清算されないデリバティブ取引で証拠金を求めたり差し入れたりする金融機関や、システム上重要な非金融機関は、各国の規則に従います。その規則の元になる国際基準が、BCBS-IOSCO の証拠金規制です。

何のための基準か

BCBS-IOSCO の証拠金規制は、清算機関を通さないデリバティブ取引の証拠金について、各国の規制が従う最低基準を示します。目的は 2 つあります。1 つは、清算されない取引で相手が債務不履行になったときの損失を担保で埋めて、システミック・リスクを減らすことです。もう 1 つは、清算されない取引の高いリスクを証拠金に反映して、中央清算を促すことです1。

基準をつくったのは、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)と証券監督者国際機構(IOSCO)です。2011 年に G20 が証拠金規制を改革に加え、2 つの機関に、国際的に整合的な基準の策定を求めました2。G20 の合意の全体はG20 の店頭デリバティブ改革で扱います。

資本と証拠金は、どちらもリスクを抑えますが、損失を負う者が違います。証拠金は、債務不履行をした側が差し入れた担保で損失を埋めます。資本で損失を埋めると、債務不履行を受けた側が自分の資源を使います3。資本は活動全体を一括で支えるため、ストレス時に減りやすく、証拠金は取引の組ごとのリスクに合わせて調整できる、という違いもあります3。

証拠金の要求には、高品質で流動性の高い担保を集める負担が伴います。枠組みは、この負担を抑える仕組みとして、当初証拠金の閾値、広い範囲の適格担保、当初証拠金の再担保の許容、段階的な実施を設けました4。

枠組みができた経緯と 8 つの原則

BCBS と IOSCO は、2011 年 10 月に共同のワーキング・グループをつくりました。2012 年 7 月に最初の市中協議文書を、2013 年 2 月に最終案に近い第 2 次の市中協議文書を出し、最終的な枠組みは 2013 年 9 月 2 日に公表されました25。BCBS と IOSCO は、公表後に実施時期を改訂し、2019 年と 2020 年にも延ばしました。

枠組みは、8 つの原則に要素をまとめています6。

原則 内容
1 中央清算されないすべてのデリバティブ取引で、証拠金について適切な実務対応をとる
2 対象主体(金融機関のすべてと、システム上重要な非金融機関)は、清算されない取引で、取引相手のリスクに応じた当初証拠金と変動証拠金を授受する
3 計算の方法は対象主体のあいだでそろえる。当初証拠金は将来のエクスポージャーの見込み、変動証拠金は現在のエクスポージャーを反映し、高い信頼水準でリスクを覆う
4 担保は流動性が高く、ストレス時にヘアカットを引いた後も価値を保てるものにする
5 当初証拠金は、差引なしで授受し、債務不履行時にすぐ使え、徴収した側の破産時は、適用される法の下で最大限可能な範囲で差し入れた側を守る形で保管する
6 同じグループ内の取引も、各法域の法令の枠組みと整合する形で、適切な証拠金規制に従う
7 法域をまたいで整合的で、重複しないように、規制の枠組みを協調させる
8 移行の費用を抑えるため、適切な期間をかけて段階的に実施する。導入後は、有効性を協調して評価する

この枠組みは国際的な最低基準で、各国の当局が国内の制度整備を通じて実施します7。日本の規則は証拠金規制で扱います。

対象になる取引と者

枠組みは、中央清算されないすべてのデリバティブ取引を対象にします。例外として、現物の受渡しを伴う為替フォワードと為替スワップ、通貨スワップの元本交換に付く現物の為替取引は、当初証拠金の対象から外れます。これらの変動証拠金は、為替取引の決済リスクを管理するためのバーゼル委員会の指針を踏まえた基準に沿って授受します。通貨スワップの変動証拠金は、元本交換を含むすべての部分に適用されます8。

対象主体は、金融機関のすべてと、システム上重要な非金融機関です6。当初証拠金は、このうち、中央清算されない取引の平均想定元本の合計(AANA)が基準額を超えるグループに属する者に求めます。基準額は段階的に下がりました(次の節)。基準額の最終段階(日本の規則では 1 兆 1 千億円)の算出では、先物外国為替取引に相当する取引も数えます。金融庁は、日本の規則がこれを含めると定めているのは、最終報告書が同じ旨を規定しているためだと説明しています9。

ここまでの条件を順に当てはめる流れは、図 1 のとおりです。

はいいいえ中央清算されない取引か枠組みの対象の外はいいいえ取引する者は、金融機関か、システム上重要な非金融機関か対象主体の外いいえはい現物受渡しの為替フォワードなど、例外の取引か当初証拠金の対象の外(変動証拠金は別に判定)はいいいえその者のグループの AANAが、適用段階の基準額を超えるか当初証拠金の対象の外(変動証拠金は別に判定)当初証拠金の対象
図 1枠組みと当初証拠金の対象を見る質問の順
図の説明

枠組みと当初証拠金の対象かを、4 つの質問で順に確かめる図です。質問 1 で外れると枠組みの対象の外、質問 2 で外れると対象主体の外、質問 3 が「はい」、または質問 4 が「いいえ」だと、当初証拠金の対象の外です。質問 3 は例外の取引の確認で、現物受渡しの為替フォワードや為替スワップなどが当初証拠金の対象の外になります。すべて通ると当初証拠金の対象で、対象の外でも、変動証拠金は別に判定します。

最終段階(2022 年 9 月 1 日から。基準額は 80 億ユーロ超)の架空の例で考えます。F 社は E 銀行と同じ条件の金融機関(グループの AANA も同じ)で、判定は取引する者ごとに行います。

架空の取引 効いた条件 当初証拠金
E 銀行(金融機関)が、F 社と清算されない金利スワップを結ぶ。グループの AANA は 100 億ユーロ AANA が 80 億ユーロを超える(清算されず、対象主体で、例外でもない) 対象に入る
E 銀行が、F 社と現物を受け渡す為替フォワードを結ぶ。グループの AANA は同じ 100 億ユーロ 現物受渡しの為替フォワードは例外 対象から外れる(変動証拠金は、為替決済のリスクの基準に沿う)
E 銀行が、F 社と清算されない金利スワップを結ぶ。E 銀行のグループの AANA は 50 億ユーロ 清算されず、対象主体で、例外でもないが、AANA が 80 億ユーロを超えない 対象から外れる(変動証拠金は別に判定する)

当初証拠金と変動証拠金で求められること

変動証拠金は、取引の組の現在のエクスポージャー、つまり時価の変動に合わせて授受します。当初証拠金は、取引の組の将来のエクスポージャーの見込みに合わせます。どちらも、すべてのカウンターパーティ・リスクを高い信頼水準で覆うように計算します6。各国の規則は、当初証拠金と変動証拠金を、この基準に沿って定めます。

当初証拠金の扱いには、次の特徴があります。

項目 枠組みの内容
授受の形 お互いに差し引かずに授受する6
保管 相手の債務不履行時にすぐ使え、徴収した側が破産したときに、適用される法の下で最大限可能な範囲で差し入れた側が守られる形にする6
閾値 5,000 万ユーロ未満は、当初証拠金を徴収しないことを選べる統一的な閾値を認める5
再担保 厳しい要件のもとで、1 回に限って認める5
担保 当初証拠金の規制を満たす担保を、広い範囲で認める5
計算 取引の組ごとに、モデルによる方法と標準表による方法がある10

閾値は、徴収しないことを選べるオプションです。必要な当初証拠金が 3,000 万ユーロで、閾値の 5,000 万ユーロ未満に収まる架空の例で考えます。徴収する側は、これを求めないことを選べます。求めなければ、差し入れる側は担保を用意する流動性の負担を免れます。一方で、求めた場合に比べて、相手が債務不履行になったときに使える担保は小さくなります。

当初証拠金のモデルは、業界が開発を続け、BCBS と IOSCO は、モデルが枠組みに合うよう業界と連携するとしました。ただし、個々のモデルを検査したり承認したりするものではないとしています11。業界共通のモデルの 1 つがSIMMです。

担保の価値は、ヘアカットを引いて測ります。原則 4 は、担保が高い流動性を持ち、ストレス時にヘアカット後も価値を保つことを求めます6。担保の契約書には、少額の授受を省く最低受渡額という仕組みがあります。

適用の段階と日付

最終枠組みを公表した 2013 年 9 月の時点では、当初証拠金の授受は 2015 年 12 月に始まり、4 年をかけて段階的に適用される予定でした5。2015 年 3 月 18 日の改訂で、当初証拠金の開始が 9 か月遅れて 2016 年 9 月 1 日になり、段階全体も 9 か月ずれました。変動証拠金は、2016 年 9 月 1 日に始まり、そのうち大きな者から 6 か月の段階をつけて適用する形になりました11。

日付の流れは図 2 のとおりです。

2013 年9 月 2 日最終的な枠組みを公表2015 年3 月 18 日実施時期を改訂2016 年9 月 1 日適用開始(当初証拠金と変動証拠金)2019 年7 月 23 日最終フェーズの実施を 1 年延ばすことに合意2020 年4 月 3 日2 つの最終フェーズの期限を、さらに 1 年延ばすことに合意2022 年9 月 1 日最終の適用段階が始まった
図 2枠組みの公表から最終段階までの日付
図の説明

最終的な枠組みの公表から、最終の適用段階までの日付を、古い順に並べた年表です。節目は、公表、適用開始、最終の適用段階の始まりです。途中に、実施時期の改訂と、最終フェーズの実施を延ばす合意が 2 回あります。間隔は、時間の長さに比例していません。

次の表は、2015 年 3 月の改訂版の表に、2020 年 4 月の延期を反映した適用開始の日付です。基準額は、グループの AANA(平均想定元本の合計)です。

適用開始 当初証拠金 変動証拠金
2016 年 9 月 1 日 AANA が 3 兆ユーロ超 AANA が 3 兆ユーロ超
2017 年 3 月 1 日 - そのほかのすべての対象主体
2017 年 9 月 1 日 2.25 兆ユーロ超 -
2018 年 9 月 1 日 1.5 兆ユーロ超 -
2019 年 9 月 1 日 0.75 兆ユーロ超 -
2021 年 9 月 1 日 500 億ユーロ超 -
2022 年 9 月 1 日 80 億ユーロ超 -

2016 年から 2019 年の段階の判定には、その年の 3 月、4 月、5 月の月末の想定元本の平均を使います11。

2015 年 3 月の改訂版では、80 億ユーロ超の段階は 2020 年 9 月 1 日で、500 億ユーロ超の段階の記載はありませんでした11。2019 年 7 月 23 日に、BCBS と IOSCO は最終フェーズの実施を 1 年延ばすことに合意しました12。2020 年 4 月 3 日、BCBS と IOSCO は、新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえ、2 つの最終フェーズの期限をさらに 1 年延ばしました。この結果、500 億ユーロ超は 2021 年 9 月 1 日、80 億ユーロ超は 2022 年 9 月 1 日になり、上の表の最後の 2 行はこの延期後の日付です13。

最終の段階が 2022 年 9 月に始まったことは、FSBの 2022 年の報告でも確かめられます14。

2019 年以降の見直しと実施の状況

2020 年 4 月の延期のときに BCBS と IOSCO が公表した改訂版には、日付以外の実質的な変更はありません13。

2022 年以降の動きは、FSB の 2022 年の報告書と、2024 年、2025 年の年次報告書によります。2022 年 9 月に、BCBS、CPMI、IOSCO が、清算される市場とされない市場の証拠金の運用を見直した報告書を公表しました15。2024 年の初めには、BCBS と IOSCO が、清算されない市場の変動証拠金の処理を簡素にすることと、当初証拠金のモデルの応答性を扱う協議文書を出しました。最終化の予定は 2024 年末でした16。2025 年の年次報告書によると、清算されない市場への BCBS-IOSCO の提言は、変動証拠金の処理の簡素化と、当初証拠金の応答性の確保に重点があります17。2025 年 1 月に公表された BCBS、CPMI、IOSCO の報告書は、FSB の流動性の備えの提言を補うものです17。

FSB の報告では、導入の時期は法域ごとに違いました。2017 年 6 月の FSB のレビューは、変動証拠金の要件が 2017 年 3 月に 13 の法域で全面的に効力を持ったとしています。一部の法域には、その後も移行措置がありました18。2022 年 11 月の報告では、清算されない取引の証拠金規制が効力を持つ法域は、24 の FSB 加盟法域の 3 分の 2 に当たる 16 でした。2020 年の報告から変わっていません1419。同じ報告は、各法域の状況を次のように伝えています20。

法域 2022 年 11 月の FSB の報告
中国 店頭スワップを扱うすべての証券会社に適用される規則が効力を持つ
インド 2022 年 6 月の通達で、変動証拠金の授受を 2023 年 5 月から義務づけた。当初証拠金は、指針案を意見募集に付した
南アフリカ 2022 年 2 月に、買い手側の準備への懸念と、現金以外の担保の利用の監視を強める必要から、実施を 12 か月延ばして 2023 年 2 月とした
インドネシア 意見募集を終え、インドネシア銀行と OJK が、実施の時期と、平均想定元本の基準額を調整している
メキシコ、トルコ 2023 年に採択か実施の予定

BCBS と IOSCO は、枠組みを国際的に整合させるため、導入後に各国の規則の協調を評価するとしています6。

実務への影響

対象の者は、グループの AANA を適用段階の基準額と比べて、当初証拠金を授受するかを判定します13。授受する場合は、お互いに差し引かず、相手の債務不履行時にすぐ使え、徴収した側が破産したときに、適用される法の下で最大限可能な範囲で差し入れた側が守られる形で保管します6。必要額が 5,000 万ユーロ未満なら、徴収しないことも選べます5。

この記事が書いていないこと

ヘアカットの率と適格担保の一覧、閾値の測り方の細部、当初証拠金の標準表の中身、2024 年末に予定されていた最終化の内容、米国、EU・英国の間の基準額や閾値などの違いは、この記事では扱いません。

注

  1. バーゼル銀行監督委員会、証券監督者国際機構(以下 BCBS・IOSCO)「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制 <要旨>(仮訳)」(金融庁による仮訳。以下「要旨」)の 3 ページ、「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制の目的」。 ↩

  2. 同じ要旨の 2 ページ、「背景」。 ↩ ↩2

  3. 同じ要旨の 4 ページ、「証拠金と資本」。 ↩ ↩2

  4. 同じ要旨の 5 ページ、「証拠金規制が流動性に与える影響」。閾値は Element 2、適格担保は Element 4、再担保は Element 5、段階的な実施は Element 8 で扱います。 ↩

  5. BCBS・IOSCO プレス・リリース「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制」(2013 年 9 月 2 日。金融庁による仮訳)の 1〜2 ページ。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  6. BCBS・IOSCO「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制 <要旨>(仮訳)」の 5〜7 ページ、「主要な原則と規制」の 1〜8 と、「モニタリング及び評価」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8

  7. 同じ要旨の 8 ページ、「モニタリング及び評価」の最後から 2 番目の段落。 ↩

  8. BCBS・IOSCO プレス・リリース「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制」(2013 年 9 月 2 日。金融庁による仮訳)の 1〜2 ページ。 ↩

  9. 金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2015 年 12 月 11 日)の No. 48(印刷ページ 8、PDF 10 ページ目)。金融庁の回答は、日本の規則が最終報告書にならったものであり、同報告書が先物の為替取引に当たる取引も基準額に算入すると定めている、という内容です。 ↩

  10. BCBS・IOSCO「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制 <要旨>(仮訳)」の 7 ページ、「モニタリング及び評価」。モニタリング・グループが、モデル方式と標準表方式を調整できるかを調べるとしています。 ↩

  11. BCBS・IOSCO プレス・リリース「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制の実施時期の改訂の公表」(2015 年 3 月 18 日。金融庁による仮訳)の 1 ページと、2 ページの実施時期の変更点の表。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  12. 金融庁「BCBS(バーゼル銀行監督委員会)及びIOSCO(証券監督者国際機構)による、中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制の最終フェーズ実施の1年延長の合意について」(2019 年 7 月 24 日)。7 月 23 日に合意が公表されたこと。 ↩

  13. BCBS・IOSCO プレス・リリース「バーゼル銀行監督委員会及びIOSCO は、中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制の最終フェーズ実施の延期を表明」(2020 年 4 月 3 日。金融庁による仮訳)の 1 ページ。 ↩ ↩2 ↩3

  14. Financial Stability Board, "OTC Derivatives Market Reforms: Implementation progress in 2022"(2022 年 11 月)の 1 ページと 5 ページ、"Margin requirements for non-centrally cleared derivatives"。 ↩ ↩2

  15. 同じ報告書の 7 ページ。報告書内の脚注 19 が、BCBS、CPMI、IOSCO の "Review of margining practices"(2022 年 9 月)を挙げています。 ↩

  16. Financial Stability Board, "Promoting Global Financial Stability: 2024 FSB Annual Report"(2024 年 11 月 18 日)の 14 ページ(PDF 18 ページ目)。 ↩

  17. Financial Stability Board, "Promoting Global Financial Stability: 2025 FSB Annual Report" の 24 ページ。 ↩ ↩2

  18. Financial Stability Board, "Review of OTC derivatives market reforms"(2017 年 6 月)の 3.2.4 "Collateralisation of non-centrally cleared derivatives"(20 ページ)。 ↩

  19. Financial Stability Board, "OTC Derivatives Market Reforms: Implementation progress in 2022"(2022 年 11 月 7 日)の案内ページ。報告が「24 FSB member jurisdictions」全体の実施を追うものとして説明されています。 ↩

  20. 同じ報告書の 5 ページ、"Margin requirements for non-centrally cleared derivatives"。中国、インド、南アフリカ、インドネシア、メキシコ、トルコの状況。 ↩ ↩2