金融機関は、約定の前の説明で、中途解約と解約清算金を顧客に伝えます。約定の後も、顧客の求めがあれば、顧客が決算の処理や解約の判断に使えるよう、時価と解約清算金の額を知らせます。

期限前解約が起きる場面

期限前解約には、顧客の申し出によるものと、契約で決めた事由(デフォルトなど)によるものがあります。顧客の申し出による期限前解約は、中途解約とも呼ばれます。原則として中途解約できない取引もあり、そのときは、金融機関が約定の前にその旨を説明します1。

顧客が自分の都合などで中途解約すると、解約清算金が要ることがあります2。ヘッジのための取引では、デリバティブ取引そのものに損失が出ていなくても、ヘッジが要らなくなることがあります。事業の規模が縮むなどして、期日まで効果を発揮しなくなることもあります3。借入れの金利を固定するための金利スワップなら、借入れを期日の前に返すと、スワップだけが残ります。主要行等向けと中小・地域金融機関向けの監督指針は、約定の後に、顧客の実需に応じてヘッジの有効性を確かめ直すことを、銀行の着眼点に挙げています4。

契約で決めた事由による期限前解約は、顧客が望まなくても起きます。銀行との取引では、銀行取引約定書などに定める期限の利益を失う事由に当たると、デリバティブ取引も期限の利益を失い、顧客に解約清算金を払う義務が生じる場合があります。銀行は、この点も約定の前に説明します5。

解約清算金の考え方

解約清算金の出発点は、取引の時価です。時価は、残りの期間の受け払いを今の金利や相場で評価し直した現在価値で、取引の途中では、プラスにもマイナスにもなります。一方の当事者から見た時価は、もう一方から見た時価の符号を逆にした値です6。取引の一方が相手に時価を払うと、取引を途中で終えられます7。時価の求め方は金利スワップの時価評価で扱います。

実際に取引を終える額は、時価と同じとは限りません。時価は、取引の費用を除いて計算した値だからです7。時価の報告の金額も、そのまま解約の額になるとは限りません。

時価に何が加わるかは、デフォルトによる期限前終了の裁判例で論じられています。取引相手側の信用保証提供者の倒産手続きの申請で期限前に終了した取引の清算金をめぐる 2013 年の東京高裁判決は、損害の額を「時価評価額と再構築コストを合算した再構築価格」を予想して算出する考え方を示しました。この判決を評した 2018 年の全国銀行協会 金融法務研究会の報告書は、将来の受け払いの現在価値(市場価格)とこの再構築価格の違いとして、主に 2 つを挙げています。1 つは、同じ取引を新たに結ぶ金融機関が負う相手の信用のコストです。もう 1 つは、取引を結ぶときと解約するときの条件の差で、ビッド・アスク・スプレッドにあたります8。

S 社が借入れと金利スワップを結ぶ架空の例で考えます。S 社は、変動金利で 10 億円を借り、金利スワップで固定金利 1% を払って変動金利を受け取る取引を結びました。借入れとスワップを合わせると、S 社が払う金利は固定されます(図 1)9。残りの期間が 3 年のところで、S 社は借入れを返すことにし、スワップを中途解約します。例では、時価に加わるコストを 200 万円とし、S 社が払う額を増やし、受け取る額を減らす向きに働くとします。

借入先10 億円の借入れS 社借り手スワップの相手中途解約の対象変動利息固定金利 1%変動金利
図 1S 社の借入れと金利スワップの関係
図の説明

S 社は、借入先に変動金利の利息を払い、金利スワップの相手に固定金利 1% を払って、相手から変動金利を受け取ります。この例で中途解約の対象になるのは、借入れではなく金利スワップの側です。

S 社から見た額(万円。マイナスは S 社の支払い) 市場の金利が下がった場合 市場の金利が上がった場合
スワップの時価 −2,000 +1,500
時価に加わるコスト −200 −200
解約清算金 −2,200 +1,300

市場の金利が下がると、固定金利 1% を払い続ける約束は S 社に不利になり、時価はマイナスになります。S 社は、時価とコストを合わせた 2,200 万円を払って取引を終えます。金利が上がると時価はプラスになり、S 社はコストを差し引いた 1,300 万円を受け取ります。借入れが続いていれば、金利が下がって増えるスワップの支払いは、借入れの利息が減る分と打ち消し合います。中途解約すると、スワップの側だけが、残りの期間の分をまとめて清算されます。

約定の前に説明すること

中途解約と解約清算金の説明は、約定の前に、書面を渡すなどして行います。説明の着眼点は、金融庁の 3 つの監督指針にあります。「主要行等向けの総合的な監督指針」と「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の対象は、銀行の融資取引にデリバティブ取引が含まれるとき(デリバティブ取引だけを行うときを含む)です。「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の対象は、通貨オプションや金利スワップなどの店頭デリバティブです10。説明する項目は、3 つの監督指針でほぼ同じです1。

説明すること 主要行等向けと中小・地域金融機関向け 金融商品取引業者等向け
原則として中途解約できない取引なら、その旨 あり あり
中途解約で解約清算金が生じるなら、その旨と内容 あり あり
最悪のシナリオを想定した解約清算金の試算額と、それを超える可能性 あり あり
顧客が許容できる解約清算金の額の確認と、最悪のシナリオでなくても許容額を超える可能性 あり あり
期限の利益を失う事由に当たると解約清算金の支払義務が生じる場合があること あり 項目なし

「最悪のシナリオ」は、監督指針の語で、過去のストレス時のデータなど合理的な前提を踏まえたものです11。試算額は、解約清算金が最大でどのくらいになりうるかの目安で、前提と違う状況になれば、試算額を超えることがあります。そのため、試算額を超える可能性があるなら、その旨も説明の対象になります1。

説明を受けたことを顧客に確かめて書面に残す手順は、取引説明書と契約締結前交付書面で扱います12。

仕組債の販売では、中途解約の代わりに中途売却が問題になります。金融商品取引業者等向けの監督指針は、仕組債では「中途解約」を「中途売却」、「解約清算金」を「中途売却に伴う損失見込額」と読み替えるとしています13。

約定から解約までの流れ

中途解約に関わる手順は、次の順に進みます。図 2 は、同じ手順を金融機関と顧客に分けて見せたものです。

  1. 約定の前に、金融機関が中途解約と解約清算金の事項を書面で説明し、説明を受けたことを顧客に確かめます112。
  2. 約定の後、顧客の求めがあれば、金融機関が時価と、その時点の解約清算金の額を、定期的に、または必要に応じて随時知らせます。顧客はこれを、決算の処理や解約するかどうかの判断に使います4。
  3. 顧客が中途解約を申し出て、一方が他方に解約清算金を払い、取引を終えます7。
金融機関顧客約定の前に書面で説明する説明を受けたことを顧客に確かめる顧客の求めで時価と解約清算金の額を知らせる決算の処理や解約の判断に使う中途解約を申し出る
図 2約定から中途解約までの金融機関と顧客の手順
図の説明

金融機関のレーンは、約定の前の説明と確認、約定の後の時価と解約清算金の額の通知です。顧客のレーンは、その通知を決算の処理や解約の判断に使うことと、中途解約の申し出です。

よくある問題と防ぎ方

中途解約をめぐっては、解約清算金と約定の前の説明が問題になったことがあります。2011 年 7〜9 月には、円高が続くなかで、全国銀行協会の相談室に寄せられた銀行との為替デリバティブの苦情が大きく増えました。その中には、銀行が最悪の事態のリスクを説明していなかったと訴える苦情がありました。解約清算金を払うための資金を貸すといった案しか示されないという不満もありました。同じ 3 か月に全国銀行協会のあっせん委員会に新しく申し立てられた紛争では、デリバティブ業務が 67.3% を占めていました14。

苦情の例のうち、最悪の事態の説明が欠けていたという点には、約定の前に最悪のシナリオでの解約清算金の試算額を示し、顧客が許容できる額と比べる手順が当たります1。

関係する規制と契約

中途解約の説明と情報提供の手順は、金融庁の 3 つの監督指針の着眼点に沿っています。主要行等向けの監督指針は、銀行法 12 条の 2 第 2 項と銀行法施行規則 13 条の 7 を踏まえ、書面の交付などで説明するための社内規則と体制を挙げています15。デリバティブ取引の説明では、銀行法 13 条の 3 と金融商品取引法 38 条、40 条の各号に抵触しないよう留意する点も、主要行等向けと中小・地域金融機関向けの監督指針に挙がっています16。

期限前に終えるときの清算の方法は、当事者の契約で定めます。先の 2013 年の裁判例の契約では、損害額を合理的に算出する方式が選ばれていました17。デフォルトなどで期限前に終わるときは、同じ相手との複数の取引の評価額を差し引いて 1 つの債権か債務にする一括清算の決まりも関わります。

注

  1. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.b(217〜218 ページ)、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅡ-3-2-1-2(2)①イ.b(86 ページ)、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2026 年 10 月)のⅣ-3-3-2(6)②(165 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  2. 金融庁「デリバティブ商品を契約するときのポイント」(パンフレット。発行の年月の記載なし)の表面の「説明事項(主な例)」。 ↩

  3. 「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.cの(注2)(218 ページ)、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」のⅣ-3-3-2(6)③の(注2)(166 ページ)。 ↩

  4. 「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.h(219〜220 ページ)、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」のⅡ-3-2-1-2(2)①イ.h(87〜88 ページ)、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」のⅣ-3-3-2(6)⑥(166 ページ)。ヘッジの有効性の確認はhの 1 段落目、約定の後の時価と解約清算金の額の提供はhの 2 段落目と⑥です。 ↩ ↩2

  5. 「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.bの 3 つ目の項目(218 ページ)、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」のⅡ-3-2-1-2(2)①イ.bの 3 つ目の項目(86 ページ)。金融商品取引業者等向けの監督指針のⅣ-3-3-2(6)②には、この項目はありません。 ↩

  6. Society of Actuaries "Interest Rate Swaps"(2017 年 5 月)の 6 章 "Market Value"(15 ページ)。資料は、時価をその時点のスポットレートで割り引いた将来の受け払いの現在価値とし、取引の途中ではプラスにもマイナスにもなり、一方の当事者の時価はもう一方の時価の符号を逆にした値だとしています。 ↩

  7. 同じ資料の 6 章 "Market Value"(15 ページ)の本文と脚注 8。本文は、時価を "ignoring transaction costs"(取引の費用を除いた)値としています。脚注 8 は、一方の当事者が相手に時価を払うことを、スワップを終える方法の 1 つとして挙げています。 ↩ ↩2 ↩3

  8. 全国銀行協会 金融法務研究会「デリバティブ取引に係る諸問題と金融規制の在り方」(2018 年 3 月)の第 2 章(神田秀樹)「6 店頭デリバティブ取引におけるネッティング後の損害の額の算定(東京高判平成25年4月17日判例時報2250号14頁)」の「(3)コメント」(36〜37 ページ)。 ↩

  9. Society of Actuaries "Interest Rate Swaps"(2017 年 5 月)の 1 章(3 ページ)。資料は、変動金利の借入れの不確実さを金利スワップで取り除けるとしています。 ↩

  10. 「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-2(2)①イ(217 ページ)、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」のⅡ-3-2-1-2(2)①イ(85 ページ)、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」のⅣ-3-3-2(6)の柱書き(164 ページ)。 ↩

  11. 「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.a(217 ページ)、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」のⅣ-3-3-2(6)①イ(165 ページ)。 ↩

  12. 「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-2(2)①イ.d(219 ページ)、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」のⅡ-3-2-1-2(2)①イ.d(87 ページ)、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」のⅣ-3-3-2(6)④(166 ページ)。 ↩ ↩2

  13. 「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」のⅣ-3-3-2(6)②の(注)(165 ページ)。 ↩

  14. 全国銀行協会「全国銀行協会紛争解決等業務の実施状況(平成23年度第2四半期)」(2011 年 7〜9 月の状況)の「⑻デリバティブ業務」(8 ページ)と、「Ⅲ.あっせん委員会における紛争解決手続の状況」の当四半期の新規申立ての業務分類別の件数(9 ページ)。 ↩

  15. 「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-1(1)(215 ページ)。 ↩

  16. 「主要行等向けの総合的な監督指針」のⅢ-3-3-1-2(2)①イの柱書き(217 ページ)、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」のⅡ-3-2-1-2(2)①イの柱書き(85 ページ)。 ↩

  17. 全国銀行協会 金融法務研究会「デリバティブ取引に係る諸問題と金融規制の在り方」(2018 年 3 月)の第 2 章(神田秀樹)の 6 の「(3)コメント」(36 ページ)。資料によると、その事案の契約は期限前終了の清算に「loss」と呼ぶ方式を選んでおり、期限前終了の事由がなかった側の当事者が合理的に見積もった損害の額を清算の額にしていました。 ↩