フロントが取引を約定する前に枠の残りを確かめる場面と、リスク管理部門が毎日の使用額を枠と比べる場面が、与信枠の主な使いどころです。

与信枠は何のためにあるか

与信枠は、金融機関が 1 つの取引相手に対して持ってよいエクスポージャー(取引相手が破綻したときに失いうる額)の上限です。店頭デリバティブのカウンターパーティ・クレジットリスクでは、エクスポージャーが急に膨らむことがあります。膨らんだときに取引相手が破綻すると、想定より大きな損失になります1。与信枠を決めておくと、1 つの取引相手への集中を、金融機関が受け入れると決めた範囲にとどめられます。

与信枠の管理の望ましい実務は、2 つの資料が示しています。1 つは、バーゼル銀行監督委員会が 2024 年 12 月に最終版を公表した「カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン」です。もう 1 つは、米国の銀行監督当局が 2011 年に出した監督指針(2026 年 6 月改訂。以下、米国の監督指針)です2。使う指標や仕組みの細かさは、取引の規模、複雑さ、リスクの大きさに見合うように金融機関ごとに決めます3。

枠の大きさには、大きすぎても小さすぎても困る面があります。枠が大きすぎると、エクスポージャーが急に増えても枠を超えないため、気づくのが遅れます。小さすぎると、枠を超えて承認を求めることが頻繁になります。どちらも、金融機関が受け入れるリスクの大きさを正しく表さない枠です4。

取引相手ごとの枠の決め方

与信枠は、取引相手の信用力の評価から決めます。取引を始めるときには、財務の情報に加えて、評判、戦略、リスク管理の実態などの財務以外の情報も集めて取引相手を分析します5。金融機関は取引相手に内部格付を付け、内部格付を取引方針や与信枠の設定に使います6。十分な情報が取れない取引相手には、格付を低めに付け、与信枠を小さめにし、証拠金の条件を厳しくするなど、保守的に決めます5。

枠の体系には、個々の取引相手への枠と、エクスポージャーの集中への枠の両方を置きます7。集中には、法人ごとの集中に加えて、同じ親会社の段階や関係する法人の合計での集中も含みます1。枠の対象には、デリバティブだけでなく、同じ取引相手への貸出などのエクスポージャーも含めます4。そのため、デリバティブのエクスポージャーと貸出の実行額のように形の違うものも、同じ取引相手の分は 1 つの報告かシステムで見られるようにします8。

枠の大きさと承認の段階は、取引相手の信用力、取引の期間、持ち高やヘッジの流動性を考えて決めます。取引相手へのエクスポージャーが大きいほど、信用力が低いほど、期間が長いほど、上位の権限者が枠を承認する仕組みにします9。枠は、金融機関のリスクの許容度、市場の環境、事業の戦略に合わせて定期的に見直し、取引相手の信用力やエクスポージャーが変わったときにも見直します4。

与信枠の使用額の測り方

与信枠の使用額は、取引相手ごとのポテンシャル・フューチャー・エクスポージャー(PFE)の最大で測るのが基本です。PFE は将来の各時点のエクスポージャーの分布の高い分位点(95% や 99% が多い)で、一番長い取引の満期まで時点ごとに計算します。使用額には、そのうち最も大きい値を使います11。枠と比べる使用額は、期待エクスポージャー(EE)ではなく、こうした高い分位点の値で測ります。高い分位点の値は 1 つの取引相手に対して受け入れるリスクの大きさを表し、EE は多くの取引相手を合わせた信用リスクのモデルや CVA の計算に向く指標だからです9。PFE と EE の定義と計算はエクスポージャーの種類と計測で扱います。

使用額のもとになるカレント・エクスポージャー(CE)と PFE は、前日の取引の持ち高と担保の受け渡しをもとに、取引相手ごとに毎日計算します8。CE は、取引相手が破綻したときに失う時価の額(0 を下回らない)で、再構築コストとも呼ばれます11。一括清算と担保があると使用額は小さくなります。どれだけ小さくなるかはネッティングと担保による削減効果で扱います。

取引の多い金融機関では、計測のシステムで扱いにくい取引を主なシステムの外で計算し、その額(アドオン)をポートフォリオの PFE に足すことがあります。保守的に(大きめに)見積もるアドオンが合うのは、主なシステムで複雑な商品のリスクを反映できない限られた場合です。アドオンに頼りすぎると計測がゆがむため、アドオンの使い方を少なくとも年 1 回見直し、アドオンに頼る商品の取引の増え方にも上限を置きます12。

PFE のほかに、ストレス時のエクスポージャーと与信枠を比べることも、望ましい実務に挙げられています13。PFE には捉えられないリスクがあるためです。たとえば担保を多めに受け取っていると PFE はゼロになりますが、取引相手が破綻して担保を処分するまでに担保の価値が大きく下がれば、損失が出ることがあります14。CVA や CVA のバリュー・アット・リスク(VaR)に上限を置くこともありますが、それで PFE の与信枠が要らなくなるわけではありません9。

深掘り規制の方法で計算するエクスポージャー

自己資本比率の規制で使う SA-CCR(デリバティブ取引のエクスポージャーを求める標準的な方式)は、モデルを使わずに式でエクスポージャーを求めます。エクスポージャーは再構築コストと PFE の和に 1.4 を掛けた額です。米国の規則では、商業目的の最終利用者との取引には 1.4 を掛けません。この PFE は想定元本と満期、資産の種類ごとに当局が決めた掛け目などから求めます15。PFE のもとになる取引ごとの額は、時価と担保をゼロとして求めます。この額は、実効 EPE(規制で使う期待エクスポージャーの平均)を保守的に(大きめに)見積もるように作られています16。SA-CCR の PFE は、名前が同じでも、社内で与信枠に使う PFE の最大(高い分位点の値)とは狙いが違い、同じ取引相手でも値は一致しません。

取引の前の確認と日々のモニタリング

与信枠を守らせる仕組みは、取引の前の確認と、取引の後の日々のモニタリングの 2 段です。P 銀行が C 社(事業会社)と金利スワップを何本か結び、C 社への与信枠が 20 億円、使用額(PFE の最大)が 12 億円の架空の例で考えます。

  1. C 社から新しい金利スワップの依頼があると、P 銀行のフロントの担当者が、その取引を既存の取引に加えた後の使用額を、約定の前にシステムで確かめます。取引が使用額に与える影響を約定の前に計算する手続きとシステムは、日中の管理の方法の 1 つです17。
  2. 足した後の使用額が 16 億円なら、枠の 20 億円に収まる(枠の 80% を使う)ので、フロントは取引を約定できます。足した後の使用額が 23 億円になるなら、枠を 3 億円超えるため、そのままでは約定できず、定められた上位の権限者に承認を求めます7。
  3. 約定の後は、リスク管理部門が、取引の部門から独立したシステムで少なくとも毎日、使用額を計算し直して枠と比べます9。使用額が枠に近づいたら早めに警告を出します18。P 銀行が警告の目安を枠の 90%(18 億円)にしていれば、使用額が 18 億円を超えた日に、フロントと審査の担当者に知らせます。
  4. リスク管理部門は、取引の相手や市場の状態に応じて、日々の計測を日中の計測で補います。日中の計測は、超過が起きそうな場面で早めに警告を出すためのものです18。
フロントリスク管理部門上位の権限者収まる超える超過約定の前に、既存の取引に加えた使用額を確かめる枠に収まるので約定する枠を超えるので承認を判断する約定の後、独立したシステムで毎日使用額を枠と比べる枠に近づいたら警告する枠を超えたら超過を報告する超過の大きさに応じ上位の段階に上げ承認を判断する
図 1与信枠の使用額を確かめ、超過を扱う流れ
図の説明

取引の前の確認から、約定の後の日々の計測、超過の扱いまでを、フロント、リスク管理部門、上位の権限者の順に追った図です。取引の前に、フロントが既存の取引に加えた後の使用額を確かめます。枠に収まればフロントがそのまま約定し、枠を超えるなら上位の権限者が承認を判断します。約定の後は、リスク管理部門が毎日使用額を計算し直して枠と比べ、枠に近づけば警告し、枠を超えれば超過を報告します。報告を受けた超過は、大きさに応じた上位の段階に上げ、大きな超過は上位の役職の承認を要します。なお、この図は承認された場合の流れを描いていて、承認されない場合は描いていません。

枠を超える件数が多いときは、計測のシステムの弱さが原因のことがあります。枠の体系の妥当性を疑わせるシステムの弱さは、早く直します19。

枠を超えたときの手続き

枠を超えたときの手続きは、超過の大きさで変わります。大きな超過は上位の役職の承認を要し、承認の記録をシステムなどに残します18。承認の権限を担当者に委ねても、最終的な説明責任は経営陣とリスク管理の委員会に残ります20。

新しい取引をしなくても、市場の動きで時価が変わり、使用額が枠を超えることがあります。これを受動的な超過といい、新しい取引による超過と同じ承認の手続きにかけます18。先の例で、3 か月後に金利が大きく動き、P 銀行の C 社への使用額が 21 億円になったとします。新しい取引は増えていませんが、枠を 1 億円超えているため、P 銀行のリスク管理部門は超過を報告し、承認を得るか、使用額を減らす手段を決めます。

使用額を減らす手段には、取引相手から担保を受け取る条件を強めること、保証で信用力を補うこと21、その取引相手との取引を制限すること22があります。保証に頼るときは、保証人の信用力と、保証がデリバティブの支払いの義務を確実にカバーする契約かを確かめます。金額に上限のある保証は、市場の動きでエクスポージャーが大きく動くデリバティブでは足りなくなることがあります21。取引を制限したりリスクの削減を求めたりする取引相手は、ふだんからウォッチ・リストにまとめておきます22。

データの不良やシステムの誤りで使用額が誤って大きく出た超過(技術的な超過)も、放っておかず、ふつうの超過と同じように承認にかけます。原因を直すまでの間、使用額を見続けるために、承認を得て枠を調整することもあります18。

フロントとリスク管理部門の役割

与信枠は、取引を担うフロントから独立した部門が、取引相手の信用力、財務の状態、レバレッジを考えて決めます18。金融機関は、リスク管理部門を取引の部門から独立させ、方針を守らせる権限と、問題を経営陣に上げる権限を持たせます23。担い手ごとの役割は次の表のとおりです24。

担い手 与信枠の管理での役割
取締役会、経営陣 取引相手ごとの枠と集中の枠を決める枠組みを承認し、枠の超過や例外の承認を報告で受ける
枠を決める委員会(リスク管理の委員会など) 枠を決めて定期的に見直し、大きな超過を承認する
審査・リスク管理部門 取引相手の信用力を評価して枠を決め、使用額を毎日計測し、超過を管理する
フロント 約定の前に使用額を確かめ、枠の中で取引する。超過するときは承認を求める
内部監査 枠の承認の手続き、格付、モニタリングが適切かを定期的に監査する

カウンターパーティ・クレジットリスクには市場リスクと信用リスクの両方の面があるため、市場リスクの部門と信用リスクの部門が協力して管理します25。

関係する規制

与信枠は、主に金融機関が自ら決めて管理する社内の上限です。これとは別に、銀行法は、同じ取引相手(特殊の関係のある者を含む)への信用の供与等の額を、自己資本の額に一定の率を掛けた信用供与等限度額までに制限しています(大口信用供与等規制)。対象になる信用の供与等の範囲と、額の計算の方法は、政令と内閣府令が定めます28。

自己資本比率の規制でのエクスポージャーの計算(SA-CCR など)は、規制上の扱いの概要(SA-CCR、内部モデル方式、CVA リスク)で扱います。

注

  1. Office of the Comptroller of the Currency ほか "Interagency Supervisory Guidance on Counterparty Credit Risk Management"(2011 年 6 月、2026 年 6 月改訂)の III.3 "Concentrations"(6 ページ)。 ↩ ↩2

  2. 金融庁、日本銀行「バーゼル銀行監督委員会『カウンターパーティ信用リスク管理に関するガイドライン』について」(2025 年 4 月。以下、金融庁・日銀の解説)の 4 ページ「背景・経緯」。米国の監督指針の表紙(2011 年 6 月 29 日。2026 年 6 月に改訂)。 ↩

  3. 米国の監督指針の III.1 "CCR Metrics"(5 ページ)と Appendix A の前書き(20 ページ)。 ↩

  4. 金融庁・日銀の解説の 15 ページ「Limits(信用枠・リミット)」。 ↩ ↩2 ↩3

  5. 同じ資料の 8〜9 ページ「デューデリジェンスとモニタリング」。 ↩ ↩2

  6. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「信用リスク管理態勢の整備」(2019 年 8 月)の 9 ページ「①目的の明確化」。 ↩

  7. 米国の監督指針の II.1 "Board and Senior Management Responsibilities"(3 ページ)。 ↩ ↩2

  8. 米国の監督指針の III.2 "Aggregation of Exposures"(5 ページ)。 ↩ ↩2

  9. 同じ資料の V.1 "Counterparty Limits"(13 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  10. 同じ資料の IV "Systems Infrastructure Considerations" の "Data Integrity and Reconciliation"、"Automation and Tracking"(11〜12 ページ)。 ↩

  11. 同じ資料の Appendix A の "Current Exposure"、"Peak Exposure"(20〜21 ページ)。この資料は、各時点の高い分位点を peak exposure と呼びます。 ↩ ↩2

  12. 同じ資料の IV の "Add-Ons"(13 ページ)。 ↩

  13. 同じ資料の Appendix A の "Stressed Exposure"(21 ページ)。 ↩

  14. 金融庁・日銀の解説の 13 ページ「Potential future exposure (PFE)」。 ↩

  15. Federal Deposit Insurance Corporation "Standardized Approach for Counterparty Credit Risk"(2021 年 5 月)の 4 ページ "SA-CCR Mechanics"、"Potential Future Exposure"、"Alpha Factor"。 ↩

  16. 同じ資料の 5 ページ "Adjusted Derivative Contract Amount"。 ↩

  17. 米国の監督指針の V.1 "Counterparty Limits"(14 ページ)。 ↩ ↩2

  18. 金融庁・日銀の解説の 20 ページ「Limit governance and exception management(リミットのガバナンスと超過管理)」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  19. 米国の監督指針の IV の "Data Integrity and Reconciliation"(12 ページ)。 ↩

  20. 金融庁・日銀の解説の 18 ページ「Risk framework(リスク管理の枠組み)」。 ↩

  21. 同じ資料の 10〜11 ページ「信用リスク削減手法」。 ↩ ↩2

  22. 同じ資料の 22 ページ「Closeout practices(取引の清算)」。 ↩ ↩2

  23. 米国の監督指針の II.3 "Risk Management Function and Internal Audit"(4 ページ)。 ↩

  24. 米国の監督指針の II.1(3 ページ)、II.3(4 ページ)、V.1(13〜14 ページ)と、金融庁・日銀の解説の 15、18〜20 ページ。 ↩

  25. 金融庁・日銀の解説の 17 ページ「People and risk culture(人材とリスク・カルチャー)」。 ↩

  26. 同じ資料の 19 ページ「Management reporting(経営陣への報告)」。 ↩

  27. 米国の監督指針の II.2 "Management Reporting"(4 ページ)。 ↩

  28. 「銀行法」第 13 条第 1 項、第 6 項。子会社等と合算した限度額は同条第 2 項。 ↩