デリバティブを顧客に提供する営業、決済、リスク管理、コンプライアンスの業務では、手元の取引にどの法令と当局が関わるかを確かめる場面が出てきます。
何を目的に、どの取引を規制するか
日本のデリバティブの規制は、取引の種類ごとに根拠の法令が分かれています。中心になる金融商品取引法(金商法)は、金融商品等の取引等を公正にし、投資者の保護に資することを目的にしています1。
店頭デリバティブ取引について、2009 年の G20 ピッツバーグ・サミットの首脳声明は 3 点を掲げました。標準化された契約は、遅くとも 2012 年末までに清算機関で清算し、適切な場合は取引所か電子取引基盤で取引すること。すべての契約を取引情報蓄積機関に報告すること。清算されない契約には、高い資本を求めることです2。
日本の 2010 年の金商法の改正は、金融危機を受けた国際的な議論を踏まえたものです。店頭デリバティブ取引等の決済の安定性と透明性を高めるため、清算機関の利用を義務づけ、取引情報の保存・報告の制度を設けました3。
取引の種類ごとの区分は次のとおりです。金商法は、デリバティブ取引を次の 3 つに分けます(表の上 3 行)4。農産物や鉱物などの商品のデリバティブ取引のうち、商品市場の取引や店頭商品デリバティブ取引などは、商品先物取引法が別に定めます(表の 4 行目)5。ただし、金融商品取引所の市場で行う一部の商品の取引は金商法の対象です6。その範囲は、商品先物取引法で扱います。
| 取引の種類 | 法令の定義 | 根拠の法令 |
|---|---|---|
| 市場デリバティブ取引 | 金融商品市場(金融商品取引所が開設する市場を含みます)で、市場を開設する者の定める基準と方法に従って行う取引 | 金商法 |
| 店頭デリバティブ取引 | 金融商品市場と外国金融商品市場によらずに行う取引。政令で定めるものは除きます | 金商法 |
| 外国市場デリバティブ取引 | 外国金融商品市場で行う、市場デリバティブ取引と類似の取引 | 金商法 |
| 商品のデリバティブ取引 | 商品市場の取引、外国商品市場の取引、店頭商品デリバティブ取引 | 商品先物取引法 |
図 1 は、この表の区分を質問の順に並べたものです。
図の説明
商品の取引は、金融商品の取引と違い、商品先物取引法が中心になります。政令で除かれる取引は含みません。金融商品取引所の市場で行う一部の商品の取引は金商法の対象で、図 1 では商品の取引の例外にあたります。
金利スワップと商品先物の架空の例で考えます。
- R 銀行が S 社と、取引所や外国市場を使わずに相対で金利スワップを結ぶ取引です。対象が金利で、金融商品市場も外国金融商品市場も使わないので、店頭デリバティブ取引(金商法)になります。この取引に清算集中などの規制がかかるかは、府令が定める範囲で決まります。
- S 社が、商品取引所が開設する商品市場で商品の先物を売買する取引です。対象が金融商品ではなく商品なので、商品先物取引法が中心になる取引です。一部の商品を金融商品取引所の市場で取引する場合は、金商法の対象になります。
規制する法令とそれぞれの役割
デリバティブ取引を行う者には、次の表のとおり、法令ごとに異なる規制がかかります。
| 法令 | 役割 |
|---|---|
| 金融商品取引法(金商法) | 登録制と行為規則、店頭デリバティブ取引の清算集中、取引情報の提供、電子取引基盤の使用を定めます7 |
| 金融商品取引業等に関する内閣府令(金商業等府令) | 金商法の委任を受け、業務の運営の状況として問題になる状況を定めます。証拠金規制は、この定めの 1 つです8 |
| 店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令(店頭デリバティブ府令) | 金商法の委任を受け、清算集中義務の対象になる取引の範囲、取引情報の保存と報告、取引情報蓄積機関について定めます9 |
| 金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律(金融サービス提供法) | デリバティブ取引を含む金融商品の販売で、顧客への重要事項の説明と、断定的判断の提供の禁止を定めます |
| 商品先物取引法 | 商品市場の組織と取引の管理、商品先物取引業を行う者の業務を定めます。商品先物取引業を営めるのは、主務大臣の許可を得た者だけです10 |
| 銀行法 | 銀行の業務の健全かつ適切な運営を目的にし、自己資本の充実の状況を判断する基準の根拠になります |
金商法は、契約前の情報提供や適合性原則などの行為規則も定めます。登録を受けた金融商品取引業者と、銀行などの登録金融機関を、法令は「金融商品取引業者等」と呼びます11。
金融サービス提供法は、販売する者が顧客に重要事項を説明する義務(説明義務)を定めます。説明をしなかったときと断定的判断を提供したときは、損害賠償責任を負います12。
銀行法に基づき、内閣総理大臣は、銀行の自己資本の充実の状況を判断する基準を定めることができます。この基準にあたる告示が自己資本比率の規制で、デリバティブ取引(派生商品取引)の扱いも定めています13。
監督する当局と自主規制機関
デリバティブの監督は、金融庁が中心です。内閣総理大臣は、金商法、銀行法、金融サービス提供法の権限(政令で定めるものを除く)を金融庁長官に委任しています14。
| 組織 | 役割 |
|---|---|
| 金融庁 | 内閣総理大臣から委任された権限で、金融商品取引業者等と銀行を監督します |
| 財務局 | 金融庁長官は、委任された権限の一部を財務局長または財務支局長に委任できます14 |
| 日本銀行 | 取引先の金融機関と考査の契約を結び、立ち入って業務と財産の状況を調べます。金融庁長官から要請があれば、考査の結果の資料を提出できます15 |
| 経済産業省、農林水産省 | 商品先物取引法の主務大臣です。商品先物取引業者は農林水産大臣と経済産業大臣の両方、商品取引所などは扱う商品の区分で所管が分かれます16 |
| 金融商品取引業協会(日本証券業協会など) | 金商法が定める自主規制機関で、会員の業務に関する自主規制規則を定めます。日本証券業協会の規則には「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」があります17 |
| 金融商品取引所、自主規制法人 | 上場や会員等の法令遵守の調査といった自主規制業務を行います |
| 日本取引所自主規制法人 | 東京証券取引所と大阪取引所から委託を受けて、自主規制を行います18 |
| 商品取引所 | 商品市場を開設し、自主規制業務(会員等の調査、除名などの措置)を適切に行う義務を負います。2025 年 3 月時点で、東京商品取引所と堂島取引所の 2 つです19 |
金融庁の監督の事務の進め方と主な着眼点は、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針と、主要行等向けの総合的な監督指針などに示されています20。
金融商品取引所が自主規制業務を自主規制法人に委託するときは、内閣総理大臣の認可が要ります21。
条文は 2026 年 10 月 3 日時点で公開されている版(金商法、銀行法、金融サービス提供法は 2026 年 8 月 12 日に施行された改正まで)を確かめました22。
規制の内容と、読むページ
金融庁は、清算集中規制、取引情報報告、電子取引基盤規制、証拠金規制の 4 つを店頭デリバティブ取引規制と呼んでいます23。次の表は、この 4 つに、金商法の構造、顧客保護、銀行の自己資本比率規制を加えた一覧です。
| 規制 | 内容 | 詳しく扱うページ |
|---|---|---|
| 金商法の構造 | 登録、行為規制、取引の区分など、金商法の骨組み | 金融商品取引法とデリバティブ |
| 清算集中義務 | 金融商品取引業者等は、内閣府令で定める店頭デリバティブ取引を行うとき、自己と相手方の債務を清算機関に負担させなければなりません24 | 清算集中義務 |
| 取引情報の報告制度 | 金融商品取引業者等は、取引情報蓄積機関などへ取引の情報を提供する義務を負い、提供の方法は内閣府令が定めます。清算機関にも同様の義務があります25 | 取引情報の報告制度 |
| 電子取引基盤の使用義務 | 店頭デリバティブ取引のうち、金融庁長官が指定する円建ての金利スワップを、電子情報処理組織を使って行う義務26 | 電子取引基盤の使用義務 |
| 証拠金規制 | 清算機関が債務を負担しない店頭デリバティブ取引で、変動証拠金と当初証拠金を授受する措置を講じる必要があります。対象になる取引と例外は、府令の定めによります27 | 証拠金規制 |
| 適合性原則と説明義務 | 顧客への勧誘と説明について、金商法と金融サービス提供法が課す義務 | 適合性原則と説明義務 |
| 銀行の自己資本比率規制 | 銀行の自己資本を、保有する資産のリスクに応じて確保する基準 | リスク・アセット(RWA) |
2010 年の改正から施行まで
清算集中義務と取引情報の保存・報告の制度は、2010 年の金商法改正の公布から 2 年 6 か月以内に施行する定めで、施行日は 2012 年 11 月 1 日でした28。証拠金規制は、改正法ではなく金商業等府令の規定で、その規定が 2016 年 9 月 1 日に施行されました29。
| 日付 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|
| 2010 年 3 月 9 日 | 提出 | 金融商品取引法等の一部を改正する法律案を国会に提出30 |
| 2010 年 5 月 12 日 | 成立 | 参議院本会議が全会一致で可決し、成立30 |
| 2010 年 5 月 19 日 | 公布 | 平成 22 年法律第 32 号として公布31 |
| 2012 年 7 月 11 日 | 公布 | 店頭デリバティブ府令(平成 24 年内閣府令第 48 号)を公布32 |
| 2012 年 11 月 1 日 | 施行 | 清算集中義務と取引情報の保存・報告の制度。店頭デリバティブ府令も同日に施行32 |
| 2016 年 9 月 1 日 | 施行 | 証拠金規制を定める金商業等府令の規定29 |
施行日より前に行われた取引は、店頭デリバティブ府令の附則により、清算集中義務などの対象になる取引に当たらないものとされました33。取引情報については、条文で「提供」と「保存・報告」の両方の言い方が使われます79。
この記事が書いていないこと
金商法に公布済みで未施行の改正、個別の取引への規制の適用の有無(清算集中の対象になるか、説明義務がかかるかなど)、電子取引基盤の使用義務の施行日は、この記事では扱いません。
注
-
「金融商品取引法」第 1 条(目的)。 ↩
-
「G20 Leaders Statement: The Pittsburgh Summit」(G20 Information Centre、2009 年 9 月 24〜25 日)の、標準化された OTC デリバティブ契約を扱う段落。 ↩
-
参議院「議案審議情報 金融商品取引法等の一部を改正する法律案」(第 174 回国会、閣法第 44 号)の議案要旨の冒頭と「一」(店頭デリバティブ取引等の決済の安定性・透明性の向上)の 2 と 3。 ↩
-
「金融商品取引法」第 2 条第 20 項(デリバティブ取引)、第 21 項(市場デリバティブ取引)、第 22 項(店頭デリバティブ取引)、第 23 項(外国市場デリバティブ取引)。金融商品市場は同条第 14 項、金融商品取引所は同条第 16 項、取引所金融商品市場は同条第 17 項。 ↩
-
「商品先物取引法」第 2 条第 1 項(商品)、第 14 項(店頭商品デリバティブ取引)、第 15 項(商品デリバティブ取引)。 ↩
-
「金融商品取引法」第 2 条第 8 項第 1 号。金融商品取引所の市場で行う指定の商品の取引は、「商品関連市場デリバティブ取引」です。指定の商品は、同条第 24 項第 3 号の 3 と「金融商品取引法施行令」第 1 条の 17 の 2 が定めます。 ↩
-
「金融商品取引法」第 29 条(金融商品取引業の登録)、第 40 条の 7(電子情報処理組織の使用義務)、第 156 条の 62(清算集中)、第 156 条の 63 と第 156 条の 64(取引情報の提供)、第 156 条の 65(取引情報蓄積機関による取引情報の保存及び報告)。 ↩ ↩2
-
「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 123 条第 1 項(金商法第 40 条第 2 号に規定する内閣府令で定める状況)の第 21 号の 10(変動証拠金)と第 21 号の 11(当初証拠金)。 ↩
-
「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令」の目次。第 2 章 清算集中(第 2 条と第 2 条の 2)、第 3 章 取引情報の保存及び報告(第 3 条から第 11 条の 2)、第 4 章 取引情報蓄積機関。 ↩ ↩2
-
「商品先物取引法」第 1 条(目的)、第 190 条第 1 項(商品先物取引業の許可)。 ↩
-
「金融商品取引法」第 33 条の 2(金融機関の登録)、第 34 条(金融商品取引業者等の定義)、第 37 条の 3(契約締結前の情報の提供等)、第 40 条第 1 号(適合性の原則)。 ↩
-
「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」第 3 条第 1 項第 8 号(市場デリバティブ取引と外国市場デリバティブ取引)と第 9 号(店頭デリバティブ取引)、第 4 条(説明義務)、第 5 条(断定的判断の提供等の禁止)、第 6 条(損害賠償責任)。 ↩ ↩2
-
「銀行法」第 1 条(目的)、第 14 条の 2 第 1 項第 1 号(自己資本の充実の状況の基準)。基準にあたる告示は、平成十八年金融庁告示第十九号。デリバティブ取引の扱いは、第六章第四節(第 79 条から第 79 条の 4)。 ↩
-
「金融商品取引法」第 194 条の 7 第 1 項(金融庁長官への権限の委任)と第 6 項(財務局長または財務支局長への委任)、「銀行法」第 59 条第 1 項と第 2 項、「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」第 137 条第 1 項。 ↩ ↩2
-
「日本銀行法」第 44 条第 1 項(考査の契約)と第 3 項(金融庁長官への資料の提出)。 ↩
-
「商品先物取引法」第 354 条第 1 項(主務大臣)。第 3 号は、商品先物取引業者などの主務大臣を農林水産大臣と経済産業大臣とします。第 1 号と第 2 号は、農林水産省関係商品または経済産業省関係商品だけを扱う商品取引所などの主務大臣を、それぞれの大臣とします。 ↩
-
「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(金融庁、2026 年 10 月)の II-1 の(3)(金融商品取引業協会)と IV-3-1-2(日本証券業協会の自主規制規則)。協会が規則を作ることは、「金融商品取引法」第 67 条の 8 第 1 項第 10 号にも表れています。 ↩
-
日本取引所グループ「自主規制」のページの、日本取引所自主規制法人(東京証券取引所と大阪取引所から受託)の説明。 ↩
-
「商品先物取引法」第 5 条の 2(自主規制業務)。第 1 項は適切な実施を求め、第 2 項は会員等の遵守状況の調査と除名などの措置を挙げます。取引所が 2 つであることは、農林水産省「商品先物取引とは」の「Q&A」の Q1(2025 年 3 月時点)。 ↩
-
「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(金融庁、2026 年 10 月)の目次 II(監督に係る事務処理上の留意点)と各章の「主な着眼点」の項。「主要行等向けの総合的な監督指針」(金融庁、2026 年 10 月)の目次の II と「主な着眼点」の項。 ↩
-
「金融商品取引法」第 84 条(自主規制業務)と第 85 条第 1 項(自主規制法人への委託)。 ↩
-
e-Gov 法令検索の「金融商品取引法」の改正履歴。未施行の改正は、2026 年 11 月 30 日施行から 2028 年 6 月 13 日施行まで。 ↩
-
金融庁「店頭デリバティブ取引規制関連」のレガシー契約の項(店頭デリバティブ取引規制として清算集中規制、取引情報報告、電子取引基盤規制、証拠金規制を挙げる)。 ↩
-
「金融商品取引法」第 156 条の 62 第 1 号。 ↩
-
「金融商品取引法」第 156 条の 64 第 1 項(金融商品取引業者等による提供)と第 156 条の 63 第 1 項(清算機関等による提供)。 ↩
-
「金融商品取引法」第 40 条の 7 第 1 項、「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 125 条の 7 第 1 項(第 2 項に、特定店頭デリバティブ取引から除かれる取引)。 ↩
-
「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 123 条第 1 項第 21 号の 10(変動証拠金)と第 21 号の 11(当初証拠金)。非清算店頭デリバティブ取引は、同号の定義(清算機関が債務を負担するものなどを除く店頭デリバティブ取引)。法第 40 条第 2 号が、この措置の根拠です。 ↩
-
参議院「議案審議情報」の議案要旨の「四、施行期日」(清算機関の利用の義務付けと取引情報の保存・報告は、公布の日から起算して二年半を超えない範囲内において政令で定める日)。金融庁の公表(2012 年 4 月 27 日)の題は「平成22年金融商品取引法等改正(2年6ヶ月以内施行)に係る内閣府令案等の公表について」。施行日は「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令」附則第 1 条。 ↩
-
「金融商品取引業等に関する内閣府令」の改正府令の附則第 1 条(この府令は、平成 28 年 9 月 1 日から施行する)。 ↩ ↩2
-
金融庁「第 174 回国会における金融庁関連法律案」の「成立した法律」(平成 22 年 3 月 9 日提出、平成 22 年 5 月 12 日成立)。参議院の議案審議情報では、参議院本会議の議決日が平成 22 年 5 月 12 日、採決態様が全会一致。 ↩ ↩2
-
参議院「議案審議情報」の公布年月日(平成 22 年 5 月 19 日)と法律番号(32)。 ↩
-
「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令」の附則第 1 条(施行期日は平成 24 年 11 月 1 日)。公布の日は e-Gov の法令情報(平成 24 年内閣府令第 48 号、2012 年 7 月 11 日)。 ↩ ↩2
-
「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令」の附則第 2 条第 1 項。金融庁「店頭デリバティブ取引規制関連」は、規制の施行日前に行われた取引(レガシー契約)を、経過措置として規制の対象外とします。 ↩