顧客に店頭デリバティブを提案する営業の担当者から、約定の後の確認書や決済を扱う事務の担当者まで、1 件の店頭デリバティブ取引にどの順で関わるかを、顧客への提案から期日の決済までたどる場面で使う流れです。

顧客向け業務が何のためにあるか

顧客向け業務は、顧客が中身を理解していて、目的にも合った店頭デリバティブの取引だけを結び、期日まで管理するための業務です。店頭デリバティブは、相場によっては顧客に大きな損失や解約の費用が生じる取引です。そのため銀行は、顧客の知識、経験、財産の状況、取引の目的を踏まえて重要な事項を説明するための社内規則を作り、それに沿って業務を回す体制を整えます。金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」は、この体制を銀行法と銀行法施行規則が銀行に義務付けているとしています1。同じ監督指針には、デリバティブ取引を含む与信取引について、当局が銀行の内部管理態勢を検証するときの着眼点も並んでいます2。

事業会社の E 社が、1 年後に払う輸入代金 100 万ドルについて、銀行に為替予約を相談する架空の例で考えます。E 社は円安に備えるヘッジとして、1 年後に 100 万ドルを買う予約を求めます。事業会社がデリバティブを使う目的は事業会社の利用で扱います。

約定の前から期日までの業務の流れ

流れは、約定までの段と、約定から期日までの段に分かれます。図 1 は、E 社の為替予約を例に、誰がどの順に何をするかを示します。部署の分け方と名前、どの段をどの部署が担うかは金融機関によって違い、図の分担はその一例です。

E 社営業担当者審査部署バック解約期日までヘッジを相談するニーズを聞き取る本人確認の手続きをする与信審査で与信枠を決める提案と説明書面を渡す適合性を確かめる取引を申し込む約定する確認書を取り交わす時価を報告する期限前解約を申し出る期日に決済する
図 1顧客との店頭デリバティブ取引の業務フロー(部署の分担は一例)
図の説明

約定の前に、営業担当者のニーズの聞き取りと本人確認、審査部署の与信審査と与信枠の決定、営業担当者の提案と適合性の確認があり、それを終えてから E 社が申し込み、営業担当者が約定します。約定の後は、バックが取引確認書(コンファメーション)を取り交わし、営業担当者が時価を報告します。ここで道が分かれ、E 社が申し出れば期限前解約に、そうでなければ期日にバックが決済して取引を終えます。

各段の手順は、次の 9 ページで扱います。

  1. 顧客のニーズの把握
  2. 本人確認と与信審査
  3. 提案と説明
  4. 書面の交付:取引説明書と契約締結前交付書面
  5. 適合性の確認
  6. 約定
  7. 確認書:確認書(コンファメーション)
  8. 時価の報告
  9. 期限前解約か期日の決済:期限前解約

約定までにすること

約定までの段では、E 社が何のために取引をするかを確かめ、取引してよい相手かを審査し、取引の中身とリスクを理解してもらいます。E 社のようにヘッジが目的なら、銀行はその取引が E 社の仕入や販売、価格の決め方に合った有効なヘッジかを確かめ、結果を E 社に説明します3。

本人確認では、取引の相手がどんな会社かを確かめます。法令の手続きとしては、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)が銀行などに求める取引時確認があります。法人の顧客なら、名称と本店の所在地、取引の目的、事業の内容、事業を実質的に支配する者などを確かめます4。与信審査では、E 社の信用力を審査し、E 社との取引に使える与信枠を決めます。デリバティブでは、相場が動くと取引相手に対するエクスポージャーが膨らみます。銀行は、エクスポージャーを取引相手ごとに管理します5。

提案と説明の段では、銀行は例を入れた書面で、取引の中身とリスクを説明します。説明には、相場が大きく動いたときの損失(最悪のシナリオでの損失)と、途中で解約するときに受け払いする金額(解約清算金)が含まれます。銀行は、説明を受けたことを E 社に確かめ、記録に残します6。

金融商品取引法の店頭デリバティブ取引に当たる取引では、同法の決まりも関わります。同法は、金融商品取引業者等に、契約を結ぶ前に顧客へ取引の情報を提供することを求めています7。そのための書面が契約締結前交付書面です8。同法は、顧客の知識、経験、財産の状況、契約を結ぶ目的に照らして不適当な勧誘をしないという適合性原則も定めています。主要行等向けの監督指針は、銀行のデリバティブ取引もこの決まりに抵触しないよう求めています9。そのため、適合性の確認は約定の直前だけでなく、提案を始める段階から関わります。同法のこの 2 つの決まりは、顧客が特定投資家(適格機関投資家、国、日本銀行など)なら原則として適用されません10。

約定から期日までにすること

E 社が申し込み、銀行と条件がまとまると約定です。約定した取引の取引日、取引相手、金額、価格などの条件は、社内のシステムに記録します11。当事者はそれぞれ条件を書いた確認書を送り、決済の前に条件を確かめ合います12。1998 年の米国の連邦準備制度理事会の検査の手引きは、確認書をバック(事務・決済)が送って管理し、事業会社などの顧客には署名した控えの返送を求めるのがよいとしていました12。同じ手引きは、約定した条件をどの部署がどう記録するかは金融機関の取引システムによって違うとしていました11。

金融商品取引法の店頭デリバティブ取引に当たる取引で、顧客が特定投資家でなければ、金融商品取引業者等は、契約が成立したときに遅滞なく顧客に情報を提供します。そのための書面が取引報告書(契約締結時等交付書面)です13。

期日までの間の対応も、主要行等向けの監督指針が挙げる説明の体制に含まれます。銀行は、E 社の業況と実際の輸入の状況に照らしてヘッジが有効に働き続けているかを確かめ、E 社から求めがあれば、決算や解約の判断に使えるよう、取引の時価とその時点の解約清算金の額を知らせます14。

取引は、期日に約定した条件で決済して終わるか、期日の前に解約して終わります。期日の前に解約すると、解約清算金の受け払いが生じる取引があります6。

関わる部署と役割

営業担当者が E 社との窓口になり、ほかの段は社内の部署が分担します。営業担当者は、フロント(営業・トレーディング)のうち顧客に接する人です。主要行等向けの監督指針は、市場部門(フロント)、事務管理部門(バック)、リスク管理部門(ミドル)の管理者の役割と権限を規程で明確にすることを銀行に求めています15。与信の審査の体制には、営業を進める部門と審査の部門を分けるやり方があります16。

フロントのトレーディングの担当者は、営業担当者に価格を出し、取引を結んで条件を記録します。ミドル(リスク管理など)は、約定した取引を含めて、市場リスクを把握し、管理します。どの段をどの部署が担うかは、金融機関の組織によって違います。

説明と確認書で気を付けること

銀行は、約定の前は顧客の心配や誤解が残っていないかに、約定の後は取引の条件が食い違っていないかに気を付けます。

融資の取引がある顧客は、デリバティブに応じないと融資に響くのではと心配することがあり、銀行は必要に応じてその心配を解く説明をします17。

約定の後は、確認書の条件が社内の記録と合わないことがあるため、確認書を照合して不一致がないかを確かめます。

関係する法令と監督指針

この章の業務は、次の法令と監督指針を根拠にしています。金融商品取引法 37 条の 3、37 条の 4、40 条の行は、同法の店頭デリバティブ取引に当たる取引のときの決まりで、顧客が特定投資家なら原則として適用されません(45 条)。

段 求められること 根拠
本人確認 取引時確認(顧客の本人特定事項、取引の目的、事業の内容などの確認) 犯罪収益移転防止法 4 条
提案と説明 最悪のシナリオでの損失、解約清算金などの書面での説明 主要行等向けの監督指針 Ⅲ-3-3-1-2(2)
書面の交付 契約を結ぶ前の情報の提供(契約締結前交付書面) 金融商品取引法 37 条の 3
適合性の確認 知識、経験、財産の状況、目的に照らして不適当な勧誘をしない 金融商品取引法 40 条
約定の後 契約が成立したときの情報の提供(取引報告書(契約締結時等交付書面)) 金融商品取引法 37 条の 4
時価の報告 求めに応じた時価と解約清算金の額の提供 主要行等向けの監督指針 Ⅲ-3-3-1-2(2)

注

  1. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-1(1)(215 ページ)。監督指針は、銀行法第 12 条の 2 第 2 項と銀行法施行規則第 13 条の 7 を挙げています。 ↩

  2. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-1(2)(215 ページ)。 ↩

  3. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イの c の 1 つ目と(注1)(218 ページ)。 ↩

  4. 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第 4 条第 1 項第 1 号〜第 4 号。銀行が特定事業者に当たることは第 2 条第 2 項第 1 号。 ↩

  5. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-3-2-1-2(10)①と②(110 ページ)。 ↩

  6. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イの a、b、d(217〜219 ページ)。監督指針は、顧客の申し出による解約を「中途解約」と書いています。 ↩ ↩2

  7. 「金融商品取引法」第 37 条の 3 第 1 項。金融商品取引業者等の定義は第 34 条。提供する事項は同項の各号に並び、提供の方法、一部の事項の細目、提供しなくてよい場合の一部は内閣府令で定めます。顧客が特定投資家のときは第 45 条第 2 号。 ↩

  8. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 79 条第 1 項第 1 号イ。 ↩

  9. 「金融商品取引法」第 40 条第 1 号。銀行のデリバティブ取引についての求めは、金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イ(217 ページ)。 ↩

  10. 「金融商品取引法」第 45 条第 1 号と第 2 号(同条のただし書で、内閣府令で定める場合は適用されます)。特定投資家の定義は第 2 条第 31 項。 ↩

  11. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」(1998 年 2 月)の Section 2050.1(Front-Office Operations)の 2〜3 ページ、"Transaction Flow"。 ↩ ↩2

  12. Board of Governors of the Federal Reserve System の同手引きの Section 2060.1(Back-Office Operations)の 3 ページ、"Confirmations"。 ↩ ↩2

  13. 「金融商品取引法」第 37 条の 4 第 1 項。「契約締結時等交付書面」の名前は「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 98 条の 2 第 1 項第 1 号イ。顧客が特定投資家なら、第 45 条第 2 号で原則として適用されません。 ↩

  14. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イの h(219〜220 ページ)。 ↩

  15. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-3-3-2(1)②(123 ページ)と⑦(124 ページ)。 ↩

  16. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-3-2-1-2(2)(108 ページ)。 ↩

  17. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イの g(219 ページ)。 ↩