取引相手と一括清算の契約を結んだ銀行が、その効果を自己資本比率の計算に使うときに、リーガル・オピニオンを取って確かめます。

リーガル・オピニオンは何を確かめるものか

確かめる中身は、取引相手が破綻したときに、契約どおりの一括清算が法律上認められるかどうかです。

一括清算は、契約に書いてあるだけでは働きません。取引相手の破綻を扱う法域の法律が認めていることが前提です。この前提は一括清算(クローズアウト・ネッティング)で扱います。

日本の自己資本比率規制の基準は、銀行法第 14 条の 2 の規定に基づく金融庁の告示(以下「告示」)が定めています。告示は、ネッティングの効果を認める前提として、契約が「法的に有効な相対ネッティング契約」であることを求めます。これは、関係する国々の法律に照らして有効と言える契約のことです。金融庁の Q&A は、この有効性を書面の法的見解(リーガル・オピニオン)で確かめるとします。見解は、争いが生じたときに所管の法廷と当局が、銀行のエクスポージャーはネット後の額にとどまると判断するであろう、と合理的に述べるものです1。同じ Q&A は、オピニオンの作成者を、外部の法律事務所や自社の法務関連部署などと例示します2。

確かめる法律の組み合わせ

確かめる対象は 1 つの法律ではなく、取引相手と契約で決まる法律の組み合わせです。金融庁の Q&A は、関連する法律を次の 3 つとしています1。

  • 取引相手に設立の許認可を与えた国の法律(取引相手の海外支店が含まれるときは、その支店が所在する国の法律も)
  • ネッティングの対象になる個々の取引に係る法律
  • ネッティングの実行に要る契約に係る法律

EU の資本要求規則の第 296 条も、オピニオンが言及すべき法域を 4 つ挙げます。取引相手の設立の法域、支店がある場合はその所在地の法域、個々の取引の準拠法の法域、ネッティングに必要な契約の準拠法の法域です3。

日本の銀行が、P 国で設立され Q 国に支店がある Z 社と取引する架空の例で考えます。銀行は Z 社の本店とも Q 国の支店とも取引し、個々の取引と基本契約書は日本の法律に準拠するとします。

確かめる法律 Z 社の例で当たる法域
取引相手に設立の許認可を与えた国の法律 P 国
取引相手の海外支店が含まれるときの、その支店の所在国の法律 Q 国
ネッティングの対象になる個々の取引に係る法律 日本
ネッティングの実行に要る契約に係る法律 日本

この例では、P 国、Q 国、日本の 3 つの法域のそれぞれで、一括清算が有効と認められる見通しを確かめることになります。契約の準拠法が別の国の法律なら、確かめる法域が増えます。

オピニオンは、個々の契約ごとに取るとは限りません。EU の規則は、オピニオンをネッティングの型ごとに作ってよいとします4。金融庁の Q&A も、規制上、契約ごとの取得は必ずしも必要としません。ただし銀行は、締結済みの個々の契約が、取得済みのオピニオンに照らして法的に有効と判断できるかを確かめ、必要ならオピニオンを補強するものとされています2。

契約の中身が結論を左右する例もあります。ウォーク・アウェイ条項は、債務不履行をした当事者がネットで債権者になる場合でも、相手方が支払いを限るか全く支払わないことを認める条項です。Q&A は、この条項を含む契約では、与信相当額(デフォルト時エクスポージャーにあたる額)の算出でネッティングの効果を勘案できないとしています5。

異なる商品をまたぐ(クロス・プロダクト)ネッティングでは、確かめる範囲が広がります。EU の規則では、オピニオンが契約全体の有効性と、ネッティングが含まれる個別の基本契約の重要な条項に与える影響を扱う必要があります4。米国の連邦準備制度の規則も、クロス・プロダクトのマスター・ネッティング契約については、書面の法的意見を求めています6。

規制がオピニオンなどの確認を求める条件

規制の側から見ると、オピニオンは、ネッティングの効果を資本の計算に使うための条件を満たす手段です。日本、EU、米国の規定を並べます。

規則 求める確認 箇所
日本の告示(ネッティング・セットの定義) 有効な契約の下にある取引だけが、集合として 1 つのネッティング・セットになる 第 79 条第 7 項7
日本の告示(期待エクスポージャー方式を使う銀行) ネッティング契約の効果を勘案する条件の 1 つとして、外国の法令も含め、関係する全ての法令で有効かを適切に確認していること 第 79 条の 3 第 16 項第 2 号8
日本の告示(同上) 契約が法的に有効かを点検する手続を、社内に整えていること 第 79 条の 3 第 3 項第 4 号9
金融庁の Q&A 確認の方法は、書面による合理的な法的見解の存在を確かめること 第 79 条の 2-Q20、Q211
EU の資本要求規則 書面で理由を付けた法的見解を所管当局が使えるようにすること。挙げた法域のどれかで有効と当局が納得できなければ、リスクを減らすものとして認めない 第 296 条第 2 項3
米国の連邦準備制度の規則 十分な法的検討を行って根拠のある結論を得て、検討を書面で残すこと。法律の変更を監視する書面の手順を持つこと 12 CFR § 217.3(d)10

3 つの規則は、いずれも有効性を関係する法域の法律で確かめることを求めます。確認の書き方は違い、日本の告示(期待エクスポージャー方式の条件)は有効性を適切に確認することを、EU の規則は書面で理由を付けた法的見解を、米国の規則は十分な法的検討とその書面の記録を求めます。

オピニオンがないときの計算

オピニオンで有効性を確かめられない取引相手では、ネッティングの効果を使えない可能性があります。告示の定義では、法的に有効な相対ネッティング契約の下にある取引の集合が 1 つのネッティング・セットになり、それ以外の取引は個別取引ごとに 1 つのネッティング・セットになります7。有効性を確かめられない契約が個別取引になるという結びつけは、この定義と Q&A の有効性の判断から読み取った整理です。

ここまでの条件を、ネッティングの効果を与信相当額に使えるかの判定として並べます。

はいいいえ関係する法域の法律で、一括清算が有効と確認できたか個別取引ごとに扱われうるいいえはい契約は、ウォーク・アウェイ条項を含むか与信相当額で効果を勘案できない原則として効果を勘案できる
図 1ネッティングの効果を与信相当額に使えるかの判定
図の説明

2 つ目の質問は、「はい」なら契約にウォーク・アウェイ条項があり、与信相当額で効果を勘案できません。「いいえ」なら次へ進みます。期待エクスポージャー方式を使う銀行には、与信相当額のリスク管理手続への組み込みや文書の保存といった、この図にない条件もあります。

Z 社との取引を 3 つの場合に分けた架空の例で考えます。

  • 例 1(P 国、Q 国、日本のすべてで有効と確認でき、契約にウォーク・アウェイ条項がない場合)は、原則として、Z 社との取引の集合でネッティングの効果を勘案できます。
  • 例 2(P 国と日本は有効と確認できたが、Q 国の支店の法域は確認できない場合)は、銀行が Z 社の支店とも取引しているので、Q 国も関係する法域です。取引は個別取引ごとに扱われうると読み取れます。図の終点は取引全体が個別になる形ですが、支店との取引だけが外れるのか、本店との取引も含めて個別になるのかは、この読み取りでは決まりません。
  • 例 3(3 つの法域のすべてで有効と確認できたが、契約にウォーク・アウェイ条項がある場合)は、与信相当額でネッティングの効果を勘案できません5。有効性の確認だけでは足りない例です。

例 1 のように確認できる場合と、例 2 の読み取りを単純にして取引がすべて個別に扱われる場合で、再構築コストがどう変わるかを数値で見ます。SA-CCRの与信相当額は、ネッティング・セットごとに 1.4×(RC+PFE)1.4 \times (RC + PFE) で求めます。RCRC は再構築コスト、PFEPFE はポテンシャル・フューチャー・エクスポージャーです。担保の契約がないときの RCRC は次の式です11。

RC=max⁡{V−C, 0}RC = \max\{V - C,\ 0\}

VV は、そのネッティング・セットに入る取引の時価を足し合わせた額、CC はヘアカット調整後のネット担保額です(告示の定義による)。

銀行と Z 社の 3 つの取引の時価を、銀行から見て次の 3 つの場合に分けた架空の例で考えます。プラスは銀行が受け取る額、マイナスは払う額です。担保はなく、C=0C = 0 とします。PFEPFE と 1.4 の掛け算は省き、RCRC だけを比べます。時価の単位は億円です。

場合 取引 1 取引 2 取引 3 合計 VV
A +9 −4 −3 +2
B +3 −5 −2 −4
C +4 +2 +1 +7

この 3 つの場合の RCRC は、有効性を確認できたときと、確認できずに取引ごとに扱われるときで、次のようになります。単位は億円です。

場合 確認できたときの RCRC 確認できないときの RCRC の合計
A 2 9
B 0 3
C 7 7

場合 A では、有効性を確認できれば合計の 2 億円が RCRC になります。確認できなければ、取引 1 の 9 億円が単独で RCRC になり、取引 2 と取引 3 は時価がマイナスなので 0 です。場合 B では合計がマイナスなので、確認できれば RCRC は 0、確認できなければ取引 1 の 3 億円が残ります。場合 C は、3 つの時価がすべてプラスなので、確認できてもできなくても差が出ません。つまり、ネッティングの効果は、プラスとマイナスの取引が混ざっているときに RCRC を小さくします。

実際の与信相当額には PFEPFE も加わり、担保の契約があれば式も変わります。この表は、確認の有無が計算の入力をどう変えるかを見るための単純な例です。

法律の改正とオピニオンの見直し

オピニオンは、書かれた時点の法律に照らした見解です。法律が変われば、結論の前提が変わりえます。米国の連邦準備制度の規則は、ネッティング契約が条件を満たし続けることを確かめるため、関係する法律の変更を監視する書面の手順を持つことを求めています10。

法改正の例として、破綻処理の制度があります。日本では、2013 年の預金保険法の改正で第 137 条の 3 が新設されました。内閣総理大臣は、一定の認定などを行う場合に、その措置を理由とする契約の特定解除等(一括清算を含む)を定めた条項を、措置実施期間中は効力を有しないとする決定ができます12。2015 年ごろの整理では、EU には当局がネッティングの実行を一時的に止められる制度があり、この停止が他の法域の取引相手にも及ぶのかははっきりしていませんでした12。

こうした制度は、一括清算の効く範囲に関わりうるものです。

オピニオンでは分からないこと

米国の規則が求めるのは、争いになったときに裁判所と当局がどう判断するかについて、根拠のある結論を持つことです10。金融庁の Q&A も、所管の法廷と当局が判断する「であろう」ことを示す見解としています1。オピニオンは判断の見通しを示すもので、実際の判断は、争いが生じたときに所管の法廷と当局が下します。

オピニオンがカバーしない部分もあります。個々の契約が取得済みのオピニオンに照らして有効と判断できないなど必要な場合は、銀行がオピニオンを補強します2。また、有効性を確かめられなかったときの扱いは規則が定めます。EU の規則は、そのネッティング契約をリスクを減らすものとして認めません3。米国の規則も、条件を満たさない契約を適格なマスター・ネッティング契約として認めません10。

社内でのオピニオンの管理

確認を続けるには、どの取引相手のどの契約がどのオピニオンの対象かを、取引の計算に結びつけて持つ設計が考えられます。日本の告示では、期待エクスポージャー方式を使う銀行がネッティング契約の効果を勘案する条件に、ネッティングを織り込んだ与信相当額をふだんのリスク管理の手続に組み込むことと、契約に関わる書類を全て適切に保管することが入っています8。

取引相手の契約の内容は、ISDA マスター契約などの基本契約書にあります。契約書の体系はISDA マスター契約とスケジュールで扱います。

この記事が書いていないこと

オピニオンの意見の種類や前提の一覧は、この記事では扱いません。

注

  1. 金融庁「自己資本比率規制に関するQ&A」(2026 年 8 月 24 日更新の全体版)の「第 79 条の 2-Q20」(130 ページ)。この Q は平成 18 年 7 月 28 日に追加、平成 30 年 3 月 23 日に修正された。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  2. 同 Q&A の「第 79 条の 2-Q21」(130〜131 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  3. Regulation (EU) No 575/2013 の第 296 条第 2 項(b)(legislation.gov.uk が "Latest available (Revised)" として掲載する版を 2026 年 10 月 5 日に確認)。(b) の (i) から (iv) が 4 つの法域で、第 2 項の末尾が、法域のどれかで有効と当局が納得できなければリスク削減として認めないとする。 ↩ ↩2 ↩3

  4. Regulation (EU) No 575/2013 の第 296 条第 3 項(legislation.gov.uk の同じ版)。第 3 項の冒頭がネッティングの型ごとのオピニオンを認め、(b) がクロス・プロダクトの契約全体と、含まれる個別の基本契約への影響を扱うことを求める。 ↩ ↩2

  5. 同 Q&A の「第 79 条の 2-Q19」(130 ページ)。ウォーク・アウェイ条項の説明は同 Q の注。 ↩ ↩2

  6. 12 CFR § 217.3(c)(Legal Information Institute, Cornell Law School が掲載する e-CFR を 2026 年 10 月 5 日に確認)。連邦準備制度理事会の規制の対象となる機関についての規定。 ↩

  7. 同告示の第 79 条第 7 項(189〜190 ページ)。ネッティング・セットを、法的に有効な相対ネッティング契約の下にある取引ではその集合、それ以外の取引では個別取引と定める。 ↩ ↩2 ↩3

  8. 金融庁「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(2026 年 8 月 24 日更新の全体版)の第 79 条の 3 第 16 項第 1 号から第 4 号(211〜212 ページ)。第 2 号が有効性の確認、第 3 号が与信相当額のリスク管理手続への組み込み、第 4 号が文書の保存。 ↩ ↩2

  9. 同告示の第 79 条の 3 第 3 項第 2 号から第 4 号(207 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  10. 12 CFR § 217.3(d)(同上)。(1) が十分な法的検討("well-founded basis")と書面の記録、(2) が関係する法律の変更を監視する書面の手順。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  11. 同告示の第 79 条の 2 第 1 項と第 2 項第 1 号(190〜191 ページ)。計算例の VV と CC の定義も同号。例は担保がなく C=0C = 0 の場合。 ↩

  12. 神田秀樹「デリバティブ取引に関する法の動向――ネッティングを中心として――」(全国銀行協会 金融法務研究会の報告書の第 2 章。URL のファイル名は 2015 年度)の 24 ページ。預金保険法第 137 条の 3 の新設と、EU の当局によるネッティングの一時停止が、他の法域の取引相手にも及ぶかどうか明らかでなかったことを述べる。 ↩ ↩2