契約締結前交付書面は、金融機関が顧客に契約を提案して約定するまでの間に、何を渡し、何を確かめるかを決める場面で参照します。

何のためにあるか

契約締結前交付書面は、顧客が契約の中身とリスクを知ったうえで取引するかを決められるように、法令が記載事項と渡し方を決めた書面です。金融機関は、店頭デリバティブなどの金融商品取引契約を結ぼうとするとき、あらかじめ、契約の概要や損失のおそれなどの情報を顧客に提供します(金融商品取引法 37 条の 3 第 1 項)1。この義務を負うのは、法令の語でいう「金融商品取引業者等」で、証券会社などの金融商品取引業者と、登録を受けた銀行などの登録金融機関を指します2。銀行が顧客と金利スワップや通貨オプションの取引を業として行うにも、この登録が要ります3。

37 条の 3 は、2025 年 4 月 1 日に施行された改正で、見出しが「契約締結前の書面の交付」から「契約締結前の情報の提供等」に変わりました。条文も、書面の交付ではなく、情報の提供を求める形になっています4。「契約締結前交付書面」の語は、今は金融商品取引業等に関する内閣府令(以下、内閣府令)が、37 条の 3 第 1 項の事項を書いた書面の名前として使っています5。

同じ条の 2 項により、金融機関は、提供した事項(一部を除く)を、顧客の知識、経験、財産の状況と契約の目的に照らして、理解されるために必要な方法と程度で説明します6。この義務を説明義務といいます。ただし、顧客が特定投資家(「提供しなくてよい場合」で説明します)のときは、1 項と 2 項は適用されず、法令上は情報の提供も説明も要しません7。この例外は法令の決まりについてのもので、監督指針や日本証券業協会の規則の求めがどうなるかは、それぞれの定めによります。説明の進め方は提案と説明で扱います。

法令の書面のほかに、金融機関は、商品の中身とリスクを解説した取引説明書と、注意喚起文書も渡します。3 つの書面の違いは次のとおりで、以下の節で順に説明します。

書面 根拠 中身を決めるもの 主な中身
契約締結前交付書面 金融商品取引法 37 条の 3、内閣府令 法令(記載事項と文字の大きさ) 契約の概要、手数料、損失のおそれ、取引の種類ごとの事項
取引説明書 監督指針 金融機関(監督指針が挙げる点を含める) 仕組みとリスクの解説、最悪のシナリオでの損失、中途解約と解約清算金
注意喚起文書 監督指針、協会の規則 協会の規則(表示する事項)と金融機関 勧誘の規制が当てはまるか、リスクの注意、紛争解決の機関などの連絡先

契約締結前交付書面に書くこと

記載事項は、法律が 7 つの号で大枠を決め、内閣府令が、すべての契約に共通の事項と、取引の種類ごとの事項を足しています。デリバティブ取引の書面には、次の表の上の 3 行が、内閣府令が定める店頭デリバティブ取引契約の書面には 4 行すべてが当てはまります。

根拠 主な記載事項
金融商品取引法 37 条の 3 第 1 項 1〜6 号 金融機関の名前と住所、登録番号、契約の概要、手数料など顧客が払う対価、金利や為替などの変動で損失が出るおそれ、その損失が預けた証拠金などを上回るおそれ
内閣府令 82 条(すべての契約に共通) 損失のおそれの原因になる指標とその理由、租税の概要、契約が終わる事由など
内閣府令 93 条(デリバティブ取引等) 債務を履行する方法と決済の方法、証拠金の種類と計算方法、手数料を受け取る方法、取引の手続き、デリバティブ取引の主な用語と基礎的な事項
内閣府令 94 条(店頭デリバティブ取引契約) 金融機関がリスクを減らすために行うカバー取引の相手方の名前と業務内容、媒介などの相手方、禁止行為、顧客の財産の管理の方法と預け先

内閣府令 82 条には、表のほかに、書面の内容を十分に確かめるべきこと、金融機関などの業務や財産の状況の変化で損失が出るおそれ、金融機関への連絡の方法、加入している協会、苦情と紛争の解決を受け付ける機関も記載事項に入ります。

内閣府令の「店頭デリバティブ取引契約」は、店頭デリバティブ全般を指す語ではありません。金融商品取引法施行令 16 条の 4 第 1 項が挙げる契約(同項 1 号の取引の契約と、個人を相手にする店頭デリバティブ取引の契約)から、一部を除いたものを指します8。同項 1 号が挙げる店頭デリバティブ取引は、たとえば次のものです9。

  • 通貨などを将来の時期に受け渡す売買で、差金の授受でも決済できる取引
  • あらかじめ約定した金融指標の数値と将来の実際の数値の差で、金銭を授受する取引
  • これらの取引や金融商品の売買を成立させる権利を、対価を払って得る取引(オプション)

書き方も内閣府令が決めています。書面の文字は 8 ポイント以上にします。書面の最初には、内容を十分に確かめるべきことと、顧客の判断に影響する特に大事な事項を、12 ポイント以上の文字で平易に書きます。そのすぐ後に、手数料の概要、損失のおそれ、損失が証拠金などを上回るおそれなどを、12 ポイント以上の文字で枠の中に書きます。店頭デリバティブ取引契約なら、枠の中の事項には、カバー取引の相手方と財産の管理の方法(94 条の事項)も入ります10。

提供の時期と方法

金融機関は、契約を結ぼうとするとき、あらかじめ情報を提供します1。顧客向けの業務の流れでは、約定の前にあたります。「何のためにあるか」で触れた 2 項の説明は、この情報の提供を行うときにします6。

提供の方法は、書面の交付か、書面に書くべき事項の電磁的方法による提供です。顧客が書面での提供を求めたときは書面にします5。電磁的方法を使うには、あらかじめ、使う方法を示して顧客の承諾を得るか、使う方法と、顧客が書面での提供を求められることを告知しておきます11。すでに結んでいる契約の一部を変える契約で、記載事項に変わるものがあるときは、変わる事項を書いた書面で提供します5。

提供しなくてよい場合

次の場合には、情報の提供を要しません。

場合 根拠
顧客が特定投資家(適格機関投資家、国、日本銀行など) 金融商品取引法 45 条 2 号、2 条 31 項
契約の前 1 年以内に、同種の内容の契約について、書面か電磁的方法で情報を提供している 内閣府令 80 条 1 項 1 号
すでに結んでいる契約の一部を変える契約で、記載事項に変わるものがない 内閣府令 80 条 1 項 3 号
簡潔な重要情報提供等をし、そのほかの要件も満たしている(顧客が書面か電磁的方法での提供を求めたときを除く) 内閣府令 80 条 1 項 4 号

簡潔な重要情報提供等は、契約の判断に役立つ主な事項の概要と質問の例などを簡潔に書いた書面を渡すか電磁的方法で提供し、原則としてその事項を説明することです12。

次の図は、上の表のうち、特定投資家と 1 年以内の提供の 2 つだけを取り出し、順に確かめる流れにしたものです。契約の一部を変える場合と、簡潔な重要情報提供等の場合は、図に含めていません。

はいいいえ顧客は特定投資家以外として扱われているか提供を要しないはいいいえ契約の前 1 年以内に同種の内容の契約について提供した場合以外か提供を要しない原則として提供が要る
図 1契約締結前交付書面の情報提供が要るかの確かめ方
図の説明

最初の質問は、顧客が特定投資家以外として扱われているかです。「いいえ」なら、金融商品取引法 45 条 2 号により情報の提供を要しません。「はい」なら次の質問に進みます。2 つ目の質問は、契約の前 1 年以内に、同種の内容の契約について書面か電磁的方法で情報を提供した場合以外かです。「いいえ」なら、1 年以内に提供済みなので、内閣府令 80 条 1 項 1 号により提供を要しません。「はい」なら、原則として提供が要ります。契約の一部を変える場合と、簡潔な重要情報提供等の場合は、表のとおり別に確かめます。1 年の数え方は店頭デリバティブ取引契約かどうかで違い、この節の終わりの図で扱います。

特定投資家かどうかは、契約の種類ごとに変えられます。特定投資家のうち一部の法人は、自分を特定投資家以外の顧客として扱うよう申し出ることができます。逆に、特定投資家でない法人も、特定投資家として扱うよう申し出られます13。そのため、同じ事業会社でも、申し出によって提供が要るかどうかが変わります。

1 年以内の提供の数え方は、内閣府令の店頭デリバティブ取引契約とそれ以外で違います。それ以外の契約では、提供から 1 年以内に同種の内容の契約を結ぶと、その日に提供したとみなされ、1 年の起点が進みます。店頭デリバティブ取引契約は、このみなしから除かれています14。店頭デリバティブ取引契約に当たる取引の場合を、L 社の例で次の図に示します。

2026 年4 月 1 日L 社が情報の提供を受ける。1 年の起点2026 年10 月 1 日同種の内容の取引を結ぶ。1 年以内なので提供は要らず、起点は動かない2027 年5 月 1 日3 回目の取引を結ぶ。起点から 1 年を過ぎているので、改めて提供が要る
図 2店頭デリバティブ取引契約に当たる場合の 1 年の起点
図の説明

店頭デリバティブ取引契約に当たる取引で、L 社が 2026 年 4 月 1 日に情報の提供を受ける架空の例で考えます。同年 10 月 1 日に同種の内容の取引を結ぶときは、1 年以内なので提供は要らず、1 年の起点は 2026 年 4 月 1 日のままです。2027 年 5 月 1 日の 3 回目の取引は、起点から 1 年を過ぎているため、改めて提供が要ります。取引が店頭デリバティブ取引契約に当たらないときは、10 月 1 日に起点が進み、3 回目も提供を要しません。

取引説明書と注意喚起文書

店頭デリバティブ取引で取引説明書と注意喚起文書を求めているのは、金融庁の監督指針です(注意喚起文書は協会の規則にもあります)。金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(以下、金融商品取引業者等向けの監督指針)の決まりは、登録金融機関にも準じて当てはまります15。取引説明書の中身は金融機関が決め、次の段落の監督指針が挙げる点を含めます。

金融機関は、通貨オプションや金利スワップなどの店頭デリバティブ取引では、商品の中身とリスク、中途解約と解約清算金について、具体的に分かりやすく解説した書面を渡すなどして説明します。解説する点の例には、最悪のシナリオを想定した損失の最大額と、中途解約すると解約清算金が出る取引ならその場合の解約清算金の試算額があります15。銀行については、主要行等向けの総合的な監督指針(以下、主要行等向けの監督指針)にも同じ趣旨の項目があります。融資取引にデリバティブ取引が含まれる場合にも、デリバティブ取引だけを行う場合にも当てはまり、例を入れて解説した書面を渡して説明することとしているかを、検証の着眼点に挙げています16。

注意喚起文書は、店頭デリバティブ取引を行うときに渡す簡明な文書です。書く事項の 1 つは、不招請勧誘の規制がどう当てはまるかです。不招請勧誘は、勧誘を頼んでいない顧客を訪問したり電話をかけたりして勧誘することです。金融商品取引法 38 条 4 号は、「契約締結前交付書面に書くこと」で出た施行令 16 条の 4 第 1 項の契約について、内閣府令が定める場合を除き、これを禁じています17。勧誘の相手が特定投資家のときは、この禁止は適用されません7。ほかに、リスクについての注意と、トラブルが起きたときの紛争解決の機関などの連絡先を、分かりやすく大きな文字で書きます。

金融機関は、日本証券業協会や金融先物取引業協会の規則を踏まえてこの文書を渡し、顧客に合わせて説明します18。日本証券業協会の規則では、協会員は、規則が挙げるデリバティブ取引などの契約を結ぶ前に注意喚起文書を渡し、書いた事項を顧客に理解されるように説明します。デリバティブ取引の契約では、1 年以内に同種の内容の取引について渡していれば、改めて渡さなくてかまいません19。

説明を受けたことの確認と記録

金融機関は、前の節の説明を受けたことを顧客から確かめ、その記録を書面で残します。確かめる対象は、書面を受け取ったことではなく、説明を受けたことです。金融商品取引業者等向けの監督指針では、この説明には、商品の中身とリスク、中途解約と解約清算金、ヘッジが目的の取引ではヘッジの手段として有効に働くことが含まれます。確かめる方法の例は、顧客から説明を受けたことの確認書を受け入れて保存することです20。銀行については、主要行等向けの監督指針に同じ項目があります21。説明を受けたことの確認書は、約定の後に取引の条件を確かめ合う取引確認書(コンファメーション)とは別の書面です。

日本証券業協会の規則は、協会員が顧客から説明を受けたことの確認書(規則の語は「確認書」)を取る場面を 2 つ定めています。1 つは、規則が挙げるデリバティブ取引などの契約を初めて結ぶときで、37 条の 3 第 1 項で提供するリスクや手数料などの情報を顧客が理解し、自分の判断と責任で取引することを確かめます。もう 1 つは、店頭デリバティブ取引などの契約を結ぼうとするときで、初めての契約に限られません。顧客が次の事項を理解し、自分の判断と責任で取引することを確かめます22。

  • 契約の重要な事項の中身
  • 想定される損失の額(中途解約したときの解約清算金の試算額を含む)を踏まえても、顧客が取引できる契約の内容であること
  • ヘッジが目的の契約なら(顧客が個人のときを除く)、取引が終わるまで有効なヘッジの手段として働き、今後の経営の見通しをかえって難しくしないこと
  • 融資取引のある顧客(個人を除く)なら、勧誘に応じなくても今後の融資取引に影響しないこと

関係する法令と監督指針

金融商品取引法の説明義務のほかに、金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律(金融サービス提供法)もあります。金融商品販売業者等に当たる金融機関は、同法 4 条 1 項の重要事項についても、顧客の知識、経験、財産の状況と取引の目的に照らして、理解されるために必要な方法と程度で説明します23。

注

  1. 「金融商品取引法」第 37 条の 3 第 1 項(1〜7 号とただし書き)。 ↩ ↩2

  2. 「金融商品取引法」第 34 条(「金融商品取引業者等(金融商品取引業者又は登録金融機関をいう。以下同じ。)」)。 ↩

  3. 「金融商品取引法」第 33 条の 2 第 3 号(デリバティブ取引等のうち有価証券関連デリバティブ取引等以外のもの)。 ↩

  4. e-Gov 法令検索の「金融商品取引法」の改正履歴。2024 年 11 月 21 日施行の版の第 37 条の 3 は「契約締結前の書面の交付」、2025 年 4 月 1 日施行の版(金融商品取引法等の一部を改正する法律による改正)からは「契約締結前の情報の提供等」。 ↩

  5. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 79 条第 1 項(1 号イで「契約締結前交付書面」を定義。1 号ロは契約の一部を変える場合の書面)。 ↩ ↩2 ↩3

  6. 「金融商品取引法」第 37 条の 3 第 2 項。 ↩ ↩2

  7. 「金融商品取引法」第 45 条(1 号は第 38 条第 4 号から第 6 号などについて勧誘の相手方が、2 号は第 37 条の 3 などについて契約の相手方が、特定投資家のときに適用しない)。 ↩ ↩2

  8. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 79 条第 5 項第 2 号の括弧書き(「店頭デリバティブ取引契約」の定義)。 ↩

  9. 「金融商品取引法施行令」第 16 条の 4 第 1 項第 1 号イからニと第 2 号。 ↩

  10. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 79 条第 3 項から第 5 項。 ↩

  11. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 79 条第 2 項(1 号は承諾、2 号は告知)。 ↩

  12. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 80 条第 1 項第 4 号と第 3 項。 ↩

  13. 「金融商品取引法」第 34 条の 2 第 1 項(第 2 条第 31 項第 4 号の特定投資家による申出)と第 34 条の 3 第 1 項(特定投資家以外の法人による申出)。 ↩

  14. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 80 条第 1 項第 1 号と第 2 項(「店頭デリバティブ取引契約を除く」)。 ↩

  15. 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅣ-3-3-2(6)①と②(164〜165 ページ)。登録金融機関への準用はⅧ-1(428 ページ)。 ↩ ↩2

  16. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イaとb(217〜218 ページ)。 ↩

  17. 「金融商品取引法」第 38 条第 4 号とただし書き。 ↩

  18. 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅣ-3-3-2(3)(163 ページ)。登録金融機関への準用はⅧ-1(428 ページ)。 ↩

  19. 日本証券業協会「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」第 6 条の 2(注意喚起文書の交付等)第 1 項から第 4 項(1 年以内の交付は第 1 項ただし書き。同種の契約の締結で交付したとみなす第 4 項は、第 1 項第 1 号と第 3 号の取引に限り、店頭デリバティブ取引等を除く)。 ↩ ↩2

  20. 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅣ-3-3-2(6)①から④(165〜166 ページ)。 ↩

  21. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イd(219 ページ)。 ↩

  22. 日本証券業協会「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」第 8 条(顧客からの確認書の徴求)第 1 項と第 2 項(1〜5 号)。 ↩

  23. 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-2-3-2-4(1)(57 ページ)。 ↩