与信やリスク管理の担当者は、取引の時価の動きを見て、取引相手ごとに失いうる額を把握し、枠や担保で抑えます。
取引相手が破綻したときに失うもの
図の説明
図では、破綻の有無、破綻した時点の時価の符号の順に確かめます。破綻していなければ、取引相手の破綻による損失は生じません。破綻したなら時価の符号に進みます。ここでの時価は、取引を終わらせると自分が受け取る額のことで、マイナスは支払う額です。破綻すると、取引はその時点の時価で終わらされ、これを清算といいます。時価がマイナス(またはゼロ)なら、清算の額を相手に支払うだけで、損失は生じません。プラスなら、その額は破綻した相手に請求できる権利(債権)になり、回収できない分が損失です。時価の符号は、金利や為替などの相場が動くと入れ替わります。同じ取引でも側によって結果が違う例は、次の A 社と I 銀行の表で見ます。
カウンターパーティ・クレジットリスクは、取引相手が破綻したとき、取引の時価がプラスならその額を取り損なうリスクです1。時価は、その時点で取引を終わらせるなら受け取る(マイナスなら支払う)額です。取引相手が破綻すると、取引はその時点の時価で清算されます。時価がプラスの側は、破綻した相手への債権として回収を求め、回収できない分が損失になります。時価がマイナスの側は、清算の金額を相手に支払うだけで、損失は生じません2。
A 社(事業会社)と I 銀行が、想定元本 100 億円、期間 5 年の金利スワップを結んだ架空の例で考えます。A 社は固定金利 1% を払い、I 銀行から変動金利を受け取ります。取引を始めた日の時価はどちらから見ても 0 で、その後、金利が動いて、A 社から見た時価が +4 億円(I 銀行から見て −4 億円)になったとします。図の判定を当てはめると、I 銀行が破綻したときの A 社は 2 つの質問を通って損失が出る側、A 社が破綻したときの I 銀行は 2 つ目で止まる側です。+4 億円になる相場の例は後の「再構築コストの求め方」の節で示します。金利スワップの受け払いの仕組みは金利スワップで扱います。
| その時点で破綻した側 | A 社の損失 | I 銀行の損失 |
|---|---|---|
| I 銀行 | 最大 4 億円(回収できた分だけ減る) | (破綻した側) |
| A 社 | (破綻した側) | 0 億円(清算の 4 億円を A 社に払う) |
取引相手が破綻したときに失いうる額を、エクスポージャーといいます。この例では、A 社は I 銀行に対して 4 億円のエクスポージャーを持ち、I 銀行の A 社に対するエクスポージャーは 0 です。
貸出の信用リスクとの違い
デリバティブのエクスポージャーは、貸出と違って相場とともに変わります。金利や為替などの市場の値が動くと取引の時価が動き、時価のプラスの部分がエクスポージャーになるためです。そのため、取引相手の信用リスクは、相手の破綻による信用リスクに、時価の変動による市場リスクの要素が加わったものになります3。
もう 1 つの違いは、どちらの当事者がリスクを負うかです。I 銀行が A 社に 100 億円を貸すなら、相手の破綻で損をしうるのは貸し手の I 銀行だけです。借り手の A 社は、I 銀行が破綻しても、この貸出で失うものはありません。スワップでは、取引の後も両方の当事者が相場の動きの影響を受け、どちらの破綻でも時価の清算が起きます。時価の符号が入れ替われば、リスクを負う側も入れ替わります4。
| 比べる点 | 貸出(I 銀行が A 社に貸す) | 金利スワップ(A 社と I 銀行) |
|---|---|---|
| リスクを負う側 | 貸し手の I 銀行だけ | 時価がプラスの側(A 社にも I 銀行にもなりうる) |
| 失いうる額 | 貸した元本と未払いの利息 | その時点の時価のプラスの部分 |
| 額を決めるもの | 契約で決まり、相場ではほとんど動かない | 金利などの相場の動きで増減する |
| 始めた日の額 | 100 億円 | 0 億円(時価 0 で始めた場合) |
再構築コストの求め方
再構築コストは、取引相手が破綻したとき、同じ取引を今の相場で結び直すのにかかる額です5。A 社がこのスワップで借入の金利を固定していたなら、I 銀行が破綻して取引がなくなっても、固定する必要は残ります。そこで A 社は別の銀行とスワップを結び直しますが、そのときの固定金利は今の相場で決まります。
先ほどの例で、1 年たって残りが 4 年になった時点を考えます。残り 4 年のスワップの固定金利の相場が、次の 3 つの値になった場合を比べます。変動金利の受け払いは、元の取引と結び直す取引で同じとし、割引は考えません。
| 残り 4 年の固定金利の相場 | 元の取引の 1% との差(年率) | 差 × 想定元本 100 億円 × 4 年 | I 銀行が破綻したときの A 社の再構築コスト | A 社が破綻したときの I 銀行の再構築コスト |
|---|---|---|---|---|
| 2.0% | +1.0% | +4 億円 | 4 億円 | 0 億円 |
| 1.0% | 0% | 0 億円 | 0 億円 | 0 億円 |
| 0.5% | −0.5% | −2 億円 | 0 億円 | 2 億円 |
相場が 2.0% に上がると、I 銀行が破綻したとき、A 社は結び直したスワップで 1% ではなく 2% を払うことになります。差の 1% は毎年 1 億円で、4 年で 4 億円です。これが A 社の再構築コストで、元の取引の A 社から見た時価(割引を考えない値)と同じ額です。逆に相場が 0.5% に下がると、A 社が破綻したとき、I 銀行は固定金利 1% の代わりに 0.5% しか受け取れなくなり、4 年で 2 億円の再構築コストがかかります。時価がマイナスの側は、結び直すとかえって有利な条件になるため、再構築コストは 0 とします。
今の時点の時価のプラスの部分(マイナスなら 0)をカレント・エクスポージャー(CE)といいます6。CE は、上で求めた再構築コストと同じ額にあたります7。実際の時価は将来の受け払いを割り引いて求めます。
決済前のリスクと決済のリスク
取引相手の信用リスクで失うものには、再構築コストと、受け渡す元本の全額があります。再構築コストを失うリスクを再構築コストのリスク、元本の全額を失うリスクを元本リスクといいます。再構築コストのリスクの多くは、決済の日より前の相手の破綻で生じる決済前のリスクです。元本リスクの多くは、決済の日に受け渡しが片方だけで終わったときに生じる決済のリスクです5。
A 社が I 銀行と為替予約を結び、決済の日に円で 100 億円を払ってドルを受け取るとします。決済の日より前に I 銀行が破綻すれば、A 社が失うのは、予約した相場と今の相場の差から生じる再構築コストです。たとえばドルの相場が予約した相場より 5% 高くなっていれば、失うのは約 5 億円です(割引を考えない場合)。ところが、決済の日に A 社が 100 億円を払い終えた後、I 銀行がドルを払う前に破綻すると、A 社は受け取るはずのドルの全額(今の相場で約 105 億円分)を失います。元本リスクは取引の全額に及ぶため、損失は再構築コストよりずっと大きくなりえます8。
元本リスクを取り除くには、一方の支払いが済むのは他方の支払いも済むときだけにする決済の方法を使います。2 つの通貨の受け渡しでは 2 通貨の条件付決済(PvP)、証券と資金の受け渡しでは証券と資金の条件付受渡し(DvP)と呼ばれます9。
リスクを測る、減らす、管理する手段
測る手段の基本は、今の時点の CE と、将来のある時点で時価が高い方にどこまで振れうるかを示すポテンシャル・フューチャー・エクスポージャー(PFE)です6。指標の定義と計算はエクスポージャーの種類と計測で扱います。
減らす手段には、一括清算(クローズアウト・ネッティング)と担保があります。一括清算は、相手が破綻したときに同じ相手との取引をまとめて終わらせ、時価を差し引きして清算する取り決めで、基本契約で定めます10。担保の取り決めでは、当事者がクレジット・サポート・アネックス(CSA)で受け渡しの条件を決め、時価がプラスの側は、その分を相手から受け取る担保で覆います11。
取引を清算機関に持ち込む方法もあります。清算機関が当事者の間に入って売り手に対する買い手、買い手に対する売り手になるため、それぞれの当事者の取引相手は清算機関に替わります12。
管理する手段の 1 つは、取引相手ごとに与信枠を決め、エクスポージャーを枠の中に収めることです13。枠と比べるエクスポージャーには、PFE などを使います14。
もう 1 つは、取引相手の信用力をデリバティブの時価に反映する信用評価調整(CVA)で、時価に入れることでヘッジの対象にもなります15。これらとは別に、銀行の自己資本比率規制は、取引相手の破綻のリスクと、CVA の時価の変動のリスクの両方に資本を求めています16。
信用力とエクスポージャーの同時の悪化
取引相手の信用力が下がるときに、その相手へのエクスポージャーも大きくなることがあり、これを誤方向リスク(wrong-way risk)といいます。リーマン・ブラザーズが破綻した 2008 年の金融危機では、取引相手の破綻の確率が上がるのと同時に、その相手へのエクスポージャーが増えたり担保の価値が下がったりしました。当時の規制の枠組みは、このリスクを十分に捉えられていませんでした18。
注
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金融庁、日本銀行「バーゼル委市中協議文書 カウンターパーティ・リスクの取扱いの強化の概要」(2010 年 1 月)の「1.カウンターパーティ・リスクとは」(2 ページ)。資料は OTC デリバティブ取引とレポ取引などの証券金融取引を対象にしています。 ↩
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内田善彦「カウンターパーティー・リスクの管理とCVAの活用」(日本銀行金融機構局 金融高度化センターのワークショップの講演資料、2010 年 6 月)の「CCRとは」(5 ページ)。資料は、筆者の個人的見解に基づくもので、日本銀行の公式見解ではないと断っています。 ↩
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「バーゼル委市中協議文書 カウンターパーティ・リスクの取扱いの強化の概要」(2010 年 1 月)の「1.カウンターパーティ・リスクとは」(2 ページ)。 ↩
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内田善彦「カウンターパーティー・リスクの管理とCVAの活用」(2010 年 6 月)の「CCRとは」(5 ページ)の注。 ↩
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BIS 支払・決済システム委員会、証券監督者国際機構専門委員会「金融市場インフラのための原則」(仮訳、2012 年 4 月)のパラグラフ 2.5(24 ページ)。 ↩ ↩2
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内田善彦「カウンターパーティー・リスクの管理とCVAの活用」(2010 年 6 月)の「CCR量の評価」(17 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3
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「金融市場インフラのための原則」(仮訳、2012 年 4 月)のパラグラフ 3.12.1(107 ページ)。 ↩
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「金融市場インフラのための原則」(仮訳、2012 年 4 月)のパラグラフ 3.12.1 と 3.12.2(107 ページ)、略語の一覧(iii ページ)。 ↩
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「金融市場インフラのための原則」(仮訳、2012 年 4 月)のパラグラフ 3.1.7 の脚注 27(31 ページ)。基本契約で定めることは、内田善彦「カウンターパーティー・リスクの管理とCVAの活用」(2010 年 6 月)の「CCR管理手法」(15 ページ)。 ↩
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内田善彦「カウンターパーティー・リスクの管理とCVAの活用」(2010 年 6 月)の「CCR管理手法」(15 ページ)。担保で覆うことは、金融庁、日本銀行「バーゼル銀行監督委員会「カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン」について」(2025 年 4 月)の 10 ページ。 ↩
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「金融市場インフラのための原則」(仮訳、2012 年 4 月)のパラグラフ 1.13(11〜12 ページ)。 ↩
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「バーゼル銀行監督委員会「カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン」について」(2025 年 4 月)の「Limits(信用枠・リミット)」(15 ページ)。 ↩
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アルゴリズミックス「カウンターパーティー・リスク把握の現状と方向性」(日本銀行金融機構局 金融高度化センターのワークショップの講演資料、2010 年 6 月)の「1. 歴史」(3 ページ)。 ↩
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内田善彦「カウンターパーティー・リスクの管理とCVAの活用」(2010 年 6 月)の「CCRとCVA」(6 ページ)と「CCRのヘッジとCVA」(18 ページ)。 ↩
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金融庁、日本銀行「「信用評価調整(CVA)リスクの最低所要自己資本」の概要」(2018 年 2 月)の「1.これまでの経緯」(2 ページ)。 ↩
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「バーゼル委市中協議文書 カウンターパーティ・リスクの取扱いの強化の概要」(2010 年 1 月)の「9.担保管理の強化④(IMM行)」の「マージン・ピリオドの強化」(23 ページ)。 ↩
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「バーゼル委市中協議文書 カウンターパーティ・リスクの取扱いの強化の概要」(2010 年 1 月)の 5 ページと 25 ページ。リーマン・ブラザーズの破綻が 2008 年であることは、内田善彦「カウンターパーティー・リスクの管理とCVAの活用」(2010 年 6 月)の 12 ページ。 ↩