米国のスワップを扱う事業会社や銀行で、コンプライアンス担当者と取引を確認する実務担当者が、取引にどの法令と当局が関わるかを調べる場面で出てきます。

何を目指す規制か

2009 年に G20 の首脳は、世界的な金融危機で店頭デリバティブ市場が果たした役割を認め、この市場の改革を約束しました1。米国は、2010 年 7 月 21 日にドッド・フランク法を成立させました2。正式名は Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act(Public Law 111-203)です。目的の 1 つは、金融システムの説明責任と透明性を高めて、米国の金融の安定を図ることです3。

デリバティブの規制では、第 7 編(Title VII)が、店頭デリバティブを含むスワップの市場に、新しい規制を置きました。第 7 編の短い題は「Wall Street Transparency and Accountability Act of 2010」です4。

主な法令

米国のデリバティブ規制は、1 つの法律ではなく、次の法令の組み合わせです。ドッド・フランク法は、既存の商品取引所法と証券取引所法に、新しい規定を書き足す形で規制を作りました。

法令 デリバティブに関する中身
商品取引所法(Commodity Exchange Act。CEA) 先物とスワップを規制する法律です。ドッド・フランク法が、清算と登録などの規定を加えました5
証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934。Exchange Act) 証券ベースのスワップを規制する法律です。ドッド・フランク法が、清算、報告、登録の規定を加えました6
ドッド・フランク法の第 7 編 店頭のスワップ市場を規制する Subtitle A と、証券ベースのスワップ市場を規制する Subtitle B に分かれます7
ドッド・フランク法の第 6 編(第 619 条) 銀行の自己勘定取引を原則として禁じる、ボルカールールを置きました8

条文の版は、Public Law 111-203 が 2026 年 10 月 12 日、合衆国法典が 2026 年 10 月 3 日と 6 日、連邦規則集が 2026 年 9 月 30 日時点のものを確かめました。

主な当局

法令ごとに、規則を作って監督する当局が違います。次の表は、各当局の役割を示します。

当局 役割
米国商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission。CFTC) CEA を所管し、スワップの規制を担います。スワップ・ディーラーの登録も CFTC に対して行います9
米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission。SEC) 証券ベースのスワップの規制を担い、証券ベースのスワップ・ディーラーの登録を受けます1011
プルーデンシャル規制当局(prudential regulators) 銀行などのスワップ・ディーラーを所管し、その資本と証拠金の規則を定めます1213

CFTC は、指定された取引所(contract market)やスワップ執行ファシリティで取引されるスワップと先物について、原則として専属の管轄を持ちます14。

CFTC は、スワップの規則を作る前に、SEC とプルーデンシャル規制当局に、可能な範囲で(to the extent possible)相談し、調整することを法律で求められています。SEC も、証券ベースのスワップの規則について、CFTC とプルーデンシャル規制当局に、同じく可能な範囲で相談し、調整することを求められています15。

規制の種類

デリバティブの規制は、清算、取引の場での執行、報告、登録、証拠金と資本、自己勘定取引の 6 つに分けて読めます。次の表は、このうち第 7 編の 5 つについて、根拠の条を、スワップ(CEA)と証券ベースのスワップ(Exchange Act)に分けて示したものです。項と号は脚注に書きました。

規制 スワップ(CEA) 証券ベースのスワップ(Exchange Act)
清算 清算が必要とされたスワップは、登録か免除を受けた清算機関に出さなければなりません(第 2 条)16 清算が必要とされた証券ベースのスワップは、登録か免除を受けた清算機関に出さなければなりません(第 3C 条)17
取引の場での執行 清算が必要なスワップは、指定された取引所かスワップ執行ファシリティで執行します(第 2 条)18 清算が必要な証券ベースのスワップは、取引所か証券ベースのスワップ執行ファシリティで執行します(第 3C 条)19
報告 清算の有無にかかわらず取引と価格を公に開示(第 2 条)。清算機関が受け入れないものはスワップ・データ・リポジトリ(なければ CFTC)に報告(第 4r 条)20 清算機関に受け入れられない証券ベースのスワップは、証券ベースのスワップ・データ・リポジトリか SEC に報告します(第 13A 条)21
登録 スワップ・ディーラーと主要スワップ参加者は CFTC に登録します(第 4s 条)。取引の場の運営者も登録が必要です(第 5h 条)22 証券ベースのスワップ・ディーラーと主要証券ベースのスワップ参加者は SEC に登録します(第 15F 条)23
証拠金と資本 最低資本と、清算されないスワップの証拠金の規則は、プルーデンシャル規制当局がいる者はその当局、いない者は CFTC が定めます(第 4s 条)24 証券ベースのスワップ・ディーラーにも、同じ構成の規定があります(第 15F 条)25

自己勘定取引は、銀行を対象とする別枠の規制で、第 6 編が銀行持株会社法に置いた規定です26。中身はボルカールールで扱います。

連邦規則集の規則

法律が大枠を定め、細かい要件は当局が連邦規則集(CFR)に定めます。次の表は、CFTC の規則のうち、上の規制に対応する部です。

規制 規則 内容
清算 17 CFR Part 50 清算が必要なスワップの種類を指定し、対象のスワップを執行するすべての者が、清算機関に出すことを定めます27
報告 17 CFR Part 43 と Part 45 Part 43 は取引と価格の公の開示、Part 45 はスワップ・データ・リポジトリへの報告を定めます28
取引の場 17 CFR Part 37 スワップ執行ファシリティの登録の要件を定めます29
登録、証拠金と資本 17 CFR Part 23 スワップ・ディーラーと主要スワップ参加者の登録、資本と証拠金、取引の記録などを定めます30

スワップ、証券ベースのスワップ、先物

米国の法令では、デリバティブを一括りにせず、取引の名前で所管と規則が分かれます。CEA は、金利、為替、商品、証券などに基づくオプションや支払いの交換の契約を「スワップ」と定義し、先物と証券ベースのスワップを、その定義から除いています31。Exchange Act は、単一の証券や貸付、狭い範囲の証券の指数などに基づくスワップを「証券ベースのスワップ」と定義します32。分類の詳しい基準と、両方の性質を持つ取引の扱いは、CFTC と SEC の役割分担で扱います。

先物は、CFTC が CEA の下で主に所管します。

いいえはい将来の引渡しのための商品の売買契約(先物)か先物。CFTC がCEA の下で主に所管はいいいえ金利、為替、商品、証券などに基づくオプションか、支払いの交換の契約かスワップの定義の外いいえはい単一の証券や貸付などに基づく、証券ベースのスワップの定義に当たるか証券ベースのスワップ。ExchangeAct、SECスワップ。CEA、CFTC
図 1取引の名前から所管を探す判定フロー
図の説明

取引の名前から所管を探す流れを、3 つの質問で順に確かめる図です。1 つ目が「はい」なら先物で止まります。2 つ目が「いいえ」ならスワップの定義の外で止まり、3 つ目が「はい」なら証券ベースのスワップで止まります。先物でも証券ベースのスワップでもなく、定義の範囲なら、スワップです。両方の性質を持つ取引は、この順序では扱えません。

例:C 銀行と D 社の取引

C 銀行(米国の銀行で、スワップ・ディーラーとして登録している)が、D 社と 2 つの取引を結ぶ架空の例で考えます。図 1 の順に見ます。

取引 取引の名前 根拠の法令と当局 登録と資本・証拠金
C 銀行と D 社が、金利に基づく支払いの交換の契約を結ぶ スワップ CEA と CFTC C 銀行は CFTC に登録し、資本と証拠金はプルーデンシャル規制当局の規則によります
C 銀行と D 社が、単一の会社の株式に基づく支払いの交換の契約を結ぶ 証券ベースのスワップ Exchange Act と SEC C 銀行は、証券ベースのスワップ・ディーラーとして行動するなら SEC に登録します

同じ C 銀行と D 社の取引でも、基づく対象で、引く法令と登録先が変わります。1 行目の取引は、清算されない場合の証拠金の規則をプルーデンシャル規制当局が定めます。清算が必要とされた種類で、免除に当たらなければ、清算機関に出します。2 行目の取引も、資本と証拠金に同じ構成の規定があります。

1 行目が清算の対象かどうかと、免除に当たるかどうかは、スワップの種類を指定する CFTC の規則(17 CFR Part 50)などで決まり、この例では決まりません。

清算・報告・登録の詳細

この記事が書いていないこと

SEC の規則と、先物の規制の中身は、この記事では扱いません。

注

  1. Financial Stability Board, "Review of OTC derivatives market reforms"(2017 年 6 月)の 1 "Executive summary" の冒頭(1 ページ)。 ↩

  2. "Public Law 111-203" の末尾の "Approved July 21, 2010."、冒頭の "July 21, 2010 - [H.R. 4173]"。 ↩

  3. "Public Law 111-203" の前文の冒頭。 ↩

  4. "Public Law 111-203" の目次の第 7 編と、第 701 条(短い題)。 ↩

  5. "Public Law 111-203" の第 723 条(CEA 第 2 条(h)、清算)、第 731 条(CEA 第 4s 条、スワップ・ディーラーと主要スワップ参加者の登録)、第 733 条(CEA 第 5h 条、スワップ執行ファシリティ)。 ↩

  6. "Public Law 111-203" の第 763 条(Exchange Act 第 3C 条、清算)、第 764 条(第 15F 条、登録)、第 766 条(Exchange Act 第 13A 条、報告と記録)。 ↩

  7. "Public Law 111-203" の目次。第 7 編の Subtitle A は第 711 条から第 754 条、Subtitle B は第 761 条から第 774 条です。 ↩

  8. "Public Law 111-203" の第 619 条(銀行持株会社法第 13 条(a)(1))。銀行は、別に定める場合を除き、自己勘定取引や、ヘッジファンドなどの持分の取得、保有、スポンサーをできません。呼び名の出典は 84 FR 35008 の I. Background です。 ↩

  9. "Public Law 111-203" の第 731 条が加えた CEA 第 4s 条(a)(1)。スワップ・ディーラーとして行動する者は、CFTC への登録が必要です。 ↩

  10. "Public Law 111-203" の第 722 条(a)(2)(CEA 第 2 条(a)(1)(G)(i))。CEA の CFTC の管轄の規定は、ドッド・フランク法が SEC に与えた、証券ベースのスワップなどへの管轄を限定しません。 ↩

  11. "Public Law 111-203" の第 764 条が加えた Exchange Act 第 15F 条(a)(1)。証券ベースのスワップ・ディーラーとして行動する者は、SEC への登録が必要です。 ↩

  12. 7 U.S.C. § 1a(39)。プルーデンシャル規制当局を、所管するスワップ・ディーラーなどの種類ごとに定めます。 ↩

  13. "Public Law 111-203" の第 731 条が加えた CEA 第 4s 条(e)(1)(A) と (2)(A)。プルーデンシャル規制当局がいるスワップ・ディーラーと主要スワップ参加者は、その当局が定める最低資本と最低の当初証拠金・変動証拠金を満たします。 ↩

  14. 7 U.S.C. § 2(a)(1)(A) の第 1 文。ドッド・フランク法などが別に定める範囲を除き、CFTC は、指定された取引所とスワップ執行ファシリティなどで取引または執行されるスワップと先物の取引に、専属の管轄を持ちます。 ↩

  15. "Public Law 111-203" の第 712 条(a)(1) と (a)(2)。相談と調整の対象は規則や命令の内容に応じた範囲に限られ、(a)(4) が適用されない場合を定めます。 ↩

  16. "Public Law 111-203" の第 723 条(a)(3) が加えた CEA 第 2 条(h)(1)(A)。清算が必要とされるスワップを、登録か免除を受けた清算機関に出さずに行うことは違法です。 ↩

  17. "Public Law 111-203" の第 763 条が加えた Exchange Act 第 3C 条(a)(1)。清算が必要とされる証券ベースのスワップを、登録か免除を受けた清算機関に出さずに行うことは違法です。 ↩

  18. "Public Law 111-203" の第 723 条(a)(3) が加えた CEA 第 2 条(h)(8)(A)。取引所もスワップ執行ファシリティも、そのスワップを取引可能にしていない場合は適用されません((B))。 ↩

  19. "Public Law 111-203" の第 763 条が加えた Exchange Act 第 3C 条(h)(1)。取引所も証券ベースのスワップ執行ファシリティもそれを取引可能にしていない場合は適用されません((h)(2))。 ↩

  20. "Public Law 111-203" の第 729 条が加えた CEA 第 4r 条(a)(1)((A) リポジトリへの報告、(B) 受け入れるリポジトリがない場合の CFTC への報告)と、第 727 条が加えた第 2 条(a)(13)(リアルタイムの公開報告)。(a)(13)(C) は、清算の有無を問わず公開報告を求めます。 ↩

  21. "Public Law 111-203" の第 766 条が加えた Exchange Act 第 13A 条(a)(1)。清算機関もデリバティブ清算機関も受け入れない証券ベースのスワップは、証券ベースのスワップ・データ・リポジトリか、受け入れる機関がなければ SEC に報告します。 ↩

  22. CEA 第 4s 条(a)(1) と (2)("Public Law 111-203" の第 731 条)、第 5h 条(a)(1)(第 733 条)。スワップの取引や処理のための施設を運営する者は、スワップ執行ファシリティか指定された取引所として登録しなければなりません。 ↩

  23. "Public Law 111-203" の第 764 条が加えた Exchange Act 第 15F 条(a)(1) と (a)(2)。 ↩

  24. "Public Law 111-203" の第 731 条が加えた CEA 第 4s 条(e)(1)(A) と (B)、(e)(2)(A) と (B)。(B) は、プルーデンシャル規制当局がいない者について、CFTC が資本と、清算されないスワップの証拠金の規則を定めると規定します。 ↩

  25. "Public Law 111-203" の第 764 条が加えた Exchange Act 第 15F 条(e)(1) と (2)。プルーデンシャル規制当局と SEC の役割を、CEA 第 4s 条(e) と同じ構成で定めます。 ↩

  26. "Public Law 111-203" の第 619 条(銀行持株会社法第 13 条。12 U.S.C. 1851)(a)(1)(A)。 ↩

  27. 17 CFR Part 50。§ 50.2(a) は、§ 50.4 が指定する種類のスワップを執行するすべての者に、対象の清算機関への提出を求めます。例外は § 50.50 など。 ↩

  28. 17 CFR § 43.1(a)(Part 43 の目的。スワップの取引と価格のデータの報告と公の開示)、§ 45.3(Part 45。スワップの作成データのスワップ・データ・リポジトリへの報告)。 ↩

  29. 17 CFR § 37.1(Part 37 の適用範囲)と § 37.3(a)(1)(複数の参加者が複数の参加者と取引できる施設の運営者が、スワップ執行ファシリティか指定された取引所として登録する要件)。 ↩

  30. 17 CFR Part 23 の Subpart B(登録)、Subpart E(資本と証拠金)、Subpart F(報告、記録の保存、日々の取引記録)、Subpart H(行為規範)。 ↩

  31. 7 U.S.C. § 1a(47)(A)(オプションや支払いの交換などの契約)と (B)(i)(将来の引渡しのための商品の売買契約とそのオプションを除く)、(B)(x)((D) に当たるものを除き、証券ベースのスワップを除く)。 ↩

  32. 15 U.S.C. § 78c(a)(68)(A)。CEA 第 1a 条のスワップにあたり(同条(47)(B)(x) は考えません)、かつ、狭い範囲の証券の指数、単一の証券か貸付、または単一の発行体か指数の発行体に関する事象に基づくものです。事象に基づくものは、その事象が発行体の財務諸表、財政状態、または財務上の債務に直接影響する場合に限ります。 ↩