トレーディングの部署が新しい商品や新しい市場の取引を始めようとするとき、導入の前にリスクを測り管理する体制を確かめる業務で出てくる内容です。

新商品の審査は何のためにあるか

新商品の審査は、新しい商品を扱い始める前に、その商品のリスクを測り、監視し、管理する体制があるかを確かめるためにあります。米国の連邦準備制度理事会の検査の手引き(1998 年 2 月)は、一般に、銀行は、ある条件がそろうまで商品を取引すべきではないとしています。条件は、経営陣と、リスク管理、内部統制、法務、会計、監査の関係者が商品を理解し、金融機関のリスクの計測と管理の仕組みに組み込めることです1。検査官は、新商品を見直す正式な手続があるかを確かめます1。

バーゼル銀行監督委員会の「コーポレート・ガバナンスを強化するための諸原則」(2010 年 10 月)は、銀行が新商品承認のプロセスを持つべきだとしています2。この諸原則は、2015 年 7 月の「銀行のためのコーポレート・ガバナンス諸原則」に取って代わられました3。

何を新商品として審査するか

審査の対象は、新しい商品だけではありません。バーゼル銀行監督委員会(バーゼル委)の 2010 年の諸原則は、承認のプロセスで評価するリスクに、新商品のものだけでなく、既存の商品を大きく変えるとき、業務ラインを新設するとき、新しい市場に参入するときのものも含めるべきだとしています2。

検査の手引きの法務の節(2002 年 9 月)では、対象に、新しい法域で初めて提供する商品と、新しい種類の取引相手に提供する商品が挙がっています。後者の例は、機関投資家向けの商品を個人顧客に提供する場合です。大幅に変更した既存の商品も対象です4。新商品の定義は、金融機関の規模、複雑さ、高度さに合わせるべきだとされ、支払の計算式などの条件の小さな変更でも、リスクの性格が大きく変わるなら新商品として扱う理由になります4。

検査の手引きの概観の節(1998 年 2 月)は、デリバティブを活発に扱う金融機関が、既存の商品の変形にあたる新商品を数多く作ることを指摘しています。特にオプションの商品では、構造の大きな変更は、似た商品をすでに扱っていても、何らかの新商品の審査を受けるべきだとしています5。

審査から導入後の確認までの流れ

審査の流れは、資料が求める事項を順に並べると、審査と承認、導入、導入後の確認になります。

導入の前の審査導入と導入後関係する各分野がリスクと体制を審査する承認するか、体制が整うまで延期する導入の前に承認の記録を残す損失を限る形で導入するリスクと業績を当初の見通しと比べ、管理を調整する
図 1新商品の審査の流れ
図の説明

この図は、新商品を導入する前の審査から、導入後の確認までの流れです。審査のあと、承認するか、体制が整うまで延期するかを決め、導入の前に承認の記録を残します。導入したあとは、リスクと業績を当初の見通しと比べ、管理を調整します。資料は、審査の手順の型を定めていません。

審査と承認には、影響を受ける業務の部署が加わります。検査の手引きは、新商品の方針が、影響を受けるすべての業務の部署による審査と承認を求めるべきだとしています(1998 年 2 月)。部署は、たとえば、リスク管理、与信管理、トレーディング、会計、規制報告、バック、監査、コンプライアンス、法務などです6。承認は、新商品を導入する前の承認の記録(監査証跡)で裏付けるべきだとされています6。

体制が整っていないときは、提供を延期します。バーゼル委の 2010 年の諸原則では、十分なリスク管理のプロセスがまだ備わっていないときは、関連する業務を支えるシステムとリスク管理が用意されるまで、新商品の提供を延期すべきです2。

導入のしかたにも、資料の求めがあります。検査の手引きでは、検査官は、新商品が潜在的な損失を適切に限る形で導入されているかを確かめます1。

審査で確かめる観点

審査では、分野ごとに次のことを確かめます。資料が挙げているものだけを並べています。観点の分け方や、観点ごとに加わる部署は、資料には定められていません。

観点 資料が挙げる内容
リスク管理(評価の入力) リスク管理の部門が、様々なシナリオの下での全面的で率直なリスク評価を、審査に入力する2
リスク管理(管理の能力) 同じ部門が、リスク管理と内部統制の機能が関連するリスクを管理する能力があるかの評価も、審査に入力する2
リスク管理(計測の道具) 現在のリスクの計測と監視の道具が、関連するエクスポージャーの範囲を計量し、監視できるか7
評価の方法 市場価格を妥当に再現するモデルがないときは、リスク管理、統制、監査の部署が、適切な評価の方法を作る責任を持つ7
システム ソフトウェアは、実際の業務に使う前に、社内の開発の工程でテストし、関係する機能の部署の検証と承認を得る7
法務(審査への参加) 法律顧問(社内でも社外でもよい)が審査に加わっているか4
法務(権限と制限) 関係するすべての法域で、取引や販売をする権限があるか、どんな制限があるか4
法務(契約) 取引を文書にする契約の種類と、標準の文書の変更を審査しているか4
事務の手順書(範囲) 方針と手順の書類が、バックの業務全体を扱っているか(検査の手引きの質問票。1998 年 2 月)8
事務の手順書(更新) 新商品の導入や既存商品の変更のときに、適時に更新されるか8
会計、規制報告、バック、コンプライアンス、監査、与信管理 これらの部署は、審査と承認に加わる部署に挙げられている。確かめる中身は、同じ箇所には書かれていない6

導入後の確認と、リスク管理の枠組み

導入の後も、確認が続きます。バーゼル委の 2010 年の諸原則では、リスクと業績を当初の見通しと照らして評価し、業務が成熟するにつれて、リスク管理上の取扱いを調整するプロセスを設けるべきです2。

新しいエクスポージャーは、現在のリスク管理の枠組みに含めます。経営陣と取締役会がリスク管理に与える任務には、リスクの特定と評価、方針、手順、リミットの設定のほか、新商品の指針を作ることと、新しいエクスポージャーを現在の枠組みの中に含めることが挙げられています(1998 年 2 月)11。リミットの種類と超過のときの手順はリミットの体系で扱います。市場リスクの管理の部署が新商品の議論に加わっているかも、検査官が確かめる点です12。

定めがないことと扱わない範囲

審査に加わる部署の分担、承認の権限、新商品とみなす範囲の細かい線引きは、資料に決まった型がありません。審査の担い手の考え方は、三線管理(スリー・ライン・モデル)で扱います。

個別の商品の中身、顧客への販売の手順、取引を帳簿に載せる法人の選び方、システムの構成は、この記事では扱いません。

注

  1. 米国の連邦準備制度理事会「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2000.1「Overview of Risk Management in Trading Activities」(1998 年 2 月)の 2 ページ。PDF の 40 ページ。 ↩ ↩2 ↩3

  2. バーゼル銀行監督委員会「コーポレート・ガバナンスを強化するための諸原則」(2010 年 10 月。金融庁による仮訳)のパラグラフ 88(31 ページ。PDF の 33 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  3. バーゼル銀行監督委員会「バーゼル銀行監督委員会による銀行のためのコーポレート・ガバナンス諸原則の改訂」(2015 年 7 月 8 日のプレス・リリース。金融庁による仮訳)の 2 段落目。 ↩

  4. 米国の連邦準備制度理事会「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2000.1(1998 年 2 月)の 2 ページ。PDF の 40 ページ。 ↩

  5. 米国の連邦準備制度理事会「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2000.1(1998 年 2 月)の 6 ページ、"Every organization should have a new-product policy" の項目。PDF の 44 ページ。 ↩ ↩2 ↩3

  6. 米国の連邦準備制度理事会「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2040.1「Operations and Systems Risk (Management Information Systems)」(2003 年 4 月)の 3 ページ、"NEW PRODUCTS"。PDF の 94 ページ。 ↩ ↩2 ↩3

  7. 米国の連邦準備制度理事会「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2060.4「Internal Control Questionnaire」(1998 年 2 月)の「Policies and Procedures」の質問 5 と 6(1 ページ)。PDF の 126 ページ。 ↩ ↩2

  8. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-7-1-2(3)③(263 ページ。PDF の 279 ページ)。 ↩

  9. 米国の連邦準備制度理事会「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2040.4「Internal Control Questionnaire」(1998 年 2 月)の質問 3(1 ページ)。PDF の 99 ページ。 ↩

  10. 米国の連邦準備制度理事会「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2000.1(1998 年 2 月)の 2 ページ。PDF の 40 ページ。 ↩

  11. 米国の連邦準備制度理事会「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2010.3「Examination Procedures」(1998 年 2 月。市場リスク)の手順 1 の c(1 ページ)。PDF の 53 ページ。 ↩