク・ウェイトは区分ごとに 20%、50%、75%、100%、150% です。格付がない場合は 100% で、売上高が 50 億円未満の中堅中小企業などは 85% にできます3。現金のように 0% のものもあります9。
| 信用リスク区分 | 4-1 | 4-2 | 4-3 | 4-4 | 4-5 | 格付なし |
|---|---|---|---|---|---|---|
| リスク・ウェイト(%) | 20 | 50 | 75 | 100 | 150 | 100(中堅中小企業等は 85 まで) |
区分が 4-1 から 4-5 に進むほどリスク・ウェイトが大きくなり、同じ金額のエクスポージャーでも RWA と必要な自己資本が増えます。無格付の 100% は、4-4 と同じ値です。この表が当てはまるのは法人向けで、銀行自身の内部格付を使う方式を適用する部分は別の扱いです10。以下の例では、法人向けの表だけを使います。
デリバティブと CVA の RWA
デリバティブでは、取引相手がデフォルトして損をするカウンターパーティ・クレジットリスクが信用リスク・アセットに入ります。標準的手法を使う銀行では、デリバティブの与信相当額(デフォルト時エクスポージャーにあたる額)に、取引相手のリスク・ウェイトを掛けて信用リスク・アセットを求めます11。与信相当額は、SA-CCR か期待エクスポージャー方式で計算します12。
もう 1 つが、取引相手の信用力の変化による時価の変動に備えるCVA の分です。告示は CVA リスク相当額を 8% で割った額を、信用リスク・アセットに足すと定めています11。CVA の対象になるデリバティブ取引では、同じ取引から、取引相手のデフォルトの分と CVA の分の 2 つの RWA が生じます。適格中央清算機関との取引などは CVA の対象になりません13。この規制が与信管理に与える影響は、規制上の扱いの概要(SA-CCR、内部モデル方式、CVA リスク)で扱います。
市場とオペレーショナルの RWA
国際統一基準の分母には、市場リスクの分も入ります。ただし、銀行の区分ごとの条件を満たす場合は、マーケット・リスク相当額を算入しないことができます6。告示が測る市場リスクは、トレーディング勘定の金利や株式などの値動きのリスクが主な対象です14。
オペレーショナル・リスクは、事務事故や不正行為などで損失が生じるリスクです1。告示は、オペレーショナル・リスク相当額を標準的計測手法で算出すると定めています15。この分は、デリバティブに限らず銀行全体の業務について計算します。
算入する場合は、どちらも相当額を 8% で割って RWA に足します。
計算例:RWA の合計と比率の動き
国際統一基準で計算する銀行の架空の例で考えます。デリバティブの取引相手は 2 社で、X 社の格付に対応する区分は 4-2(リスク・ウェイト 50%)、Y 社は格付がなく中堅中小企業等にも当たらないもの(100%)とします。金額の単位は億円です。
| 項目 | 元の額(億円) | 計算 | RWA(億円) |
|---|---|---|---|
| X 社向けの与信相当額 | 40 | 40 × 50% | 20 |
| Y 社向けの与信相当額 | 30 | 30 × 100% | 30 |
| CVA リスク相当額 | 4 | 4 ÷ 8% | 50 |
| マーケット・リスク相当額 | 6 | 6 ÷ 8% | 75 |
| オペレーショナル・リスク相当額 | 2 | 2 ÷ 8% | 25 |
| 合計 | 200 |
自己資本は、CET1 資本が 16 億円、その他 Tier1 資本が 2 億円、Tier2 資本が 6 億円とします。Tier1 資本は 18 億円、総自己資本は 24 億円です。各比率は RWA の 200 億円で割って、CET1 比率 8.0%、Tier1 比率 9.0%、総自己資本比率 12.0% です。3 つとも最低水準を上回ります。CET1 比率は最低水準 4.5% を 3.5 ポイント上回り、バッファーの 2.5% を満たす目安になります7。
次に、自己資本は変えずに、マーケット・リスク相当額だけを変えます。
| 場合 | マーケット・リスク相当額(億円) | RWA(億円) | CET1 比率(%) | Tier1 比率(%) | 総自己資本比率(%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 最初の例 | 6 | 200 | 8.0 | 9.0 | 12.0 |
| 相当額が 2 倍になる | 12 | 275 | 5.8 | 6.5 | 8.7 |
| 相当額が半分になる | 3 | 162.5 | 9.8 | 11.1 | 14.8 |
相当額が 2 倍になると、RWA は 75 億円増えて 275 億円になります。3 つの比率はすべて下がり、最低水準(4.5%、6%、8%)は満たしますが、CET1 比率の最低水準との差は 1.3 ポイントで、バッファーの 2.5% に届きません7。
相当額が半分になると、RWA が 37.5 億円減って 162.5 億円になり、自己資本が同じでも 3 つの比率はすべて上がります。比率は小数第 2 位を四捨五入しています。
RWA が増えると必要な自己資本も増える
RWA が 2 倍になれば、最低限必要な自己資本も 2 倍になります。リスク・ウェイト 100% の 1 億円の貸出が 800 万円の自己資本を求めるのに対し、200% なら 1,600 万円です1。上の計算例では、200 億円の RWA に対する最低限必要な自己資本(8%)は 16 億円で、そのうち CVA の 50 億円の分は 4 億円、つまり CVA リスク相当額と同じ額です。CVA を含む XVA の全体は、XVA の全体像で扱います。
実際の RWA の計算は、銀行の区分と使う手法で変わります。
注
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金融庁「バーゼル規制の概要」(2026 年 8 月)の 12 ページ。リスク・ウェイトの例(20〜150%)、最低水準 8%(国際)と 4%(国内)、リスク・ウェイト 100% の 1 億円の貸出に 800 万円(200% なら 1,600 万円)、3 つのリスクの説明。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(平成十八年金融庁告示第十九号)第 1 条第 8 号(金融庁の全体版の 9 ページ)。以下「告示」と書きます。告示は「リスク・アセットの額」、金融庁の概要資料は「リスクアセット」と書きますが、どちらも RWA と同じものです。 ↩
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告示第 65 条第 1 項、第 3 項、第 4 項(金融庁の全体版の 157 ページ)。法人等向けエクスポージャーの信用リスク区分とリスク・ウェイトの表です。無格付は 100%、中堅中小企業等(売上高が 50 億円未満)は 85% にできます。 ↩ ↩2
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告示第 2 条(金融庁の全体版の 26〜27 ページ)。連結普通株式等 Tier1 比率 4.5%、連結 Tier1 比率 6%、連結総自己資本比率 8% の最低水準と、分母の算式。 ↩ ↩2 ↩3
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金融庁「バーゼル規制の概要」の 3〜4 ページ。CET1 資本は普通株と内部留保等、その他 Tier1 資本は優先株と永久劣後債等、Tier2 資本は期限付劣後債等です。 ↩
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告示第 4 条(金融庁の全体版の 30 ページ)。銀行の区分ごとの条件を満たすと、第 2 条と第 2 条の 2 第 1 項の算式から、マーケット・リスク相当額の分を外せます。特定取引勘定設置銀行の条件には、特定取引勘定の資産と負債の合計額などが規模の基準を下回ることが含まれます。 ↩ ↩2
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告示第 2 条の 2 第 1 項、第 3 項(金融庁の全体版の 28 ページ)と第 7 条の 2 第 1 項(41〜42 ページ)。資本保全バッファー比率は 2.5% で、CET1 で測ります。概要資料の 3 ページの図は 10.5% としています。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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金融庁「バーゼル規制の概要」の 3 ページ(資本バッファーの未達時には配当等を抑制)と 5 ページ。カウンター・シクリカル・バッファーは各国の裁量で設定され、同資料の時点(2026 年 8 月)の日本の水準は 0% です。 ↩ ↩2
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告示第 55 条(金融庁の全体版の 139〜140 ページ)。現金のリスク・ウェイトは 0% です。 ↩
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告示第 146 条第 1 項(金融庁の全体版の 260 ページ)、第 148 条(261 ページ)。内部格付手法採用行でも、計画に定めた場合などには、一部の事業単位や資産区分に標準的手法を適用します。 ↩
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告示第 48 条第 1 項第 1 号、第 3 号(金融庁の全体版の 136 ページ)。標準的手法採用行の信用リスク・アセットの額の合計額は、資産と派生商品取引等の与信相当額にリスク・ウェイトを乗じた額、CVA リスク相当額を 8% で除した額などの合計です。 ↩ ↩2
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告示第 79 条第 1 項(金融庁の全体版の 188 ページ)。派生商品取引の与信相当額は、SA-CCR か期待エクスポージャー方式で算出します。国内基準行の一部は、カレント・エクスポージャー方式を使えます(同条第 2 項)。 ↩
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告示第 270 条の 2 第 2 項(金融庁の全体版の 394 ページ)。CVA の対象は、適格中央清算機関などを除く者を取引相手方とする派生商品取引等(重要性が低いものを除く)です。 ↩
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告示第 271 条第 1 項(金融庁の全体版の 433 ページ)。 ↩
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告示第 303 条第 1 項(金融庁の全体版の 559 ページ)。 ↩