仕組預金を提供する銀行には、契約の前に情報を提供する義務などが課されています。
預金にデリバティブを組み込んだ商品
仕組預金は、デリバティブ取引を組み込んだ預金の総称です。デリバティブを組み込むと、金利は一般の預金を上回ることが期待できます1。一般の定期預金と違い、銀行が預け入れの後に満期日を選べる権利を持つものや、為替相場で払い戻しの通貨が決まるものがあります1。預金、債券、貸出にデリバティブを組み合わせた商品の全体と、デリバティブに分けて考える方法は仕組商品とは(デリバティブへの分解)で扱います。
満期を決める権利や払い戻しの通貨を選ぶ権利を銀行が持つ仕組預金では、預金者は、銀行にオプションを売る取引を預金に付けています2。預金者はこれらの権利を銀行に渡し、その対価を高い金利やオプション料(プレミアム)として受け取ります3。権利を持つ銀行は、自分に有利なときに権利を使うため、預金者はその分だけ不利な結果を受け入れることになります。払い戻しの通貨が相場で自動に決まる仕組預金も、結果は、銀行がこの権利を持って有利なときに使うのと同じです。
国税庁の質疑応答事例は、円高になると銀行の判断で米ドル預金に換えられる定期預金を、「元本保証のある定期預金」の契約とデリバティブ取引の契約の 2 つが同時に行われているものとして扱っています。この預金では、預金者は特約の対価としてオプション料を受け取ります。オプション料は、預金の利息とは分けて扱われます3。
変動金利に下限を付けた仕組預金もあり、この預金には金利フロアが組み込まれています4。
銀行が満期を決められる預金
満期を延ばす権利を銀行が持つ仕組預金では、預金者は一般の定期預金を上回る固定金利を受け取ります。その代わりに、市場金利が上がっても、低い固定金利のまま預け続けることがあります5。仕組預金の例には、コーラブル定期預金もあります2。
J 銀行に 100 万円を預け、当初の満期が 1 年、金利が固定で年 1.0% の架空の例で考えます。J 銀行は、1 年ごとに、最長 10 年まで満期を延ばせます。この条件は、この型の典型的な条件にならっています5。同じ時期の一般の 1 年の定期預金の金利は年 0.5% とし、税金は考えません。
| 場合 | J 銀行の選択 | 仕組預金の利息(1 年あたり) | 一般の定期預金の利息(1 年あたり) | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 市場金利が変わらない | 1 年で満期にする | 10,000 円 | 5,000 円 | +5,000 円 |
| 市場金利が上がり、一般の定期預金が年 2.0% になる | 満期を延ばす | 10,000 円 | 20,000 円 | −10,000 円 |
市場金利が変わらず、J 銀行が 1 年で満期にすれば、預金者は一般の定期預金より 5,000 円多い利息を受け取ります。一方で、市場金利が上がって J 銀行が満期を延ばすと、預金者は年 1.0% のまま預け続けます。一般の定期預金が年 2.0% のままなら、延ばされた年ごとに 1 万円ずつ利息が少なくなります。10 年まで延ばされると、延ばされた 9 年分で 9 万円少なくなり、1 年目の 5,000 円の上乗せを差し引いても 8 万 5,000 円少なくなります。延ばすかどうかは J 銀行が決め、預金者は選べません。
払い戻しの通貨が決まる外貨償還特約付預金
判定日の為替相場によって、元本が円で払い戻されるか外貨で払い戻されるかが決まる仕組預金を、外貨償還特約付預金といいます6。国税庁の事例の米ドル転換特約付定期預金は、円高になると銀行の判断で米ドル預金に換えられる場合がある、似た型の預金です3。全国銀行協会の例では、判定日の為替相場(公示仲値、TTM)が、預け入れのときに決めた判定レートより円安(同じ場合を含む)なら、元本と利息を円で受け取ります。円高なら、元本は判定レートで外貨に換えて払い戻され、利息は円で受け取ります6。
J 銀行に 100 万円を 1 年預け、金利が年 3.0%、判定レートが 1 ドル 125 円の架空の例で考えます。判定日の相場が 125 円以上なら、預金者は 100 万円と利息 3 万円を円で受け取ります。125 円より円高なら、元本は 100 万円 ÷ 125 円 = 8,000 ドルで払い戻され、利息 3 万円は円で受け取ります。下の表は、受け取ったドルを判定日の相場で円に換えたとみなした受取額で、両替の手数料は考えません。
| 判定日の相場(円/ドル) | 元本の払い戻し | 受取額(円に換算、利息を含む) | 預けた 100 万円との差 |
|---|---|---|---|
| 140 | 100 万円 | 1,030,000 円 | +30,000 円 |
| 125 | 100 万円 | 1,030,000 円 | +30,000 円 |
| 120 | 8,000 ドル | 990,000 円 | −10,000 円 |
| 110 | 8,000 ドル | 910,000 円 | −90,000 円 |
| 100 | 8,000 ドル | 830,000 円 | −170,000 円 |
判定日の相場が 125 円以上なら、どれだけ円安になっても受取額は 103 万円で変わりません。125 円より円高になると、1 円の円高ごとに受取額が 8,000 円ずつ減り、121.25 円で預けた元本と同じになります。それより円高なら元本を下回ります。
図の説明
100 万円を年 3.0%、判定レート 1 ドル 125 円で 1 年預けた外貨償還特約付預金について、満期の受取額(受け取ったドルは判定日の相場で円に換算し、利息を含む)から預けた 100 万円を引いた差です。判定日の相場が 125 円以上では、差は利息の +3 万円で一定です。125 円より円高では、相場が 1 円下がるごとに差が 8,000 円ずつ減り、121.25 円で 0、110 円で −9 万円、100 円で −17 万円になります。得は利息の 3 万円までに限られ、円高が進むほど損が大きくなります。
図 1 の形は、ドルを 125 円で売る権利(ドルのプット・オプション)を 8,000 ドル分売ったときの損益と同じです。判定日の相場が 125 円より円高だと、8,000 ドルは市場で 100 万円より価値が低くなります。この預金では、そのとき自動でドルで払い戻されます。これは、J 銀行がドルで払い戻す権利を持ち、得になるときに使うのと同じ結果です。預金者は、権利を売った対価を高い金利として受け取ります。為替相場を対象にしたオプションの仕組みは通貨オプションで扱います。
中途解約と元本割れ
仕組預金は、原則として満期まで解約できません。例外的に途中で解約できても、受け取る額が元本を大幅に割り込むおそれがあります7。満期を延ばす権利を銀行が持つ仕組預金では、途中で解約を申し出ると解約手数料がかかり、元本割れになる可能性が高いです5。
J 銀行の満期を延ばせる預金で、市場金利が上がって J 銀行が満期を延ばしたとします。預金者が高い金利の預金に移ろうとして解約すると、解約手数料を払います。解約手数料の示し方には、金融庁の改正案があります8。
預金保険で守られる範囲
外貨建ての仕組預金など、商品によっては預金保険の対象になりません。円建ての仕組預金でも、利息などの一部は対象外です7。定期預金などの一般預金等は、預金者 1 人あたり、1 つの金融機関ごとに合わせて、元本 1,000 万円までと破綻した日までの利息などが保護されます9。外貨預金は預金保険の対象外です10。
外貨償還特約付預金で元本が外貨で払い戻され、受け取った外貨を外貨預金に置いたままにすると、その外貨預金は預金保険で守られません。
販売のルール
仕組預金は、銀行法で特定預金等に位置付けられ、提供する銀行には、契約の前に情報を提供する義務などが課されています5。銀行法第 13 条の 4 は、金利、通貨の価格、市場の相場などの変動で元本に損失が出るおそれのある預金を特定預金等としています。銀行法は、特定預金等の契約に、金融商品取引法の販売に関する規定を、一部を除いて準用しています11。銀行法施行規則は、特定預金等として次の 3 つを挙げています。中途解約で元本を下回るおそれのある預金、外国通貨で表示される預金、通貨のオプションの取引が付いた預金です12。
金融庁は 2026 年 7 月 30 日に、満期を延ばす権利を銀行が持つ仕組預金について、「主要行等向けの総合的な監督指針」などの改正案を公表しました。意見の募集は 2026 年 8 月 31 日に締め切られました13。改正案は、ネット銀行を中心にこの型の預金が提供されているとします。そのうえで、一般の定期預金とのリスクの違いが、商品概要の資料に具体的に書かれていない場合があるとしています。改正案は、次のことを顧客の目にふれやすい資料で示すよう銀行に求めています。一般の定期預金とのリスクの違い、適している顧客と適していない顧客、解約手数料の水準とその決まり方、金利の内訳です8。
注
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日本銀行金融機構局 金融高度化センター「仕組商品投資のリスク把握と管理」の 3 ページ、「1.仕組商品とは」の本文と表。 ↩ ↩2
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国税庁 質疑応答事例「米ドル転換特約付定期預金の預入に際して受領するオプション料」の「照会要旨」と「回答要旨」。 ↩ ↩2 ↩3
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服部孝洋「債券(金利)オプション入門―スワップションについて―」(「ファイナンス」2021 年 8 月号)の「6.2 キャップとフロアの基本的な仕組み」。 ↩
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金融庁「仕組預金の説明態勢等に係る監督指針の改正(概要)」(2026 年 7 月)の「概要」とその注。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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金融庁「預金保険制度」。 ↩
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全国銀行協会「えっ、銀行が…!? その時、預金はどうなる(預金保険制度)」の「預金保険制度とは?」。 ↩
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「銀行法」第 13 条の 4。 ↩
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「銀行法施行規則」第 14 条の 11 の 4 第 1 号〜第 3 号。第 3 号は、金融商品取引法第 2 条第 22 項第 3 号の取引(通貨の売買に係るもの)が付随する預金です。 ↩
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金融庁「「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)の公表について(仕組預金関係)」(2026 年 7 月 30 日)の「2.適用日等」。 ↩